第一章24 フリーテ編 まぁ明るくいこうとしましょうや
遅くなりました!!
「む、無茶言わないでくださいよ!!」
ノマスさんからの頼まれたことについて、初めに出た言葉がそれだった。
だが取り付く島もなくそれではよろしく頼みますねとふんわりとした声で言われると、ノマスさんの部屋から何かしらの魔法で瞬時に移動させられて追い出されてしまった。一瞬で目の前が先ほどジャルがもみくちゃにされていた騎士団の人々が飲んでいた場所へと移動させられる。すぐに先程までいた部屋に戻ろうとしてみたが、なぜか先程いた部屋へとつながる扉が全く開かない。…いったいどうなってるんだ?それにさっきのは…
「転移魔法…?」
「…だよな…」
魔女の集落で葵が引き継いだ禁術の書の1つ、テレポート。その力を最大限引き出したかのような使い方だった。だが、この魔法は未来でも習得法が不明であり、この時代でもそんな話はまず聞いたことがない。ならノマスさんは一体いつどこであの魔法を習得したんだろうか……。
疑問と疑いの念しか残らない。簡単にさっきの話を呑み込んで行動していいのかもわからない。いや、普通なら絶対に従わない。
それでも、この世界において自分たちは何も知らないちっぽけな存在だ。まだ、その程度の存在なのだ。魔女の集落でお婆さんが言っていた、歴史に何かしらの影響を与える人物になり得るような存在ではない。
ならば、ここはひとつ話にのってみるのもありなのかもしれない。
「ノマスさんの話、のってみるか」
「……ひろ君。それ、本気で言ってるの?」
「冗談でこんなこと言わねえよ。どのみち何かしらアクションは起こさなくちゃいけないんだ。ならこれがそのきっかけだったと考えて動き出したほうが楽じゃないか?」
「それはそうかもしれないけど……うーん…」
「何か引っかかることでもあったか?」
「逆に引っかかることしかないから、ノマスさんの話が余計怪しいの!わかる!?わかってよ!!」
「それ言い出したらキリないぜ……」
「でもでも…」
「でもよりかは、動いてみること。迷ったら目の前のできることから。……違うか?」
「……そうかもしれないけどさ」
「ま、どう転ぶかは俺ら次第だ。とりあえずノマスさんが言ってた大会?みたいなのに明日にでもいいから出場願いだしてこようぜ」
「どうしてそう前向きなのかなぁ……」
はぁ、と疲れたようなため息を漏らしながらも、葵はしょうがないなと言わんばかりの顔をしながらも協力してくれることになった。
「なら、まずやらないといけないことは…」
すっと広場の方に目を向ける。
「だから!お酒は!飲めないって!言ってるじゃないですかあああああああ!!!?!?!」
数名の男性に酒を持て追い回されているジャルへ目線を合わせる。その目は今にも助けてほしいと言わんばかりの目をしていた。というか、どうして外に逃げないんだ…?まぁ頭がまわっていないだけだろう。
「あれをどうにかするか……」
「……そうだね」
その後、俺たちもドラゴンナイツ騎士団の男性たちにジャル同様に追い掛け回されながら、何とかジャルを救出すると、春香に先に戻っておくことを伝えて春香と別れてから騎士団の拠点を後にした。外に出た頃には、走り過ぎてすっかり3人ともクタクタで床に座り込んでいた。
「あの人たち……体力……有り余り過ぎだろ!!」
息を切らしながら、そう文句を言うことしかできないほどあの男性たちは体力があった。実際、外に出た今でも、どんちゃん騒ぎやらドタバタと暴れる音が聞こえてくる。体力お化けかよ…。
そんな騎士団の在り方がなんだかおかしくて、不思議と笑ってしまっていた。大きな声で笑ってしまった。葵やジャルからしたらおかしくなったと思われてもおかしくないだろう。でも、久しぶりだったんだ。あまりにも、これほどまでに騒がしい日々は。だから自然に笑ってしまっていた。そんな俺を、この世界の夜空は静かに受け止めてくれた。周囲に俺ら以外の人の気配はなく、いつの間にか静寂に包まれていたフリーテ。ノマスさんへの疑問の念なんて忘れ去ってしまうほど、俺は気分がよくなってしまっていた。本当になんでだろうか。自分でも、よくわからない。その日はそのまま何も考えず3人で宿まで帰ると、俺たちはそれぞれの部屋に入り、逃げ回ったことで消耗した体力を回復するためにそのまま床に就いた。
