第一章39 フリーテ編 そうだ、デートさせよう
かなりお待たせしました!!
あったかい日差しのせいで最近よく書きながら寝落ちしてます。
お昼寝サイコー
「おはよーございまーす!!」
気持ちよい朝日が昇る大会3日目の早朝。
ドラゴンナイツ騎士団の拠点に、どこかで聞いたことのある声が響いた。
騎士団のほとんどのメンツは早朝から見回りの仕事があったため、騎士団の一人が入り口の扉を開けて訪れた客の対応を行っていた。
客の対応をしていた騎士は軽くその客と外で話すと、室内に戻ってきて広場の端っこの方で6人で食卓を囲んでいる俺たちの方に近づいてきた。どうやらその客とやらは俺たちに用があるらしい。
「……こんな早朝から誰だ?」
「私達を呼び出す人物って……誰か知り合いとかこの街に居たっけ?」
パッと思い出せる限り、この街に俺たちの事を呼びだす人間がいるとするのなら、ジャルのお兄さんのルークさんくらいしか思い当たる節がない。
まぁともかく、客は客だ。……ここまで来て俺たちの事を殺しに来ました、なんてことする奴はいないだろう。
…………多分。
ふと魔女の森で出会ったジャルを殺しに来た暗殺者や一度おそらく対面したであろう召喚士殺しの事が頭に浮かんだが、彼らは一度銀狼と戦っている。まだ俺たちの近くにいる可能性を考えたら、簡単には攻めてこないだろう。
じゃぁ本当に誰だろう?
少し警戒しながら兵士に代わって俺たち全員で扉から少し顔を出してみる。
「あ、皆さん!おはようございまs」
扉の先にいたのは昨日、一昨日と大会の司会者をしていた少女、ウィッカが満面の笑みで立っていた。それを見てすぐにサーシャが扉を閉めた。
「ちょっ!なんで扉閉めるんですか!!開けてください!!」
「なんであんたがここにいるのよ!」
そう言えば昨日闘技場の入り口で受付にいたこの子の事ひどく嫌ってたな……。
その後の記憶が俺は全くないけれど……そこは自業自得だから仕方がない。
「開けてくださいよ!今日は大会の延期についてのお話に来たんです!!」
「なら紙媒体にして持ってきなさいよ!私は今あんたと話したくないのよ!!」
「……だから開けろっつってんだろゴラアァアア!!」
サーシャが閉じた扉を、ウィッカはその体からは信じられないほどの脚力で蹴破った。その小さい体でなんとか扉を塞いでいたサーシャは、ウィッカが蹴破った扉の下敷きになり頭を打ったのか、目を回していた。
「……ふぅ」
「……ふぅ……じゃないわよ!!これ!!どうしてくれるのよ!!」
扉を蹴破って清々しい顔で額の汗をぬぐったウィッカに春香が激高する。
まぁ当然の反応だろう。
だがひどいのはここからだった。
「……てへっ☆」
そうしないと生きられない性なのか、それとも単なるあほなのか。
きっと後者だろうけど、このもめごとに突っ込みたくはないから何も言わないことにしよう。
そしてこの言葉が、春香をさらに怒らせた。
「……あ~ん~た~ね~!!!」
春香の怒りの咆哮と共に、そのどてっぱらに重たい一撃が振り上げられた。
……
…………
………………
……………………
あの後、サーシャはジャルに連れられて奥の部屋へ、それにリナも連れて行ってもらった。理由は子供にはこの光景が見せられるものではなかったからだ。
……改めて、ジャルにリナを連れて行ってもらって本当に良かったと思った。
ウィッカは遥かに顔面をぼこぼこに殴られ、顔がほとんど潰れていて人間の顔ではなかった。
