第一章41 フリーテ編 救いのない闇が広がる入口へ立つ。
「……君は何だね?先程からいるが……なんだ?結婚相手でも紹介しに来たのか?」
「ハ、ハァ―――—————!!?!??」
何で急にそんな変な話に飛ぶのよ!!
真面目な話をしようとした途端、突然変な方向に話がぶっ飛んでいった。
もしかしてこの人、頭のネジ飛んでるんじゃないか?
だからきっとジャルにもひどいことを言うんだ。
うん、きっとそうだろう。
「……それとも、最近部下に聞いた……ツンデレというやつなのか?」
うん。凄い真面目なこと言うのかと思ったら、想像以上の馬鹿だこの人!!
「まぁそのことはいい。君は私の言っている言葉がすべて悪だと言いたい。……そうであろう?」
また急に話を戻してきたな……。
何か掴めない人だと思いながらも、話を戻す。
「そ、そうよ!人に、ましてや息子に死ねというなんて!」
「今死んでいた方が楽なのだ。……そう言えば君は……どう答える?」
「……え?」
今死んでいた方が楽?
それは一体……?
「……災厄の時は来た。生きるも死ぬも決めるのは勝手だが……生きたいと望むのなら、この先死ぬはずの運命を乗り越えなさい」
ロイ・マーリアはジャルに向けた槍を下ろしながらそう言い残し、そのままその場を立ち去っていった。
ジャルの背中に浮かび上がっていた紋章は、ロイ・マーリアとの距離ができるたびに少しずつ小さくなっていき完全に姿が見えなくなったと同時に背中の紋章と周囲に漂っていた強張った雰囲気はなくなった。
「……結局僕は……何も……」
残されたのは、変わろうとして前に進めなかったジャル。
そして、踏みとどまりたかったのに踏みとどまることを許されなかった私。
あまりにも対局で、距離が遠い。
今ここにいるのは、そんなでこぼこな私達だ。
でも……だからこそ。
視点の違う私だからこその見方がある。
「……。あなたは変わったじゃない」
「……いいえ、変われていません。何も……言い返せなかった。だって!!事実だったから!!僕が逃げなければ!!逃げなければっ……他の人が生きていたかもしれないんです!!」
「それはもしの話でしょう!!」
「…………………………っ!!!!」
「今まであなたはここに来ようとしたことがあった!?父親と話そうと思ったことがあった!?自分と!!向き合おうと思ったことはあった!?なかったでしょう!!ひどいことを言うようだけれど!!おそらく一度もなかったでしょう!!」
「……っ!!そうですよ!!無かったですよ!!嫌なことから散々逃げ回りましたから!!過去から!!現実から!!ずっと!!逃げ回ってきましたからね!!」
「それは終わった話じゃない!!」
「僕にとってはまだ何も!!」
「ジャル・マーリア!!」
大声で名前を呼ぶ。
突然大声で名前を呼ばれたことに驚いたのか、ビクッと体を震わせてジャルは私の方を見た。
その目は、初めて出会った時のように暗く深く濁っていて、おびえていた。
ああ。こいつは何もわかってない。
自分の事を成長できない人間だって決めつけてる。
そんなわけない。
あなたは戦うことの恐ろしさを知っている。逃げることの必要性も知っている。仲間といることの喜びも知っている。戦いをあなたはお兄さんに習いに行った。依頼を受理するときにも自分の考えを言えるようにもなった。そして何よりも、人に頼るということを知った。
たった2~3週間ちょっとで、あなたはここまで成長した。
初めてであったころの無知なあなたは、もうどこにもいない。
「……強くなったじゃない」
「それでも僕は……皆さんの足を引っ張ってばかりで……特訓も正直上手くいったとは……」
「短い期間で戦力になりたいなんて、逆によくそんな無理なことを思っていたものね」
「……そう思いますか?」
「ええ。馬鹿だなーって思うわ。でも、それがあなた、ジャル・マーリアとしての個性。そうでしょう?」
「これが……こんな情けない姿をさらして、それでもこれが僕らしさだって言うんですか?」
「あら?あなたは自分が頑張る姿を情けないと思うのかしら?私は胸を張って誇るべき長所だと思うけれど」
「僕の……長所ですか?」
「……あなたは自分の悪いところにしか目が向いてないようね」
気付いてないなら気付かせる。ただそれだけのこと。
私はジャルに近づいて、ドンとその胸を拳で叩いた。
「自信を持ちなさい!これからもどんどん強くなるんでしょう?」
ただまっすぐに、私が思っている言葉をぶつけた。
一方その頃、洋一たちはこの光景を遠くの木の影からのぞき見していた。
と言っても洋一当の本人は、リナと共に目の前ではしゃぐ4人の女子を眺めていただけなのだが……。
「ちょっちょっちょっ!!やばいって!!あの雰囲気やばいって!!」
「いいぞー、ジャルさん!!頑張れ!!」
「あぁもう!あの男はなんであそこまで奥手なの!?」
「ジャル兄ちゃん!ガンバレー!」
……………………。
もう、こいつら傍観する気はないようだ。
もう誰が言いだしたのか忘れたけど、これ絶対後でサーシャに殺されるよ?主に俺が。
まぁ楽しいのならいいんだけど。
ここ最近こうして遊ぶこともなかったから、これはこれでいい休息だった。
特にみんなの意外な一面を知ることが出来たことは、とても良いことだと思う。
……つながりは大切だからな。
にしても、これいつまでやるつもりだ?
