第一章47 絶氷都市フリーテ編 違和感と可能性
色々とん?と思うことがあるかもしれませんが、キーワードに関しては間違えていないので安心してください。
たどり着いたその先で、言えることはただ一つ。
混沌。
この状態を表すのに、おそらく最もふさわしい言葉だろう。
何が起こっているのか理解できない。
理解したくない。
「……なんだよ、あれ……」
誰もが言葉を失った。
誰もが思考を放置した。
その光景を誰もが信じたくなかった。
何よりも信頼できる人。
この人がいればきっとどうにかしてくれると心の片隅で思っていた人が、今目の前で狂っている。
本当に、何がどうしてこうなった!!?
「ひろ君!とりあえず、友恵さんたちの回復とキーちゃんたちの保護を優先だよ!」
「……っ、おう!!春香!一緒に行くぞ!!ジャル!後方から援護頼む!!」
「……言われなくても!!」
「気を付けて!!」
短い言葉を交わして一気に港へと2人で駆け出る。
まずはこの状況をもっと知らなければいけない。
何が起こって、何をして、今のようになったのか。
きっかけを知ることが出来れば、この後の動きも立てやすくなる。
そう思っていた。
「来ちゃだめ!!」
俺たちの存在にいち早く気づいた友恵から継承が鳴らされる。
と同時に
「…………エ、イ、ユ、ウ。……ミツケタ!!!!ミツケタ!!!!」
先程までいなかったはずの人が、俺の背後に突如現れ斬りかかってきた。
重たい斬撃を背中にもらい、体勢を崩しながら友恵たちの方へと転がり込む。
「……ノマスさん!!」
俺に斬りかかったノマスさんに、春香が願うように呼び掛けながらノマスさんの肩を掴む。
だが春香のその願うような声は届くはずもなく、お腹に重たい蹴りをもらい蹴とばされた。
俺は転がりながら、背中の傷にクイックヒールをかけて止血し、春香の方にヒールを飛ばしながら、神器の名を叫ぶ。
「風華!水連!」
呼び出しと共に出現し
「呼び出すのが遅いのよ!!馬鹿じゃないの!?」
「端的にアホですね。私達のご主人様は」
けちょんけちょんに貶された。
だがその言葉に突っ込んでいる暇もない。
後ろにいる友恵ともう一人にヒールで傷を癒しながら、春香の無事を確認する。
「春香!立てるか!!」
「……っ言われなくてもっ!!」
ヒールをかけたこともあって、しっかりと敵を見据えて春香は立ち上がっていた。
あれならしばらくは心配ないだろう。
「友恵!無事か!?」
「……何とかね……」
「もう一人は!?」
「……無事だけど無事じゃないです」
「いやどっちだよ!!」
そう言って振り返った先には、闘技場の受付にいて今日もドラゴンナイツ騎士団に来たあの口がコロコロと変わるウィッカが見た事のないりりしい顔をしていた。
「……驚いちゃいましたか?」
「色々とな!!」
「それはいい話を聞きました。後でサーシャ先輩にも言っときますね」
「何を!?って今そんなことはいいんだよ!!何があってこうなったんだよ!!」
「私に聞くより、この子に聞いたほうが早いですよ?私が来たときにはすでにこうでしたから。……まさか殺しても蘇る人間と、そもそも攻撃すら当たらない何かを相手にする日が来るなんて……ね?」
「……冗談だろ?」
いや、冗談でなければならない。
ウィッカから聞いた話をそのまま鵜呑みにするのなら、勝ち目がない。
正確に言えば勝ち筋すらない。そこに一筋の光さえも見えない。
「……残念だけど冗談じゃないわよ。生き残るのが精いっぱい」
友恵が苦しい現実を言葉にして並べていく。
情報が開示されれば開示されるほど、先が見えなくなる。
本当に何をどうすればいいんだよ!!
