第一章50(終) ノードラーへ向けて
大変お待たせいたしました!!
これにて第一章完結です!!
自己紹介をお互いに済ました後、団らんスペースに案内された。
その場所にたどり着いたとき、食欲を誘うような匂いが鼻をついた。
卓上に並べられた人数分の食器、それに注がれた食事はどれも彩りよく作られており、そして何よりもおいしそうだった。
「これは……誰が作ったんだ?」
少なくともダークマター生成期である葵と春香ではないはずだ。
あいつらがどれか一つの工程にでも手を出していたら、こうはならないだろう。
素直に考えるのなら、自称海賊のパティか、そのほかの男たちだろうな。
そう考えていた俺に想像していなかった角度からの返答が来た。
「あの……私です」
おずおずと名乗り出たのはリナ。
それは意外も意外な返答。
まさかリナが作れるとは思ってもいなかった。
出会ってからそんな話を聞いたこともなかったし、ましてや俺のように自炊や食べれるものと食べれないものの判断ができないといけないような生活を送っていたわけではないだろう。
……まぁ単純に考えるのなら、親の手伝いをして覚えたの一択だろう。
「すごいよね。とっても上手なんだもん」
「それにおいしいし」
「そうか。葵や春香とは大違いだったわけだな」
その言葉を放った直後に、息ぴったりの拳が双方から俺の腹に飛んできた。
「どおじで………」
「……今のはひろ君が悪い」
「人の逆鱗に触れるのが上手ね、殺そうか?」
「なんじゃ。ずいぶんと仲がよいのぉ」
それはなんだ、からかいか?それとも哀れみか?
どちらにせよ、とりあえず馬鹿にされたということはわかった。
「イチャイチャする元気があるのなら結構。身体も随分と綺麗になったし、あとは自己回復だけでどうにかなるだろう」
そんな俺たちをみて、すでに食事の席に座っている男性の一人がこちらの方を見ながら安心したような声を漏らした。
頭はぼさぼさで整えられていないためか髪の色はよどんだブロンズ色で、顎髭と顔のところどころにある古傷があることもあり、パッと見の印象は怖いおじさんそのもの。
見格好も全体的に擦り切れてボロボロの服装を着ており、好印象はとても持てなかった。
だがそんな見た目に対して、その声はとても物腰柔らかそうな優しいものだった。
「改めておはよう。私の名前はサブス・ピラートだ。よろしく」
その脳のキャパを超えるギャップに頭が追いついていかなかった。
改めてサブスさんに話を伺ったところ、どうやらパティが砂浜に打ち上げられている俺たちを見つけて治療をしてくださったようだった。
「おかげで助かりました。ありがとうございます」
「なに、そこの子たちからも話は聞いていたからね。……魔物の襲撃や身内の裏切りによるフリーテが事実上の消滅。マーリア家の跡継ぎが生きていなければ、あの街は二度と立ち直れないだろうな。そんな中、よくこんな辺境な島までたどり着いたものだ。なかなか豪運をお持ちと見える。うちの船にも一人は欲しいくらいだ」
「……は、はぁ……」
「さて、君たちは陸にわたりたいのだろう?どこへ行くつもりだい?」
どこへ、か。そう言われればいまだ指針はたっていない。
今まではサーシャがいたからこそどうにかこうにか集落、村、街までたどり着いて生活することが出来ていた。それは、サーシャのギルドとしての旅路について行っていたからできたことだ。
だがそのサーシャは今はいない。
指針をたてて、どこに行くか決めなければ……。
……そう言えば、コラ村を出る前に地図をもらってたな……。
地図を見れば改めて俺たちがどこにいるのか理解できる。
そうすれば、おのずとどうしようか考えつくだろう。
今、焦って物事を決めるのはよくない。
「俺の荷物の中に地図があるので、それを見ながらみんなで相談して決めたいと思います」
「ふむ、それがいいだろうね。荷物は此処に居ない2人がいる部屋にある。私達が行くと、あの少女は警戒してしまうから、荷物を取りに行くついでに君の仲間たちとともに顔を合わせてくるといい。私はしばらく此処に居よう。何かあったら声をかけなさい」
「ありがとうございます」
そう言って席を立ち、葵たちに友恵たちがいる部屋を聞いて、ともにその場所まで向かった。
少し砂浜を進んだ先にある岩陰に友恵たちはいた。
だが、友恵に今まで元気さはなく、そばにいたキーちゃんは横になって眠っていた。
「ここにたどり着いてから……ううん、フリーテで多分召喚獣を呼び出してからずっと目を覚まさないの」
「召喚獣?」
「うん、ひろ君や春ちゃんは見てないから分からないと思うけど、炎、風、水、土の属性を持つ4体の召喚獣のようなものが、あの白いグレゴリアスのようなものを退けてくれたんだと……思う。
