第一章10 平穏(添削済み)
衝撃の再会から少しして、俺は葵に案内され食堂のようなところに来ていた。
「……それにしても驚いた。あの光が近くで見えたからもしかしたらって思ってたけど……。まさか本当にすぐ近くにいるなんて。……もう会えないかもって考えたりもしたけど……本当に良かった……」
「んだな。本当に……再会できてよかった」
正直まだ実感がわかない。
ここに来るまで突飛なことの連続だった。
それこそこんなところに飛ばされたり、神器と呼ばれる不思議なものを手に入れたり、色々な人に助けられたり。
そのどれもが、かつて四島で体験した時のような、非日常的なことだらけだった。
そんな非日常の中で、はぐれた4人のうち1人と再会できた。
まずは何よりも喜ぶべきことだろう。
だが、それよりも今は優先させるべきことがある。
とりあえず話が長くなりそうだと思ったので、先に俺も葵も人があまりよらない角の方の席を選び、簡易的な食事を済ませてから本題に入ることにした。
「それで……この世界について、葵は今どれくらいの事を知ってるんだ?」
「そうだね……私は……」
そして葵は、俺がこの場所にたどり着くまでの事を話しだした。
まず、この場所にたどり着いたのは2カ月ほど前であるということ。
周囲の発言から、どうやら空から落ちて来たみたいだった。
そして意識を失っている葵を、この集落の方々が助けてくれたという事らしい。
けど目覚めたところで、言語が全く違うから言語が全く通じない。
そんな中で唯一日本語を、この時代では東洋語が話せる婆様、おそらくあのお婆さんが何とか支えてくれたおかげで、何とかやってくることが出来たらしかった。
その際に、葵は婆様に自分がこの時代のものではないことを話したらしい。
だが、その時婆様が言ったことが何よりも印象に残ったという事だった。
「……それで、お婆さんは葵の事を何って言ったんだ?」
「”時空を超えし者”……って言ってたよ」
「……時空を超えし者?」
時空を超えし者……か。
確かに、今俺たちが置かれている現状に合った言葉ではある。
でも、何か引っかかる。
俺たちの時代では、物語とかゲームとかでは時間旅行をした人たちの事を、安直にそのまま時間旅行者と言ったような、もっとわかりやすい言葉で表されていた。
それをわざわざ、しかも時空だなんて言い方するか?
……するかもしれないか。
「しかも私たちの場合、戻りたいときに元の時代に戻れないから不正規な手段をとったんじゃないかって」
「んじゃそりゃ。……というか、正規のルートと不正規のルートなんかあるのか?」
「う、うん。……婆様の話では、あるみたいだよ?」
じゃぁもしかしたら、元の時代には帰れない可能性もあるって事か?
……忘れた弁当箱を取りに帰っただけなのに変な奴には襲われるし、助けてもらったと思ったら突然燃え盛る山にいるし。
そんでもって、気が付けば1000年前。
……はーーーーーーーーっ!!やってらんねぇ!!
なんかこう、チチンプイとかいったら実はドッキリでしたーとか、一瞬で元の時代に戻れたりしないだろうか。
……しないんだろうなぁ。
…………………………はぁ……………。
本当に、謎だらけだなこの時代は。
それにしても、葵の話は俺とだいぶ状況が似てるな。
空から落ちてきたということ、人の住んでいる近くに落ちたという事。
ただ、引っかかることがあるとすれば……同じタイミングであの浜辺からこの時代に飛ばされたはずなのに、ここで過ごした時間の長さが違うことだ。
その点も踏まえて、葵に俺が今まで経験してきた事を話した。
「……なるほど。まだこの時代に来て2週間。それで、変な武器を手に入れた……と」
「そんなところだ」
「時間と場所、周囲の環境以外は状況が全く同じ。……なんか気持ち悪いね」
「そうだな。まるで……」
「「誰かに仕込まれているかのような」」
2人してほぼ同時に、まったく同じ結論へとたどり着いた。
「……でも、まだ俺たちしか情報がない」
「だね。……でもまずは、早く皆と合流できればいいけど」
「だな」
どうして過去に飛ばされたのか。
そもそもあの機械のようなものは何なのか。
離れ離れになったみんなは無事なのか。
俺たちは未来に帰ることが出来るのか。
課題は山積みだ。
だからと言って、諦めるわけにはいかない。
1つ1つ、小さなことから、解決していこう。
それが、俺たちのやり方だ。
「あら、もうあの方との話は終わったの?」
話が丁度ひと段落着いたところで、先程俺を置いて部屋を出ていったサーシャが隅の方にいた俺たちに声をかけた。
「あのなぁ……突然部屋出て行ってその言い方は無いだろ」
「私にもやるべきことがあるの。それにどうせした話は私達には話せないようなことでしょ?それくらいは理解してるわよ」
なら先にそのことを伝えてくれよ……。
「ひろ君、この人は?」
「……えっと」
何と言えばいいものやら。
「……妹分?」
「ぶち殺すわよ」
答えた瞬間、すぐさまサーシャは自身の武器をどこからか取り出し、俺の首にその糸のような部分をかけようとしてきた。
「待て待て待て!!冗談!!冗談だって!!なんて言ったらいいかわからなかったから適当に言ってみただけだって!!」
「だとしても!!別の言い方があるでしょう!?」
そのご怒りはごもっともです!
