第一章13 魔女の集落防衛戦 (改行済み)
領域が展開されなにかを感じとった俺とサーシャは、急いで魔女の集落に戻った。
集落に戻ると、この集落にいる魔女の方々が様々な魔法を駆使して、集落を守ろうとしていた。
その中心には、あのお婆さんが険しそうな顔で数名の還暦のある魔女の方々と話し合っていた。
「お婆さん!!」
「おぉ!無事に戻ったか。よかった、主らのことを心配しておったんじゃ」
お婆さんは俺たちを見て安堵の表情を浮かべながらそう言った。
「…何があったの?」
周囲の慌ただしい状況から、とても大変なことが起きているという事だけは理解出来た。
その状況を見てからサーシャはお婆さんに今何が起きているのかを知るために、珍しく焦ったような声で問いかけていた。
「……我々が最も危惧していたことが起こった。フリーテから殺人犯がこちらの方に逃げ込んできた」
それは、この集落から一度出る前に聞いた話だった。
フリーテで発生した奇妙な殺人事件……だったかな?
「ここまで厳重体制に入るということは、それだけやばい相手ってことですか?」
「もしかしてこのことも知らないんですか!?あなたどんだけ無知なんですか!?」
またしても何も知らない俺にサーシャからの鋭い指摘が入った。
うるせいやい、こちとら昨日から得る情報が多すぎて頭がパンクしそうなんじゃい。
少しはわかってくれ。
と言いたいが、言っても意味ないだろうし、そもそもサーシャに俺や葵が"時空をさまよう者"だということを説明していない。
そのことを説明すればきっと理解してもらえるかもしれない。
だが、やはりお婆さんの言った歴史に影響を与える存在というワードがどうしても引っかかってしまい、俺は言いかけた言葉を飲み込み、
「……悪かったな。何も知らねえんだよほんとに」
「……どんな田舎から出てくればそこまで情報に疎くなれるのですか……。いいです、説明してあげます」
そうして無愛想な返事をしながらも,サーシャは俺に丁寧に説明してくれた。
その殺人鬼は、特定の共通点がある人間を狙っていること。そしてなにか大きなもので斬殺されたり、頭に小さな穴が空いたりしていること。
「その特定の共通点ってのは?」
「全員召喚士です。魔物だったり精霊だったり……とにかくなにかを使役しているだけで標的にされるみたいなんです」
まぁ確かにそれは奇妙な殺人だ。
貴族とか村を1つとかならまだ理由がどんなものか想像できるが、召喚士を無差別でっていうのがなぜなのかわからない。
もし仮に、殺すのだとしても狙うのは一人でいいはずだ。
それとも、それ相応の理由があるのか……。
まぁ今はそんなことを気にしている暇はないな。
今はこの状況を切り抜けることだけを考えよう。
そんなことを考えているときだった。
「……そういえば、主らと主らと共に外へ出たあの少年はどうしたのかね?」
「え?先に戻ってきてないんですか?」
「戻ってきておらぬよ」
パッとサーシャと顔を合わせ最悪の事態のことを想像する。
「………あんの荷物持ち、使えないわね!!」
そんなことを言いながら、サーシャは真っ先にその場をあとにして濃霧の中へと姿を消した。
なんだかんだ言って気にかけてるのか。
そんなこと思いながらもサーシャの後を追おうとすると、お婆さんから
「少年、葵をつれていきなさい。…君は葵とは旧知の中だと聞いている。きっと力になれるはずだ。村を出ていく前に声をかけていくといい」
「わかりました!!ありがとう!お婆さん!!」
そう言っておばあさんたちと別れ、俺は集落の中にいた葵と合流し、訳を説明してからサーシャが消えていった濃霧の方へと進み始めた。
「……あれ?おかしいな。こっちに行けば帰れるはずなのに……」
洋一たちと別れたあと、ジャルは濃霧に囲まれてしまったため自分が今何処にいるのかを掴めずにいた。
……多分こっちだろうという直感だけを信じて歩いてきたことを後悔した。
でも後悔したところでもう遅い。
遠くからは魔物の声も聞こえる。
……戦うのは怖い。
いつもなにかを失う。
プライドも、人としての尊厳も、優しさも、何もかもが消えてしまう。
「……兄さん、怖いよ」
手に持った長槍を力強く握りしめながら小さくぼそっと呟いた。
そんな時近くで小枝が折れる音が聞こえた。
反射的にそちらの方向をビクつきながら見ると、そこには1人の男性が立っていた。
よかった!!
