第一章37 フリーテ編大会2日目2 蘇る悪夢
洋一 奥義
月光牙
かつての英雄ラウルが使用していたとされる光属性をまとった一撃。突き出された一撃はどんなものをも砕き、戦場では勝利を導いたとされている。洋一はこれを風属性を宿した武器を使うことで再現できるが、どちらかというと攻撃が風属性に依存しており、光属性よりも風属性の攻撃の方が威力が高い。そのためオリジナルの奥義という扱いになっている。
コングが鳴ると同時に周囲のチームはそれぞれの行動をし始めた。
ある人は前に、ある人は術を詠唱し始め、すぐに何が起こってもおかしくない状況が出来上がった。
「出来るだけ背後を取られないためにも、闘技場の端で……背水の陣の状態で戦いたいんだけど、いいかな?」
俺たちが動き出す前に、葵が俺たちに作戦を提示する。
「いいんじゃない?四方八方敵だらけ。おまけに動きも不鮮明。なら、相手が攻めてくる方向を出来るだけ絞った方が良い。私は賛成よ」
「ぼ、僕もそれでいいと思います」
「全員異論がないならそれでいこう」
「じゃあ決まりだね!それじゃ、ひろ君とジャルさんは前衛で足止めをお願い、私とサーシャさんが魔法とクオーツで後方から攻撃するからその隙をついて倒してね!!」
かなりの無茶ぶりが聞こえたような気がしたが、俺たちの実力を知っているからのこの作戦だろう。
ジャルにはかなり希望的観測が含まれているような気もするが、大体の場合葵の作戦ははまることが多い。
特にジャルは周囲からかなりヘイトを買っているらしいので、真っ先に狙われる可能性もある。
そう言った意味では、攻めてくる方向を制限するというのは良い作戦なのかもしれない。
それに、こう指示を出している間にもすでに何人かはこちらに向かって走ってきている。
囲まれる前に動いたほうが良い。
「とりあえず下がるぞ!!」
「え!?僕前ですか!!?」
「愚痴る前に動きなさい!!荷物持ち!」
ジャルは何か言いたそうだったが、サーシャが一蹴り入れたこともあってしぶしぶと葵の指示に従ってくれた。
そして、サーシャは下がるときに迫ってきていた相手に向かって爆発系のクオーツを投げつけ、俺たちが下がる時間を少しだけ稼いでくれた。
流石この面子の中でジャルと同等に歳年長なだけはある。
判断力、実行力。他にも様々な場面で俺たちより長けている。
……これで私は戦えないって言っているんだから、この時代の人たちはいったいどれだけ強いんだろうか。
ふとそんな考えに至ったが、今はそれよりもやるべきことを優先しようと頭を切り替え、ギアで一気に距離を取る。相手の足は止まっている。叩くならチャンスだ。
刀を納刀した状態で力を込める。
解き放つのは、純粋なほどに研ぎ澄まされた無垢なる一撃。
ただただ真っ直ぐに飛んでいく斬撃は、決して誰もが見向きをするものではなく、受けようとも思わない。
だが、だからこそ、だからこそ、だ。
この技はどんなものよりも美しくなくてはならない。
人の目を引き、戦場で動きを止めてしまうほど無垢な斬撃でなければならない。
そこに殺意があってはならない。そこに怒りがあってはならない。
その斬撃に込められるものは、慈愛の気持ちのみである。
「頭義流抜刀術!一の型!」
そう、この技は……魅せるための技である。
「状相破斬!!」
刀に込めた力を一気に前方へと解き放った。
そしてその解き放った斬撃の真正面に……ジャルがいた。
「……は?」
斬撃を飛ばし終えてから気が付いたジャルの存在に、思考がまわらなかった。
……どういうことだ?なんでジャルがまだあんなところにいるんだ?
背後にはサーシャと葵、2人も準備万端と言わんばかりに構えている。
え?もしかして、あれ、逃げ遅れたってやつ……?
しかも当の本人は必死に走っているせいなのか、前をよく見ていない。……いや、目瞑ってないか?
