第一章29 フリーテ編 大会前
久しぶりにスムーズにかけました!!!
銀狼がいなくなったあの日からすでに数日もの日が過ぎた。そして気が付けば、大会が明後日にまで迫っていた。その間特に変わったこともなく、俺たちはただ特訓と依頼を繰り返しながら生活を続けていた。だが、やはり何か足りないと感じてしまう。あの人の存在の大きさが、いなくなってからようやく分かった。
「今日は何しようか?」
「そうだなー。とりあえず、春香の所行って面白そうな依頼があれば受けようか」
「サーシャさんもそれでいいですか?」
「あんたたちが決めたことならいいんじゃない?どうせ私は、この大会終わるまでこの街から出れないわけだし……。今になってまた無性に腹立ってきたわね…あいつ」
「サーシャさん…」
「ま、いいわ。行くなら早く春香の所に行きましょう。時間は有限、残りの時間でやれることをやりましょう」
そう言ってサーシャは軽く荷物をまとめてからすぐに宿を出ていった。俺たちもすぐにその後を追い、春香のいるドラゴンナイツ騎士団の基地へと向かった。
時刻は9時前。フリーテの表参道はかなりの賑わいで、今日も様々な人が道を歩いていく。大会前だということもあってか、ここにきて特に露店のようなものが増えた。
それが道を少しだけ狭めてしまい、ただでさえ歩きにくい表参道がとても歩きにくいものになっていた。
サーシャは俺たちの先を歩いていたが、人の波に押し流されて気が付けば俺たちの目の前まで押し流されていた。
……これが身長差というものか。悲しいものだ。
サーシャの近くを通る人の多くは、嬢ちゃん危ないよ~と、サーシャを子ども扱いする言葉を投げかけていたこともあってか、サーシャの顔は怒りと恥ずかしさで、顔が真っ赤っかになっていた。
その顔があまりにもおかしかったので、俺は吹き出してしまい、春香のもとに着くまでにゲシゲシと何度も理不尽なグーパンチをわき腹にぶつけられた。
……これがひじょーーーーに痛かった。
結果ドラゴンナイツ騎士団に着いた頃には……
「………なんで、ここに来るまでに魔物の被害にあったってくらい怪我してんの?馬鹿なの?」
春香にディスられるくらいには、わき腹だけ見たら笑ってしまいそうになるくらい怪我をしていた。
そんな理不尽な攻撃も、ようやく止まり軽く回復してから俺たちはいつも通り騎士団の中に入った。
「ジャルを起こしてくるから少し待ってて。依頼もいくつか入ってるからそれ適当に見ててよ」
そう言って春香は奥の方へ消えていった。
あの後、ジャルとルークさんの中でどのような話しがあったのかわからないが、ジャルは急遽ドラゴンナイツ騎士団に所属することになった。おそらく、ルークさんが何かしらサポートしたのだろう。
……そうする必要性がなぜあったのかは謎だが。
「おらぁ!!起きろぉ!!」
「グッフォアッ!!!」
奥の方から何かが破壊される音と、春香のどすの効いた声、ジャルの苦しい悲鳴が聞こえた。
なんだ……このカオスな空間は。
というか、魔女の森で言ってたことは本当だったのかよ。
出来ればもう少しおとなしい他人の起こし方を学んでほしいものだ。
そんなこんなで張り出されている依頼を、いくつか3人で眺めながらどうしようか話していると瀕死状態のジャルの襟首をつかんだ春香が俺たちの所に戻ってきた。
そしてそんなボロボロの状態のジャルを、テーブルに座って話し合っている俺たちの前に放り投げた。
「……どうしてこうなったの…?」
葵があまりにも悲惨すぎる現状を見て、やっとの思いで言葉を口にする。
その言葉に春香は首をかしげながら答えた。
「さぁ?私は知らないよ?」
いや、お前さっき明らかに奥の方でジャルの事ぼこぼこにしてたよね!?ほぼ間違いなくこうなった原因を作ったのお前だよね!?
