第一章31 フリーテ編 大会一日目2
お待たせナノダヨ!!
「…なによ、これ。あなたどれだけ嫌われてるの?」
会場の声を聞いて、驚きを隠せない声で僕に迫ってきた。
サーシャさんは僕が何をしたのか知らないから、そうゆう反応をするだろう。
だがこれは、僕にとって背負うべき業であり、罰だ。
「……仕方ないんですよ。僕が悪いんです」
「炎槍が使えないから!?それとも意気地なしだから!?何がどうなったら街全体を敵に回せるの!?」
「……サーシャさんには…関係ないです…」
話しても、意味がない。
……もう、戻ってこないのだから。
サーシャの言葉も聞かずに、ジャルは先に対戦相手の待つ闘技場中心へと向かって歩き出した。
サーシャはそんなわけの判らない行動と発言をするジャルに違和感を感じながらも、その背中を追った。
『さぁ!入場してきたのは、貴族マーリアの恥さらし!!ジャル・マーリア!!そしてその横には……幼女?幼女ですね!!うん!!幼女です!!』
クオーツを用いた声音拡張機を使って、この大会の進行役の少女の声がジャルの名前を叫んだ。
途端に、先程までの罵声や怒号の声がさらに激化して会場を呑み込む。
『実況は私、かわいい美少女!!ウィッカちゃんがお送りさせていただきます!!』
「うるせー!!いいかげん司会は黙ってろ!!」
「黙れクソガキ!!」
『うるせぇ!!ロクな表現も書かれないモブは黙ってろ!!』
途中途中司会へ口撃がいってるような気もするけれど……多分気のせいだと思う。
司会者もかなり口悪いけど。
「……誰が……誰が幼女だ……」
背後ではサーシャが怨念駄々洩れの声で司会者をひどく睨みつけながら、ぶつぶつと何かを吐き続けていた。
『……こほん。改めてまして、今大会のゲストを紹介しますっ!!マーリア家当主、ロイ・マーリア様!!』
その名を呼ばれて一人の男性が司会者のすぐそばで手を上げながら立ち上がった。
髪の毛はすでに白髪で、その顔は前見た時よりもさらに老けて見えた。
……父さん。
ジャルは立ち上がった父を見た。
だが、視線も声も……何も返ってはこなかった。
『続きまして、王都パチェリシカより参られました!騎士・魔道学園ドルーナ学園長!フェル・レイン様!!』
その言葉と共に、一人の男性が司会者席のすぐそばで立ち上がった。髪は長く、すべてを呑み込みそうな深い黒色をしたローブを身に着けていた。その男性は一礼すると、再び席に着いた。
『それでは、今大会のルールを今一度説明させていただきます!!全12チームの中ランダムで割り振られた3チームが2vs2で対決、2勝したチームが準決勝へと進める形となってます!!勝利条件は、相手の戦闘不能、または自己申告による降参です!!それでは両者、構え!!』
こちらは相手の情報を何も聞いていないというのに、試合が始まりそうになる。
慌てて、もうボロボロの槍の切っ先を相手に向けて構える。
後ろの方ではサーシャさんがヒュンと武器を出す音が聞こえた。
『はじめっ!!』
その声と同時に闘技場を観戦者たちの声が包み込む。
相対する対戦相手は、大きな斧とナイフを持った2人組の男性で、始まりの合図と共に、ナイフを持った男性が素早く前に出て距離を詰めてきた。
相手の間合いに入られたら、僕は必ず負けてしまう。それは、兄さんとの特訓で嫌なほど思い知らされた。
だから僕にできることをやる。
戦いが怖い僕でも、戦っているように見えるやり方で。
先端がボロボロになった槍を、走ってくる相手に一突きを入れる形で構える。
次にどう動くのか見え見えの構えに、相手の男性は僕を馬鹿にした笑みを浮かべる。
それでいい。
じゃないと、僕が勝てないから。
”弱いと思われている人間こそ、その相手の意表を突くことが出来る”
僕がなめられているからこそ、出来る戦い方だ。
僕の後ろにいるサーシャさんは、僕の動きの意図が全く読めないからか、僕から少しだけ距離を取って様子をうかがっている。
何かあったらその時は、という考えだろう。
裏を返せば、僕がどれほど戦えるようになったのか見極めようというのもあるのだろう。
ならばなおの事、その期待に応えなければならない。
何としても、この相手にだけは負けてはいけない。
相手との距離がなくなっていく。距離が近づくにつれて観客はさらに盛り上がっていく。
だけど、僕の耳には心音以外何も聞こえてはこなかった。
緊張してる?しているとも。
きっとここでしくじれば、僕は何も変われないままだ。
この積み重なった僕への固定概念を壊すためにも……今日、今この日に、僕は変わってみせる!!