私もその光景をはっきりと見たわけではないからはっきりとは言えないけど、でもこの中の誰かが私たちを海に逃がしてくれたみたい」
「……なら、魔力切れが目を覚まさない理由になりそうだが……だったら、俺が治療してた部屋で一緒に治療しているはずか」
「うん。魔力に関してはどこにも異常がないの。だから、どうして目が覚めないんだろうってなってて……」
「今はとりあえず、日の光を軽く浴びたり、自然の音を聞かせることで脳を刺激して起こそうとしてるって感じ。ま、私はこれが正しい方法かは分からないけど、やらないよりはましだろうって。んで友恵に言ってみたら、この子はこの子でずっとこう。ぶきっちょさんもいいところよ。……心配なのはわかるけどもさ。それであなたが倒れても意味ないのよ友恵」
「…………」
春香が近くで声をかけたが、友恵は何の返事も返さずただキーを見つめていた。
……これじゃぁ話し合いにもならないな。
「また後でこよっか」
「……それがよさそうだな」
友恵やキーちゃんの様子も心配だ。フリーテでことが起こる前は笑いながらサーシャとジャルを追いかけまわしていた、あの無邪気な笑顔は、……なんとしても取り返さないといけない。
そのために今は行動を起こさなければ。
岩陰の中に置いてあった俺の荷物の中から地図を取り出し、友恵に一言残してから俺たちはサブスさんの所へと戻った。
テーブルを借りて地図を広げ、改めてここがどこなのかと尋ねると、おおよその位置を指さしてくれた。
指さした位置は、大陸寄りの海上。
これなら大陸へ足を運んだほうが、何かしら進展があるだろう。
……そう言えば、春香が所属していた軍も確か大陸に位置していたような……。
「春香、お前が所属していた軍の本拠地はどこにあるんだ?確か、海から渡ってきたって言ってただろ?」
「……ドラゴンナイツ騎士団のある場所?確かに、行くことはできるわよ?ただ……とてもじゃないけど、あの状況を見て私はこの場所に戻るのはもしかしたら危険なんじゃないかって思った。だって、あのノマスさんが狂ったように暴れて、私達にも刃を向けたんだよ?……信頼を置いていた人が突然裏切って、その言葉を信じろって。都合がいいにもほどがある」
「だがほかに情報もないだろ?あったとしても、あの日言われた騎士・魔道学園ドルーナへ行くなってことくらいだ。それに、団長か?その人なら、キーちゃんがどうしてこうなってるのか知っていたりもするんじゃないか?」
「……確かに一理あるけど、ただ、私は反対かな。そこに所属していたからこその、違和感と不信感から、行こうとは思わない。みんながどう思うかは別の話だけど。葵ちゃんやリナちゃんはどう?」
「私は……情報を得るために、顔を知っている人に会いに行くというのは有効な手段だと思う。春ちゃんの意見が間違ってるわけでもないし、言い分は理解できる。でも、私達にはこれと言って持っている情報も、つながりも少ない。だから、まずはつながりのあるところから行ってみるのもいいかなって思ってる」
「私は……えっと、私の家に帰れればなって、思ってます。……もしかしたら、お父さんが帰ってきてるかもしれないし……」
「ならパチェリシカは何としても通過しなきゃいけないか……」
そう言葉にしながらパチェリシカの場所を探す。
騎士・魔道学園があるということから、大きな街だとは思っていたので名前を探すと、それはすぐに見つかった。
だが一つ問題があった。
「かなり距離があるな……」
元々フリーテがあった場所は、南寄りの小さな大陸だった。
対して、パチェリシカはこの位置から北西にかなり進んだ位置にある。
幸いなことと言えば、大きな大陸の中の海側にあるということだが……その距離があまりにも遠い。
現代風に言ううのならば日本からアメリカまで渡るような感覚だ。
この距離を長い間、しかも少人数で渡るにはかなりの時間と食料と体力がいる。
これなら正直陸路で馬や馬車などで進んだ方が日数はかかるかもしれないが、体力面や食料面では大きな心配をしなくてもよさそうだ。
となると、馬を借してくれるような場所に行く必要がある。
「陸路で進むにしても、海路で進むにしてもどちらにせよ食料を補給するために一度は大きな街に寄る必要があるな」
「近くの村はどうかな?」
「地図を見た感じじゃ途中途中に村はありはするが……春香はパチェリシカ方面には行ったことはあるのか?」
「ないわね。団長やノマスさんからもそっち方面にはいくなって言われてたし」
「……ならあまりよりたくはないなぁ」
ギルド、ライブラのリーダーからの話と合致させるのなら、パチェリシカ方面は非常に危険な場所であると言える。
