第一章43 絶氷都市フリーテ編 第一章ボス 名前のない怪物
お待たせしました。
色々と書き直してたら結構時間が過ぎてました。
そこに立っている者を人と認識していいのか。
そのあまりにも残忍すぎた光景を見せられ、思考が停止している中、不敵な笑みを浮かべながらそいつがこちらに向かって動き出した。
距離にして100m前後。
「……動きなさいっ!!」
叱責と共にクオーツが相手に向かって投げられ、クリスタルが割れると同時に光が視界を埋め尽くした。
すると誰かからグイッと首根っこを掴まれ、すぐ近くの物陰に引っ張られた。
「……全員しっかりしなさい!!」」
物陰に連れて来れらて、サーシャに軽く全員が軽く頬をつねられる。
俺たちが固まって動けなくなった中、唯一動けたサーシャ。
ノマスさんの機転が利くという言葉は間違ってはいなかった。現に今こうして助けられている。
「助かった」
「その言葉は全部終わってから言いなさい」
迫りくる何かから視線を外さずに、俺らに厳しめの言葉を投げかけながら、サーシャは冷静に状況を整理していた。
「……どうするの、あれ。特に……ジャル。あなたは……どうしたいの?」
そして、重苦しい空気の中でその言葉を口にした。
誰もが思っていたこと。それでいて、誰もが切りだせなかった言葉を。
「………………」
ジャルはただうつむいて、何も言葉を発さなかった。
発せなかった。
きっと誰だってこうなる。
大切な人が、かけがえのない家族が、目の前に立ちはだかったのなら。
……俺だってそうだった。
かつて四島奪還のために送り込まれた戦いで、自分の命を救ってくれた、勉学を教えてくれた先生を殺さなければならなかった。
……先生を殺した後の、ぬくもりが引いていく様を、俺は今でも忘れてはいない。
だからこそ、思う。
これがどうか偽りの景色であってほしい。できれば、あれが魔物であってほしいと願う。
だが、あの顔立ち、服装、その全てに見覚えがあった。
現実がこうも非情であってよいものなのか。これほど悲しいものであっても良いのか。
……救いのひとかけらもここにはないのだろうか。
……………………………………。
いや、ない。
それは、それだけは断言できる。
戦争に、殺し合いに、救いなんてない。
だからこそ、俺たちは……選択をしなければならない。
「……ジャル。さっき大丈夫って言ったのは嘘か?」
「……それは……」
先程のジャルの言葉を利用して、その心を揺さぶる。
「ひろ君、その言葉を今投げかけるのは……」
葵が言わんとしていることはわかる。
分かっている。今やってることが、人として最低な事だって事、それは理解している。
それでも、今は悪を演じなければならない。
これは、俺が決着をつけていい問題じゃない。
これは、そのほかの誰もが片をつけていいものじゃない。
これは、これだけは、こいつに決めさせなければならない。
だからこそ、サーシャが先ほど述べたことを俺の口からも述べる。
「お前は、どうしたいんだ。ジャル」
きっと簡単に答えを出していいものではない。
答えを急かすのもいけないと思う。
だが、今は、決断の時だ。
その答えを今出さなければならない。
でもジャルは答えなかった。
いや、違う。
答えたくなかった、の間違いだ。
そんな状態に唯一しびれを切らした者がいた。
「あぁもう!!男なんだからうじうじしないではっきりしなさいよ!!」
それも馬鹿くそでかい声で。
その場にいた全員がぎょっとした目で春香を見た。
それは敵ですら例外ではなかった。
俺たちを視認した敵は、その距離を信じられない速さで詰めてきた。
接敵まで残り十秒とないだろう。
そんな状態になったのに、それでも春香は話し続ける。
「悩んだって答えは出ないことだってある!!答えたくないことだってある!」
残り五秒。
「そんなときは……」
残り、一秒。
「やるだけやってやるのよ!!」
接敵と同時に春香の素早い拳が敵の腹部に直撃する。
敵の速度もそれなりのものだったが、信じられないことに春香はそれ以上の力で押し返し、敵を屋敷のほうまで吹き飛ばした。
「勝手なことしないでください!!」
「春ちゃん!!やるなら言ってよ!!」