……アニメとかみたいにあんなに顔ってへこむもんなんだ。
かわいそうだったので、顔に回復力の高いヒールをかけてあげた。
それでも、顔をよく見て誰なのかわかる程度にしか治癒できなかった。
どんな勢いで殴ったらこうなるんだ……。
「……それで、要件は何?」
春香はいつもに増してキレの鋭い声でぼこぼこにした相手にがんを飛ばす。
それに顔が少しだけまともになったウィッカがもごもごとしながらなんとか答えた。
「……ひゃい、ひょれはれふね……ほんひふの、はいはいのひゅうひのへんをおひゅたえひゅるべく……」
「何言ってんのかわかんないわよ!!」
そうしたのはお前である。心で誰もが春香にそうツッコミを入れた。
……というかはいはいのひゅうひって地味にツボるな。うん、だめだ。回復させたとはいえ、言ってることはまじめな話なんだろうけど、顔とか声とか変になってて面白い。
まぁただこのままだと結局ウィッカが何を言いに来たのかが分からないので、時間をかけて顔を元に戻してあげた。
そうしてようやく、ウィッカがドラゴンナイツ騎士団に訪れた理由を説明することが出来る状態になった。
かいつまんで説明するのなら、昨日ジャルが盛大に火球やらなんやらで大暴れしたこと等が原因で、闘技場が使えなくなったので今日は大会を開催することが出来ないということだった。
確かに昨日ジャルが暴走したこともあって闘技場がところどころ傷ついていたことは知っていたが、その後ジャルの容体が変化したこともあって、細かいところまでは見ていなかった。
まさかそんなことになっていたとは……。
「まぁ……そう言うわけで本日は決勝戦に出場する選手の方々に伝達するために町中を回っていたわけなのです」
「それにしても他にやり方ってもんがあるでしょ!!」
「春ちゃんも人の事言えないよね。お客さんをボコボコにしたんだし、隊を任されている人の取るべき行動じゃないと思うよ?」
葵のごもっともな言葉が春香の胸を貫く。それが正論であるがゆえに春香へのダメージも大きい。
心が傷つく春香をあほらしと思いながらもそのほかに何か伝えなければいけないことがあるか尋ねる。
「そうですね……。なら先にこれをお渡ししておきますね」
そう言ってウィッカから手渡されたのは何かしらの手紙だった。中身を取り出して確認すると、そこには騎士・魔道学園ドルーナへの招待状と達筆な文字で書かれていた。
「昨日のあなた方の立ち回りや活躍に対する評価、何よりも路上で部下を抑え込んでくれたことへのお礼だそうです。まずはおめでとうございます」
路上での……ということは、リナを見捨ててリナの父親を連れていったあいつか。こんな招待状を俺たちに手渡すことが出来るなんて……いったい何者なんだ?
その男性の事をウィッカに聞こうとする前に、ウィッカは言葉を続けた。
「そして次に警告です。”その学園に行ってはいけません”」
「……は?」
招待状を手渡してきたのはこいつだ。それなのにその場所に行くなと?行動と言動に大きなずれが生じている。これは一体どういうことだ?
「詳しくはお話しすることはできません。……だってぇ……あたしぃ……ばかだからぁ……わかんなぃ……」
今まで真面目だった雰囲気が、突如ウィッカがぶりっ子ぶることでぶち壊れる。
何だこいつ。情緒不安定にでもならなきゃ生きていけんのか!?素なのか!?それが素なのか!?
