第一章22 フリーテ編 我らドラゴンナイツ騎士団
お待たせしました!!
「……ねーねー、この人寝てるよ」
「行って帰ってきたらこれだよ…。疲れてるのはわかるけどさ、さっさと起きてもらわないと。キーちゃん、好きにしていいよ」
「はーい!!」
聞いたことのない幼い声がかなり近くで聞こえる。それに春香の声も聞こえる。あぁ……やることやってきたのか。だから起こしに来たのか?
ボーッとした頭でそんなことを考えながらふとこの前の事を思い出した。
この前とは、魔女の集落でのことである。春香はあの時俺を起こすためだけにベットを破壊している。あの時パッと起きなかった俺も悪かったかもしれないが、あんなことをやられるのはもう勘弁だ。
何かされる前に起きよう。
そう思って何とか重たい瞼を上げて起き上がろうと決心した時、俺のお腹に誰かが飛び乗った。
「うげっ」
お腹を押されて口から変な声が出る。
目を開けて俺のお腹に飛び乗ってきたものを見る。
「あっ!起きた!!春香!友恵!起きたよ!!」
そこにはまだ年端もいかない少女が俺の腹の上にいた。ニコニコと満面の笑みで俺を見ているその目は、子供が新しい何かに触れる時に見せる希望や夢に満ち溢れた目をしていた。
一瞬、その、光景が、あまりにも………あいつと被ってしまって……
「…………小夜………?」
死んだはずの妹の名を口にしてしまっていた。
その俺の言葉を聞いたからだろうか、春香はすぐにその子を俺の上から抱き上げ、俺の額にデコピンをした。
「…もう起きてるよ……」
そう言って見た春香の顔は申し訳なさそうな顔をしていた。
「……早く起きなさい。紹介したい人たちがいるから…。友恵、キーちゃんをお願い」
春香はそのまま抱き上げた少女を、別の子に渡すとそのまま部屋を出て行ってしまった。
後に残ったのは、気まずい雰囲気。生み出していった当の本人が部屋の中にいないから、余計に空気がおかしくなる。
「……とりあえず、早く起きてくれませんか?」
キーという少女を抱き上げている友恵と呼ばれた少女は、ジトーとこちらを見ながらめんどくさそうにそう言ってそのまま出て行ってしまった。俺はまだ少しだけきつい体を起こして何とか立ち上がった。
俺が仮眠をとる前まで爆睡していた銀狼の姿はすでに部屋にはなく、どうやら俺だけが少しだけ長い間寝てしまっていたようだった。このまままたせるのも申し訳ないので、動きたくないと訴える体に鞭を打って部屋を出た。すでに外の日は落ちており、ろうそくの明かりが優しく宿の中を包み照らしていた。
「よく眠れた?」
俺よりも早く起きたのであろう葵は、俺が部屋を抜けてからすぐの所で先に待っていた。どうやらいろんな人を待たせてしまったいたみたいだ。
「すまん、寝すぎた」
「気にしないでいいよ。みんなようやく街につけて疲れてるし、それくらい普通だって」
「…ありがとな」
「気にしない気にしない。ほら、早くあの子についてこ?」
葵がそう言って指さした先には、先程まで俺の部屋にいた春香から友恵と呼ばれていた少女だった。春香に渡された子を背負い、話しながらこちらの事を気にしていた。彼女をこのまま待たせるわけにはいかないと思い、俺たちは先を進むその子の後をついていった。
夜のフリーテの表通りはかなりにぎわっており、その大半が男性ばかりだった。
他にも、売り子の格好をしたきわどい女性や明らかにやばそうなものを売っているだろうと思うような恰好をした輩も少なからずいた。
そして酒の匂いと騒がしいほどの周囲から聞こえてくる笑い声。この街が他の町と違いとても繁栄しているということが目に見えてわかった。
そんな人ごみの中を、俺たちの先を行く友恵は隙間を縫うようにすいすいと進んで行き、立ち止まっては俺たちがきちんとついてきているか確認しながらまた先へと進んで行った。
俺たち二人も何とか人ごみに飲まれないようにしながらその影を追う。そのことだけに必死だった。それくらい人が多いのだ。
そうして何とか人ごみを抜けてから少しして前を行く友恵はある建物の前で立ち止まった。
「ここです。それでは入りましょう」
俺たちが追いついてから、そう言い残して友恵は建物の中に消えてしまった。
その後を追ってその建物の中に入ると……
一言で表すのなら混沌。酒でべろべろに酔った男たちが酔いつぶれ、服を脱ぎ、殴り合い、騒いでいた。
そしてなぜかその中にジャルが引きつった顔で座っていた。
「こぉら!!あんたら!!騒ぎ過ぎない!!そこ!!酒飲みすぎ!!」
静まらない空間で声を張り上げているのは春香。顔の必死さから、普段からの苦労が感じられる。
「……またやってるよ」
俺たちより先に入った友恵は、ため息をつきながらその光景を冷たい目で見ていた。
「いやぁ、騒がしくしてすみませんねぇ。……友恵、お客様ですか?」
背後から突然男性の柔らかい声が聞こえてきた。
「見ればわかるじゃないですか。それじゃぁ私はキーちゃんを寝かしつけますから、その人たちの事をよろしくお願いします」
俺たちを案内してくれた友恵はそう言って、軽く会釈をしてから騒いでいる男性たちの横を静かに通り抜けて、奥の部屋へと消えて行った。
「さて……こういう時は何と言ったらいいのでしょうか…。無難に我々の紹介ですかね?いやぁ困りましたね……」
俺たちを前にして、突然現れた男性は腕を組んで考え始めた。
あの騒ぎをどうにかはしないんだな………。
心の中でそんなツッコミを入れていると、後ろの方がさらに騒がしくなった。
「兄ちゃん!!もっと飲まねぇと!!手が止まってるぜ?」
「あ、あの……。僕、本当に、お酒飲めな……」
「さぁさぁ、遠慮はいらねぇ!!飲め飲め!!」
あまり酒を飲まないジャルに酒を進めているらしい。あの感じだとあまり強くはないのだろう。断りたいが、その性格と周囲の男性たちのせいで断ることが出来ていないというの今の状態だろう。
助けてやりたいが、あの中に入ればまず確実にもまれる。巻き込まれる。それだけは嫌だ。
すまない、ジャル。今回は犠牲になってくれ……。
というかまずなぜそこにいるんだお前は……。
「そうですね。自己紹介をしましょう」
こんな状態であるというのに、変わらずこの男性はニコニコと笑顔で俺たちに話しかけてきた。
「あれ、止めなくていいんですか?」
「いいんですよ。初めからああですから」
少し苦笑い気味でその男性は俺の返事に応えると、俺と葵の前に出て……
「ようこそ、正義と秩序を掲げるドラゴンナイツ騎士団へ。団長補佐の私、ノマス・アランドールが団長に代わってあなた方を歓迎いたしましょう」
俺たちに微笑みながら、ノマスと名乗った男性は手を差し伸べた。




