第一章19 いざ都市フリーテへ
リアルが忙しすぎて禿げました(笑)
「起きろ、寝坊助」
誰かにズムッとお腹にひどい一撃を入れられて、肺の空気が外へと押し出される。
気持ち悪さと息苦しさから飛び起きると、まだそこには眠たそうな春香が機嫌が悪そうな顔をして俺のベットのすぐそばに立っていた。
「もう昼よ」
「………?」
初め春香が何を言ったのか理解できていなかった。窓からは光は差し込んでいないし、部屋の中も設置してあったランプを使ってようやく足元が見える程度だ。だというのに、もう昼だという。
「……お前ついに頭がおかしくなったのか?」
何も考えず、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。そして言ってからやらかしたことに気がづいた。
だが時すでに遅し。朝に弱く、その間とくに機嫌の悪い春香の逆鱗に触れてしまった俺は、先程よりも重たい一撃をお腹にもらい、この時代に来た中で一番の重傷を負った。
「2人も何馬鹿なことやってるの……?」
春香の拳をお腹にもらった後、その衝撃にベットが耐えきれなかったようで真ん中から真っ二つに折れてしまい、突然集落の中で大きな音がしたということで、動ける全員が臨戦態勢に入って部屋の中に突撃してきた。
………そして今に至る。
葵に怖い顔をされ、二人して部屋の真ん中に正座で座らされ俺たち2人はこっぴどく説教を受けていた。周囲にいた魔女の人たちも、この状態には呆れを通り越した感情がわいてきたらしく、とても冷たい目で見られた。
いや、俺のせいじゃねえじゃん。隣にいる奴のせいじゃん。ジト目になりながら春香の方を見ると、それでも私は悪くないみたいな顔をしていたため、少しだけカチンときてしまった。
「おまえなぁ……あんな殴って起こさなくても良かっただろ?」
「……うっさいわね。良いでしょ?結果起きれたんだから」
「その結果がこれだから駄目なんでしょ!?」
「五月蠅い。小さいことで怒ってたらストレスではげるよ」
「うるせー馬鹿野郎!!ってかこれのどこが小さいことn」
「……ひろ君?少し黙ってよっか?」
葵の恐怖の笑みが俺の顔に迫る。
顔が近いことと、いつもとは違うその表情に思わずタジタジとしてしまう。
そんな騒がしい朝を久しぶりに迎えたことを、心の中で少しだけうれしく思ってしまった自分がいた。
結果だけ言えば、あの後こってり絞られてお婆さんやほかの人たちにも謝ってから、ようやく解放された。
昨日の疲れがまだ抜けきっていなかったからか、普段誰かから説教を喰らう時よりもきつく感じられた。
日がすでに傾き始めているのか、森の中にあるこの集落は少しずつ暗闇に隠れるように暗くなり始めていた。
「まったく…あんたのせいで夜になっちゃったじゃない」
「もとはと言えば、あんな起こし方する春香の方が悪いだろ」
「私達ではあれが普通なのよ」
………私達?
「とにかく、今日は3人で情報を整理しましょう。先に葵ちゃんが食堂で待ってるから」
「そう言えばそんな話してたな」
今日の件や疲れていたこともあって、昨日の話の事をすっかり忘れていた。
「……あんた忘れてたなんて言わないわよね?」
ジト目でこちらを見る春香。
「ソンナコトナイヨー」と片言で返事をしながら、殴られたり、何か文句を言われないようにするためにいつもより少しだけ速足になりながら食堂へと向かった。
食堂では先に待っていたのか、葵が食事を軽くつまみながら待っていた。机いっぱいに広げられた食事、なぜこんなに頼んだんだと思いながらも、椅子に座った。
「色々とお疲れ様でした。ささ、まずは食べよ?」
俺たちが席に座るや否や、お腹を空かせていたのか葵はうきうきと楽しそうにしながら食事に手を伸ばしていた。それに続くように春香も食べ始めたのでまずは腹ごしらえでもと俺も目の前の料理に手を付けた。食事をし始めて少ししてから、ようやく今日の本題へと入った。
「それじゃあ、今日までの話を整理しよっか。じゃぁまずは私からね」
そう言って葵は今日までこの時代であった事を話してくれた。
俺たちと離れ離れになった後、2カ月前のこの森に落ちてきたこと。その時変な杖を手に握っていたこと。魔女見習として婆様に助けてもらい、この集落へと導かれたこと。そして……この場所で院術を身につけたこと。簡潔に、それでもわかりやすく話してくれた。
「禁術ってのは……あれか。魔法の詠唱をすっ飛ばしてたやつか」
「うん。それと転移魔法だね」
そう言って葵は黒くなった表紙の本を2冊取り出した。
「これが……禁術の本?」
手に取って軽くパラパラとめくってみた。その本はところどころ黄ばんでいて……そして何よりも本としておかしかった。俺は初めこの本にその術の事がすべて書いてあるものだと思っていた。だが、ところどころ白紙で数十ページのわりに、肝心の魔法が書いてある部分は数ページしかなかった。その大半が落書きのようなもので、しかも”日本語”で書かれていた。
「……何だこの本」
一緒にのぞき込んでいた春香も、顔をしかめていた。
「こんな時代、特に日本語はこの世界に普及してないのに、禁術の本が日本語……」
昨日ジャルを狙ってきた暗殺者の反応を見るに、おそらくそれなりに知っている人はいるはずだ。なら、こういうのは認知されている言語で書かれていることが多いはずだ。それなのに、なぜ日本語で書かれているんだろう?