次の日。
「あんた何勝手にやってんのよ!?」
サーシャの叫び声で目が覚めた。外はもう明るく、騒がしい音が聞こえてくる。眼をこすりながらも節々が痛む体を何とか動かして立ち上がると、サーシャの声が聞こえた方へ向かった。
「いやー良かれと思ってやったんだよー。信じてよー」
「そんなふざけた声で信じれると思ってるの!!??」
「イヤダナー、コワイナー」
宿の休憩スペースで、サーシャは怒り狂った表情で銀狼の胸倉をつかんでいた。
何があった。本当に何があった。
状況が何一つ呑み込めないでいると、俺に気が付いた銀狼がサーシャに胸倉をつかまれながらも声をかけてきた。
「おー、おはよー」
「……お、おはようございます……あの……今何してるんですか…?」
「見てわからない!?」
サーシャの厳しい目がこちらにもギャンと飛んでくる。いや、知らねぇし判らないから聞いてるんだよ。だが、この言葉は口に出したら逆鱗に触れる可能性が高いので、喉から出そうになっていた言葉を呑み込みながら、不安定な状態のサーシャへの質問に首を横に振った。
「……じゃあ、あんたはこいつに何も聞かされてないのね」
「聞かされてるも何も……」
昨日ドラゴンナイツ騎士団の拠点へと向かった時には銀狼がどこにいるかわからなかったから、何をしていたか知る由もないのだ。
俺のそんな反応を見てサーシャは大きくため息をついた後、再び銀狼をキッと睨んだ。見た感じだと、銀狼が何かやらかしたんだろう。……そしておそらく、サーシャや俺が巻き込まれているんだろう。何をしでかしたかは知らないが、まずは聞いてみなければ埒が明かない。
「何したんですか…?」
サーシャがここまで怒るんだ。それなりの事をしたに違いない。サーシャの荷物を壊したりでもしてしまったのだろうか。はたまた、俺たちに何か迷惑こうむることを抱えてきてしまったのだろうか。どれも考えたくはないものだったが、銀狼の答えはそんな難しいことではなかった。
「お前と葵とジャルとサーシャの4人で、フリーテでの大会に参加できるように申し込んだだけだよ」
悪戯が成功したかのような顔でニッと銀狼は笑った。……なるほど、そら、サーシャは怒るだろう。仮にもサーシャは商売ギルドの一員で、商売をしていかなければいけない身。それこそ一つの街に2週間も滞在することなんてめったにないだろう。それを邪魔されたのだ。それは怒るわな……。だが、俺にとっては好都合だった。後々今日には大会に申し込もうと思っていたし、何よりメンバーを捜すために奮闘しなくていいところも助かる。それに、見知った顔ばかりだからノマスさんから聞いた話をしても特に問題はないだろう。どのみち、知った顔の奴らで組んだ方が気が楽だ。
「大丈夫だ!俺が責任もってジャルは戦えるようにするから!!」
「あんたはその前に私に謝罪の一言もないの!!??」
「アヤマルヒツヨウハナイトオモイマース」
そう言ってサーシャの手からひょいッと銀狼は逃げ出すと走って表へと飛び出していった。
「ちょっ!!待ちなさいよ!!!」
その後をサーシャは追いかけて宿を出て行ってしまった。なんと騒がしい人だろう。何かの中心にいないと死んでしまう病でも持ってるのかって思うくらい、銀狼は俺たちを引っ張ってくれているような気がする。成り行きでともにこの街まで来ることになっただけなのに、だ。本当に不思議な人だ。
宿を一度出て、節々が痛む体を日の光を浴びながら大きく伸ばす。
今からやることは山積みだ。それでもやるべきことを、やれることから一つずつこなしていこう。
「よし、やるぞ!」
自分にそう言い聞かせるように気合を入れなおしてから、俺は動き出した。
それからというもの、数日間は忙しい日々が続いた。何度も騎士団の拠点に足を運び、クエストを受けては葵やジャルやサーシャと共に表へ出て、魔物を狩っては報酬を受け取り、時折銀狼が特訓を体が動かなくなるまでしてくれたりと、とにかく充実した毎日を送ることが出来た。
そんな大会一週間前の事だった。
「……召喚士殺しが現れました」
緊急招令ということで呼び出された俺たちに、ノマスさんからその言葉を聞かされた。