「風華!水連!何かいい作戦はあるか!?」
名前に神器とついているくらいだ。
もしかしたらこういった敵とも出会っていて戦った記憶があるかもしれない。
そんなわずかな期待をぶつけたが、その返事はより一層残酷なものだった。
「……ないわ。早急な逃亡を推奨するわね。一人でも生き残れればいい方じゃないかしら?」
「なっ……!!」
「攻撃は防げるかもしれないけど、残念だけど当てることはできないわね。私も風華同様、逃亡を推奨するわ」
勝利への算段ではなく、逃亡しろという警告。
……何かしら情報は持っているのだろう。
だが、実力が足りない。
だから、逃げろということなのだろう。
だが、逃げるとしてもどこへ?
フリーテの外には謎の結界が貼られているようで出ることが出来ない。
かと言ってこのままここにいたとしても、どこかに隠れたとしても消耗戦の果てにこちらが死ぬのは明確。
ならば、消耗しきる前にどうにかするしかない。
「……全員で逃げ延びる方法は?」
「全員で海に飛び込んで運よく島にたどりつければいいわねってくらいよ。……そもそも周囲の結界のようなものをどうにかしないとそんな話すら出来ないけどね」
今から別部隊で行動して謎の障壁のようなものを破壊……も現実的ではない。
むしろこれ以上死人が出る。
ならばやはり結論は……
「……逃げるのではなく、勝機を見つけるほかない」
「そう言う事よ。あんたにしては頭がまわってるじゃない」
「その一言がいらないんだよ!」
「……吠える元気があるのは結構。……最後まで力貸してあげるんだから、全力で挑みなさい!!」
いつも余計な一言を胸にぶっ刺してくる風華。
だけど、この時は初めて出会った時のような頼もしさがそこにあった。
ならばこちらも応えよう。
「よろしく頼む!!」
その掛け声と共に風華、水連が剣へと姿を変える。
黒くいつもはあまり違いが分からない剣が、ここぞと言わんばかりにそれぞれの司る属性の色の輝きを放ち始める。
いつもは見た事のない不思議な模様が彫ってあるなくらいにしか思っていなかったが、どうやら魔力を剣全体に通すための道のようなものだったりするのだろうか。
何にせよ、いつも以上に剣が本領を発揮してくれていることだけは確かだ。
「……いこう」
「戦うにしても作戦は?勝機がまずないわよ」
「それですね。……一縷の望みにかけるのなら、あなたが持っている”神器”での物理攻撃を試みるぐらいですが……」
神器での攻撃……か。
確かにこの2本の剣の切れ味は、想像を超えるものだ。
初めて使用した時魔物を斬った感触は、信じられないほどに抵抗がなかった。
それがこの世ならざるものであるからなのかはわからない。
だけど確かこの剣は守ることに特化していたはずだ。
この武器で……行けるか?
……いや、信じよう。
こいつらが俺を信じてくれたのだから。
「……行くぞっ!!」
俺の事を斬りつけた場所で動きを止めているノマスさんに向かって、ギアを使い一気に距離を詰める。
相手が動く気配はない。
何で動かないんだ…!?
