第一章6 風華「お姉様は空気を読むのが苦手だから…」 (改行済み)
ようやく梅雨入りしましたね
全てが終わって3人で何とかなったことに一息入れながら全員の無事を確認した。
幸い戦っていたラフィナには傷ひとつなく、少し疲弊しているのが感じられるものの、これと言って何か危ない状態ではなかった。
そのことに胸をなでおろしていると、横からライがジトーとした目でこちらを見てきた。
「な、なんだよ」
「…お前…刀折りやがって……」
どうやら刀が折れてしまったことに対して、不満を抱いているようだった。
いや、仕方ないじゃん。
ほんとあの時は一生懸命で、正直そんなこと考えている暇はなかったんだし。
確かにあれが大切なものであると聞いてはいたけれどもさ……。
するとライの横にいたラフィナがライに俺のわからない言語でライに何かを話していた。
すると、口をすぼめながら「まぁいいけどさ」とライが言った。
どうやらライをなだめてくれたみたいだった。
流石妹、兄のツボを押さえている。
その光景を少しだけ羨ましいと思いながら、眺めていると
「――――――――――――ッッッ!!!」
外から獣のような大きな咆哮がこの試練の場に響いた。
「なんだ!?」
外は霧に覆われていて、外から魔物は普通なら侵入して来ないはずだ。
そこまで思考が到達してから、試練が始まる前の言葉を思い出した。
”あの霧はこの試練場を護るためのもの”
つまり今、霧は表にない。そして……
”少し邪魔だったから、外に出てもらっただけよ。
霧の中で死んだりはしていないはずよ。
その先は保障しかねるけど”
……その先ってどういうことだ!?まさかこのことをさしてるのか!?
「察しがいいわね」
彼女らが言った言葉がカチッカチッとはまっていっている最中で、ついさっき聞いたばかりの声が、俺の右手に持っていたところどころが緑色に輝いている黒い剣から響いたのと同時に、風華が俺たちの前に姿を現した。
思わず身構える。
しかし、俺たちの行動を見て何かがおかしかったのか風華は少し笑ってから、
「もう試練は終わったじゃない。私たちはあなたの味方よ?契約も無事終了してるじゃない」
ほらその証拠に、と風華は俺の右手の甲を指さした。
そこにはいつのまにか大きな剣のような黒い紋章が刻まれていた。
「その紋章が失われない限りは、私たちはあなたを味方してあげる」
クスッ笑みを浮かべながら、そういう風華の言葉はどこか柔らかかった。
まるで俺に限ってそんなことはないでしょうけどねとでも考えているかのようだった。
「まぁそんなことよりも現状を知りたいのよね?なら、すぐに外に行きましょう。じきにこの場所もまた湖の底に沈むわ」
そうして俺たち3人は、風華の後に続いて遺跡の外へと出た。
外へ出るころには遺跡は半分ほどすでに湖の中に沈んでおり、何とか間に合ったということに安堵しながら周囲を見渡した。
すでに霧は晴れており山からは月がのぼってきていた。
体感ではそんなに時間が経過しているとは思わなかったが、どうやらかなりの時間あの空間にいたみたいだ。
そりゃ小さいラフィナは疲れがたまるはずだ。
「――――――――――――ッッッ!!!」
再び聞こえる咆哮。
聞こえてきた方向からして、村の方に魔物がいるのは間違いない。だが………後ろにいるラフィナとライを見る。
ライはまだ少し余裕がありそうだったが、ラフィナはもう限界がきているようだった。
これ以上戦わせるのは危険だろう。
「ライ、ラフィナ。お前らはここで待ってろ」
そう言うと、ラフィナは少し驚いたような顔をした。
「ラフィナ、まだ、戦える!」
「危険だ。……それとも、死にたいのか」
わざと声を低くして、圧をかける。
こうでもしないと、おそらくこの子はついてきてしまうだろう。
そのくらい人の事を思いやれる子だ。
だが、戦場ではそう言う奴ほど早く死んでいく。
それに、ライの戦わせたくないという願いもある。
これ以上はライの為にも、ラフィナの為にも止めなければならない。
だがラフィナは簡単には引き下がろうとはしなかった。
最終的にはライに羽交い絞めにしてもらい、じたばたと手足を動かすラフィナを見て意外と体力あるなこの子とか思いながら、2人を置いて俺は村の方へと走った。
村にたどり着くと、そこには武装した男性たちや鎧を着た兵士のような人たち、それに何かを振り回して戦う少女が魔物たちと対峙していた。
この様子から見て男性たちはこの村の失踪していた人たちだろう。
風華が外に出てもらったと言っていたから、その間に助けを呼んできたに違いない。
なら助太刀するだけだ。
視界に見えるのはどれも小さな獣型の魔物ばかり。
少しブルが多いのが気になるが、とにかく今は少しずつ魔物を倒していこう。
「風華、水連。よろしく頼むぞ!」
そう言って剣を使おうとしたが、反応したのは風華の持っていた緑色に光る黒い剣だけで、なぜか水連の方の剣はスッとどこかに消えてしまった。
あっれ~!?なんで消えたの!?え!?なんで!?