そろそろ日も沈む。
この前の召喚士殺しや街で戦闘、ジャルの暴走のこともあるし、早く帰らないとノマスさんはきっと心配するだろう。
…………こうして振り返ってみると、俺たちノマスさんに心労かけさせてるなぁ……。
リナやキーちゃんもいることだし、暗くなる前に早く声をかけてみんなで帰ろう。
「なぁ、そろそろ……」
ジャルとサーシャを覗き見ている皆に声をかけようとしたその時、激痛が頭を襲った。
外部からの損傷ではなく、頭の中から突き上げるような激痛は一瞬にして両足で立つことを困難にし、俺はその場に気を失うようにして倒れた。
そこは獄炎に包まれていた。
でもどこかその街は見覚えがあり、周囲にいる人間にも見覚えがあった。
目の前に対峙しているのは、肉塊から人の形へと戻っていく化物。
そして……闇魔法に犯されて、今にも死んでしまいそうなジャル。
俺は……この光景を知っている。
いや、実際に体験したことがある。
何故そう言い切れるのかはわからない。
でもそう言い切れる何かしらの確信があった。
だが違和感もあった。目の前で肉塊から人の形に戻っていく化物の姿が、俺が知っている記憶とは全く異なる人物になっていた。
だけど、その姿も、どこかで。
「……しっかりして!!」
頬を両手で叩かれる。それと同時に周囲の獄炎も消え去り、辺りの景色が一気に明るくなった。
目の前にいるのは、俺を神器の試練を行う遺跡へと案内した少女。
その子が今、目の前にいる。
「君は……」
「ごめんなさい。この状況を詳しくは話せない。あなたを近くで守ってあげることもできない。それでも私は私にできることをやります」
そうして満面の笑みで俺を見つめた青髪の少女は、俺の頬から手を離すと俺の手を取った。
「本来たどるべきだった道を大きくそれました。……おそらく聖杯の力が作用していると思います」
聖杯?それは……ノマスさんが言っていた、あの?
「だからこその助言を……っ!!風姉ちゃん!!」
突然その言葉と共に、世界から突き飛ばされた。
何があったのかはわからない。彼女には聞きたいことも沢山ある。
だけどそれは叶わない。そのことを頭が理解している。
まだ彼女の横に並ぶには、自分はあまりにも未熟すぎる。
何も救えなかった俺に、彼女はあまりにも不釣り合いだと。
「早く起きなさい!!このアホチンが!!」
そんな言葉と共に春香に顔を叩かれて、俺は目を覚ました。
まず視界に入ったのは、俺の顔を心配するように覗き込む葵たち。その中にはジャルとサーシャもいた。
気が付かれたのか、それとも呼んだのかはわからないが、まぁ少なくとも俺たちが追けていたことをばれた事に変わりはないだろう。
それにしても、春香が俺の事を殴って起こさないなんて珍しいこともあったもんだ。
一体何が……。
「……え……………………?」
体を起こして、目の前のその光景に絶句した。
先程まで何ともなかったフリーテの街がところどころ凍り付き、それは街の外にも広がっていた。
その余波を水連と風華が支え合って何とか俺たちの周囲だけ水連のベールで何とか守っている状態だった。
「風華!水連!何が起こった!?」
「……知らないわよ!!こんなこと!!」
「異常な魔力を検知して、表に出てみたらこの状況。私達も現状を把握しておりません。おそらくここにおられる方で現状を把握している方はおられないと思われます」
……まぁ普通に考えてそうだ。突然こんな状況になったんだ。まだ誰も状況を把握していないのは当たり前だ。
なるほど。緊急事態だったからこそ、春香が俺を殴って起こさなかったのか。
ならとりあえずは基地に戻った方が良いかもしれない。
多少の危険はあれど情報がある可能性が高いし、何よりノマスさんが倒れているとは考えにくい。
何よりもここにとどまり続けていても、外から魔物に襲われる可能性がある。
どちらにせよ動かなければならない。
「状況を見てこの外部からの攻撃が止んだら、ノマスさんと合流しよう!」
そこにいる全員がそれが最善策だとうなずいた。
そして日も暮れてから少しして、フリーテから漏れ出ていた氷が弱くなったのを見てから俺たち全員は凍り付いたフリーテへと足を踏み入れた。
そこはかつて灼熱の大地。かつて炎に包まれた儚い思いが散った街。
英雄とも反逆者とも呼ばれたガラハッドは、様々な意味を込めこの街を立ち上げた。
それはかつての主への忠誠か、はたまた罪悪感か。
だがそんなことは関係ない。
今までは詰めが甘かった。
いずれ死ぬだろう。そう楽観視していた。
だが前回あいつの刃は俺の首を捉えかけた。
ならば、たどるべき定めを変えてでも、俺が勝ちにいかなければならない。
何故なら俺が、英雄だからだ。
次回より絶氷都市フリーテ編開始です!!




