第一章14 その拳は閃光の如く煌めいて (改行済み)
文章能力の低下が最近の悩みです
走って駆け付けたものは良いものの……状況はあまりよくない。
近くでは血だまりができている。
おそらくサーシャが駆け付けた頃には、ジャルは相当な怪我を負っていたことだろう。
それをなんとかこちらに引き戻して、応急処置を行った。
というのが今の現状だろう。
とりあえず、クイックヒールをジャルにかけてから、俺はサーシャの横に並び相手を見据える。
相手の手元には2本の黒いナイフ。
……あれで襲ったのか?
「…洋一は下がっていてください。こいつは私がやります」
「いや、この状況で1人で戦うのは危険すぎる。全員で戦った方がまだ……」
「い・い・か・ら!!下がっていてください!!」
そうして俺を無理矢理下がらせると、サーシャはさっそく仕掛けた。
敵に向かっていくつかのクオーツを同時に投げ込み、一気に前に出た。
敵もそれを見てサーシャ同様、前に駆け出す。
距離は20もない、ましてや視界も悪い。
そんな状態で前に詰めるなんて、正気じゃない。
そんなサーシャは投げたクオーツが敵に近づいた時に、クオーツめがけてペンデュラムを飛ばした。
だがそれは敵も予想済みであったのか、簡単にクオーツを破壊した。
だが敵がクオーツを破壊した瞬間、そのクオーツが突然発光すると、敵を巻き込んで爆発した。
それに呼応するかのように、他の投げたクオーツも爆発していく。
俺は一瞬何が起こっているのかわからなかった。
その間も、サーシャはペンデュラムを素早く振り回しながらさらに追加でクオーツを投げ込んで起動させていく。
圧倒的な戦い方に初めは倒したのか?とさえ思った。
そう思った時、サーシャの近くの草むらが少しだけ揺れたような気がした。
その位置はサーシャの視覚外、俺たちしか気づけない。
とっさに刀を引き抜きながらサーシャに向かって走り出す。
「サーシャ!!前に飛べ!!」
とっさに叫んだ声に反応したサーシャが前に飛ぶ。
それとほぼ同時に敵が先ほどまでサーシャがいた位置に向かって、ナイフを振りかぶった。
もちろんそこにサーシャはいない。
そこに向かって俺は抜刀した刀を相手の背後から斬りかかる。
サーシャもすぐに態勢を立て直し、敵に向かってペンデュラムを投げた。
確実に一撃は入れた!
俺もサーシャもそう思った。
だが、刀が斬りつけたものはサーシャのクオーツだった。
「お前……目がいいなぁ……」
背後からそう声をかけられる。
とっさに回転しながら背後を斬りつける。
が、それよりも早く敵はナイフを俺の体に向かって振り下ろしていた。
駄目だ、回避が間に合わない。
何とか致命傷だけでも避けようと、体を無理矢理ひねる。
そんな時だった。
「高速詠唱!!スペル省略!!転移!!」
ジャルとともに後ろの方にいた葵が、早口でそう唱えた。
目の前の敵が一瞬のうちに消える。
「大丈夫!?」
すぐ背後から葵に声をかけられる。
これは……俺が転移したのか?
