序章2 朝からだいぶん忙しい(改行済み)
キャラクター紹介1
高田 洋一 14歳 中3 男
回復力が一般人と比べ、異常に高い家系に生まれる。その中でも女性にしか目覚めないはずの力が目覚めたことで、女として現人生の3分の2以上生きてきた。また、その高い回復力のせいで3歳という若さで四島という魔物との戦闘が繰り広げていた戦場に送り込まれる。そのため、妹がいたという記憶がなかった。様々な恩人たちの死を目の当たりにし、あるものに拾われて刀を扱うようになる。だが、その修行中の記憶はなぜか抜け落ちてしまっている。12歳という若さで少数精鋭チームを築き上げ、見事に四島の争いを鎮めた。その為、皆からは狐火という異名で呼ばれるようになった。中学生になり故郷に戻ってきてからは、一時幸せなときを過ごしていたが、ある人との出会いが彼の人生を大きく変えてしまった。
瞼の裏に光が入り込んできた。
いつの間にか寝落ちしてしまったらしい。
伸びをして立ち上がり、時計に目を向ける。
時刻は6時。今日は朝早くから足柄さんのお孫さんの両親が、捺さんを9時に迎えに来る予定だ。
そして10時からは、龍馬がいつも通り勝手に決めた遺跡調査に強制参加させられる。
もう少し報連相をどうにかしてもらいたいものだけど、まぁあいつの事だからまず無理だろう。龍馬はいつも突拍子もなく何かしらを抱えて俺たちの所にやってくる。時には面白い話だったり、またある時には聞きたくもないような話だったりするが、そうゆうところが龍馬の面白いところだ。
のんびりと今日すべきことについて考えていると、気が付けば時刻は6時半になっていた。そろそろ行動し始めないと、これから先の予定が狂ってしまう。
俺は台所へ行き、手ごろにできるみそ汁をちゃちゃっと作り、すぐに朝ご飯が食べられる状態にして、皆が床で寝ている部屋へ行くと、真っ先に部屋のカーテンを開いて朝日を部屋に取り入れた。
「はーい、そろそろ起きてー」
夏休みが始まったばかりということもあってか、雷光さんは仕事柄すぐに起きてくれたものの、ほかの皆はまだ眠たそうにしていた。昨日かなり遅くまで騒いでいたから、こうなるだろうとは思っていたが、予想以上にまだ夢の中にいる人数が多い。
ならば最終手段に移らせてもらうとしよう。
台所に戻り、先程みそ汁を作るのに使ったばかりのお玉と小さな鍋を手に取ると、皆が寝ている部屋に行き………
カンッ!カンッ!カンッ!
とお玉で鍋を思いっきり叩いた。
部屋中に響き渡る金属同士がぶつかる耳障りな音。
その聞くに堪えない音に、眠っていたほとんどの人間がきつそうな顔をしながらも体を起こした。
ある、人間以外は。
「………」
まだ横になっている一人、春香から少しずつ殺気のようなものが少しずつ大きくなっていく。
昨日の色んな意味での飯テロのやり返しという感情がなかったと言えば嘘になる。
だがこの起こし方をして俺は後悔した。
春香は朝、ひじょ―――――に機嫌が悪いのだ。
「……るさい」
そして、ぼそぼそとつぶやきながら立ち上がる春香は、獲物を見つけた獣のような目でこちらを見ると、俺が反応できない速さで距離を詰め、俺の腹部へクリティカルな一撃を決めてきた。
「うるさ―――――――い!!」
「うごわああああぁぁぁ!!!!」
クリティカルな一撃をもらい、腹を抱えてうずくまる。
ただ起こしただけなのに……この仕打ちはひどくないか?俺も悪いから人の事言えないけどね!
だが今は腹部の痛みとか、先程の起こし方を気にしている場合ではない。
回復魔法をかけながら顔を上げると、そこには鬼の形相の春香が仁王立ちでこちらの事を見下ろしていた。
「朝からうるさい!もう少し穏やかな起こし方出来ないの!?」
「……すんません」
普段なら俺がわけのわからないことで殴られることが多く、反論することが多い。が、今回ばかりは春香の言い分が正しいので、何も言い返すことができなかった。
でもお前もかなりひどい理由で、昨日俺の事俺起こしに来たよな?
起こしに来たっていうか、昇天させようとしてたよな?
