第一章32 フリーテ編 大会1日目3
大変お待たせいたしました!!
ジャル達と別れてすぐに、洋一はあることについて考えだした。
あることとはこの大会について、細かく言えばそのルールについて大きな疑問を持っていた。
一般的な大会、ましてやここまで大規模のものをやるのならば、決まったルールが存在しているはずだし、その説明も行われるはずだ。
それが行われていない、のにもかかわらずここに待機している参加者たちはそんなそぶりも見せない。
毎年行われている有名な大会だから、ルールは知っていて当然ということなのか?
それとも……、他に、何か、別の理由が……?
何度も様々な視点から考えてはみたものの、結局何も思いつくことはなかった。
そんな中、先程出ていった闘技場スタジアムの入り口から2人が戻ってきた。
サーシャはジャルを少し小突きながら、それでも楽しそうに話している。
おそらく勝ったのだろう。
幸先よくスタートを切ることが出来たのは良いことだ。
ジャルはサーシャと話しながらも、こちらに気が付いたのか俺たちに大きく手を振って「勝ちましたよ!!」と満面の笑みを浮かべながら、こちらに戻ってきた。
「やりましたよ!洋一さん!!」
「まずはお疲れ様。そして、おめでとう」
「はい!ありがとうございます!!」
何時になく笑顔で応じるジャルに少し驚きながらも、それでも勝てたことに対する喜びが体から溢れんばかりに出ていたジャルを見てこちらも次第に笑顔になった。
そんな会話をしていると…
「ヒロカズさん、アオイさん。準備をお願いします」
ジャル達の名前を呼んだあの女性が、今度は俺たちの名前を呼んだ。
次は俺たちの番らしい。
「よっしゃ。一発かますか!」
「うん。確実に勝とうね!」
「おう!そんじゃ!行ってくる!」
「行ってらっしゃいです!!」
「大丈夫だとは思うけど、ま、気を付けて」
ジャルは元気よく、サーシャはそっけなかったがそれでも俺たちを送り出してくれた。
そんな二人に見送られながら、俺たちの名前を呼んだ受付の女性の所へ行くと、そのままスタジアムの方へと案内された。
その背中を追っている最中、今日あまりしゃべっていない葵が口を開いた。
「…ひろ君はこの大会について何か感じたこととかある?」
やはり考えていることは同じなようで、この大会の曖昧さについてだった。
「まぁ、感じることはたくさんある。ルール説明がされていないところとか特にな」
「やっぱり着眼点はそこだよね」
「でも、それは後からでも考えられる。まずはやるべきことをやろう」
「…そうだね。いつもみたいに後方から支援していけばいいかな?」
「そこは、臨機応変にだな。相手次第だ」
「だね」
そうこう話していると、スタジアムの入り口が見えてきた。
受付の女性の案内が終わり、先に進むように指示される。
いったいどんな相手と戦うことになるのだろうか。
楽しみでもあり、少し不安でもある。
「いくよ、ひろ君」
スタジアムの入り口前で立ち止まった俺を、葵の一言が背中を押した。
「おう」
短いやり取りだが、それでもこのやり取りにどこか安心している自分がいる。
いつも通りというのが、いかにありがたいのかを再び実感させられながらも、俺はスタジアムに一歩足を踏み入れた。
瞬間
熱気が、声が、会場が、俺たちを包み込んだ。
久しぶりに感じる大会の雰囲気に、少し圧倒されながらも俺は先を行く葵の後を追ってスタジアムの中心へ向かった。
『さぁ入場してきましたのは!今大会初!東洋の島国からの参加者!ヒロカズとアオイ!実況は変わらず、可愛すぎて直視できないウィッカちゃんがお送りさせていただきます!!』
「黙れ司会者!!」
「ガキがこれ以上喚くな!!」
『モブのくせに騒いでんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞ!!』
……な、何だ?あの実況者。口悪っ!
というか、この時代にも拡声器みたいなものがあるんだな。どうやって作ってるんだろうか?
…時間があれば探してみよう。
『……えー、気を取り直しまして…。続きまして入場してきたチームのご紹介です!何と珍しく家族での出場です!ハルトマンとリナちゃん!!』
先程までの口調とは打って変わって、コッテコテに盛った声で実況者が俺たちとは別の場所から入ってきた参加者の名前を叫んだ。
また会場が声と熱気に包まれる。
表通りを歩いていてわかりきったことではあったが、改めてこの大会が相当規模のでかいものであるということを認識させられた。
そして闘技場の内部は、外野の盛り上がり方からしても、下手な戦いは見せられない空気になっている。
…なるほどな。こうやって外からはやし立てることで、参加者を本気にさせてその戦いを見るわけか。
野球とかの声援と似たようなものだろうけれど、こういった場面での人からスポットライトを浴びながらの応援というものはなかなか体験できるものではない。
この優越感に浸りたくて、大会に参加する人もそう少なくはないはずだ。
ならばより一層気を引き締めておかないといけない。
調子にのった人間や、のせられた人間は何をしでかすかわからない。
「ねぇ、ひろ君。相手の様子なんかおかしいよ」
そんな会場の雰囲気を見て、俺が気合を入れなおしている最中だった。
葵が相手側の様子がおかしいことに気が付いた。
それは誰の目から見ても明確なもので、騎士の格好をした男性の顔色が赤く、手には大きな酒瓶を持ち、足元はおぼつかないのかふらふらとしていた。
「お父さん!しっかりしてよ!」
そんな誰の目から見ても、まともに戦える状態ではない男性を、娘が必死に支えていた。
その男性を支える女の子の背丈は低く、顔立ちも幼い。今にも泣きそうな顔で涙袋を貯めながら父親に向かってずっと声をかけ続けている。
あまりにも目に余るその状況に、観客たちは興ざめたのか、その2人に向かって言いたい放題暴言をはきだした。
その光景があまりにも見るに堪えず、その子をかばおうとしたところで葵に行動を止められた。
「……ひろ君。行きたい気持ちはわかるけど、よく考えて行動して」
「でも、あれはあまりにもかわいそうすぎるだろ!」
「そういう作戦かもしれない。子供をこんな大会に出すくらいだもん。裏があるとみて行動しないと、一勝してきたジャルさんやサーシャさんに申し訳ないよ」
もっともな意見にぐうの音も出ず、俺は足を止める。
…昔の自分たちが大人にいいように利用された事実があるからこそ、葵はこの決断を下したんだろう。
…理解は出来る。が、いい気はしない。
そうやって俺たちが動かない間に、相手の男性はまだ試合が始まってもいないのに倒れてしまった。
もう目も当てられなかった。
流石に異変に気が付いたのか、実況者からも試合が始まっていないにもかかわらず試合が中断された。
すぐに相手がスタジアムに入場してきた入り口から数名の兵士が出てくると、倒れた男性を担ぎ上げてそのまま入り口の方に姿を消した。
その後、相手が戦闘を放棄したということで話がまとまり、俺たちは思わぬ形で勝利することになった。




