第一章33 フリーテ編 大会1日目4
お待たせしました。
もうそろそろ序章の説明やキャラクター紹介などを行うものを別枠で出そうかと思っています
あの後俺たちもすぐにスタジアムから出ることになり、全ての試合が終わるまで待ってから受付の女性に明日の集合時間のみ言い渡されて、闘技場を出ることになった。
……結局、大会のルールは何もわからなかった。
「ヒロ、あなたなんでそう暗い顔をしているの?一応試合には勝ったじゃない」
俺の表情が優れないのを見て、珍しくサーシャが俺の事を心配してくれた。
「いや…色々と腑に落ちないことばかりだからさ……」
「そうね。対戦相手の事が不鮮明、大会のルールも勝利条件も曖昧。……冷静に考えれば誰もがおかしいと思うはずなのに、何事もないように進行される。そりゃあ、腑に落ちないわよね」
「…サーシャ……?」
「心配はしなくていいわ。明日にはどうにかなるから。そんなことより今日はもう帰りましょう?私は帰ってベットで横になりたいの」
俺が一番疑問に思っていることを的確になぞり、そしてそのことについて心配はいらない。サーシャは確かにそう言った。
……なぜ……なぜ、そう言いきれるんだ。
前々から、ところどころおかしい発言や行動はあった。
全然戦えないと言っているのに、いざ戦いとなった時その動きは洗練されたものだった。
フリーテには来たことがないと言っていたのに、普段から使っている宿があった。
そして今回の発言。
……何かを握っているとしか思えない。
早く宿に帰りたいのか、俺たちの少し先を歩くサーシャ。
サーシャの事だ。今聞かなければ、この後に尋ねる機会なんてそうそうこないだろう。
聞くのなら今しかない。
「なぁ…サー……」
前を歩くサーシャに尋ねようとしたとき、小さな子供が俺にぶつかってその場に尻餅をつき、その子は持っていた杖を落としてしまった。
「ご、ご、ご、ごめん…な…さ……ぃ……」
ぶつかった子供はなぜか俺を見て少しおびえたような声で、頭にかぶった黒くて大きなトンガリ帽子のつばを手で握って顔を隠しながら頭を下げた。
よくよく見ると、その子は魔女の森にいた魔女見習の人たちと似たような恰好をしていた。
それに気が付いたのか、葵はその子に近づいて視線が合うようにかがむと、「このお兄さんは優しいから、こんなことで怒ったりしないよ?」と、まずはその子がこれ以上怯えないようにフォローを入れてから
「あなたは魔女の森にいたことがあるの?」
優しい声でその子に尋ねた。
その時、顔を近づけたこともあってか葵がその子が何者なのか気付いた。
「ひろ君。この子、今日戦うはずだった子だよ」
葵にそう言われて、まだ帽子で顔を隠しているその子の顔をうかがうために、葵と同じく視線が合うように膝を曲げる。
確かに葵の言う通り、先程の酔っ払いの騎士の横にいた女の子だった。
「……どうした?」
なるべく怖がられないように、トーンを少し上げて出来るだけ柔らかい声で話しかける。
これで少しでも心を開いてくれればいいんだけれど……。
そう願っていると、
「……ここ……どこか……わかんない……」
小さな声ではあったが、確かにその子はそう言った。
この子には確か父親がそばにいたはずだが……。
「…お父さんは?」
「……わかんない」
試合中酔っぱらっていたから、おそらくろくでなしなのではないかと思っていたが、大方その通りのようだ。
そしてこの様子だと、試合が始まる前に連れていかれた時から離れ離れなのだろう。
それなら闘技場の救護室的なところに、もしかしたらいるのかもしれない。
ならまずは思い当たるところから行こう。
ならまずは先に行ったサーシャを呼び止めないと……。
そう思ってサーシャが先ほどまでいたところを見るが、すでにサーシャの姿はそこにはなかった。
どうやら、1人で先に行ってしまったらしい。
「僕がサーシャさん呼び戻してきましょうか?」
後ろにいたジャルが気を利かせてサーシャ探しを買って出てくれた。
俺と葵はフリーテについてはあまり詳しくないから、ジャルのこの提案にはとても助けられた。
「すまん、お願いしていいか?」
「もちろんですよ。集合場所はどうしますか?」
「……ここに来る時にあった大きな像の前でいいか?」
「分かりました。それでは行ってきますね」
そう言って、ジャルはサーシャが進んで行った方へと人ごみをかき分けながら行ってしまった。
「よし、まずは思い当たるところから行ってみよう」
「そうだね。それでいいかな?」
葵がその子にそう尋ねると、その子はコクンと小さく頷いた。
「それじゃぁいこうか。………え~と……」
「……リナ」
何と呼べばいいのだろうと思っていた矢先、その子が自分の名前を口にした。
そう言えばあのへんな司会者もそう言ってたな。
確か…父親の名前は…ハルトマン、だったかな?