とにかくだ。あのままだと間違いなくあと1~2秒でジャルに当たる。
「ジャル!!」
声だけで伝わるかはわからないが、必死にジャルの名前を呼んだ。
「な、なんでs……」
そして、ジャルが俺の声に反応した時、その斬撃はかわせない距離にまで迫っていた。
3人ともが、あ、これ絶対に当たった。そう思ってしまった。
だがこの瞬間、ジャルの眼の色が変わった。
雰囲気とかではなく、本当に眼の色がクリアな茶色から赤色に変わったのだ。
そしてジャルが今までにない信じられない動きをしだした。
身体が伸びるような形で状相破斬をあの至近距離で潜り抜け、急ブレーキで方向転換。俺の状相破斬に重ねる形で槍を投擲し、ただでさえ衝撃破壊力の高い状相破斬が強化された状態で俺たちに向かってきていた相手にぶつかる。
「……炸裂せよ!」
そして槍が相手にぶつかったタイミングでジャルがその言葉を発した。
途端に槍を中心とした火球が膨れ上がり爆発。信じられない威力の攻撃がスタジアムを包み込んだ。
『ちょ!あつっ!!何ですか!?何が起こったんですか!?』
いつもぶっりこが出すような声を出す司会者でさえ、驚きのあまり自身の個性を忘れていた。
それほど目の前で起こったことが信じられない光景だった。
爆発を起こした当の本人は、爆風で吹き飛ばされながら戻ってきた槍をキャッチしてすぐに攻撃の動作に移ろうとしていた。
「おい!ジャル!!少し待て!!」
言わずもがなジャルの行動が明きらかにおかしかったので、急いで近寄り肩を無理矢理掴んで目線を合わせる。その目はどこまでも続く夕焼けのようにきれいな赤に染まっていて、焦点は全くあっておらず何を見ているのか全く分からなかった。
ただ危険な状態にあるのだけは見て理解できたので、ひたすら肩をゆする。
「目ぇ覚ませ!!ジャル!!」
強く、ただただ強く呼びかける。
するとジャルの眼の色が元の茶色にすっと戻った。
「……あれ?……洋一さん?……僕は…何を……」
頭痛でもするのか、頭を押さえながらジャルは周囲を見渡した。
今だ火柱をあげ焼け焦げた地面。火柱は人を呑み込まんとするかの如く渦を巻き、参加者のほとんどが身動きが取れない状態になっていた。
そんな周囲の状況を見て……
「……あ……あ………あ…………」
「……ジャル?」
「ああああああああああああああああああ!!!!!!」
突然ジャルが発狂した。それと同時に目の色も再び先程の赤色に戻ってしまった。
それに加えジャルの周囲に火球が無数に出現し、無造作に人を攻撃し始めた。それはおもちろん俺たちにも例外なく飛んできて、俺は火球を回避しながら後方へ下がった。
「葵!サーシャ!無事か!!」
「大丈夫!」
「心配されるほどの怪我はしていないわ」
「ならこの状況どう動く!!」
突然周囲は火柱が上がる動きづらい危険地帯へと変貌した。しかし動かなければジャルが無数に出し続ける火球の攻撃をもらうことになる。
この状況で回避をしながらかつ安全な経路でジャルに接近し、どうにかしなければならない。
そんな少しの膠着状態の中、サーシャが口を開いた。
「打開策がないわけじゃ…ない……でも」
「何でもいい!やれることを試すぞ!!」
「ここで使うには危険が……」
「この状況がすでに危険なんだから出し惜しみなんかするな!!」
サーシャは何をうろたえているのか知らないが、今は一つでも試せることをひたすら試していくしかない。でないと、いつあの火球を喰らうかわからない。
「……怪我しても知りませんからね!」
何かを決心したような顔でサーシャはそう言うと、自身のペンデュラムを前にかざした。
その先端には普段ついているクオーツではなく、みたことのない何かがそこにはあった。
「オペレーション、マリオネット!」
その言葉と同時にその何かがはじけ飛んだ。と同時に世界が一変する。
先程まで炎に囲まれていたスタジアムが、突如暗黒に呑み込まれた。
そして、サーシャの近くには先程まではなかった人ほどの大きさの人形のような何かが10体ほど出現していた。
「奥の手を使います!攻撃が当たらないように全力で回避してください!!」
俺たちにそう告げると、サーシャは人形たちの背中に合った糸を掴めるだけ掴んで、思いっきりその糸を引っ張った。
「人形たちよ!かのものを蹂躙せよ!ドールズウォー!!」
その言葉とサーシャが引っ張った糸が鍵とでも言わんばかりに、人形たちが生きた人間のように武器を持ちむやみやたらに振り回し始めた。そのおかげもあって周囲に飛び交う火球のほとんどが撃ち落されかなり動きやすくなった。
だが攻撃対象にはもちろん俺たちも含まれているようで……俺の近くに来た一体が執拗に剣を振りまわしながら追いかけてきた。
回避をこちらに全部任せきりなところは最悪だな!?