「心臓に悪いだろ!!」
「五月蠅いわねー!どうせこのまま待ってても答えないでしょ、こいつ。……なら、今急いで決断しなくてもいじゃない。それに、あれが本当のお兄さんとは限らないでしょ?」
春香の言葉を聞いて、確かにと思った。
その可能性は十分にある。仮にも騎士団の人間だ。サーシャも超が付くほどの有名人だと言っていたし、もしかしたら人に化けることが出来る個性があって、今は変身した状態なのかもしれない。
それに仮に本物だったとしても、何かしら元に戻すことが出来る手段が見つかるかもしれないし、もしかしたら、さっきの春香の一撃で元に戻ってるかもしれない。
そう言った希望的観測にかけてみるのも、案外悪くはないかもしれない。
「行くぞ、ジャル!なに、攻撃を受けても瀕死にならなければ何度でも回復してやるから、一緒に当たって砕けに行くぞ!!」
「……それ、玉砕って言うんじゃないんですか?」
「勝手に殺すな」
ジャルの足は震えている。顔は相変わらず強張っている。
それでも、ほんの少しだけ余裕ができたみたいだ。
こういう時の春香の強引さにはあきれることもあるし、助けられることもある。
もしかしたらノマスさんたちは、こういった強引さから春香を隊長に任命していたのかもしれない。
「…………」
「サーシャ?どうした?」
「……なんでも」
「春香の件なら俺から謝っとく。あいつはああいうやつだ。許してやってくれ」
「……そうね」
「……?サーシャ?」
「ふぅ……切り替えていきましょう。私の煌めきのクオーツを無駄にしたその代償は、結果で返してもらいますから」
「わぁー、何かと根に持ってらっしゃるー」
「あれ作るだけで、軽く武器一つ作れますよ」
……あれ?それって実はかなり凄いことなのでは?
……お金のことはとりあえずおいておこう。
もう誰も隠れてはいない。
目の前に立つのは得体のしれない化物。
仮にあれが本人なのだとしたら、何としてでも救って見せよう。
刀を抜刀して構える。
葵は杖を、春香は既に籠手を身に着け準備は万全。ジャルもなんとか前を向いた。サーシャもすでにクオーツ、ペンデュラムの準備は出来た。
「行くぞっ!!」
その掛け声と同時にギアを使って俺は一気距離を詰めた。
初撃は突き。
攻撃を防がれにくく、相手の体勢を崩すには有効打にもなり得る。
「——――――――――――――――っっっっ!!!!!」
加速による速さ、そして地面が氷で覆いつくされており、街灯りが全くないことから月光が刀に反射して煌きを放つ。
それは、背後から見た葵たちにはただの突進に見えた。
だがその一撃は、横から見た時にその美しさを堪能することが出来た。
まさに大地に流れる一つの流星の様に速く、一瞬で消えてしまう光となって敵に接敵した。
だが今度は敵も先程の春香の一撃で学習したようで、俺の一撃をいともたやすく止めて見せた。
勢いを使って反撃されるのを避けて相手の頭上を抜け、敵の背後の方へと着地する。
すぐに敵の方へと向き直り間合いを計りながら、次の行動を考える。
距離は10mもない、相手は槍、こちらは刀。
踏み込み過ぎれば不利になるのは明白な事実。
ならば魔法で攻撃をさせないようにしながら、立ち回っていくのが一番正確に敵にダメージを与えられる。
「葵っ!敵の動きを止めてくれ!!」
その言葉と共に敵との距離を詰める。
「いいよ!!任せて!!」
俺の言葉に応えると同時に、魔法陣を足元と空中に一斉展開させた。
「高速詠唱!!一気にいくよ!!ファイアーボール!!」
無数に放たれた小さな炎の弾が敵に向かって飛翔し、接触すると同時に弾ける。
その一つ一つは極めて低い威力だろうが、足止めとしてなら十分に機能している。
そこに葵の元々の魔力の高さというのもあって、威力が低いとは言ってもそれ相応の火力が出ている。
足止めにしては、十分すぎるこれ以上にない支援だ。
葵の魔法攻撃の爆発もあり、相手が煙で一度視認できなくなる。
だが大体の場所なら把握している。
致命傷になる一撃を、俺がいれれば動きを止められる。
そうすれば、落ち着いて考える猶予もできるだろう。
だからこそ、まだ迷いがあるジャルの為にも俺がここで……決めるっ!!
