第二章7 いざ、パチェリシカヘ4
「どわあああああああああ!!!!」
「早く!!早く走って!!!!」
俺たちがまたがった鳥どもに、言葉が通じるのかは知らない。
だがそんなことを気にしている暇はなかった。
再び、空から先程と似たような光が降りそそぐ。
今度は視認できるものだったが、それでも背後をちらっと見ただけでも地面をぼこぼこと抉っているところを見てしまった。
だから当たるわけにもいかないし、夜さんに似た謎の人物にも追いつかれるわけにはいかない。
夜さんや、ノマスさんが時間を稼いでいる以上、何としても街の外周へ向かわなければいけない。
だが、行く先々はでこぼこで、とてもではないがスムーズに先に進めそうな道は少ない。
何とか合間を縫って進んでは行くものの、出口への道のりが遠い。
かと言って、徒歩でどうにか素早く逃げ切れるようなものでもない。
あいも変わらずよくならない状況に、思考がゆがみそうになる。
それでも進むしかないのだと、
迷ってはいけないと、
直感的な何かが告げる。
俺を動かす衝動的な何かが、無理でも進めと。
そう、道を指し示しているような気がする。
「何をのろのろと進んでいるのです!!早く進みなさい!!洋一君」
先程切羽詰まった声で俺の名前を呼んだノマスさんの声が、すぐそばで聞こえたような気がした。
……そうだ。考えるのは後だ。
今は生き延びることだけを…………。
……………………。
……………………。
…………………?
「何をしているんだ!早く逃げないと夜の努力がすべて無駄になってしまうじゃないか!!」
「…………いや、あの…………え?」
「確かに道はお世辞にも鳥たちが走りやすいものではないけれど、それでも進まなければ……」
「ま、待って、待ってください」
「待つも何もないだろう!?」
「思考が追いつかないんですよ!!春香も言葉失ってるじゃないですか!!ノマスさん!!」
そこには先程別れたばかりのノマスさんがにこやかな笑顔で外に向かって走る俺たちと並走していた。
そしてすぐに騒ぎそうな春香が、騒がずに言葉を失っているのは俺たちに並走しているノマスさんに原因があった。
「どうして浮いてるんですか!?」
必死に前に向かって走りながらも、ツッコミを入れざるを得ないノマスさんに言葉を投げる。
でもこんな緊急事態に、そんなこと今はどうでもいいだろうと冷めた返事が返される。
そして俺たちの声で俺たちよりも少し前を走っていた友恵たちが、俺たちの状況に気が付き、あちらもあちらで何やらてんやわんやしていた。
そしてなぜ俺たちがこのことについて驚いているのか。
それは人の体を魔力を使ってその場での上昇、下降させることが出来るのは、風魔法を使えるものだけで、身体を一定の高さに浮かすだけでも相当のコントロール力を必要とする。
そして、浮遊している人の足元には必ず魔法陣が存在する。
だが、ノマスさんにはそれがない。
浮遊しているのにもかかわらず力を用いている様子もない。
新しい個性、とも考えられるが俺が使用するギアでさえ最低限度足に魔力を込めて使用する。
その魔力を使用している形跡がなく、それでいて先程まで夜さんと共にいたはずなのに、この場所にいること。
これを驚かずにはいられなかった。
「っ!!そんな事に驚いている場合か!!いいから進め!!」
が、ノマスさんに叱られた。
いや、叱られて当然の状況下にあることは間違いない。
事実、今もなおありとあらゆるところから光線のようなものが地面に降り注ぎ、跡形もなく吹き飛ばした街をさらにその痕跡さえもなくそうとしている。
それをノマスさんがともに移動しながら、抜き放った剣と街を覆っている何かのような模様のシールドを用いて防いでくれていた。
……もう無茶苦茶だ。
何もかも
何もかもが
跡形もなく消し飛ばされて
理由もなく殺されそうになり
生き残るために逃げる。
全ては先へ進むために。
……先なんて、本当にあるんだろうか。
「見えたっ!!聖域の外輪!!」
ノマスさんが叫ぶ。
デコボコに消し飛んだ道のりの先に、確かに今まで見た事がなかった不思議な領域のようなものの側面が見えていた。
でも……あれは、出られなかったはずだ。
その言葉が正しいかは知らないが、フリーテで出会ったナタリーさんは移動手段を用いて外に出ることは不可能だと言っていた。
風華や水連も、戦闘時に脱出は困難を極めると言っていた。
そんなものの側面に来たところで、一体どうなるというんだ。
「春香。まずはこれを!」
そう言ってノマスさんから春香が2つの袋を受け取る。
「……これは?」