春香が俺に切れている間、少しずつ昨日の事を思い出し、俺だけ怒られるのは理不尽なんじゃないか?と思っていたところに……
「……ひろ君、春ちゃん?」
俺の肩と春香の肩にポンッと第三者の手が触れた。先ほどまで顔を真っ赤にして怒っていた春香の顔色は、見る見るうちに蒼くなっていった。嫌な予感しかせず、肩に触れた人の顔を見ると、葵が不気味な笑顔をこちらに向けていた。
あの後、朝っぱらから騒いだこともあり、葵からこっぴどく絞られた。その光景を寝起きの他の6人に見られていたのだから、恥ずかしいったらありゃしない。
今すぐにでも消えてなくなりたいと思う俺を、鉄と龍馬は白飯を食べながらニヤニヤとほほを緩ませ視線を送ってきた。
「いや~、朝から痴話喧嘩ですか~?」
「痴話喧嘩ですか~?」
中学校で出会った龍馬と鉄は非常に仲がいい。
そして学校生活においてこのコンビが俺の前で揃うとき、大抵俺を困らせにくる。
どうすればいじられなくなるのか試行錯誤してみたこともあったが、今はこれも中学生なりのコミュニケーションなのだろうと考えることで、変に考えこまないようにしている。
「……あんたら死にたいの?」
俺のせいで朝から機嫌の悪い春香は、いじろうとしてくる龍馬と鉄をキッと睨み付けると同時に持っていた箸を真っ二つに握りつぶした。
……今月で6回目。
小さな出費がかさむなぁ……。
「それにしても、やっぱり洋一殿の作る飯は、美味しいでござるな!!」
一方空気を読まない阿呆、もとい雷光さんは、1人俺の朝ごはんを楽しんでいた。
そんな中、感じたことのない空気に、ガタガタ震えている葵を除く残りの3人は隅の方で身を寄せあって、朝ごはんを食べていた。
「…なんで昨日の楽しい空気から、ここまで一変するんですか?」
そんな疑問を小声で呟くのは、1つ年下の結衣さん。
「……助けてもらってあれなんですけれど……もういやです…この空気」
そう呟くのは、足柄さんのお孫さんで13歳の捺さん。
「…………2人とも。ここは何も言わないことだよ……。口を挟めば、待つのは死だよ…」
近くの人にしか聞こえないような声で呟いたのは、前回から居たものの、余りにも空気すぎて存在が認識されていなかった宗次。
龍馬に昨日呼び出され、半ば強引に今日の遺跡探索に参加することになった、俺の友達だ。
「このお味噌汁美味しいでござるー!」
「…あんたら探索中背後狙ってやるから覚悟しなさいよ…!!」
「きゃー怖―い(棒)」
「怖―い(棒)」
「…………」
朝っぱらから本当に最悪だ…。早く食べて、さっさとこの空気から逃げよう。そう思い、俺は残っていた味噌汁を一気に飲み干した。
朝ごはんの後、俺と雷光さん、鉄、結衣さん、捺さんは一度軍に戻る必要があったので、龍馬主催の遺跡探索は、アーケードにある公園に集合するということで話をまとめ、街の方に行くのならと、回復アイテムや小道具などの買い出しも任された。
時間があるのならお前らが行けばいいじゃんと思ったりもしたが、春香の顔を見てその言葉を呑み込んでから俺たち5人は家を出た。
……合流するまでに、死人が出てなきゃいいなぁ。
特に龍馬とか。
そんなことを考えながら少しして軍の施設にたどり着くと、捺さんの両親とおぼしき人たちが受付前に立っていた。
俺たちと一緒に施設内に入って来た捺さんの事に気づくと、2人はこちらに近づいてきて、ご迷惑をおかけしましたと言いながら深々と頭を下げた。
出会ってまさかここまで頭を下げられるとは思っていなかったので、俺はただ頭を上げてくださいとしかいうことが出来なかった。
その後、少ししてようやく頭を上げてくれた捺さんの両親から、御迷惑をおかけしなかったか、危険な目にあっていないか等、矢継ぎ早に質問攻めにされた。
だから、裏山に1人でお墓参りに行こうとして止められた所を保護した、と嘘を織り交ぜながら昨日の出来事を話した。
勝手に裏山に入って魔物に襲われていたと、昨日の出来事をありのままに話してしまえば、捺さんの今後の人生が大きく動いてしまう。
実際、そう言った例はいくつも存在する。
だから、ここでは嘘をついた。
その日起こった出来事を報告するのは、監督者であった自分たちなので、鉄や結衣さんがボロを出さない限りは表沙汰になることは無い。
捺さんは、昨日の本当の出来事を話さない俺を見て、驚いた顔でこちらを見た。
