第一章7 月夜に煌めく一閃 (改行済み)
暑い時期ですね~
見たところ敵の攻撃パターンはいたって簡単なものだった。
その巨大な体を使っての突進と、その大きな牙を振り回す攻撃。
その分後ろ足が強化されているようだったので心配していたが、どうやら前足には体全体を2本足で支えられるような筋肉はないらしく、後ろ足で蹴ってきたりはしなかった。
大きすぎるというのも何かと問題があるものだ。
だが、正直作戦も何もない。
それにこいつについての情報は見て知ってもの以外何も持っていない。
前情報がない状態で戦うのはかなり久しぶりの事なので、正直辛い。
相手の動きを知らないということが、戦闘でどれほど不利なことなのかということを改めて思い知らされる。
敵は獣。
まだ何をやってきてもおかしくはない。
……そう言えば、後ろに逃げた女の子がなんか言ってたな。
…なんだっけ?
そんなことを考えていると、背後から何者かに首根っこを掴まれて後ろに引っ張られた。
「馬鹿なんですか!?アホなんですか!?死にたいんですか!?」
いつの間に俺の背後に回ったのか、背の小さい少女は早口で少し切れ気味に俺の胸倉をつかんで顔を近づけながらそう言った。
「特別指定大型魔獣だって言ったじゃないですか!!それとも死んでみないと分かりませんか!?」
「でも今あれの相手誰もしてないじゃん」
「ですけど!!」
「それに、みてみろよ」
俺が敵の方を指さし、少女は俺が指さしたほうを見る。
そこではすでに兵士たちがあの大型魔獣と戦っていたが、その兵士の誰もその魔物に傷ひとつ入れることなく蹂躙されていた。
「あんなの見てたら戦わざるを得ないだろ」
俺がそう言うと、その光景を見てか少女はぐっと言葉を飲んだ。
軍やギルド関係者しか戦っちゃいけないとか言っていた分、その軍がろくに機能していない現状を見たんだ。
そりゃそうなる。
「あんたも人を見捨てるほど馬鹿じゃないだろ?」
「…自分の力量を計れないほど愚かではありません」
「でもあんたは抵抗できるだけの力はあるだろ!」
俺がそこまで言うと、少ししてからその少女はため息をついてから、背中にしょっていた荷物を一度おろすと中から四角い箱のようなものを取り出してから
「……少し待っていてください」
そう言って、その場を離れていった。
そしてすぐに戻ってくると……
「ギルドから許可が出ました。……今回だけですよ。こうやって動くのは」
どうやら、少女はギルドと連絡して許可を取っていたみたいだった。
というか、この時代にも存在するんだな。
携帯電話というか連絡装置というか、そういう連絡手段が。
まぁなんにせよ許可が下りたんだ。
「そんじゃまぁ、しきりなおしていきますか!!あんた名前は?」
「サーシャです。貴方は?」
「洋一だ。ひろでいい」
「では、よろしくお願いします。ひろ」
それと同時に魔物の咆哮が再度響く。
魔物の方を見ると、すでにそこに立っている兵士の姿はいなかった。
……あそこまで簡単に全滅するものか?と疑問を抱きながらも、サーシャとともに魔物の方に向かって走り出す。
「後方からのサポートはします。出来るだけ前衛で魔物を引き付けてください」
「了解よっと!!」
魔物は走ってくる俺たちに気づいたのか、すぐに俺たちの方に向き直りその巨体を使って突進してきた。
それを何とかすれっすれの所で回避してからすれ違いざまに向き直り魔物の背後めがけて走り出す。
丁寧に、確実に一撃を入れることを考え、後ろ足を斬りつける。
「ついでにこいつもくらっとけ!」
後ろ足を斬りつけた後、腹の方に潜り込み下から一撃を浴びさせる。
足などが固かったのに対して、腹はとても柔らかく、簡単に剣が入った。
魔物もその一撃は予想していなかったのか、今までにない耳を塞ぐような咆哮を上げた。
両耳を何とか塞いで、身の危険を感じたのでギアを使い急いで下から抜け出す。
抜け出した直後に、魔物が下の方を地団駄と何度も地面を踏みつけ始めた。
あのままあの場にとどまっていたら、普通に危なかった。
「引き付けてとは言いましたけど、下手に動かないでください。ビックブルは腹を攻撃させると暴れるんです」
「そういうの普通先に言わない!?」
「忘れてたんです。でも誰にでもミスはありますよね!」
変に吹っ切れるんじゃねぇよ。
戦場でそんなことが許されるかこんちくしょう!