「…ははっ!!禁術持ちもいるじゃねえか!!これは狩りがいがありそうだなぁ!!」
笑いながらそいつは俺たちの方に急接近してきた。
しかも、その動きが陽炎のように動くから、霧の中だということも相まって余計に見づらい。
接近してきたタイミングで何とか敵の攻撃をはじき返し、相手を後退させることで精いっぱいだった。
だが、攻めるのならここを起点にするしかない。
「サーシャ!!」
「分かってるわよ!!」
今すぐに動ける可能性のあるものの名前を叫ぶ。
サーシャは俺が呼ぶことを理解していたかのよう敵が回避して動いた位置の背後からペンデュラムを投げつけた。
だがその攻撃もいとも簡単に弾かれた。
こいつ頭の後ろに目でも付いてんのか!?と疑いたくなるほど、敵は見事に攻撃をいなしたのでより一層攻め入る隙がなくなってしまった。
この場合、どう動く。
どう展開する。
「葵!!なんか作戦あるか!?」
俺の頭ではすぐに作戦を組みたてて実践に反映することは不可能だ。
けれど葵はそんな俺たちを戦場でも常に、被害の少ない方法を導いてみせた。
敵の行動を少し見た今ならいくつか攻め方を考えついているかもしれない。
少し懸けでもあったが、葵は眉をひそめながらも頷いた。
それなら、何とかなるかもしれない。
「中身は!?」
「とりあえず、ひろ君とサーシャさんで敵を引き付けておいて欲しいかな!!できれば近くがいい!!」
「OK!!任せろ!!サーシャ!行くぞ!!」
「…あなたが私に指図しないでください!!」
敵を挟みあうような位置に立っていた俺とサーシャ、俺は距離を保ちながらも葵たちのところに行かせないように間合いをとり、サーシャはそのサポートに徹してくれた。
口は厳しいが、サーシャは意外と優しい。
そんなサーシャに感謝しながら、敵の間合いに入らないように、それでいて敵を自分の間合いに誘い込む。
正直、かなり難しい芸当だがサーシャが何とかそれを助けてくれている。
サポートがなかったらこんなことできなかっただろう。
敵の攻撃を弾き、前に踏み込みながら乱舞するように刀を振り続ける。
迷いを持ってはいけない。
動き方を一瞬でも迷えばその隙をつかれる。
だからこそ、止まることはできない。
ひろ君たちが何とか敵の足止めをができているのを確認してから、葵はジャルの方を向いて
「今回の戦いの切り札はあなたです。ジャルさん」
「な、な、な!なんで!!僕なんですか!!?」
「それはジャルさんがおそらくこの中で一番弱いからです」
その言葉にジャルさんは訳が分からないと騒ぎ出した。
確かに弱いと言われて戦地に行きたいなんて言う人はいない。
でも……だからこそ、この作戦がある。
「ジャルさんは一番弱い相手が最前線で攻めてくると思いますか?」
「……そ、そんなことは…ない、と思うけど……」
「弾避け等の可能性もないこともないですが、普通はそんなことしません。そして、敵も弱い人が接近戦をしてくるとは考えていないはずです」
「つ、つまりは……?」
「タイミングを見計らってジャルさんを敵の目の前に送り込みます。転移した瞬間に力いっぱい槍を突き出してくれれば結構です」
「出来ないよそんなこと!!」
私の言葉を力強く否定する。
だけど、今回はそれくらい自信がないほうがこちらにとっても都合がいい。
変にここで自信をつけてもらっても粋がって自滅するだけだから。
「そう思ってもらっていても構いません。……ただ、私や、ひろ君、サーシャさんを信じてください」
ただ、信じてほしいと、そう願った。
敵の攻撃を引き付けておくのは良いものの、正直疲れがたまってきた。
何しろ相手がどんな奴かも知らないし、何を用いて戦うのかなどの前情報も一切ない。
情報を手に入れようとしても、その前に回避を優先させてしまうため、詳しく相手の行動を見ることができない。
ほぼ、詰みの状態に近い。
それでも何とか立ち回る。
あがく。
出なければ死んでしまうから。
今一番足りないものは仲間だ。
圧倒的人数不足。
実力不足。
あげていけばきりがないが、今一番足りないのは人数だ。
4人でこの相手はきつすぎる。
せめて6人は欲しかった。
かく乱してくれる奴が一人と攻撃を受け止めてくれる奴が。
……あいつがいれば、春香がいればもう少し楽に立ち回れたかもしれないのに……。
春香がいれば……!!!
そう強く願った。
その時だった。
「見いいいつううけええたああああああああああ!!!」
そんな叫び声をあげながら何者かがこちらに向かってきていた。
俺とサーシャと敵、全員の動きが硬直する。誰しもが意識をその声の主に向けていた。
そしてそいつは俺たちの前に姿を現すと……
ためらいもなく、敵の懐に潜り込み顔面を力強く殴った。
「ひろ!葵ちゃん!無事!?」
見た目は軽装でありながらも、しっかり武装したあいつがそこには立っていた。
「春香!?」
「春ちゃん!?」
都合が良すぎるその登場に、誰しもが目を丸くした。
だが驚いている俺たちを置いて、春香はすぐに動き出した。
「葵ちゃん!どうせ作戦は思いついてるんでしょ?何すればいい!?」
「っ!敵の攻撃を引きつけといて!!」
「任せといて!!ほら行くよ馬鹿ひろ!!」
「……っ!うっせぇ!!言われなくてもわかってんだよ!!サーシャ!!頼む!!」
「ああもう!!やってやるわよ!!」
サーシャはやけくそと言わんばかりに声を荒げた。
その声を聞きながら、俺と春香は敵に向かって走り出した。