「正直何度も読んでみたんだけど、私には魔法についての記述が書いてあること以外はよくわからない内容だったの」
確かに葵の言う通り、魔法の使い方が書いてあるということ以外はよくわからない内容だった
……よく見たら人の名前みたいなのも書いてあるような?それに……これよく見たら作戦みたいなのも書いてあるような気が……。
「そしてこれがもう一つの変な杖」
俺が魔だ禁術の本について考えている途中で、葵は俺が神器を取り出すように手を前にかざすとそこには鈍く光る金色の杖が現れた。
「婆様は多分神器だろうっていうんだけど……普通はそんな簡単に手に入るものじゃないでしょう?だから何なのかなって…」
それを見て真っ先に反応したのは春香だった。
「私と似たようなことがあったみたいね」
そう言って春香も葵と同じように手を前にかざすと、鈍く金色に光る籠手のようなものが現れた。
「私もこの時代に来た時、これを身に着けてた。それが6カ月前。まぁその後はなんやかんやあってね、軍に入隊して、それで最近都市フリーテに暗殺者がいるって情報が入ったから急いでフリーテまで来たら、突然あんたたちの近くにまで飛ばされてた」
「と、飛ばされてた!?」
「そ、理由はわからないけど急にね。だから、軍の皆は私が突然消えたって騒いでるでしょうね」
「お前それ絶対そんな落ち付いたトーンで言えるほど小さな出来事じゃないだろ……」
「大丈夫なの?春ちゃん?」
「何とかなるわ。どうせ”またなんかやらかしたんだろ”ってくらいにしか考えてないはずだから」
それでいいのか軍組織。
まぁ、良くも悪くも春香は全く変わっていないっようだった。ちょっと組織としてはどうかと思うけど…まぁいいや、今の所俺には関係ないし。
「それであんたは?ここに来るまでに何をしてきたの?」
自分の事は話したと言わんばかりに、春香が俺に話を振ってきた。おそらくもう話すこともないのだろう。葵が詳しく説明してくれたのにそんな雑でいいのかと思いながらも、俺はここ数週間の事を話した。
神の使いに間違えられたこと、現地の子たちと共に謎の古代遺跡を攻略して黒い神器を手に入れたこと、そこでサーシャやジャルに出会ったこと、2人に助けてもらいながらこの場所まで来たこと。そして、この場所で葵や春香と再会したこと。とりあえず覚えていることはすべて話した。
「ふーん。あんたもいろいろあったのね~」
「黒い神器……そう言えば昨日の敵も言ってたよね。確か……予言の黒の神器使い?だっけ?」
「確かに、なんかそんなこと言ってたな。でも今までそんな話聞いたことないよな…?」
「まぁきっと何か情報はあるはずだから、これからその情報について探してみましょう」
「なら都市に行くのが手っ取り早いわね。みんなも待たせてるし情報を集めるためにも、フリーテに向かいましょ」
そうして、これからの方針と目的が決まったところで、気が付けば机の上に並べられたお皿がすべてからになっているのに気付いた。そして周囲には俺たち以外にはほとんど人はいなかった。どうやらかなり長い間喋りこんでしまったみたいだ。
「私は明日婆様に相談してみる。ひろ君や春ちゃんは、他の準備をしといてくれないかな?」
立ち上がりながらそう言う葵に、俺たちも立ち上がりながらうなずくと
「じゃぁ、出る準備は済ませておくから葵ちゃんは明日ちゃんと話付けてきてね」
「なら俺は、サーシャとジャルに話してくるかな」
それぞれが明日やることを明確にしてから別れると、その日はすぐに眠りについた。
次の日から、とんとんと話は進んで行った。