だが俺のような奴にも学校の招待状を渡してくる、ということはどこかに向こう側が守っている、占拠している道があるという事。
あるとするのなら内陸寄りの街道、か。
「どちらにせよ無策で海を越えていくのはあまりにも怖い。ここは一度ドラゴンナイツ騎士団のある街へ行って情報を得て、万全の準備をしたうえで安全な街を通ってリナを家に届ける。これが理想の動きだと思う」
「はぁ……結局行くのね。……ノードラーに行くのなら左方面よりも右側の砂浜から上陸していく方が安全よ」
「どうやら目的地は決まったみたいだね」
俺たちが話し合っている間も、サブスさんは静かに結果が出るまで待っていてくれた。
「それで、どこに行こうというんだい?」
「えっと、ノードラー?って言うところに行きたいんです」
「……ノードラー?」
その言葉を耳にしたサブスさんは、少し顔が険しくなった。
だがすぐにその表情を戻すと、了解した。と頷くと
「明日までには出航せるようにしておこう。それまで君たちは休むといい」
そう言葉を言い残してその場を後にした。
その後友恵に先程の話を伝え、そうしたら何もすることが無くなってしまったので、島の景観を眺め、先の戦いで傷ついた傷を俺が寝かされていた場所で回復魔法をかけ続けてなんとか最低限戦えるようにしたところで、気が付けば太陽が沈んでいた。
リナが御飯が出来ましたと呼びに来たので、そのままリナが作った夕飯を先程の団欒スペースで食べた後、もう一度友恵たちの状況を確認しに行った。
あいも変わらずキーの拳を握りしめ続ける友恵。
すぐそばにはおそらくリナが持ってきたと思われる、冷めきった今日の夕飯が置かれていた。
「……食べないのか?」
「…………」
返事はない。
こういった状態を俺は一度体験している。
一点しか見えなくて、差し伸べてくれている複数の手が全く見えていない状況。
強引だが、顔を叩いて……。
いや、こればかりはやらない方が良いな。
じゃぁ俺に何かできたのかと言われればそれまでだ。
何せを失っていたから、そう言われた反撃のしようがない。
「……お前が倒れたら意味ないぞ。少しは食っとけ」
その一言を残して俺はその場を後にし、念のために寝床を俺が寝かされていた魔力の高い部屋で一夜を過ごした。
次の日、俺たちはパティにとある岩場と岩場の隙間に集められた。
それは決して大型船とは言えず、かといって小型船かと言われればそうでもなく、とても半端な大きさをしていて、海賊船だというのに無駄に金メッキのような飾りが多くつけられていた。
サブスさん曰く
「盗品だからな、そうなるだろう」
らしい。
……もしかして、こう見えて実はやばい方々なのでは……!!?
「さぁ!!今日は珍しい出航日じゃ!!ワシも速く海に出たくて仕方がないのじゃ!!じゃから!早くお主らも荷物を船に持ち込まんか!!」
パティに急かされ、俺たちの荷物が置いてあった洞窟に急いで戻り、沈み切っている友恵と寝たきりになってしまったキーを無理やり連れて船に乗せ、全ての準備が整った。
「風は良好!!日差しも良し!!さぁ皆の者!!オールを漕ぎ海に出るのじゃ!!」
パティが船の先頭に立ち大きな声を上げ、指示を出す。
数少ない船員たちがその言葉と共に、各々が声をあげながらそれぞれ準備を始めていく。
「さぁて!!出航するのじゃ!!」
風を受けて、パティのぶかぶかの黒のコートがなびき、それはまるで彼女たちの船出を海そのものが歓迎しているようでもあった。
そうして船は帆を広げ、どこまでも果てしなく続く海へ進みだした。
遠くに小さな一隻の小さな船が見える。
「……ようやく来たみたいだ。見えているかい、夜?」
「あぁ、見えているとも。彼の話に聞いていたのと同じようで安心したよ」
まだ彼はこの世界の残酷さのそのほんの一部しか知らない。
きっと、これからこんなことがないようにと最善を尽くすのだろう。
だが、その努力が同時にあまりにも無意味であることにも気が付くのだろう。
それでも前に進むのをやめない。
例え無意味だとしても、そこに小さな光を見出す。
それが君だよ、洋一。
「……よく来たね。ヒーロー」
かけてあげられる言葉は少ないけれど、それでもきっと私が君をたどり着けなかったその先へ導く、その兆しになろう。
第一章完
スキット ???
「そう言えば、この前訪れた街で不思議な少年を見たわ」
「……どんな奴を見たんだ?」
「あなたが前言っていたでしょう?ほら、なんだっけ?キツネビ?みたいな子」
「しかも、家の学長が目を付けたんですって」
「それは本当か!!」
「……そうらしいわよ」
「別人であってくれればいいが……」
「……頼む、ここには来てくれるなよ……!!狐火……!!」




