第一章18 下を向かずに前を向け (改行済み)
今回はかなりスムーズにかけました。
次回更新の目標は日曜か月曜にできればいいなって思ってます
あの後すぐに魔女の集落は再び結界を張り、完全にとまではいかなかったが生活できるくらいには元通りになった。
しかし、自分たちを守るために周囲に貼っていた霧が思わぬ形で自分たちに牙をむいたらしく、魔女見習の子たちや、魔女の方々も怪我を負っていた。
中には亡くなってしまった方もいた。
悲しみに包まれてしまった魔女の集落の中で、俺たちは出来るだけの事をやった。
そして、そんなバタバタしていたこともあってすっかり夜になってしまった。
”君も休みなさい”
誰かからそう言われ、その言葉に従ってふらふらとした足取りへ食堂へと向かった。
かれこれ10時間以上何も飲み食いしていない。
せめて何か腹に入れたかった。
そんな欲求のまま食堂へと足を踏み入れると、昨日や今日の朝とは異なり、がらんとしていて、その隅っこの方で葵と春香がうつむいて座っていた。
そんな葵たちの席まで行き、俺は開いていた席に腰を下ろした。
「……何しょげてんだ」
「……改めて、私たちはまだまだ未熟者だってことを自覚させられたわ」
うつむきながら悔しそうに言う春香の声には、様々な感情が入り乱れていた。
「春ちゃんだけのせいじゃないよ。……私も全く指示を出せなかった。作り上げた作戦が破綻した時に、次の作戦をすぐに提示できなかった」
葵も悔しそうな声でそうつぶやいた。
その頬には涙が流れた後が残っていた。
「お前ら自分ばかり責めるなよ。俺たちは何もできなかった。……それだけだ」
ぽつりとつぶやいた俺の言葉に返すものは誰もいなかった。
俺自身も自分に絶望している。
苦労して習得した体術、技はあの敵には全く通用しなかった。
それどころか、グレゴリアスのような魔物と対峙した時には、身体すら動かなくなった。
何もかもが足りない。
実力も、経験も。
この時代において俺たちはあまりにも無知すぎる。
そのことを体で感じて、絶望していた。
腹はすいている。
だが今、こんな空気で食事をとりたくはなかった。
そんなくらい俺たちしかいない食堂に何者かが入り口から入ってきた。
「あら、お前さんら何しとるんね?」
俺たちを見つけてそう話しかけてきたのは、先程の戦いで助けてもらった銀髪の少年、銀狼だった。
彼はこんな状況にあるというにもかかわらず、笑顔でそれでいて何かに満ち溢れていた。
そんな彼を羨ましく思ったし、それでいて憎たらしくもなった。
どうしてこんな状況で笑っていられるのか、と。
「……命の恩人にかけるべき言葉ではないと思うけど……どうしてそんな風に笑っていられるわけ?」
春香も同じことを思っていたのか、銀狼を少し睨みながら少し突きつけるような口調でその言葉を投げつけた。
そんな無礼な態度をとってしまったのにもかかわらず、銀狼は答えてくれた。
「慣れだよ。慣れ。こればかりはもう慣れるしかない。だってそうだろ?戦場で一人も死なないなんてことは絶対にない。……仮にもし、そんなきれいごと言うやつがいるのなら、間違いなくそいつはさらなる不幸を呼ぶね」
苦笑いで答えながらも、銀狼の言っていることは的を得ていた。
戦いで死者が出ないなんてことはない。
確かに彼の言う通りだ。
それに前向きに考えるのなら、村も十分に生活できる状態だし、そこまで一気に多くの人が殺されたり、死んだりしたわけじゃない。
少なくとも、今の俺たちの中では最高の結果だろう。
「ま、要は気にしてたってきりがないってことだ。あんまり根詰め過ぎるなよ」
そう言って、彼は休みもせずにすぐに食堂の外へと出ていった。
凄い人だ。戦った後あそこまで振舞える人は、そういないだろう。
だからこそなのだろう。
銀狼は行きつくところまで行きついてしまった。
だから笑っていられる。
「……戦いって、むなしいものだな」
「…そうだね」
葵は小さな声で俺の声にこたえてくれた。
春香は何も言わずに、銀狼の話を聞いている最中にもただただ下を向いていた。
その拳は力強く握りしめられていた。
「……もう少し、私たちが強かったら少しでも結果は変わってたかな?」
普段の春香とは違い、元気のない声で春香はそう言った。
「もっと……もっと……特訓してれば、こんなことにはならなかったかな……?」
いつもと違うその声に、なんて声をかけてやればいいか分からなかった。
ただ、言えることは一つ。
この場所に来てそう時間が経っていない俺らは、そう簡単にこの世界に順応できるはずがない。
俺でも苦戦するんだ。
今からかける言葉が慰めになるかはわからないが、それでも言っておく必要がある。
……春香は意外と心が弱いから。
「……この場所に来て2週間そこいらで、あんな強敵と戦って生き残った。今はそれでいいじゃんか」
春香の癪に触らないように。
それでいて、言われてもあまり苦にならない言葉を何とかひねり出して口に出す。
この返答に何が来るのかと身構えていたら、予想していた物とは全く違う返答が返ってきた。
「……2週間?6カ月の間違いでしょ?」
何言ってんのよと言わんばかりにこちらに視線を向ける春香。
だが、その視線を向けたのは春香だけではなかった。
「え?2ヵ月じゃないの?……えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
……まて。
急に話がかみ合わなくなったぞ。
ういうことだ?
「……この話は明日しよっか。今日はとりあえず休も?」
「……そうね。今私が何してるかも、それになんでこの場所に突然飛ばされたかも知らないとね……他にも話さないといけないことはたくさんあるし」
そう言って今まで下を向いていた春香は顔を上げて立ち上がった。
その顔は俺たちが見慣れている顔に戻っていた。
「それじゃぁ、明日ね」
「また明日ね。今日はひろ君もしっかり休むんだよ?」
「…あいよー」
俺の身を案じながらも、葵と春香は静かに食堂を出ていった。
取り残された俺はただっぴろい食堂に少しの間だけ静かに座って過ごした。
この集落には似つかないほど広いこの食堂、人が全くおらず灯りもろくにないこの状態だとより一層寂しさが増す。
かつて経験した孤独が再び脳裏をよぎる。
あの場所は血にまみれたひどい場所だった。
少なくとも、この場所とは全く違う。
でも、それでも、暗闇の中、狭い部屋の中、誰もいない空間。
思い出してしまう。
……思い出したくなくとも。
「……寝るか」
こんなことを思い出すのはきっと疲れているからだ。きっとそうに違いない。
明日に備えて今日はもう寝よう。
俺は椅子から立ち上がると、少し速足で食堂を出てそのまま借りていた部屋に戻ると、そのまま布団にもぐり眠りについた。
少しだけ寝づらいと思いながらも、俺はゆっくりと夢の中へ落ちていった。




