第二章5 いざ、パチェリシカへ2
お待たせしました~
「いやぁ、美味しかった。久しぶりにいいものが食べれて私は大満足だよ」
結果としては小一時間ほどの時間をかけて全ての肉を捌き切ってから、保存食にする肉以外をそこらへんに生えていた、毒性や苦みがなさそうな植物と混ぜてそれっぽいものを作った。
一人で。
誰か手伝ってほしいとも願ったが、今朝のことも考えると、そう迂闊に手伝ってもらうわけにはいかない。
……喜んでもらえたのは何よりだけど。
この言い方からして、日ごろどのようなものを食べていたのか気になるくらいだ。
そんなことを考えながら、改めて夜さんの方へと視線を動かす。
昨日は日が沈んで、顔などがよくわからなかったが、第一印象としてはとても明るい人だ。
そして小さい。
サーシャほどではないにしろ、春香よりは小さい。
改めて近くで見た時は
子供かと目を疑った。
そしてとにかく表情はころころ変わるし、そんな中でも笑いを絶やすことはなく皆に振舞っている。
確かにリーダーという人の多くは、こうやって周りに気を配ることが出来る人だ。
周囲をよく見ているところや、的確な人員を要所要所に派遣できることもできるところからも、素質があるように見える。
これほどの要素が揃っているのなら、夜さんがリーダーと呼ばれているのも納得がいく。
……その動機がかなり不純なものであるという事だけおいておけばの話だけど。
「それにしても、こうやってまた大人数で青空の元、食べる日が来るとは夢にも見なかったよ。それに……キーがまさか、匂いにつられて起きてくるなんて……。驚きを隠せなかったよね」
そういって夜さんが視線を向けた先には、先程目覚めたばかりのキーが、スプーンを拳で握り胃の中に流し込んでいるところだった。
……あんな食べ方したら、喉つっかえるぞ……。
でも目覚めてくれて、本当に良かった。
それを長い間、望んでいた友恵を傍で見ていたのだから、なおさら。
本当に……よかった。
「……長い間、心配して損しました」
「あはははは!!最初は子供なんか嫌いだ―!なんて言ってたのに、すっかり仲良くなってるじゃないか!」
「……それは言わないでください!!」
「お?照れてる?照れてるね!!可愛いよ!!友恵ちゃん!!」
「気持ち悪いですっ!!」
友恵を茶化しながら夜さんは楽しそうに話をしていた。
この人はこんな風に笑うのか。
あまりにも裏表のないその表情に、ノマスさんとの言葉の乖離があり、頭が余計に混乱していく。
この人たちは……本当に一体何を目的としてここまで来たのだろうか。
「いやぁ~楽しく食事もできたし!そろそろ本題の方に移ろうと思うけれども……。ノマス!準備は整ってる?」
「言われずとも、昨夜のうちに全て終わらせておきました」
「ならよし!!それじゃぁ説明を……」
意気揚々とこれからの説明をしようと立ち上がった夜さん。
その顔が一瞬で強張る。
瞳孔が広がり、歯を食いしばるその顔は、
焦り、恐怖、死、
まるでそれらを思わすかのようなものだった。
「全員!!戦闘隊形!!」
夜さんの言葉と同時に、空が消える。
違う、
消えたのではない。
空が陰る。
先程までの晴れ晴れしい晴天の空から、黄色の異質なひし形模様の空へと変質していく。
それは、まるで、フリーテで見た、あの不思議な結界のような模様をしていて、そして、
必ずここから出すことはないと言わんばかりの圧を発していた。
だから、夜さんの言葉にすぐ反応できなかった。
あまりにも。
あまりにもイレギュラーな出来事すぎて。
思考がすぐには切り替わらない。
言葉すら発することは忘れ、俺たちはただ全員硬直するしかなかった。
「……ようやく見つけたぞ、ドッペルゲンガー」
突如訪れた世界に響き渡る声。
どこか低く、それでいて先程まで聞いていた声。
「領域と聖域の同時展開によるカモフラージュ。よくここまで隠し通せたものね」
どこか怒りを隠せないその声の主。
その姿を見せた時、俺たちの思考はさらに混乱を極めた。
それはなぜか。
こちらの方が聞きたいくらいだ。
夜さんとノマスさんそっくりの人たちがどうしているのか。
夜さんとノマスさんは先程までの緩やかな雰囲気から一変し、ノマスさんに至ってはフリーテでも見た事のない険しい顔をして、夜さんの前に立ちふさがっていた。
「……どうしてこのタイミングで……まだ見つからないはずじゃ……」
「夜!!思考は後だ!!まずは何としても彼らを外へ!!これ以上、彼に介入されるわけにはいかない!!」
かつてない声をノマスさんがあげる。
それは何のためにあげられたのか。
その声は誰のためにあげられたのか。
そして、何のためにここにいるのか。
「洋一!!」
それが言葉として向けられたような、そんな気がした。
ハッと目覚めるかのような感覚を覚えると同時に、身体は無意識に動き出していた。
「全員逃げるぞ!!」
全てが動き出す。
それは俺たちだけではない。
さび付いていた歯車が。
血にまみれた歯車が。
死体に埋もれた歯車が。
その全てがまわりだす。
大きな悲鳴をあげながら、歯車は回る。
それは何のための叫びか。
それは何のための咆哮か。
その全てに意味はなくとも。
今ここに、運命は変わった。
ならば動くしかない。
真っ先に動き出した俺は、急いで移動用に使う鳥の元へ向かい、阿保面鳥に友恵、キー、葵。馬鹿面鳥に俺、リナ、春香のメンバーで振り分けその背中に飛び乗った。
その他の全員も、俺に続くように動きだし、急いで鳥の背中に飛び乗る。
だが、そう簡単に逃げ出せるはずもない。
夜さんと全く顔が同じ相手は、その手に握られていた剣のようなものを天に掲げた。
「誰であろうと逃がさない。ドッペルゲンガーに関わった者たちはすべてこの世から排除する。それが私の試練であり、神への一歩になる」
空が、輝く。
信じられないほどの輝きが空を覆う。
「我、世界を創生せし者。我、世界に安寧を求めし者。我、世界に均衡をもたらす者。世界に仇なす者どもよ。ここに救いの神はなく、ここに守護するものはなく、ここにかえるべき場所もない。ただ一編の物語に加わることもなく塵となって消えよ」
どこからか取り出したその剣を天に掲げ、言葉を唱えるとともに展開された領域内に無数の輝きが出現する。
太陽よりも輝きを放つその光に、誰もが視界を奪われる。
動きたくても動けない。
感覚を研ぎ澄まそうにも、何もかもが狂っていて何も感じることが出来ない。
あるのは、ただここにいるという感触と、同じ鳥の背中に乗った人の熱だけだった。
視界に覆われた光とは対照的に、心はどん底へと沈んでいく。
生き残るための道があまりにも細く、今にも切れてしまいそうな糸の様にしか感じられない。
そして今、それすらも引きちぎられそうになっている。
「コード、ガラハッド。神名、ティナグラ・マリアス。これより、世界の均衡を崩す者達の粛清を開始する」
全てが見えない中で、ただ死の宣告のみが俺たちに告げられた。