助けが来たんだ!!
「……こっちです!!助けてください!!」
大きな声を出し、助けを乞う。
自分の声に気づいてくれたのか、その人もすぐにこちらの方に姿を現した。
「いやー探しましたよ。あなたがジャル・マーリアさんですね?皆さん探しておられましたよ?」
どうやら迷ってしまった自分を、皆探してくれているみたいだった。
よかった、見捨てられたりしてなかった。
……あれ?僕誰かに自分のフルネームを教えたことって
「それでは死んでください」
突如、相手の手から突き出されたその一撃に自分は反応することが出来なかった。
今何が起こっているのか全く理解が追いつかない。
お腹には黒いナイフのようなものが突きつけられている。
血がとめどなく溢れている。
すぐに激痛が体全体に広がり、地面に膝をつき前かがみになった。
「……おいおい、もう終わりかよ。つまんねえなぁ!!貴族の坊ちゃんよぉ!!あぁ、そうか。もう捨てられたんだったな!!」
目の前の男はそう言いながらさらに背中にもなにかを突き刺した。身体中が変に痛い。
感じたことのない感情、恐怖が襲う。
これが死ぬということなのかと錯覚するほど、怖かった。
「……っち、炎槍でも見れるのかと期待したが、期待しただけ損したな。…もういいや、お前なんかと遊んでもつまんねえから、とりあえず死んでくれ。それがオーダーだからな」
なにかを引き抜く音がすぐそばで聴こえる。
嫌だ、死にたくない。死にたくない!!
ありたっけの力を込めて声を出した。
「……た……す、け……」
それはとてもか細いものだったかもしれない。
恐らく、誰も聞き取れないような声だっただろう。
だが、その声はとどいた。
「荷物持ち!!そのまま伏せてなさい!!」
聞き覚えのある彼女の声が、耳に届いた。
そしてすぐに自分を抱えあげられると、彼女はそいつと距離をとった。
「……煌めきのクオーツか……。なるほど、あんたが例のギルド連合の一角だな?」
「……さぁてどうかしらね。貴族連合の暗殺者さん」
サーシャさんはそう言いながら僕を地面に置くと、僕の腹と背中に刺さったナイフを僕に確認せずに引き抜いた。
もちろん信じられない激痛が身体中に走り、声すら出せない状態になる。
するとその直後、サーシャさんが僕になにかをなげつけた。
するとすぐに痛みが引いた。
体も思ったように動く。
どうやら回復してくれたみたいだった。
「あ、あの、ありがとうございm」
「話はあと!!今は立ちなさい!!死にたいの!?」
感謝を伝えようとしたら、叱責を受けた。
それもそうだ。こんな所で、そんなことする余裕があるわけもない。
立ち上がり、握っていた長槍を暗殺者の方に向ける。
手が震える。
槍の先端が細かく揺れているのがわかる。
……今から殺し合いが始まる。
それを肌で感じてしまい、よりいっそう体が恐怖を感じてしまったのか、先程のように体はいうことを聞いてはくれなかった。
もちろんそんな隙を相手の暗殺者が逃すわけもなかった。
とつじょ、暗殺者の方からいくつものナイフが飛んできた。
何個かはサーシャさんが弾いてくれたが、弾ききれなかったぶんが僕の方に飛んできた。咄嗟に目を瞑った。
そして………金属どうしが激しくぶつかり合う音だけがその場に響いた。
そして……
「大丈夫か!?ジャル!!」
彼の声が聞こえた。
ジャル・マーリア 19歳 男性
4大貴族のうちの1つ、貴族マーリアの次男坊。貴族マーリアは槍を扱うことに長けているということで有名だが、彼は全く槍を扱うことが出来ない。そのため、家を追い出されるような形で軍に入隊させられている。気が弱く、何をするにも自分の意思で動くことが出来ない。だが、洋一との出会いや、何よりサーシャとの出会いが彼を大きく変えていくことになる。