だが迷うことはない。
今ここで斬らないと……殺されるのは俺たちだ。
確実に攻撃を入れられるであろう胴体に、風華を力いっぱい踏み込んで斬りつける。
その瞬間、ノマスさんがこちらを向いた。
その表情はその行動を待っていたかのような、期待通りの動きをしてくれたと言わんばかりの喜びと狂気に満ちた表情だった。
だが身体はもう止まらない。
攻撃が当たらないと聞いていたはずなのに、俺の剣はノマスさんの身体を真っ二つに斬ってしまった。
洋一が敵になったノマスさんを斬りつけた際、私は彼の動きを見逃しはしなかった。
ノマスさんだったものが斬り続けていた召喚士殺しの身体の再生。
化物しか言いようのないそいつは、身体の改善再生が終わったからなのか立ち上がると真っ直ぐにキーちゃんたちが守られているシールドの方へと歩みを進め始めた。
もちろんそんなことはさせない。
洋一や春香の方に本当なら行かないといけないんだろうが、私の役目はキーちゃんを守ることだ。
それに仮に彼らに協力したからと言って、私やウィッカはおそらく攻撃すら当てられない役立たずだろう。
なら私は私にできる最大限の事をやろう。
「ウィッカ!手伝って!!」
「……言われなくても、私の任務はあなたの護衛ですから」
少々気になる言葉が聞こえた気もするが、今はそんなことを言及している暇はない。
急いで召喚士殺しとの距離を詰め背後から心臓を穿って再び倒し、キーとリナちゃんを背後に取る形で対面する。
互いに言葉は交わさない。
もうやるべきことは決まっているから。
相手は弾を討ちだす武器の口を、私は短刀を。
倒すべき敵は立ちはだかるあいつだと理解しているから。
だから殺す。
生き残るために。
そして、
復讐をするために。
ノマスさんを斬った感触が、また、異質だった。
まるで、液体のような、ドロッとした何かを斬った、今まで感じたことのない感覚。
「神泥!?なんでこんなところに!?」
ノマスさんを斬りつけた風華が、斬った者が何なのかに気付いたようで驚きの声をあげる。
「何だよそれ!!」
「……神が原初の大地、生命を作り出すときに用いられたもの。そして今は……」
風華が言葉で語る前に、ノマスさんの身体が変形していく。
もうそこに人としての原型はない。
身体は液体のように一度全て溶け、もう一度何かにこねられるように形を形成していく。
身体は白く鋼鉄のような肌で覆われ、腕はひどく発達しており、足はドラゴンのようにしっかりと地面を踏みしている。その顎はすべてを噛み砕ちぎりそうなほどしっかりとしていて、その大きさは一階建ての一軒家ほどの大きさだった。
恐怖が蘇る。
魔女の森で似たようなものと出会っていたとはいえ、あれは銀狼が倒してくれた。
だが今彼はいない。
他にも俺たちを支えてくれるはずだったノマスさんも、もう居ない。
そこに出来上がったものは、恐怖そのもの。
そんな感情が芽生えてきたところに、風華の言葉が刺さる。
「……今神泥は、世界の抑止力、守護するものを生み出す元になっている」
「つまりどういうことだ!!」
「……っ神があなたたちを異物と判断したって事よ!!」
少し間をおいての発言。おそらく発言を濁したのだろう。
つまり本当に言いたいことはこうだ。
ノマスさんはもともと俺たちを殺すためにここに来た人物。
だがこの考えは、この場所にいる春香や友恵、キーちゃんを疑う他ならない。
それに……仮に俺が敵だというのなら、あの日、聖杯について話した日の夜に殺すのが妥当だ。
なら今目の前で起こっているこの現象はなんなんだ!!
目の前で獣へと形を変えたノマスさんだったものは、空へ咆哮をあげた。
そのあまりにも力にあふれた咆哮に、耳を塞ぐ。
神器の輝きが増していく。
悲鳴を上げるかのように、剣の文様を魔力が走り、より美しく輝いていく。
一歩間違えれば死ぬだろう。
いや、それ以前に少しの判断ミスが全員の死を招く。