「……まぁ……そんな感じです。ではでは、私は失礼します」
そう言ってギルドの中から出ていこうとするウィッカ。壊れて開放的になった出入り口を抜けてから、何かを思い出したように立ち止まり、もう一度俺たちの方へと向き直った。
「そうでした、言い忘れていました。……あなた方に幸運の星が落ちますように。……それでは、明日の試合の為にも今日はごゆるりとなされてくださいね!」
そう言ってウィッカは騎士団の基地を後にした。
……今日は朝から強烈だったなぁ……。
入り口の壊れた出入り口を抜け空を見上げる。もうすでに日は登っていて、空には雲一つない青空が広がっている。こんな日に決勝戦が行えたのなら、さぞ盛り上がったろうに。
……この街がジャルをここまで嫌っていなければ。
なぜああなったのか、俺はその理由を知らない。それでもあいつがそんなひどい奴だとは思わない。
確かに根っからの臆病者で、弱腰ですぐに逃げてしまう。そんな弱い一面も持っている。だけど、優しくて、気遣いができて……誰よりも人が大好きな奴だ。
荷物持ちとしかサーシャに呼ばれていなかったジャルが、少しずつではあるが変わっていっている。
初めてであった村、コラで唯一兵士の生き残りだったのが少しわかる気がする。
あいつは多分これから大きく化ける。自分の強さに周りが気づかせてあげれば、もっと強くなれる。それこそ、俺が目標としている足柄さんや紫雷さんのように、俺をも超えるかもしれない。
これからを踏み出すために。過去を乗り越えるために。俺たちは出会ったんだ。
……ふとなぜか、そんな気がした。
「ひろ君!今日何するか考えようよ!!」
基地内で葵の声がする。
「早くしなさい!今日本当はあんたたちの試合を見るために仕方なく休みを取ってたんだから!!」
「……ノマスさんに必死に頼み込んでたの、私見たけど」
「キーも!!」
「ちょ!友恵!キーちゃん!話さないでよ!!」
いつからいたのか、友恵とキーちゃんが春香のすぐそばにいた。
キーちゃん救出から2人とも姿を見なかったが、あの感じだと特に変わりはないようだ。
……元気でよかった。
「元気な奴らだなぁ……」
いつまでも元気な面子を見て、どこからそんな体力が沸いてくるのかと不思議に思いながらも俺は基地内にいるみんなの元へと向かった。
どのみち今日の予定は白紙だ。ならここ最近できなかったことや楽しいことをしよう。
それでこそ未来にいた時のような、楽しいことを。
「今日やりたいことがある人ー!」
「お昼寝!」
「却下」
「お散歩!」
「迷子になる未来しか見えない」
「依頼消化!」
「それ私の仕事内容と変わんない!」
「ショッピング!」
「金もないのに?」
……あれ?もしかして……詰んでる?
「じゃぁこういうのはどう?」
それは今となっては誰が発言したのかも覚えていない。
ただその時は、場とその勢いがあったため誰も反対することはしなかった。
それは……
「ジャル君とサーシャちゃんの二人をデートさせてみましょう!!」
互いにまんざらでもない2人をくっつける作戦だった。
言伝を終えたウィッカは、のんびりと街中を歩いていた。
「平和だなー」
そうただただ平和なのだ。違和感を持つほどに。
人は笑っている。誰もが笑顔で幸せそうな顔を浮かべている。陰のあるものやそう言った者たちは表にはまったく見えない。
裏街も裏で調査を行ったが、特別これと言って悪さをしている者はいなかった。
……街一帯を覆うほどの洗脳領域の展開。これが力の一部なのだとしたら、それは本当に脅威でしかない。
マーリアでこれほどの規模のものだ。他3貴族には一体何が与えられているのだろうか。
「……何を考えこんでるの?ウィッカ?」
「……そうですねー。”今夜”どう動こうか考えてます。……リーダーはどうしますか?」
「私は私のやりたいようにやるわよ?あとで後悔するよりも行動してから後悔したほうがいいからね」
「……前向きですね」
「戦ですもの。下ばかり見てられないわよ」
「そう言うものですか……」
「そう言う事。ほら、いつもみたいに笑いなさい。その方が可愛いから」
「ちょっ……!そう言うこと言うのやめてください!っていうか!いつから傍にいたんですか?」
「朝からずっと後ろにいたわよー。あなたがあそこまで殴られるなんて思てなかったけどね」
「なら止めてくださいよ…って何で急に走るんですか!もぅ~!!」
パッと現れたと思ったら、またパッとすぐ私たちのそばからいなくなる。集合場所と時間を決めとかないと出会うことが出来ない私たちのリーダー。
正直パッとしないし、本当にこの人についていってもいいんだろうかと思うことがある。
それでもギルドの皆は口をそろえて言う。
”あの人についていけば大丈夫だ”と。
「…………」
きっと迷う必要なんてないんだ。
皆が信頼してくれている。だから私もそれに応える。
今まで下仕事しかしてこなかった私に任された大任、必ず成し遂げて見せる。
この天秤に誓って。




