第二章12 あの日の忘れた感情と、失われたぬくもりと
大変お待たせしました!!
もう秋ですよ!!
執筆頑張ります!!
「……いててて……」
腹部と地面に落ちた時に打ち付けた背中に、簡単に回復魔法を施しながら立ち上がる。
すぐそばで林太が千里に馬乗りにされて、顔の形がなくなるまでボコボコにされているような気がしたが、見なかったことにした。
これ以上何か言えば、俺もああなる。
許せ、林太。
面倒ごとに巻き込まれるのだけはこりごりなんだ。
それに、これ以上リナちゃんのあの怯えようを見過ごすわけにはいかない。
立ち上がってすぐに、リナちゃんの方へと向かう。
春香にジトーっと変な眼つきを向けられたが、俺は林太の言うようにロリコンではないため無視した。
だが、いざリナちゃんに声をかけようとしたとき、何を言えばよいのか分からなくなって言葉が詰まる。
周囲の人々の行きかう声。
皆の楽しそうな声。
林太がボコスカと殴られる音。
……最後のは余計かもしれない。
ただ、誰もが簡単に紡ぐ言葉を、明るくなれるような話題を、元気になれるような言葉を、俺は思いつかなかった。
「……お母さん…………」
たすけて。
声にこそしていなかったが、それでもリナちゃんは確かにそう言った。
いつの間にか、勝手に体は動いていた。
想いを伝えるのは、決して言葉だけではない。
ただそこにいるだけで、いてくれるだけで、いいのだ。
今にも崩れてしまいそうなリナちゃんを、正面から抱きしめる。
ビクッとリナちゃんの体が震えた。
そんなリナちゃんの背中を、ポンポンと叩く。
かつて、幼かった俺があの人にやってもらった時のように。
少ない時間を共に過ごした、泣き虫の小夜をなだめた時のように。
恐れているものが、少しでも和らいでくれればと願いながら。
優しく、優しく、抱きしめる。
だけど、リナちゃんにとっての俺の行動は……。
強く、強く、抱きしめ返されるほど、手放しがたいもので。
今までせき止められていたものが、プッツンと切れたかのように。
リナちゃんは俺たちの目の前でわんわん泣き出した。
その声を聞いて林太をボコボコにしていた千里や春香も振り上げた腕を下ろし、それを眺めていた透、翔斗、葵もリナちゃんの事を心配して寄って来た。
ふと、林太の顔が視界に入る。
ギュムッとマシュマロを指で押しつぶしたような形で顔がつぶれていた。
「……ふ…………!!!!」
思わず吹き出しそうになる。
だが、笑うわけにはいかない。
意地でもこらえなければ、雰囲気どころか何もかもが粉砕される。
おもに、俺の骨が。
なんとしてでも耐え抜かなければ……。
だが、こういった時に限って予想外なことと言うものは起こるものだ。
「よっこいせ」
へこんだ顔を縦と横から押し、へこんでいた顔がポンと音をたてて林太の元の顔に戻った。
「……ぶふっ…………!!」
あまりにもおかしな出来事に、思わず吹き出しかける。
だがこのままではいけない。
舌を噛み、笑っているのをごまかすために泣いているように肩を揺らす。
これでごまかしきれていればいいけど……。
……というか、俺はどうしてこんなことで悩んでいるんだ!!
周囲が色々と騒がしくなりすぎたせいで、視界に入る情報が多すぎる。
決して悪いことではないし、むしろ少し楽しいまでありはするけれど……。
でも、それ今じゃないだろ!! って声を大にして言いたい。
とにもかくにも、俺はこのしんみりとした空間にバターを塗ったくった胸焼けしそうなこの空気からリナちゃんを連れていち早く抜け出したかった。
とにかく、目の前の林太(空気にそぐわない行動をする奴)さえどうにかしてくれればいい!
誰か助け船を出してくれ!
心の底から願う。
「……ちょっといいかしら?」
聞きなれない声。
リナちゃんを抱きしめ、笑いをこらえながら声のした方へと視線を移す。
真っ先に目に入ったのは、藍色のケープと見慣れない紋章のバッジ。
キリッと引き締まった格好から、少なくとも一般人ではないだろう。
そして、何よりも目が行ったのは全てを見透かすかのような藍色の瞳。
異質。
その人は、彼女は、賑わいと笑顔であふれる街中において、あまりにも異質だった。
「……あなたが抱きしめてる女の子、リナって名前じゃないかしら?」
俺の胸の中で泣いているリナちゃんを指さしながら、その人はリナちゃんの名前を口にした。
「リナちゃんを知っているんですか?」
「……知っているというよりは……託されたのよ」
……託された?
リナの家族として思い当たるのは、フリーテにてリナを見捨てていった父親くらいだ。
それか、パチェリシカに母親がいるのかもしれない。
だとしても、託されたという言葉はあまりにもおかしい。
それだと、まるで……。
その先を考えたくはなかった。
そうあってほしくないと願ったから。
似たような境遇に立っていた者として、それだけはと。
「……その子の母親は行方不明なのよ。十年も前からね」
だけど、現実は非常に残酷で。
そこに家族の温もりも、暖かな眼差しもなく。
冷たくて、拭えない傷だけがそこにはあった。
「……場所を移しましょう。ここは目立ちすぎる。そこで詳しく話してあげるわ」
ついてきて、と彼女はどこかへ俺たちを案内しようとする。
だがここで、はい、ついていきますとは到底言えなかった。
それが親切からの行動であったとしても、名前も素性も何もかも知らない人に、ほいほいとついていくわけにはいかない。
「カァー!!」
先程まで落ち着いていた馬鹿面鳥が、警戒心むき出しの声を向ける。
ここまで警戒心をあらわにしたのは初めてだった。
だからこそなおのこと警戒心が高まる。
そんな誰もが口を開きづらい状況の中、葵が口を開いた。
「まずはあなたが何者なのか、それを教えてください」
「それもそうね、ごめんなさい」
先程までとは打って変わって、ピリッとした空気が一気に和らぐ。
同僚にも言われるのよ、家庭をすっ飛ばし過ぎだってね。
「私はエイリー・プーペ。騎士・魔道学園ドルーナの教員をやっているわ。よろしくね」
不器用に笑いながら彼女、エイリーは自身の名前を口にした。