驚くのも無理はない。
だが、彼女の行動には共感できるし、同じ立場だったらきっと捺さんと同じようなことをすると思う。
まぁ、雷光さんにもキツめに怒られていることだし、これ以上無謀なことはしないだろう、と判断した結果の対処だ。
何かここまで俺が話したことで反対意見でもあるかと、雷光さんの方に視線を送ると、俺の言っていることに特に反対は無いようで、小さくうなずいてくれた。
そうして話が終わると、捺さんの両親はもう一度ありがとうございましたと深く頭を下げてから、捺さんと共に施設を後にした。
捺さんに別れ際「いつでも連絡しておいで。困ったときは助けになるから」というと、なぜか少し泣きながら何度も首を縦に振った。
そんな泣くようなことでも言っただろうかと思ったが、今はそんなことを考えている暇はない。
時刻を確認すると時刻はすでに10時を過ぎていた。
あまり長く待たせるわけにはいかない。
急いで仕事着から着替えると、雷光さんと結衣さんと別れて、俺と鉄は集合場所に向かって走り出した。
「もうあんまり時間ないな……ワクワク貿易に寄って道具を揃えたかったんだけど……」
龍馬に無理やり頼まれた回復アイテムの調達。
時間があるお前たちがやれよと言いたい。
……あれ?そもそもあいつ人に言うだけ言って何もしてなくないか?
なんかそう思うと、無性に腹が立ってきた。
後で一発ぶん殴ろう。
「ひろ、どこで調達するんだ?」
「…それだよなぁ」
時間が時間なだけに、ワクワク貿易で買い物をすると、集合場所にたどり着くまでに30分以上かかってしまう。それだけは何とか阻止しなくてはならない。
そんな俺を見て鉄はこの周辺で回復道具を取り扱っている店をネットですぐに調べてスマホで見せてくれた。
「ここなんか良いんじゃない?最近できたっていう魔法屋」
「魔法屋?なんじゃそりゃ」
「えーっとね…、魔法に関するものなら、何でも取り扱います。回復アイテムもあります……だって。この店に寄るんだったら、買い物に時間をかけなければ、すぐに集合場所に行けると思う」
「じゃあ、そこ行くか」
「そうだね」
とりあえず時間もないし、近所で回復アイテムが売っている場所を俺は知らないので、鉄のスマホを見ながら魔法屋という店に向かった。
『目的地周辺です。案内を終了します』という声と同時にスマホのナビが終了する。
目の前には木の看板に魔法屋の文字が彫ってある怪しい店が一軒。
出来れば、間違いであってほしいが、周囲にそれと言った店は見当たらない。
ここで間違いないようだ。
だが最近出来たばかりだというわりには、周囲に客が全くいない。
というか、人すらいない。
「なぁ、ここほんとにやってるのか?」
「…多分大丈夫…な、はず…」
不安しか感じられない声を出す鉄に、本当に大丈夫なのか…?と思いながらも、俺達はその店に足を踏み入れた。
店の中は最近オープンしたばかりということもあって、綺麗な室内に丁寧に商品が陳列されていた。
他にも床タイルや窓ガラスにも様々な工夫がなされていて、経営者の細かいこだわりを感じ取ることが出来た。
ここまで客に気を配っているお店なのに、何で客が一人もいないんだ?
「……お客さんかの?」
奥の方から声がして店主と思われる人が顔を出す。
その人は魔法使い定番の黒のトンガリ帽子に黒いローブを身に着けていた。
だが髪は、その恰好には似合わない長く透き通った蒼色で、そして何よりも背が子供と同じくらい小さかった。
あぁ、店主の子供か何かが出てきたのか……間違えたな。
そう思った俺は、目線をその子と同じになるように膝を曲げ
「えーっと…ここのお店の人を呼んでくれないかな?」
少しだけ声のトーンを上げて、その子供に尋ねた。
だが、想像していた反応とは違い、渋い表情を返されると
「………わしが店長じゃが………」
と怒りを隠しきれない声で俺の質問に答えた。
んん~?……あ、そっか。一日店長とか言うやつだな。
成る程成る程。それなら、納得がいく。
「それで、本当の店長さんはどこかな?」
「……貴様、死にたいようじゃの」
呆れたと言わんばかりの顔をしながらその子はどこからか、2mはありそうな杖を取り出すと、槍を使うように俺に向かって杖を突き出し、見事に俺の脇腹に当ててきた。
ってか今杖どこからだしたんだ!?