相手が僕の間合いに入った瞬間、構えていた槍を勢いよく、ただただ真っ直ぐに突き出す。
そんな行動はお見通しだと言わんばかりに、相手はすっと横にかわしてそのナイフを僕につきつけようとしてきた。
そうだ。このタイミングだ。
突き出した槍が勢いよく地面に突き刺さる。その槍を支えにして僕は上に飛ぶ。
地面に突き刺さった槍が軸となって僕が飛ぶのをサポートし、軽く相手の頭を飛び越えてその背後についた。
僕がそんな動きをするなんて考えもしていなかった相手の動きが鈍る。
「僕は……変わるんだっ!!」
地面に突き刺さった槍を抜き、反応の鈍った相手の背中をめがけて槍を思いっきり力を込めて突き出した。
勢いよく突き出した槍は見事命中し、相手を闘技場の壁に叩きつけた。
その予想だにしなかった僕の行動に、あれほど騒がしかった会場がシンとなる。
静寂が会場を覆いつくす。そして視線は吹き飛ばされた相手の方に集まっていた。
きっと誰もが思っているだろう。僕みたいな弱い奴に負ける奴がいるのかと。今すぐにでも、あいつが目の前の僕を倒してくれることを期待しているんだろう。
だけど、はるか昔、母さんは教えてくれたんだ。
現実は、自分の想像のはるか先をいくものなのだと!!
相手は起き上がる気配はなく、その場を動こうともしない。
誰もがそんな静まり返った闘技場の中、ある一人の少女の声がその静寂を打ち破った。
『おーーっと!!?これは!!誰もが想定していなかった出来事です!!あの!!恥さらしとまで言われたジャル・マーリアが相手に大きなダメージを与えています!!しかも!!相手は動かない!!まさかまさかの出来事に、ウィッカちゃん驚きです!!』
その声と共に、再び闘技場が罵倒で包まれる。
「ふざけるな!!」
「さっさと死ねよ!!」
「雑魚のくせにしゃしゃりでるな!!」
その言葉一つ一つがすべて棘をもって、僕に襲い掛かる。
言われてることは僕にとって辛いことだけど……
これでようやく、”僕”を見てもらえる。
「おらぁ!!死ねぇ!!」
そんな余韻に浸っていたこともあって、背後を斧を持った男に取られてしまった。
勢い良く振り下ろされた斧だったが、ひゅっと少し離れたところから何かが飛んできてその斧に当たると大きな爆発を起こした。
「……はぁ、我ながら情けないわね…。情報収集が甘かったわ」
クオーツを先端に付けたペンデュラムを投げたサーシャは、ジャルの立ち振る舞いを見て、前から抱いていた疑問が一つ予測へと変わった。
「あなた……もう……”炎帝”としての力、使えるんでしょう?」
自らがともに爆破したその人物がいるであろう場所に語りかける。
「ケホッケホッ……サーシャさん……そういうことするのなら、先に言っておいてください……」
クオーツの爆発を至近距離で受けてしまった、斧を持っていた相手は意識を失ってその場に倒れていた。普通の人なら、クオーツをあの至近距離で受ければ気絶するか、もしくは死ぬかする。
今投げたのは、もちろんこういった大会用の為に用意したものだから人を殺したりはしないけど、それでもある程度のダメージは見込めるはず。
にもかかわらず、至近距離で喰らったジャルは無傷でケロッと立っていた。
…予測が今確信に変わった。
「……あなたが私の話を聞かないからでしょう?荷物持ちのくせに」
「…それは、まぁ、そうですけど……」
「……まぁ、今回は私もあなたの痛いところをついたみたいだし……そこに関しては謝るわ。…ごめんなさい」
「サーシャさんが謝るなんて…珍しいこともあるもんですね」
「…次は旋風のクオーツでも投げようかしら……」
「わぁ!?それはやめてください!!」
「…冗談よ」
サーシャは自分の反応に慌てふためくジャルを見て、自分でも何が面白かったのかわからなかったけれども、その光景に少しだけ笑いそうになってしまった。
『決着――――――!!!勝者は意外も意外!!あのジャル・マーリアとちっこい幼女ペアです!!』
司会者が僕たちの勝利を叫ぶ。
想定していなかった未来。考えるはずもなかった結末。
だけど今、僕はそれを現実にした。
爆発で少し煙たい服をはたいて、ゲスト席に座る父さんを見る。
信じられないような目をしていた。
その目は今、僕の方を向いている。
その向けられる視線がどんなものであろうとも、今父さんは確実に僕を見ている。
だからこそ、ここで宣言しなければならない。
「父さんっ!!」
罵声と怒号が飛び交う会場の中で、ただ一人の人物に向けて言葉を投げる。
「僕はっ!変わるよっ!!もう、あの時みたいに逃げないから!!」
そして……今度こそ証明して見せる。
あの時と同じ、過ちを繰り返したりはしないと。




