第二章11 絶壁の前に立つ(前編)
大変お待たせしました!!
そうして透達と様々な話をしながら道なりに進み、日が暮れる前にはパチェリシカ城門前に到達することが出来た。
「でかい……」
そびえたつ巨大な壁は、首が痛くなるほど上を向かなければいけないほど高く、外からの侵入を絶対に許さないという気迫のようなものさえ感じられた。
「パチェリシカは別名難攻不落城とも言われているんだ。それで……」
「はいはい。翔斗の知識自慢はいいから、さっさと門くぐるよー」
翔斗の知識自慢を千里が適当にあしらう。
だけど翔斗の言う通り、この城を外から落とすのは非常に難しそうだ。
壁をよじ登ろうにも足を引っかける場所もなく、登ろうとしてもその高さに心が折れる。
どうしても突破しようと思うのならば、正門をこじ開けるか、はたまた壁を壊すような強大な一撃を叩き込むしかない。
……そんなものが、この時代にあるとは到底想像できない。
いや、可能性があるとすればジャルが放った炎槍グングニル。
もしくは……英雄ラウルの月光牙。
……無理だな。
仮にそれで突破できたところで、だ。
侵入口がそこしかないのだから、退路を塞がれてしまえば簡単に全滅する。
そりゃあ攻められないわけだ。
「ひろー。そんなところに突っ立ってないで、早くおいでよ」
「あいよー」
既に門をくぐろうとしている春香に呼ばれ、見上げていた城壁から視線を下ろして俺はパチェリシカの大きすぎる城門をくぐった。
城門をくぐった先に見えたもの。
それはフリーテの街を見たものよりも衝撃的だった。
レンガのようなもので足元が丁寧に舗装された大通り。
その道を彩るかのように、ぎっしりと洋風の家々が連なっていた。
まるで夏祭りの屋台だ。
そうとしか言えないこの街の賑わいは、まさに幻想の様で。
また同時に、胸に謎のつっかえを覚えた。
………………?
何だ、このつっかえ。
「すげー!パチェリシカすげー!」
「こんなにきれいな街初めてだ!」
透たち4人はこうした街に来たことが無いようで、田舎から都会に上がってきた田舎者丸出しの反応でパチェリシカを楽しんでいるようだった。
だがそれは透たちだけではない。
葵や春香も透たちほどではないにしろ、街の様々なところに目を移し楽しんでいた。
ただ、その中で。
一番この街を知っているただ一人の子は。
何かに怯えるように体を震わせ、下を向いていた。
「……リナちゃん?」
俺の声にびくっと反応したリナちゃんは、何かに怯えるような目でこちらを見た。
何かを訴えていた。
それがリナちゃんをこうさせている事だけは、すぐに理解できた。
だが、そうしてもそれが何なのか、俺は知ることが出来なかった。
「バーーーーーーーーカ!!」
すぐ横で荷物持ちとして先程まで存在を消していた馬鹿面鳥が、俺の事を鈍感だと言わんばかりに鳴き声を上げる。
にぶちょんで悪かったな。
「……後で鶏肉にしてやろうか」
ボソっとつぶやくと馬鹿面鳥もびくっと体を震わせて、また大人しくなった。
賢いのか阿保なのか馬鹿なのか。
少なくとも、名前の通りに馬鹿ということはなさそうだ。
ノードラーで必死に逃げた時は、なんだかんだこいつに助けられてるし。
「……冗談だよ」
少ししょげていた馬鹿面鳥の頭をなでて、機嫌を取った。
……どうやらご満悦の様だ。
ちょろいな。
意外と名前の通り馬鹿なのかもしれない。
それよりもまずはリナちゃんの方だ。
何か声をかけてあげなければいけない。
……何を言えばいいんだ?
今、リナちゃんは、一体何に怯えているんだ?
「おいおい洋一!見ろよあれ!」
ガシッと林太に肩を組まれて、グイッと引き寄せられる。
「ちょっと、林太。今それどころじゃ……」
「……あの絶景よりも、それは優先するべき事項があるのか?」
そうして林太はあるところを指さした。
このままだと話してくれなさそうなので、仕方なくその指が指す方へ視線を動かす。
そこには大きな山が二つ。
いや、大きなおっぱいが特徴的な女性がいた。
「見ろよ!あのおっぱい!男の夢の全てが詰まっているとしか考えられない、はち切れんばかりのおっぱい!!素晴らしいと思わないか!?」
ちっとも思わない。
というか大事な事ってもしかしてそれ!?
今それどころじゃないんだが!
おっぱいよりも優先するべき事項があるんだが!!
「……もしかして、洋一はロリのコンでしか興奮することのできない、超絶マニアックな性癖をお持ちの方だったか?」
何を取ってしたらその答えに行きつくんだ!!
頭の中お花畑か!?
お花畑だな!!
間違いない。
林太の頭の中はお花畑だ。
その花もすべて、おっぱいで出来上がっていそうだ。
……これ以上考えるのはよそう。
頭がおっぱいで埋め尽くされてしまう。
適当に相槌でもうっておいて、さっさと解放されよう。
でもロリコンってのだけは何とか訂正を……。
「いや、そうだよな。性癖を人に話すのは恥ずかしいよな。まして、ロリのコンなんかであれば尚更な……。答えづらいことを聞いてしまったな」
あれ?これもしかして俺ロリコンって勘違いされてない?
え?嘘でしょ?
何も返事してないのに?
早とちりにもほどがあるでしょうに……。
「なら、洋一はああいう絶壁が好きなのか?」
そう言って、林太が指さした先にいた女性は……。
春香と千里だった。
ひゅっと喉から変な声が出る。
林太、こいつ正気か?
春香に喧嘩売るとか、お前正気か!?
すぐに手を下ろせと言って、林太の腕を無理矢理押さえつける。
だが、時すでに遅し。
会話も、林太が指を指したことも、春香、千里両者に見られていた。
2人の顔が引きつった笑顔で固まる。
そうしてそのまま表情を変えずに、無言でじりじりとにじり寄って来た。
「いや、あの、聞いてくださいお二方。俺は別に何も言ってな……」
「……今生最後の言葉は、それでいいよね?ひろ?」
「林太。あんた……また、死にたいようね……」
あ……。
これは俺たち、死んだな。
おもに林太のせいだが、この感じ、今更何を言ってもどうにもならないだろう。
俺は考えることを放棄した。
すぐさま腹部に春香の拳が入り、身体が宙を舞う。
あぁ、今日も空は綺麗だなぁ。
そうして宙を持った俺と林太の身体は、グキリと嫌な音をたてながら地面に落ちた。