だが今なら人形さえ回避できれば距離のあるジャルに接近できるかもしれない。
「葵!今からジャルの方に凸りたい!援護頼んでいいか!?」
「OK!動きはそっちに任せるよ!!」
「頼むぞ!!」
その言葉とともに再び刀を納刀し、今度はジャルを見据える。
その間に葵には人形の気を引いてもらうべく、魔法で人形に攻撃してもらった。そのおかげもあって攻撃がかなりしやすくなった。
だが状相破斬を貯める時間はない。そんなことをすれば人形もいくつか無くなってしまうだろうし、何より葵が危ない。なら今一番可能性があるのは……この技しかない。
「頭義流抜刀術!二の型!」
個性であるギアを発動させて地面を蹴って炎の中に飛び込み、ジャルへと接近する。その姿を近くでとらえたと同時に勢い良く刀を引き抜いた。もちろん刃は向けず峰打ちを狙う。でないと斬り殺しちゃうから。
「駆車!!」
暴走するジャルにすれ違いざま胴に重たい一撃を加える。見事に決まったこの一撃のおかげで暴れていたジャルも電源が切れるようにおとなしくなり、気を失って倒れかけたところを何とか抱きかかえて支えた。そしてそのジャルと連動するように、周囲の炎や火球も初めからなかったかのように消滅した。
サーシャはそれを確認してから、すべての人形の動きをすべて停止させた。その手に握られた糸につながれていた人形の数は残り3体にまで減っていた。
……どうやらかなり無茶をさせてしまったようだ。
『おっと!!炎が突然晴れました!!はたしてスタジアムの方はどうなっているのでしょうか!!』
司会者の言葉が耳に入ってきて、周囲が再び明るくなっていることに気が付いた。
何時の間に明るくなったのかはわからないが、おそらくはサーシャが人形の動作を止めたことが原因だろう。奥の手と言っていたし、本来あまり人に見せたりしないためにああやって周囲を暗闇にするのかもしれない。そこは終わってからでも確認しよう。
『おっと!!戦場で未だ立っているのは東国からの参加者、チームハルシオンのみ!!先程一体何が起こったかは分かりませんが、火属性の魔法で相手を一網打尽にした模様です!!』
司会者のその言葉と共に、再びコングが鳴らされる。
『試合終了です!!見事決勝戦に進出したのは……チーム、ハルシオン!!おめでとうございます!!』
観客が沸く。中には痛々しい暴言も含まれているのもわかる。
勝ったことは良いことだ。それなのに……それなのに……。
なぜか俺の……俺たちの心には、大きな雲がかかったようだった。
サーシャ 奥義
ドールズウォー
クオーツに収納している人形を取り出し、むやみやたらに攻撃を繰り出すサーシャの隠し玉。だが同時に展開されている暗闇には時々何かがキラキラと光っており、それが何なのかはよくわかっていない。なお人形が狙う対象は無差別で、そこに何かがあれば攻撃を繰り出すようになっている。はっきり言ってサーシャ以外にははた迷惑な奥義である。