……父親か。
俺は父に対してあまりいい記憶を持っていない。
さんざん殴られて、回復魔法を練習させられた。幼いころのそんなDVめいた記憶しかない。
だからだろう。スタジアムに出て戦おうとしたときに、この子を…リナを助けなくてはと思ったのは。
……今はそんなことは置いておこう。
まずはリナの父親を捜すことが先だ。
そうして俺たち3人は、まずリナの父親がいそうなスタジアム内へ向かうために、受付の女性の所へ行き事の詳細を伝えた。
だが、スタジアム内に今日は選手を入れることは出来ないと言われ、さらに中に残っているのも関係者だけだから、選手はもう残っていない。そう告げられると受付の女性は俺たちを置いてそのまま闘技場の中へと姿を消してしまった。
「闘技場内にはいないってことは、もう外に出てるってことだよな」
「多分そうだと思う…。リナちゃん、お父さんと一緒に住んでる家とか、宿とかはどこかな?」
「……わかんない。ここ、初めて来たから…」
「…そっか」
なら手掛かりとなりそうなのは、フリーテにある宿のどこか。そこを探し当てるほかない。
だがこれから探し始めるにしては、時間があまりにも遅すぎる。
もうすぐ日暮れだし、何より夜は今あまりで歩きたくはない。
召喚士殺しもどうやら捕まえられていないようだし、出歩くのは死ぬリスクを高めるだけだ。
…ふむ。どうするべきか。
このまま俺たちの泊っている宿に連れて行くわけにもいかないだろうし…。
そう一人でこれからどう行動すればいいのだろうかと考えていると…
「ひろ君、なんか…向こうの方で人だかりができてるよ」
葵が俺の肩をたたいてから、人だかりができている方を指さした。
この街では人だかりなんてよく見られる光景だが、明らかに人数がいつもよりも多い。
それに、周囲にいる人間のほとんどが何か…はやし立てるような、そんなことを言っているようにも聞こえる。
あまり近寄りたくはないが、俺たちの前であんな状態だったんだ。
何か問題ごとを起こしていてもおかしくはない。
行くだけ行ってみよう。
とりあえず葵たちに少しだけ待ってくれと一言伝えて、俺は一人で人だかりの方へと向かった。
近付いてみると、どうやら人だかりの中心で誰かと誰かがもめているようで、その人物らを囲ってこの集まりができているようだった。
そしてその中央に今日戦うはずだった騎士、ハルトマンがいた。
見たくないものを見たな…と思いながら、一度戻って葵たちにこのことを伝え、改めて三人で人だかりの方へ足を運んだ。
改めて近づいて周囲の声に耳を傾けてみると、どうやらハルトマンがフラフラと歩いていたところ人にぶつかったことが原因で現在こうなっているようだ。
そのくらいのことで…と思ったが、ハルトマンに突っかかっている男性は、相手が戦える状態ではないと踏んでいるのか、ハルトマンに対してかなり強気な態度で出ていた。
いやな空気だ。そんなことを思っていると、現状を見たリナが繋いでいた葵の手を振りほどいて、その人だかりの中心へと行ってしまった。
「お父さんをいじめないで!!」
葵の制止の言葉も聞かずに人だかりの中心へといったリナは、その男性とハルトマンの間に割って入ると、今にも泣きそうな声で、それでもしっかりと大きな声でハルトマンに強気な態度で出ている男性に訴えかけた。
だが、その男性はリナの訴えも聞かず、ただ一言「うるせぇクソガキ」とだけ言ってリナを殴り飛ばした。
「リナちゃん!?」
葵がすぐさまリナが倒れている方へと駆けていく。俺もそれに続いてリナの方へと駆けよった。
「リナちゃん!!大丈夫!?」
葵が何度もそう声をかけるが返事はない。
どうやら頭を強く殴られたことで、気を失ってしまったようだ。
リナが殴られたと思われる場所にクイックヒールをかけてから、リナを殴った男性に抗議に行こうとしたその時だった。
背筋が凍るほどの嫌な気配がハルトマンからあふれ出していた。
葵もそれに気が付いたのか、気を失っているリナを自分の方に抱きよせてから身構えていた。
「……ごちゃごちゃごちゃごちゃ……どいつも……こいつも……」
何かをつぶやきながら、ハルトマンを腰につけていた剣を抜き放つ。
何かするつもりだ。
「葵っ!!シールド展開っ!!」
「高速詠唱!シールド全面展開!!」
葵がとっさに人だかりを内側から囲うように360度展開すると同時に
「うるせええええええええええええ!!!!!!」
ハルトマンが全体に向かって斬撃を放った。
その斬撃はいともたやすく葵のシールドを破壊した。
そして今にもその斬撃が俺たち全員に届きそうになったその時、
「ベール」
一言女性の優しい声が聞こえると、俺たち全員を澄んだ綺麗な蒼い布が包み込み、その斬撃を防いだ。
「…しっかりしてください。それでも、私たちの試練を乗り越えた方なのですか?」
「必要な時は呼びなさいとあれほど言ったのに…。私達の契約者はそんなことも忘れたのかしら?」
その俺たちを包み込んだ布の外側に水連と風華がいた。
「水連!風華!」
「…早くそこから出てきなさい。今あれを止められるのは私達だけよ」
風華に急かされる形で俺はその布の外に出て二人のそばへ行くと、水連と風華はすぐに黒の神器へと姿を変えた。
「ひろ君!」
葵が俺の名前を呼ぶ。だが振り返っている余裕はない。
目の前にいるハルトマンは正気を失っているのか、今にも暴れだしてしまいそうなほど奇声を上げ、剣を振り回している。
現にハルトマンの目の前にいた男性は、身体を真っ二つに斬られてすでに絶命している。
周囲から悲鳴が上がる。動揺、ざわめき、焦り、恐怖。
負の感情全てが今ここの集まっているような気さえした。
だから、ただ一言
「任せとけ!」
そう伝えてから
「サポートは任せたぞ!水連!風華!」
そう声をあげながら、俺はハルトマンに向かって走り出した。