……ミスは一度も許されない。
それでもやるしかない。
おそらく攻撃を与えられるのは神器を持つ人間だけだろうから。
「葵!春香!ジャル!」
気合を入れて声を張る。
これは自分の弱さを打ち消すために。
ただひたすらと前を見るために。
ただ自分を奮い立たせるためだけに。
「いくぞ!!」
「全力でサポートするよ!!」
「足引っ張んじゃないわよ!!」
「出来る限りの事をします!!」
後衛にいた葵とジャルも表に出てきて武器を構える。
遥かは少し離れた位置から、それでもこちらの動きにすぐに対応できるように敵から目を離さず動けるようにしている。
今ここでこいつに対抗できるのは俺たちだけだ。
「いきます!!」
ジャルが声をあげるとともに、その背中に炎帝の文様が浮かび上がる。
「目くらまし程度ですが役に立ててください!」
その言葉と共に、ファイアーボールを無数に目前の獣の顔にあて視界と行動を阻害した。
その隙をついて俺と春香が一気に距離を詰める。
まずは様子見で、一体どんな動きをするのか確認しながら斬撃を浴びせていく。
だが、キンッ!と甲高い音をたてて俺の斬撃と春香の拳は拳は弾かれて、むしろ野球のバットの様に叩き込んだはずの力を押し返された。
姿勢が崩れ、身動きが取れない状態になる。
そんな状態の俺たち2人に、敵は目が見えないからかひどく発達した腕をでたらめに振り回し、乱雑にも俺たちに攻撃を当ててきた。
「っ!!…ァッ!!!!」
感じたことのない衝撃と共にでたらめな方向へと飛ばされる。俺は船が止まっている波止場の方へ。
春香は友恵はキーちゃんたちがいる方へと飛ばされた。
戦闘を始めようとしたその瞬間、私の前に春香が大怪我を負って滑り込んできた。
「春香っ!?」
私がそうして召喚士殺しから一瞬視界から外れた瞬間。
その一瞬をあいつは見逃さなかった。
乾いた音をたてて放たれた小さな鉄の塊。
また世界が切り替わる。
鉄の塊が視界に入ると同時にそれを短刀で打ち上げ、一気に前に走りだす。
と同時に再び世界がまた動き出す。
「ウィッカ!春香もお願い!!」
「ちょっと!人使い荒いですよ!可愛い女の子はもっと優しく丁寧に扱ってください!」
「ちょっとうるさい!!」
召喚士殺しの持つ大剣と再びぶつかり合いながらそう声を張り上げる。
あのうざいぐらいに甲高い声と、空気を読まないことが多すぎる発言。
緊張感あふれる戦いという場で、あんなことを言われた気が散ってしょうがない。
それに、召喚士殺しの戦い方が変わった。
私が接近するまでの間に鉄の塊を飛ばす武器をしまい、片手で持っていた大剣を両手で握りなおした。
いい意味でも嫌な意味でも本気にさせてしまったようだ。
先程までの様に短刀で押し切れるはずもなく、押し切られる前に横に避けて力を受け流す。
そうして大剣を振り下ろした直後に、的確に私の方に向かって勢いよく斬りかかってくる。
また世界が切り替わる。
これは近くで回避しようと思ったが、あの太刀筋からしておそらく何度も斬りこまれる可能性が高い。
一度距離を取るか、視界から外れることを優先したほうがよさそうだ。
なら…!!
勢いよく地面を蹴り出来るだけ高く飛ぶ。
それと同時にまた世界が動き出す。
一瞬の間に私が視界から消え去ったことで、ほんの少しの間隙が生まれた。
この時を私が見逃すわけがない。
この一瞬は勝利の為に。
私が復讐を果たすその為に。
立ち上がるのなら何度でも……その命、もらい受ける。
「風間流!零の型!空破!!」
突き出した短刀は今まで見た事のない碧色の輝きを放ち、私が今まで出したことのない風属性の力をまとって召喚士殺しに打ち出された。
風はそのまま召喚士殺しの身体を包み込み、八つ裂きにしながら地面をえぐりながら進んで行った。
本当は召喚士殺しの頭を狙って打ったつもりだったのだが、想像以上の威力を持った攻撃になってしまった。