煙に勢いよく突っ込み、刀を振るった。
だが、何の感触も得られなかった。
背後に何かしらの気配を感じ、転ぶように前転しながらすぐにその場を離れ葵たちの方へと戻る。
振り向きながら先程の場所を確認すると、おそらくジャルの父親からとったであろう槍が俺がさっきまでいた場所に深々と突き刺さっていた。
……判断が少しでも遅れていたら、大怪我を負っていただろう。
心底怪我をしなかったことに安堵しつつ、次の攻撃に備える。
攻撃をああもたやすくかわされて反撃されたということは、春香のような予想できない攻撃か、回避しきれないほどの範囲を吹き飛ばすほかない。
「首の皮一枚つながりましたね。大馬鹿さん。あなたは敵と出会ったら突っ込む以外の考えを持たないんですか?」
戻ってくるなりサーシャからきつい言葉が胸にめがけて突き刺さる。
キマイラ戦やビックブル戦の事をおそらくは言っているのだろう。
だけど、今回ばかりはその言葉の通り、本当に首の皮一枚つながった状態だった。
だからこそ、もっと深く考えて敵の隙をどうにかして見つけ出さなくてはならない。
正直葵の魔法火力での足止めが厳しいとなると、本当に手段が限られてくる。
それこそサーシャのクオーツでの目くらましは回避される可能性が上がったし、視界が悪い状態での接近攻撃は痛手を負うカウンターを喰らう。
正攻法で行くのなら、あの技術に勝る力で押し通るしかない。
何かないだろうか。
何か、この手詰まった状態をどうにかできる一手が、何か、ないか。
「……皆さん。少しだけ、時間を稼いでくれないでしょうか?」
それは意外な人物からの提案だった。
誰しもが彼から何かしらの発言があるとは考えもしていなかった。
そんな彼が、ジャルが何か先を見る目で俺たちにそう頼んできた。
「……どうするの?私たちに何をしてほしいの?」
「出来るだけ時間を稼いでほしいんです。葵さんにはできれば、魔力を少しだけ分けてほしいです」
……魔力を?
「いったい何をするつもりなんだ?」
何をするのか俺にはイメージが全くわかない。
ジャルには確かに魔法の才能はあるが、かといってこの前みたいな魔力の暴走を起こしてしまえば、俺たちが全滅してしまう可能性の方が高い。
それなのに、なぜかジャルのその目を見て、大丈夫だと。
きっと、決めてくれると、そう確信できた。
「……任せていいんだな?」
「はい!任せてください!!」
その返事は今までの中で、どれよりも明るく、かつ力に満ち溢れた今までにないものだった。
これならきっと大丈夫だろう。
後は俺たち3人で足止めをするだけだ。
「春香!サーシャ!一緒に頼む!あれは俺一人だけじゃどうにもならん!!」
「んなこと言わなくてもわかってるっての!!」
「ここで使用したクオーツ代は後々請求させてもらいますからね」
今かなり理不尽なことが聞こえたんですけど!!?
ねぇ!大丈夫なの!?この面子!!信じていいの!?
俺めちゃくちゃ怖いんだけど!!
「ほら突っ込むわよ!!」
言葉を置いて春香が駆け出す。
「ああくそったれ!!もうどうにでもなれ!!」
それに続くように俺も敵に向かって走り出した。
サーシャさんは少し離れた位置から、洋一さんと春香さんは近距離で敵をしのいでくれている。
必ず成功させなければならない。
あの人たちに応えるためにも。
「ジャルさん。私はどうすればいいかな?」
何をするのかは伝えていないから、葵さんが僕に何をすればいいのかと尋ねてきた。
「葵さんには魔力の栓の役割をお願いしたいんです」
「……栓?」
「僕はまだ魔力の調節がうまくできません。もしまた力を使えば、きっと暴走してしまうかもしれないです。だから、そうならないように調節してほしいんです」
「ということは……」
察しがいい葵さんは僕の少ないこの言葉だけで、僕が何をしたいのかわかったみたいだ。
だから、それが誤りではないと、僕が行うことだと口にする。
これは僕が僕を捨てるために、僕が一歩先に行くために、自分で選択した道を歩むために。
「はい。あの魔物に……炎槍グングニルを撃ちます」
目の前の兄のような魔物を、ここで穿つ!!