葵は今まで世話になったお婆さんに、これからの事を話し何とか了承をもらうことが出来た。その間春香は集落の中で揃えられそうなものを人数分集め、俺はサーシャとジャルにもうすぐフリーテに旅経つことを伝えた。サーシャはもうすでに傷口は塞がったようで、いつものようにピンピンとしていて、近くにいるジャルをいいように使っていた。少しだけジャルが可哀そうに思えたが、首を突っ込むと巻き込まれそうだったので、何も触れないことにした。そんな中驚いたのは……
「フリーテに向かうのか?俺もそこに用があるんだ。よかったら一緒に行ってもいいか?」
銀狼もフリーテに用があるということで、同行してくれることになったことだった。
そして、フリーテに向かうという話が出てから3日後、俺たちは魔女の集落の入り口に荷物を持って立っていた。
「婆様、短い間でしたがお世話になりました」
入り口まで来てくれたお婆さんや、動ける魔女の人たちに葵は深く頭を下げた。それに合わせるように俺や春香も頭を下げた。
「気にするでない。もともと、こうなることは初めから予想がついていたことでもある」
そう言いながらお婆さんは、頭を下げる俺たちに頭を上げるようにと優しい言葉をかけてくれた後、葵に黒い本を2冊とプレートのようなものを手渡した。
黒い本はこの前の禁術の本だった。
「…持って行くといい。儂らには手に余る力じゃ。使ってくれるものが使ったほうが良いじゃろう。それと、そのプレートはスカイピアへの通行証じゃ。儂名義じゃからおそらく使えるじゃろう。何かあったら使うとよい」
「ありがとうございます!!婆様!!」
葵はもらったものを胸に抱いて何度も何度もお婆さんに頭を下げていた。
それだけ素晴らしい人だったのだろう。俺もできればもう少しこの人に関わってみたかった。
「そうじゃ少年」
葵の相手をしながら、お婆さんは俺を呼んだ。
何かと思って近づいてみると、突然何かの術式を俺にぶつけた。
「な、なにしたんですか…?」
突然やられたことに訳も分からず混乱していると、
「サーシャ、彼に普段使っている言語で話しかけてごらんなさい」
お婆さんがサーシャに向かって優しい言葉でそう言った。
サーシャはめんどくさそうな顔をしながらも、その言うことに従って俺に話しかけてきた。
「……次に向かうのはフリーテです。理解できていますか?」
…?
何を言ってるんだ?
「いや、そんなことお前に言われんでもわかってるわ」
俺がそう返事をしたとき、サーシャハは目を丸くしていた。
「あなた今言ってたことが聞き取れてるんですか?」
「聞き取れるも何も…さっきも日本語…東洋語で話してたじゃないか」
むしろ理解できない方がおかしいのでは?そう思っているとサーシャから意外な言葉が飛び出した。
「先程話しかけた言語は、東洋語ではありませんよ?この世界の共通言語です」
その声を聞いて、頭の中が一瞬フリーズした。一体どういうことなのかと頭が回らなかった。だがその答えはすぐにお婆さんから聞くことが出来た。
「本来とは使い方が違うんじゃが……すべての言語を話したり、聞くことが出来るように魔法をかけさせてもらったぞ。少しは楽になるじゃろうて」
……ホント、この人はすごい人だ。お礼を言っても足りないくらいの事を俺たちに分けてくれる。
だからこそ葵もきっとあんなに感謝するんだろう。それくらいの魅力を持った人だ。
だがここに長くとどまるわけにはいかない。すぐにでも未来に帰る方法を探して、俺たちは旅を再開しなければならない。
何度も頭を下げながらも、俺たちはお婆さんたちにお別れの言葉を告げて魔女の森を後にした。目指す場所はフリーテ。この島の中で最も大きい貴族国家。いったいどんなところなのだろうか。何か未来に帰る方法でも見つかるといいんだが。俺はそんなことを考えながら、魔女の集落を後にした。