「葵は、ジャルがどうしてここまでボロボロなのかってことを聞きたいんだよ」
ほぼ答えが決まっているであろう問いを、わかりやすい言葉に直してから春香に伝えなおした。だが、その返答は想像の斜め上をいくものだった。
「これ?ルークさんの特訓を受けてるからじゃない?ここ数日、帰ってくるときいつもこうだよ?……まぁ、私も多少怪我を増やしている原因ではあるとは思うけど」
「ならもっと穏便に起こしてやれよ…」
「頭より手が先に出ちゃうから!仕方ないよね!!」
仕方ないじゃねぇよ。
誰もが心の中でそう思った。
「…回復して下さってありがとうございます」
「いや、それはいいんだ。いいんだけどさ…ジャル、本当に体大丈夫か?一応大会明後日だぞ?」
身体がボロボロなジャルに何度かヒールをかけて、ようやく体を起こせるくらいに回復したジャルは苦しそうな表情だった。
こんな風になるまで、いったい何についての特訓をしてるんだ?
大会の事もあるし、何よりここまでボロボロになっているのが気になったのでその理由を聞き出そうとしたが、ジャルは口を割ろうとはせず、ただただ大丈夫という言葉を繰り返すだけだった。
「……本番では…万全の状態に戻しますから」
すみません、とだけ言葉を残してジャルは立ち上がるとそのままどこかへ行ってしまった。
「あいつ…大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃないの?いつもなんとか帰り着いてはいるみたいだし」
「なんとかって……」
「心配するだけ無駄だよ。それに、この件にはノマスさんも関わってるから、口出しができるのはリーダーだけだもん。特攻隊長の私でも、この特訓は止められないよ」
ま、心配するだけ杞憂よ。
そう言いながら、春香は机の上に広げてあった依頼をいくつか手に取って、あ、これ行こうよ!と話を切り替えた。
……本当に大丈夫だろうか?
「……心配なら、私が見てきてあげようか?」
俺の不安そうな顔を見て、意外な提案をしたのはサーシャだった。
「いいのか?」
「最近特訓ばかりだったしね。たまには私も商売のネタを稼がないと」
後から出てきた言葉がおそらくサーシャの本音だろう。それでも、行ってくれるという言葉だけが何よりもうれしかった。
「…頼む」
「ま、いいわよ。都合のいい荷物持ちを、私もたやすく逃す気はないからね」
そう言って、サーシャはドラゴンナイツ騎士団の基地を後にした。
「残ったのは私とひろ君と春ちゃんの3人だね…」
「ぶーぶー!これじゃどこにも行けないよ!ひろ!サーシャちゃん今すぐ連れ戻してきて!!」
「いやだよ、ジャルが心配だから」
これからどうしようかと提案する葵、依頼を行う事が出来ないことに不満を漏らす春香。
…少しだけ、昔に戻った気がした。
だから……たまには日常に戻ってみても良いんじゃないかって、そう思った。
それと同時に、なぜかこういったゆっくりした時間が取れなくなるような気がした。
「…今日は…ゆっくりしないか?ほら、魔女の森では軽くしか話せなかったろ?今日一日使ってまたいろいろ話そうぜ」
「えー!体動かそうよ!今日私暇なの!!ねぇ!!外行こうよ!!」
春香は昨日まで基地内で雑務をこなしており、そのストレスがたまっていることもあってか、今日はやたらと外に出て行きたがった。
気持ちは分からんでもない。俺も軍に所属していた身。夏休みという名のお仕事祭は死ぬほどつらかった覚えがある。室内にこもりっきりだったら、なおさら外に出たいと思う。
「なら…外でお茶しようよ!ほら、この前キーちゃんを助けに行った路地裏の前にお店があったじゃない!そこ行こうよ!」
わがままばかり言う春香をどうなだめようかと考えていたところ、葵から思わぬ助け舟が出された。
しかも、意外にも春香もそれに食いついた。
「お茶!?行こ行こ!!」
そして、浮足立った春香に引っ張られるような形で、俺と葵はその日一日中春香に引きずられながら、楽しい一日を過ごした。
こんな日が、ずっと続けばいいのに。
そう願うほど、今日という日はとても楽しいものだった。
「……現状の報告を」
「……動きはない」
「…そう。体調は?」
「気にしなくていい。そっちは?」
「…第9席、第7席あたりの動きが不安ね。根回しはしておくわ」
「お願い」
「…そっちも、監視よろしくね。”リーダー”」
通信を終える。
……ため息をつきながら周囲の気配を探る。
誰もいない。いるはずがない。
それを確認してから荷物をまとめ、夕日が沈んでいくフリーテの街を見下ろした。
もうすぐ始まる。争いが。
どこまで火の手がまわるかはわからない。それでも足掻くだけは足掻いて見せよう。
それが己の存在意義なのだから。