達成感よりも、驚きの方が表に出てしまい、我を忘れそのまま自分もその穴に落ちそうになる。
その間一髪のところをウィッカに右腕を掴んで引き上げてもらった。
「……色々な意味でいったい何をしでかしたんですか?」
「そんなの私が聞きたいわよ!それより春香は!?」
「それならこちらで回復の陣を張れるクオーツを展開して回復させています。ですが、致命傷です。死ぬ割合の方が高いと思います」
「冷静に話してる暇があるのならとっとと回復しなさいよ!!」
「してますよ!!っ!!避けて!!」
ウィッカがそう言って私をこちらに引き寄せた。
そして先程まで私が立っていた場所に、血だらけになった洋一が吹き飛ばされてきた。
体中が悲鳴を上げている。もう前を見ることが辛い。それでも、立ち上がらなければいけない。
こんなところで諦めるわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。
皆で帰るためにも。
「がああああああああああああああ!!!」
吠える。神器を杖代わりにして立ち上がりながら吠える。
自分と視界に入った春香にクイックヒールをかけ、また大怪我を負うと分かっていて、足を前に踏み出す。
相対するのは、神泥というものからできた世界の異物を取り除くために生み出された化物。
そしてその異物とは俺たち。
絶対的な力で立ちはだかったその魔物に、俺たちの出来る全てを試した。
だがそのどれも通用はしなかった。
かつてこれほどまでに理不尽な力で叩きのめされたことがあっただろうか。
弾丸の雨の中、それでも負けまいと走った。
人間を斬り殺し、それでも泣かないと誓った。
大切なものを失い、それでも挫けないと前を向いた。
今まではそうやって乗り越えられてきた。
それなのに、そんな今までの時間をこいつはすべて否定してくる。
お前の行動、考え、その全ては今まで無意味であったものだと。
「―――――――――――!!!!!」
言葉にならない咆哮をあげながら、魔物も俺に接近してくる。
葵、ジャルの魔法での支援はすべて攻撃が通らなかった。
ノマスさんの状態では通った神器での斬撃は、あれ以来一度も通っていない。
……これほどまでに前が見えない状況で、それでも俺は切実に願った。
全員でここから生還したいと。生きていたいと。
だがそんな願いもむなしく、俺の攻撃は弾かれて後方に大きく吹き飛ばされた。
あぁ、意識が遠のいていく。
まだ、約束も、何もかも、守れていないのに…………。
怖くて、泣いていた。
目の前で起こっていることに理解が追いつかなくて、ただただそのことが怖くて泣いていた。
うずくまってしばらくたった時、目の前に何かが落ちた。
隣でリナちゃんが小さな悲鳴を上げる。
怖い。ただただ怖い。
どうしてこんな思いをしなくちゃいけないの?
どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
どうしてこんなに苦しいの?
でも、今答えを教えてくれる人はいない。
私を慰めてくれる人はいない。
私のおねえちゃんはいない…………。
……………………………………………………………あれ?
私に……おねえちゃんなんて……。
”キー!逃げて!”
”○○姉ちゃん!!”
”っ!!そっちは駄目!!”
あぁ、崩れていく。思い出も、世界も、何もかも。
でも、あの人は……誰?
知らない。あんな人たち知らない。
知らないのに、どうしてか手を伸ばしたくなる。
…………違う。知らないわけない。
あの人たちを、知らないわけない。
それなのに名前が出てこない。
とてもとても、大切な人だったのに。
あぁ、そっか。
私は…………
その手を掴めなかったんだ。
この小さな体では、何もできなかったんだ。
ただただ悔しくて、悔しくて。
それで……今ここにいるんだ。
でもどうして?
なんで?
”死んだはずの私がここにいるの?”