「少なくとも、お主らよりは年上じゃ。……洋一…であっておるか?」
手に持った杖を音をたてながら地面につき、小さな店長は脇腹を押さえて倒れている俺を見下した。
この子…意外にできるぞ……。
腹を抱えながらそんなことを思った。
それにしても、何でこの子俺の名前知ってるんだろうか?
名乗ってすらいないんだが。
そこを聞きたかったが、店長である彼女がすぐに必要なものは何かと聞いてきたので、俺と鉄はとりあえず必要そうなものを伝えた。
俺たちの必要なものを聞いて彼女は指をパチンとならすと、頼んだ通りの回復アイテムが宙を浮いてこちらに飛んできた。
ここまでの繊細な浮遊魔法は見たことがなかったので、その事にも驚きはしたのだが、驚いたのはそこだけじゃなかった。
「…あの、これってクオーツじゃないんですか?」
鉄は浮遊魔法で運ばれてきた回復アイテムを見て、驚きの声をあげた。
クオーツとは分かりやすく言えば、とあるデバイスを通すことで、魔力の消費量を抑えて詠唱なしで魔法を打つことが出来るという優れたアイテムでとても高価なものだ。
一般販売では、まず出回っていない販売されていないはずの貴重なものだ。
だから、軍のおえらいさんたちしか持っていないはず。
俺たちが所属する西部の軍にも1人だけクオーツを扱える人物がいることは聞いているが……。
この人がそうなのか?
だがなぁ…見た目がなぁ。完全に子供なんだよなぁ。
それに、施設内でもその人には出会ったことがないから、正確なことは言えないが、この人であるはずがない。
そう信じたい。
「なんじゃ。回復アイテムと言ったら、地面に叩きつけて使うクオーツじゃろう?今の若いもんはそんなことも知らぬのか?」
ごく当たり前のことだろうとでも言うように、幼児体型の店長はバカにするような目で俺たちを見た。
…それにしても、今叩き割るとか言ってたな。そんな使い方は聞いたこともない。
「……いや、そうじゃったな。…もうクオーツはそんな使い方せんのじゃった…。まぁ……そんなことはいいんじゃ。大変無礼ではあったが初めてきてくれた客じゃ。特別に半額で売ってやろう」
店長は懐から電卓を取り出すと、小さな指でポチポチとボタンを押して、金額を提示した。その金額は、市販で買う回復アイテムと同じくらいの金額だった。
「……なぁ、このクオーツ偽物とかないよな?」
そうじゃないと、こんな破格の金額で提示できるわけがない。
まぁ売ってくれるのもおかしいんだけども。
「疑うのなら買わなければよかろう?まぁここ以外に買いにいく場所があるのなら…じゃけどな?」
「………」
この幼児体型の店長……俺らに時間がない事を察している?
だが、実際急いでいるから何も言えない。
「……はぁ。仕方ない。どうせ俺が肩代わりしているんだし、それ買うよ」
提示された金額を支払い商品を受けとる。
毎度あり~と言いながら現金を受け取った店長は、始めて商品が売れたからかとても喜んでいた。
こうしてみると、どうみても子供にしか見えない。
……まぁいいや。買ったクオーツが本物だったら、それはそれで使いようがある。
偽物だったらとっちめればいいだけだ。
鉄は本当にそれを買って大丈夫なの?とでも言いたげな顔をしていたが、それよりも待たせたら恐ろしい鬼がいるので出来るだけ早めに集合場所にいきたかった俺は、行こうとだけ言ってから店をあとにした。
彼らが出ていくのを見送ってから、少女はふぅとため息をついた。
「まさか本当に来るとは思ってもいなかった……」
……昔聞いた彼の話を思い出しながら、出ていく彼らの姿を目で追った。
必ず私の助けが必要になる……か。
突如現れたあやつにそう言われたときから長い時が経った。
ここまで長い道のりではあったが、そのどれもが今はとても懐かしい。
だが今はそう悠長に腰を据えている時間などない。
刻限は着々と迫っている。
それはきっと2年以上も先の事だろう。
それでも、今は来るべき戦いの為に準備を進めておく必要がある。
我が必要になるその時までに。
「……必ず…戻ってくるのじゃぞ……大バカ者…」
今は店を出ていった名もなき英雄に彼女はただ祈ることしかできなかった。