「幾日間もの食料と……パチェリシカにある騎士・魔道学園ドルーナへの招待状が入っている」
それは、フリーテでも渡された行くなと釘を刺された学校の招待状。
「……本当は夜が伝えなければいけないんだが……代わりに私が伝えておこう。春香、これが最後の司令だ。騎士・魔道学園ドルーナへと向かい、その実体を調査してきなさい」
「………………え?」
最後。
確かにノマスさんはそう言った。
何で、どうして。
その言葉が春香の頭を駆け巡り、喉元まで来た。
だが、その思いが言葉になることはなかった。
阿保鳥、馬鹿鳥は既に領域のようなものの外面の目の前にまで俺たちをのせて迫っていた。
このまま進めば、通れないと言われている、不思議な模様の壁に激突することになる。
だから、か。
ノマスさんは俺たちに2つの荷物だけを渡してすぐに外縁の方へと一直線に向かっていった。
「さぁ、進め。未来ある子供たちよ。血塗られた私からの祝福は呪いになってしまうから、せめて言葉で、君たちの背中を押そう」
ノマスさんの剣が輝きを放つ。
「……進むべき道は今ここに隔たれた。ならばその道、この手が血で汚れようとも守るべきものの為に、誓いを立てたものの為に、何よりも円卓の騎士として切り開いて見せようぞ!!」
言葉と共に剣の輝きが増していく。、
「血塗られた選定の剣!!」
そして、言葉と共に領域のようなものに向かって突き出されたその剣は…………。
………………。
………………。
………………。
圧倒的な力をもって、その壁を打ち砕いて見せた。
「……後を、頼みます。洋一」
街を出る寸前すれ違った時、最後にノマスさんからいつも通りの優しい声で背中を押された。
それから俺たちは外に出ててから、必死に街から離れるために走った。
走った。
走った。
走って。
走って…………。
…………………………………。
……………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………………………………。
そうして気が付けば……。
登り始めたばかりだった太陽がいつの間にか山の向こうへと沈んでいた。
すでに日は下っていて明かりもなく、生き物の気配もない。
周囲はいい意味でも悪い意味でも何もない。
そんな平野のど真ん中にいた。
手なずけたばかりの鳥たちは、手なずけられて早々に馬鹿みたいに走ったということもあり、クタクタになって俺たちを下ろしたと同時に、足をたたんで死んだように眠ってしまった。
そうして失意の底にある俺たちだけが残された。
誰もが話さない。
誰もが下を向いていた。
ただ………………。
ただ、月だけが残酷なほど冷たく俺たちを照らしていた。
緊張と動揺で眠るに眠れない状況。
何かしとかないと、胸のざわめきと落ち着きを取り戻せない。
そんな中、ノマスさんから渡された2つの荷物の存在を思い出した。
月灯りだけを頼りに、春香と短い言葉を交わしノマスさんからの荷物を受け取って中身を確認する。
ノマスさんの言った通り、袋の中には調理せずとも食べることのできる乾燥食、そして俺がウィッカから手渡された手紙と似たような封筒が2枚、おそらく葵と春香のドルーナへの招待状らしきものが入っていた。
…………何だよ。
こっから、どうすりゃいいんだよ……。
どうすりゃ……いいんだよ…………。
どうすれば…………いいんだよ…………。
ただただ。
ただただ。
俺たちに残されたものは、先の見えない未来だった。
世界は炎で満ちていた。
迫りくる歩兵。
逃げ惑う私達。
血の海と死体をまたいで城から逃げる。
走りながら五感で感じるものその全てが、死。
「姫様!!息を……」
息をするのが苦しい。
どうしてこんなみじめな目に遭わなければいけないの?
私は一国の姫、下民のように汗水流すような存在じゃない。
そんな私がどうして……どうして……。
「誰か肩を貸せ!!」
私の護衛は私が歩けなくなったと思ったらしい。
あぁ、嫌になる。
頼むから誰も私に触らないでほしい。
馬車を用意して早く遠くへ連れて行ってほしい。
でも誰も私の声を聞いてはくれない。
それが、嫌で、嫌で、嫌で。
嫌で、仕方がない。
「いたぞ!!こっちだ!!」
「姫を殺せ!!」
聞こえる、私を殺そうとする声が。
死の手が私に忍び寄ってくる。
痛いのは嫌、死にたくない。
……死にたくはない。
死にたくないから……。
神よ。
どうか、私を助けてください。
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17条の禁術編が解放されました。