『違和感に気付いたわね?なら……その席をどきなさい』
「……え?」
突然頭に響いたその言葉と共に、私の視界は黒で覆いつくされた。
おそらく泣いていたのだろう。
目覚めた私が初めに感じたものは、不快感だった。
泣くなんて馬鹿馬鹿しい。
泣いたところで何も変わりはしないというのに。
私の代わりはいくらでもいるというのに。
目を開ける。
目の前には、血だらけになって気を失った少年。
そして、正面には白いあの悪魔。
どうしてこれが地上にいるのかわからない。
こいつは、防衛システムのはずだ。
それは渡り人ではないものを殺すため。
世界に外部からの混乱と異変を持ち込ませないようにするため。
その秩序を守るためのもの、もとい秩序という名の悪を守る悪魔がどうしてここにいるのだろうか。
まぁいい。そんなことを考える時間もない。
身体の所有権は今あちらにある。
私が私であるうちに事は済ませたほうがよさそうだ。
隣で手をつないでいた女の子から手を離し立ち上がる。
私のその異常な行動に大きく目を開けて、その子は呆けていた。
だがすぐに再び私の手を掴み
「危ないよ!行っちゃだめだよ!!」
一人にしないでくれと切に願うお子様な発言を私に投げかける。
実にくだらない。
この程度の事で泣き喚くなんて、なんて疎かなんだろうか。
「……邪魔」
その手を振りほどき、小さな結界のようなものの外側に出る。
結界から出てきた私を、周囲の2人が驚いた眼で見た。
一人は私よりも少し年上だと思われる女の子。
そしてもう一人は……とても見知った顔に似ている少女。
ただマナの質が違う。言い方は悪いが混ざりものってやつだろう。
それに、その少女が握っている武器。
私の記憶違いでなければ、あの武器で間違いない。
「キーちゃん!出てきたら危ないよ!!早く下がって!!」
悲鳴を上げるような声で私の知っている顔と似た少女が私に警告をする。
私を気遣ってのことだろう。
だがその心配は無意味だ。
「下がるのはあなたたちの方よ」
迫りくる悪魔を目前に、私は1つの式を空中で描き作り出す。
魔術とは緻密な計算の上に成り立つもの。
それは努力の結晶であり、誰にもまねされることのない自分だけの力。
「……コントラタッケ」
言葉と共に目の前に展開される1枚の障壁。
その壁を壊そうと、悪魔が拳を振り上げ私が作り出した障壁に殴りかかる。
誰もが割れたと思っただろう。
だけどそんなことはない。
これを作り出したのは私だ。
……私がミスをするなんて、ありえない。
悪魔が攻撃をした部位に力が収束していく。
そう、これは守るためのものじゃない。
”私が私であるための魔法だ”
「……吹き飛べ」
力が収束した場所から一気にマナが放出される。
想定していないものからの攻撃を喰らったせいか、悪魔も後方へと吹き飛ばされた。
そして、攻撃を受けた腕から胸にかけて、大きな亀裂が入っていた。
「……うっそ……」
誰かが驚きの声を漏らす。
別に驚かれるようなことは何一つしていない。
ただそのまま攻撃を跳ね返して反撃した、ただそれだけだ。
……それとも、あの人たちに言われたように、私は自分を過小評価し過ぎているのか。
だが今は、そんなことどうでもいい。
今の私の身体は、私の身体であって私のものではない。
だから、私が私でいられる時間は残り少ない。
ならば次で決めなければ。
この体が破壊されてしまう前に。
「……母なる大地、原初なる海、裁きの雷、紅蓮なる炎。世界の抑止力として神に産み落とされた神獣たちよ。我は世界を知る者。我は常闇を進む者。我は……」
私を囲うように大量の式が多面展開され、マナの輝きを放ち始める。
だがその詠唱を始めてすぐに少しずつ意識が遠のき始めた。
時間がない、何としてでもこの詠唱だけは終えなければいけない。
「……我は、常闇を……照らす者。照らせ、……我が道を。……切り開け……その………先を……」
もう、少し。
「我が………よび……ごえ……に……こたえ…………」
そこで私の意識は滑落する鳥のように奈落へ落ちていった。
『『『『その呼び声に応えよう。我が主よ』』』』
そして意識が途切れる前に聞こえた声。
何よりも信頼に足る声。
その声が聞こえたことに、安堵しながら私は私でなくなった。
第2章 簡易版予告
「君たちには騎士・魔道学園ドルーナに行ってもらいたいんだ」
「あんたたちもドルーナに行くのか!一緒に行こうぜ!!」
「……ぶっちゃけ誰の胸がでかいんだ?」
「それでは、試験を開始します」
「庶民はおっぱいとおっぱいを当てることで挨拶をすると聞いていたのですが、違うのですか!!?」
「いいから逃げるっピ!!」
「この前ぶりです!!洋一さん!!」
と、公開できるのはここまでです。
もうすぐで第2章が始まります。
シークレットレポート、設定資料集など現在制作中ですので楽しみにし頂ければ幸いです。
それでは、今後ともこの世界をお楽しみくださいませ!!




