第一章11 ”時空を超えし者”(添削済み)
葵に引っ張られて連れてこられたのは、先程俺がおばあさんと話していた部屋。
葵がノックして室内に入ると、俺がいた時に出した椅子に座って、カップを持って何かしらのお茶を飲んでいるようであった。
……あれ、サーシャとジャルの行動がおかしくなったあのへんな飲み物じゃないだろうな……。
そんな心配をしているとそばにいる葵から、「婆様は大丈夫」と俺の心配を察してか耳打ちでそう教えてくれた。
本来薬みたいなものだって言ってたからな。
長い間、おそらく飲みなれているだろうし……大丈夫だろう。
……多分。
そんな心にモヤモヤが残り続ける俺を差し置き、お婆さんの近くへと葵は進むと、
「婆様。連れてきました」
魔力を回復する飲み物を飲むお婆さんに、少しだけ大きな声で話しかけた。
葵の言葉を聞いて、口につけていたカップを机の上に音をたてずにおくと、俺たちの方に体を向るとけ
「遅くに呼び出してすまないねぇ。……まぁ座りなさい」
そう言って俺たちを椅子に座るように促した。
お婆さんと正面から向き合う形で机を間に挟んで椅子に座ると、お婆さんはゆっくりと口を開いた。
「何度もすまぬな。……いやはや、まさかお主も時空を超えし者であるとは思わなかったのでな……」
「は、はぁ……。それで……お話とは何ですか?」
大方先程の切り出し方からして、時空を超えし者についてのことだろうとは察しが付く。
葵から聞いた話だけではまだまだ情報が少なかったから、さらに情報を手に入れて整理するためにも、ぜひ話は聞いておくべきだ。
それに、この人ならもしかしたら……。
未来に帰る方法を知っているかもしれない。
今は何が何だかわからない状況だからこそ、ヒントをつかむためにこの人の話を丁寧に聞き取り、理解しなければならない。
「まず初めに言っておかねばならぬ。その子にも言ったが、儂はそなたらの未来に帰る方法は知らぬ。……もしそれを期待させたとしたなら、すまぬ」
……ま、そりゃそうか。
そうポンポンと未来から来ました~、と人が現れるわけでもなし。
それにその方法が分かっているのなら、話を知った時点ですぐに元の時代に戻るように促すはずだ。
「そうさなぁ……。まずは、時空を超えし者について説明しようかの」
「確か、俺たちみたいな時間移動をした人の事を指すんでしたよね」
「確かにそれもそうじゃが、他にも役割がある」
……役割?
「例えばじゃ、儂が知っている時空を超えし者は使命として、邪龍グレゴリアスを討ち滅ぼすというものをもっておった」
「……は?」
え?なんて?
……邪龍グレゴリアス?
あの魔物の事はグレゴリアスとしか呼んだことがない。
「……と言っても知らぬか」
「まぁ……ですね」
「いや、別に構わぬ。……つまり何が言いたいのかというと、何かしらそう言った大きな使命を持っている、歴史に大きな傷跡を残す者。それが時空を超えし者ではないかと儂は考えている」
「……なるほど?」
教科書に出てくる偉人みたいなものだと考えればいいのかな?
……つまりは歴史を動かすような主要人物であるかもしれない……と。
それは中々に大ごとなのでは?
「少なくともお主らは、我々が生きるこの時代、何が起こったのか知っておるじゃろう?」
「まぁそれはもちろん。有名な話ですし……」
この時代、1000年初期頃。
どこからともなく現れたラウルと名乗る人物が、自身を含め20人程度のメンバーで、10年近く続いていた貴族連合とギルド連合の戦いを終結させ。
俺たちの時代では知らない人がいない物語。
そして、今いるこの時代はその出来事が始まる前。
いまだに戦争が続いている、または起ころうとしている状態にある。
そして、まだラウルは出てきていないということになる。
……俺たちがそんなたいそうな歴史に関わってる?
まさかな……。
「もしかしたら、その歴史に関わる主要人物にお主らがなる可能性は十分にあるという事じゃ」
ということは、だ。
「……俺の、俺たちの行動一つで、最悪未来が変わる可能性もあるってことですか?」
「そういうことじゃの」
「でも、まずは私たちに与えられた使命を探したほうが良い。ですよね?婆様」
「じゃの。何をするにしろ、目標は必要じゃ。そのうえで使命も知っていく必要があるじゃろうて」
……何をするにしろ、課題は山積みって事か。
皆を探すこと、未来へ帰る方法を探すこと。
そして、時空を超えし者とやらの使命を達成すること。
……やることが、やることが多い!!
もっとこう、ずばーんどごーんって解決しないかねぇ。
……したらこうはなってないか。
「どうしてこうなったんだかな……」
「巻き込まれちゃったんだもの。今更クヨクヨ言ってもしょうがないよ」
「……それもそうだな」
ともかくやるしかないって言うのだけは確かだ。
「……ここまではよいか?次は、今後について話すとするかの」
時空を超えし者の説明と、俺が今置かれている状況をようやく理解したところで、お婆さんは次の段階へ話を進めた。
「まず歴史を知っておるというのなら、その歴史を再現しなくてはならぬ。パラドクス現象を起こしかねないからの」
「……歴史の再現……」
口では簡単に言ったものの簡単に行えることじゃない。
これはあまりにも大変なことだ。
……下手をすればそこらに歩いている一般人が死んだだけで、俺たちまで死ぬ可能性がある。
……正しく言えば”存在しなかったことになる”。
「かなり苦しい旅路になるじゃろう。そして、おそらくは誰も経験したことのないことじゃ。儂も含め、良き理解者はおそらくおらぬじゃろう。……それでも、お主らは進む覚悟はあるか?」
「……進むも何も、行くしかない」
「だね。じゃないと、何も始まらないですし!」
どうせ引き返すことはできない。
なら、進むしかない。
離れ離れになった皆と再会しながら。
確実に、一歩ずつ、前に。
「……いい目をしておるな。昔のあいつのようじゃ」
「……あいつ?」
「……なに、気にせずともよい。儂個人の……ちょっとした話じゃ」
そう言ってお婆さんは立ち上がると、見知らぬ言葉で何かを唱え、どこかからかお婆さんの杖のようなものが手元に現れた。
……この時代の魔法ってすげぇな。
「今日は疲れたであろう。ゆっくり休みなさい。葵、彼を連れの方々がいる部屋に案内しなさい」
そう言葉を残して、お婆さんは先程取り出した杖で地面をたたくと、地面に魔法陣を展開してどこかへ姿を消してしまった。
……凄い人だな。
魔法の腕も、何もかも。
「……とりあえず、今日はもう休もっか」
「だな。……正直、もう頭の中色んな情報でパンパンだ」
「だね。部屋まで案内するよ」
そう言って座っていた椅子から立ち上がると、部屋を出て先程通った道を通り、客間へと戻った。
色々な話を聞いて疲れたなと、互いに話しながら客間の扉を開けると……。
「なんで!!!なんで!!!あんたが私と一緒に寝てんのよおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
「ししし、しらないですってばあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
見事に修羅場が出来上がっていた。
何も見なかったふりをして、静かに扉を閉める。
「……ひろ君、これどうする?」
「……っ。どうしよっか…………」
そうして客間の中でドタドタと暴れるサーシャと、逃げ回るジャルの悲鳴を外から聞き続け、収まったころに葵と別れて、静かに部屋の中に入り、ベッドでふて寝するサーシャ、ボコボコにやられて地面に横たわるジャルを横目に、外用の布を一枚羽織って地面に横たわると、そのまま静かに眼を閉じ、夢の中に沈んで行った。