腹の中でそう叫びながらも、暴れ続ける魔物から視線を外すことなく2人で距離をとる。あんな暴れていたら、簡単には近づけない。
「…仕方ないですね」
サーシャはそう呟くと、ポケットから何か光る丸い石のようなものを取り出し、それを魔物の方に向かって投げた。
そして、それが魔物にコンッと当たると、その石が爆発した。
あれは…クオーツか!?
「ほら、行ってくださいよ。動きは止めたんですから」
サーシャは少しだるそうに俺にそういった。
というかそういう使い勝手のいいものがあるのなら先に使えよ!
文句は色々とあるけれど、実際敵の動きは止まっている。
なら、これ以上暴れられないためにも……あの技で決める。
「風華!!力を貸せ!!次で終わらせる!!」
「具体的に言いなさい!」
「剣に風を纏わせてくれ!!あとはこっちでどうにかする!!」
風華は何するのよとでも言いたいような顔をしたが、何も言わずに俺の言う通りにしてくれた。
……ただただ厳しい奴だと思ってたけど、意外と優しいところもあるじゃん。
そう思いながら、その場で左手に持った剣を突き出せるような形で体の後ろに持ってくる。
…あの時はルルの刀の力を借りて出来たんだ。
きっとこの剣でならできるはずだ。
大きく息を吸って呼吸を整える。
体が緊張していて強張っているのが分かる。
もし出なかったら……とどうしても考えてしまう。
あの時以来一度も完成させることのできていない技だからこそ、悪い方向に考えてしまう。
………この技を撃つのはやめるか?
そう思った時だった。
頭の中で、夢や遺跡の中で聞いた少女の声が頭の中に響いた。
”ほらっ!勇気だして!悩んだときは、とりあえず笑顔、スマイルだよ!!”
何者か知らない名も知らぬ少女からのその言葉。
言ってることはかなり無茶苦茶なことだったけれども、それでも自然と笑みがこぼれてしまっていた。
そうだな。今この時悩んでたって仕方ないよな。
今出来るのは、自分を信じることだけだ。
体の震えが止まる。
剣の先がまっすぐと敵を見据える。
……今だ!!
「我流奥義!!」
敵に向かって一直線に走りだす。
すべてはこの一撃を入れるため。
サーシャが作ってくれたチャンスを逃さないようにするために。
そして何よりも、ここは助けてくれた2人の居場所だから……絶対に救ってみせる!!
