第一章42 絶氷都市フリーテ編 目の前に立つものは
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ドラゴンナイツ騎士団に向かう途中、どこから入ったのかはわからないが、獣型の魔物が多数街の中に入り込んでおり、ウルフをはじめとした凶悪な魔物たちが人を襲っていた。
何度も助けようと試みたが、回復を行ってもすでにこと切れている人間が多く、誰も救うことが出来ない状態で、全員傷ついながらなんとかドラゴンナイツ騎士団に戻ってくることが出来た。
騎士団入り口では生き残ったごくわずかな人々が、魔物の手から生き延びようと必死になっていた。
「ノマスさん!!」
「……戻りましたか」
ノマスさんのいつもの抜けている感じはなく、初めて見るその真剣な顔にさらに緊張がはしる。
「いったい何が……?」
「原因は不明です。突如として街中に氷塊が出現し街を覆いつくしました……。現在調査に当たっていますが……今の所、調査に出た人間は帰還していません」
言葉からにじみ出る負の感情。穏やかだった人が、ここまでひどい顔をするのだ。
あまり考えたくはないが、かなり不利な戦局であることには間違いない。
数でも戦力でも劣っている。ならば撤退という選択が何よりも賢い選択だ。
だが、魔女の森に応援要請や逃亡をしたとしても、おそらくここにいる全員は生き残ることはできない。
ならば海に出るしかない。
「ノマスさん!あなたたちがここに来るまでに使った船は!?もしあるのならそれを使えば脱出ができるんじゃ!!」
「いいえ、船は駄目です。……君のギアで上空に跳躍してごらんなさい」
信じられないほど悲しみに暮れた声で、ノマスさんは俺の回答に応えた。
その指示通り、個性のギアを使って上空に跳躍する。
その光景はあまりにも、絶望的で、どうすれば助かるのか考えるのが馬鹿らしくなるような現状だった。
港に停泊していた船の大半は氷で凍り付きとても海に駆り出せるような状態になく、凍ってはいなくとも魔物の数が多く船にすら近づけない状態だった。
なんだよっ!!この状況!!
理解が追いつかない。目の前の光景に思考が出来ない。ただただ、そこには絶望が広がっていて……もう、助かるす術は……ないのだと……決めつけて
”ほら、笑って笑って!どんな時でもスマイル!だよっ!!”
彼女の声が聞こえる。名前も知らない、顔もよく覚えていない。そんな青髪の少女。それなのに、どうしてか彼女の言葉は信じることが出来る。何よりも、パートナーだから。
……パートナー?
ふと自分の考えに疑問を持つ。
なぜ彼女を……パートナーだと、俺は言い切れたんだ?
……今はそんなことを考えている暇はない。
それでも青髪の少女には感謝しなければいけない。
”おかげで周囲に目を向けることが出来た”
フリーテの街は東部が陸地側の入り口、西部は港口を始めとした外交、ドラゴンナイツ騎士団があるのもここだ。ちなみに闘技場もここにある。
そして南部は一般住民が生活しており、キーちゃんを救出しに行った裏街もここにある。
北部には俗にいうお金持ちや貴族が住んでいる。
パッと見た限り、東部、西部、南部のほとんどは地面が見えないほど凍り付いていた中、北部、その中でもひときわ目立つ建物、そこだけはなぜか凍っていなかった。
……あそこには何かあるはず。
そう思った俺は、地面に戻ってからノマスさんが俺に話しかけるよりも先に、上空で見た光景をそのまま伝えた。
「北部に一点だけ不自然に凍ってない場所がある!!」
それがこの状況を打破する何かしらになるかもしれない。
いや、そうでなくてはならない。
この一手、指し間違えれば間違いなく全滅する。
だからこそ、少しでも情報が欲しい。
「洋一君。君はまだ動けるかい?」
「もちろんです!!」
「なら少人数の調査部隊ですぐにその場所の調査に行ってもらいたい。……ただし、危険だと判断した場合すぐにこちらに戻ってきなさい。春香、ドラゴンナイツの一員として彼に同行し、適切な判断の元行動しなさい」
「……私が今ひろたちと共に行動しても大丈夫なんですか?」
その指摘はごもっともだ。少数調査部隊を組むのなら、動きを知っている者同士で組んだ方が良い。となると俺、葵、春香、サーシャ、ジャル、友恵の6人。俺と春香を除いた4人の中から選ばれる可能性が非常に高い。
となるとだ。調査部隊の方に戦力が偏ってしまう。
この均衡をどう保つのか。これが今後戦況を動かしていくうえで大きく影響が出てくるだろう。
一体どんなチーム分けが最適解になり得るのだろうか?