でも口を滑らしてしまったものは仕方がない。
やらかしたことは、どうあがいても消えない。
やられるか、やられるかだ。
……死ぬじゃん、俺。
その結論へと思い至った俺は、首にひもを巻きつけようとしてくるサーシャの身をひらりとかわすと、全力で食堂の出口へ向かって走り出した。
「あ!!逃げるな!!」
逃げ出した俺を見て、サーシャもすぐに俺の後を追い出した。
とりあえず、逃げ場の多い外に出る。
来たときと変わらず、外は変わらず霧が濃い。
少しでもこの集落の外に出てしまえば、間違いなくここには戻ってこれなくなるだろう。
「逃がすと思わないでください!!」
どこに逃げようかと足を止めていた矢先に、大きな声で目を光らせながらサーシャが俺を追って外に出てきた。
俺を見るサーシャのその目は、獲物を狩るハンターのような目をしていて、確実に〆るという強い意志がビンビンと伝わってきた。
……怖えよ!!
あんた一応商売が主だろ!?
今の見た目、明らかに殺し屋にしか見えないぞ!!
そんなこんなでギャーギャーと騒ぎながら、必死に外を逃げ回る。
だが、この追いかけっこは意外な終わりを告げた。
「………………ひろ君?サーシャさん?」
その声を聞いて、俺とサーシャは体を止める。
ふっと声のした方を見ると、いつも以上にニコニコとした顔の葵が俺たちの後を追って外に出出来ていた。
「…………ちょっと……そこ、座ろうか」
そして普段は見ることのない葵の逆鱗に触れた俺たちは、この後こってりと絞られる羽目になった。
しばらくして、ようやく葵の説教から解放された俺たちは、私は用事があるから一度外れるねと言った葵と一度分かれて、げんなりとしながら俺は同じくげんなりしているサーシャに案内されてジャルのいる客間へと足を向けた。
「……なんでここに来たんですか?」
俺たちをみたジャルは、嫌そうな顔をしながらそう言って出迎えた。
……部屋の中には入れてくれるのか。
なんだかんだ言いながら優しいな。
室内に入ると特に凝った内装はなく、簡易的な木製のベッド1つに小さな机と椅子が3つ。
それにカーテンのしまっている小さな小窓が一つと、小部屋のような作りになっていた。
ふーっと俺とサーシャが怒られ疲れで椅子に座って一息つくと、それを見てジャルは部屋の中に置いてあるお茶のセットのようなものを取り出し、水を汲んできてカップに注ぐとそれを俺たちの前に優しく置いた。
ありがとうと言葉を伝えて、一口飲もうとしてサーシャに目をやる。
ジャルからカップを受け取ったサーシャは、布フー、フー、と息を吹きかけ熱を冷ましながら、お茶のようなものをクピクピと飲みだした。
……こうしてみるとますます子供にしか見えないよなぁ
心の中でそう突っ込みながら、飲む前に一度嫌な顔をしているジャルと向き合う。
「……どうしてそんなげんなりしてるんですか?」
「えっと……騒ぎすぎて説教くらいまして……」
「……そりゃあ怒られますよ」
「……だよねー……」
「逆に怒られない方がおかしいですよ。だって僕たち客人ですよ?お世話になってる身なんですから、迷惑かけちゃいけないじゃないですか」
ジャルのなかなかに鋭い言葉が、俺とサーシャの胸に突き刺さり心をえぐっていく。
やめてくれ、それ以上は……それ以上は。
心がオーバーキルされてしまう。
そんな折れかけている心に、ジャルはさらに、特にサーシャに向かって追撃してきた。
「……僕、あの村を出る前に戦いが苦手だって言いましたよね。サーシャさん、どうしてあんな状況で僕らを戦わせようとしたんですか」
「……そ、それは。わ、私にも色々と事情が」
「あなたの理由なんて関係ないです!!あの状況なら共に戦うべきでしょう!!」
出会ってからはいつもビクビクしているジャル。
だが今日は、いつもよりもかなり強気なジャルがサーシャに説教を始めた。
いや、うん。
普通にジャルが正しい意見言ってるし、それにこんな縮こまってるサーシャ見た事ないから……。
なんか面白いな。
というか、なんかこいつら性格変わってない?
まるでお酒に酔った時のような……。
「……失礼しまーす。ひろ君ここにいるって聞いてきました。……って、うわっ。どうしたの?これ?」
場がおかしな方向へと向かい始めていたところに、丁度いいタイミングで葵が部屋に訪れてくれた。
軽くここまでに至った経緯を説明すると、何かわかったようで
「あー……。あれを飲んじゃったのかぁ……」
と、微妙な反応を見せた。
「……あれ?」
「うん。簡単に言えば魔力を急速に回復させるものなんだけど……。初めて飲んだり、多量摂取したらお酒に酔った時みたいになっちゃう、いわばお薬みたいなものだよ」
そう俺に説明してから、葵はサーシャが手に持っていたカップをすっと回収すると
「ひろ君、この人たちをベッドに運ぶから手伝って」
「……あいよ」
そうして、ジャルとサーシャをベッドに運び、少し考えた後……。
ま、きっと何とかなるだろう、うん。
後のことは何も考えないことにして、葵は置いてあったお茶セットを持ち、俺と一緒にそのまま静かに部屋を出た。
…………………うん。
きっと何とかなるだろう。
……知らんけど。
「それで、用事かなんかは終わったのか?」
部屋を出てお茶セットを片付ける葵にそう言葉をかけると
「そうだよ!ひろ君!!婆様が話したいことがあるって!!」
そう言ってお茶セットを片付けてから葵は俺の腕を掴むと、俺を引っ張るかのように先程のお婆さんお部屋へと連れて行くのであった。