「月光牙!!!」
叫びながら、剣を前に勢いよく突き出す。
剣が身にまとっていた風がするどく尖り、それは獣の牙のように鋭く魔物に向かって突き出された。
動きが止まっていた魔物の脳天を貫くように突き出されたその一撃は、まるで夜に一瞬のきらめきを放つ流れ星のように一瞬だけ輝きを放ち、魔物の体を見事一撃で貫いた。
その日の夜、世界中で一本の光の柱が観測された。
誰しもがあの光はなんだと騒いでいる中、4人だけがそれが何なのか気づいた。
とある森の中
「…あの光は……あの時の…。まさか…!?」
とある海上
「…ようやく来たわね。待ちくたびれたわよ!!」
とある山の中
「やっぱり来てたんだ!!」
とある城内
「…信じてたぜ!ひろ!!」
彼らはその日、彼が生きていると知った。
結果として、魔物は倒すことができた。
だが、それよりもかなりの被害が出た。
まず村のほとんどの家がつぶされていた。
それは、ラフィナたちの家も例外ではなかった。
ただ運よく工房は生きていたらしかった。
霧が晴れ助けに来てくれた兵士は、一人を除いて全員踏みつぶされて亡くなっていた。
村人も何名か亡くなっており、一週間ほどの間亡くなった方々の弔いと、残った者達で最低限生活できるような環境を整えた。
そして、旅立ちの日、早朝。
誰もがまだ寝静まっている中一人だけ唯一見送りに来たラフィナは
「ラフィナ、ついていく!!」
力強くそう言った。
いつの間に準備したのか背中には大きなカバンをしょっていて、沢山の荷物を入れているようだった。
その気持ちは本当にうれしかった。
し仲良くなったし、何よりも俺の事をきちんとサポートできる子だ。
きっと将来すごい魔法使いになる子だろう。
……だからこそ、俺はラフィナの頭の上に優しく手を置いて頭をなでながら
「ごめんな」
とだけ言った。
断られたとすぐにわかったのか、ラフィナは大声で泣きだしてしまった。
それだけついていきたかったんだろう。
だが、この子には今回の出来事を通じてはっきりと理解したはずだ。
人は弱い。魔物と戦えば必ず死者が出る。
特にあんなのと戦えば、今回みたいな結果になる。
俺は今回みたいな敵とまた出会ってしまった時に、ラフィナを守り切る自信がない。
今回の戦いを通じてまだまだ自分も弱いことを痛感した。
……自分の事だけで精いっぱいだった。
魔物の強さが俺が生きていた時代と比較できないほど強い。
だからこそ連れていけない。
だがこれだと少しかわいそうだ。
だったらこうしよう。
「なぁラフィナ。次に俺が、ここに来るまでに、もっと強くなってたら、その時は、一緒に行こう」
そう言うと、ラフィナは涙を流しながらも大きく何度もうなずいた。
……今はこれでいい。
これが、この子が今一番傷つかない方法だろう。
「お別れは済ませた?早く出発しないと目的地に着く前に日が暮れるわ」
サーシャにそう後ろからそう声をかけられる。
もうそろそろ出発しないとまずいみたいだ。
「それに荷物持ちの体力が尽きそうだしね」
そう言いながらサーシャは村の入り口の方に目をやった。
つられて俺も入り口の方に目をやる。
そこには馬鹿みたいに積み上げられた荷物を抱え、足をプルプルと震わせている一人の兵士の姿があった。
……魔物討伐から、ずっとサーシャにこき使われてるけど大丈夫かあいつ……。
まぁ、うん。
大丈夫だろう。
知らんけど。
ほら、そろそろお別れの挨拶を言いなさい、と軽く小突かれながらサーシャに言われる。
別れの時だ。
「…またな!!ラフィナ!!」
「………うん!!……うん!!またね!!ひろ!!」
大きく手を振るラフィナを背にして、俺はサーシャと荷物持ちの兵士とともに村の外へ踏み出そうとした。
その時だった。
「待てよ!!」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、目の下にクマのできたライが息を切らしながら布でくるんだ何かを抱えていた。
そして俺に近づいてくると、その抱いていたものを差し出した。
「……持っていけ。俺の今作れる自信作だ!!」
布でくるまれていたそれを受け取ると、俺はライの目の前でその布をめくった。
そこには一本の刀が布にくるまれていた。
ライの目の前でその刀を引き抜いてみる。
刀身が光に反射して綺麗に光り輝いていた。
「こいつの名前は?」
「霞だ。良い名前だろ!」
「……そうだな。でもいいのか?」
「当たり前だ。そのためにずっと今まで打ってたんだからな!!」
なるほど、だから復興作業中ライはいなかったのか。
作業中ずっと気になってたからどうしたのかと思ってた。
「ありがとう。大切にするよ」
貰った刀を腰につけもう一度村の外の方を見る。
さぁ踏み出そう。
この世界に。
そして俺は広大な世界への一歩を踏み出した。
シークレットストーリー
もう何度目だろう。あなたと出会うのは。もう何度目だろう。あなたと共に戦うのは。もう数えていないから覚えていない。だけれども、貴方は私たちの期待を超えて戦いを続けてきた。前回は最後の詰めが甘かった。……今度は失敗しない。きっと最後の部屋まで彼を導いて見せる。