ノマスさんは春香の言葉にどのように返事をするのだろう。
「えぇ、特に問題はありません。むしろ、私一人でこの人数程度なら守ることが出来るでしょう……ただ、子供の世話は私にはできそうにないので友恵、あなたにはこちら側に残っていただきます」
「私ですか?別に構いませんが……」
「では、洋一君、葵さん、春香、サーシャさん、ジャル君。君たち5人で北部の凍っていない場所への調査に行ってきなさい。危険だと判断した場合は必ず戻ってくること」
「ちょっ!ちょっと待ってください!!あまりにも戦力差が!!」
「なぜです?ジャル君はこの街の住人です。土地勘もあるでしょうし、彼がいる方が何かと融通が利くでしょう。サーシャさんは……クオーツサポートにおいてはスペシャリスト。いて困ることはないと思います。それに何よりも、私はあなた方に戦い方を合わせることが出来ない。そう言った面からもこの振り分けが一番最適解ではないかと思います」
言っていることは確かに理解できる。こんな緊急事態で息が合わせられないとなると、それこそ支障をきたす問題になる。
だが俺の心配は、本当にこんな状況の中ノマスさんは一人で戦っていけるのかということだ。
ふと俺たちの背後に現れたり、転移魔法みたいなこともできるからおそらく腕には間違いはないだろうけど……。
どんな歴戦の戦士でも、戦いにおいては死のリスクを伴っている。
それは足柄さんや紫雷さんがグレゴリアスとの戦いで亡くなったことで、十二分に理解させられた。
だからこそ、本当にこの振り分けでいいのか、俺は悩んでしまう。
そんな俺の悩みを見透かすように、ノマスさんは俺にある言葉を投げかけた。
「他者を知り、己を理解している者はいない。選択に最善はなく、最善を尽くしたからこそ、最高の結果になり得るのです。あなたの発言にも一理はあります。ですがどうかここは私を信じてみてはもらえないでしょうか」
その言葉がいったい何を意味することなのか、この時の俺は全く理解できなかった。
それでも、ノマスさんの信頼してほしいという気持ちだけは伝わってきた。
腑に落ちないながらもその言葉にうなずくと、「それでは頼みましたよ」と一言その言葉を交わして、友恵やキーちゃんリナと一度互いに声を掛け合ってから、俺たち5人は俺の記憶とジャルの土地勘を頼りにしながら北部の方へと走った。
かつてその城は罪を償うために建てられたものだった。だが気が付けばあるものは不死鳥と共に空をかけ、またある者は金と権力におぼれ、またある者は花を愛でた。誰もが幸せだったとは言えないだろう。だからこそ、彼らはきっとこう答える。私達は何よりも不幸な存在だと。
北部は特に道という道が氷で塞がっており、さらには見た事のない氷属性の魔物も数多くある魔物は空を飛び、ある魔物は自爆覚悟で突っ込んできた。それをサーシャのクオーツで爆砕し、時には戦ってどうにかこうにか傷つきながら目的の建物が視界に入るほど近くに来ていた。
だがその建物に近づいていくにつれ、ジャルの顔色はお世辞にも良いものとは言えなくなっていった。
「ジャル、顔色悪いけど大丈夫か?」
「え、あ、あぁ……。はい、……いいえ大丈夫、ではないですね」
「なら引き返す?今すぐ戻れば魔物の数も少ないだろうし、遭遇すればさっきみたいに殴って突破すればいいだけだし」
「春ちゃんは相変わらず脳筋なんだね……」
「葵?それはどういう意味?」
……まぁ馬鹿はおいておこう。
「それで、どうする?」
「……もちろん行きます。何よりも僕を信頼してくれるあなた達とだから」
「そうか。でも無茶はするなよ」
「もちろんです」
初めて会った時は、偶然生き残った運が良かった人だと思っていた。それが出会って一ヶ月もたたないうちに、こんなにも成長した。周囲の人間の誰もがそう感じるほどに、ジャルは強くなった。
かつては守られるだけだった人間が、今度は自分の背中を守ってくれるようになったこの頼もしさは何とも言葉で表しようがない。
でもこれだけは言える。
俺たちならきっと大丈夫だって。
そうして、全員で俺が目視した凍り付いていない建物へとたどり着いた。
そして同時に、引き返しておけばよかったとも思った。
この街に来て、すぐによくしてくれたシエラさん。その体は胴から下が切断され、腹部には何度も鋭利なもので突き刺された跡があった。その他にもこの場所に仕えていた人たちであろう何かが散らかっていた。言葉にするのもおぞましいこの空間で、ただ一人、たった一人の人間が立っていた。
その顔はジャルにとても似ていて、銀狼に似た青銀色の髪の背の高い騎士の格好をした人物。
手には、俺たちがジャルとサーシャの後をつけていた時会話していたであろう人物の首、その背後にはぐちゃぐちゃにつぶれた身体。
そしてもう片方の手には、その男性が握っていた古傷の入った槍を握っていた。
誰もが言葉を失った。吐き気とかどうこう言ったものではなかった。
理解ができない。理解したくはない。今この目の前に広がっている光景が、どうか偽りであってほしいと願ってしまう。
だけどこれは現実だ。
それを否定することが出来ない。それを否定してはいけない。
目の前に立つものは、間違いなく悪そのものだ。
「……兄さん!!」
ジャルのその悲鳴の混ざった叫び声が、その人物の視線を引いた。
久しぶりに見たその顔は、もう、
人間の顔をしていなかった。
シークレットストーリー
彼が走っていく背中をただただ見つめていた。
かつて一度は刃をまじえたもの同士、そしてともに背中を預け戦った友であり……仕えていた主人。
まだまだ未熟ながらも、その目はどこかかつての君を思い出させる。
「……期待しているよ。なにせ、君をこうして未来へと導いていくことこそが、私の役割なのだから」
そして目の前を見据える。彼らが一部を倒したからと言って、この街にはまだまだ魔物がたくさん残っている。ならば私の全力をもってこれに応えなければならない。
だが、重大な何かを見落としているような気がする。
何か、重大な何かを……。
見慣れぬ光が遠くで見えた。
それは現在の技術では存在することがおかしいもの。
これから発達していく、技術の結晶そのもの。
その”弾丸”はどんな魔物よりも正確に、ある人物を狙ってこの一手を撃った。
余裕がない、このタイミングを狙って。
「キー!!」
その言葉と共に響き渡るはずのない銃声が、街の中に響き渡った。