「魔力切れね」
いつの間にか消えていて、またいつの間にか横に現れた風華がそう言った。
「魔力切れ…?」
「ほら、青いモヤみたいなのだしたでしょ?あれでお姉様が魔力を使い切ったみたいだから、補給するために消滅したのよ」
「今から戦いなのに!?」
「……空気を読むのが苦手な人だから…」
そっかー。
空気を読むのが苦手なんだー。
じゃねえよ!!馬鹿なの!?ねぇ、馬鹿なの!?
文句はたらたらとある。
でも正直そんな場合じゃない。
気が付けば周囲を魔物に囲まれていた。
「ほら、構えなさい。サポートくらいはしてあげるわ」
「疲弊してるから、サポートしてくれないと困るんだけどね!!」
左手に持った剣を抜刀術を使う要領でかまえる。
まずは使える技で戦っていくしかない。
「駆車!!」
ギアを使って似たような形のものを出しながら敵を薙ぎ払っていく。
だが、やはりいつものような研ぎ澄まされた一撃は出ない。
普段なら一撃斬りつければ倒れるはずの魔物が息は荒いものの、まだ立ってこちらを鋭く睨みつけている。
「おい!サポートするとかいう割には全然してくれねえじゃねえか!」
「仕方ないじゃない!私回避アシストしか出来ないのよ!?」
確かに重要なサポートだけども!!
重要だけどもさ!!
今必要なのはそうじゃねえ!!
っていうか手に入れた黒い剣、どっちも護りに徹し過ぎじゃない!?
なんかこうないの!?
ズバッと敵を一撃で倒せる力とかさぁ!?
「……あくまで私たちは守るために生み出された存在よ。諦めなさい」
ひどすぎませんかねぇ!?
そんなことを考えている間にも、魔物はわんさかと湧いてきて襲い掛かってくる。
特にブルが多いせいもあって、止まっていたらすぐにその場所に突進が来る。
めんどくさいったらありゃしない。
「避けてばっかじゃ始まりませんよ」
「うっせっ!!」
だが実際風華の言う通りだ。
このままじゃらちが明かない。
その時だった。
遠くの方からひゅっと何かが飛んできて、魔物の脳天を貫いた。
「どこから……」
飛んできたものの方を見ると、村に入ってすぐ見た少女がこちらに向かって何かを投げたみたいだった。
その少女は右手を後ろの方にひゅっと引いて、魔物の脳天に刺さったものを自分の手に戻すと急いでこちらの方に駆け寄ってきた。
「――――――!?」
……何言ってるかわかんねえな~。ほんとこの時代言語通じねえわ。もうどうしようもねえな。
「分かる!言語!プリーズ!!」
ろくに勉強していないのが分かる英語?の雑な使い方をする。
頼む。どうかわかってくれ。すると以外にも…
「…貴方東洋の方の人ですか!?」
流暢な日本語が返ってきた。
「なんでこんなところにいるんですか!?死にますよ!!」
何でここにいるのかその理由を一番知りたいのは俺の方だこの野郎。
だが、この子の言っていることはそう言うことじゃないだろう。
でも……。
相手の体型を見る。
背はラフィナと似たくらいに小さく、背中には大きな箱のようなものを背負っており、顔は子供のような幼さを残していた。
この子俺よりも年下なんじゃないのか?
「……あんたいくつだ?」
見た目では判別できないので、とりあえず聞いてみた。
するとニュッと剣から風華が出てくると
「あんた……女の子にその質問はないでしょ……」
呆れられた。
いや、だって仕方ないじゃん!!
俺がつらい経験している分、子供が戦場に居たらどうにかして止めようとしちゃうんだもん!!
俺と風華がその子の年齢について、戦地のど真ん中でギャーギャー言っている中、その子だけは全く違う点に注目していた。
「……黒い……剣?……まさか……。いや、今はそれよりも……」
ズンッと腹の底に響き渡るような音が響くと同時に、先程も聞こえた咆哮が近距離で聞こえる。
魔物の動きが止まり、その咆哮に応えるようにブルが騒ぎ出す。
そしてその騒ぎ方が頂点を迎えた時、そいつは姿を現した。
人の何倍もの大きさを持ち、顎にある2本の牙は大木のように太く、そして何よりもその眼光は今まで魔物と対峙してきた中で見たことがないものだった。
「……んじゃありゃ……」
風華と言い争っている間に現れたそいつのその図体の大きさのあまりに言葉を失ってしまう。
気が付けば横にいた少女はすぐにその場から後退していた。
「何呆けてるのよ。そんなことしてる場合じゃないってのは理解できるでしょう?」
言い争っていた風華がきつめの言葉でそう言い放った。
「………まぁ、そうだけど……」
「……何?」
「お前の回避アシストってどんなもんかなって思ってさ」
「……あんたが私を使い切れる自信がおありなら試しても良いんじゃない?」
目の前の敵を指さしながら風華が俺に挑発するように言ってくる。
「ちょっと!貴方たち何してるんですか!?その魔物は軍とかギルドとか、認められた人しか狩ることのできない特別指定大型魔獣ですよ!!早く離れてください!!」
周囲は相変わらず魔物に囲まれていて、それでいて目の前には馬鹿でかい魔物がいる。
実際は離れるべきだろうが、こいつの挑発に乗らなかったら、それはそれで失望したとか言ってきそうだし……やってやろうじゃねぇえか。
「どうやるんだ?」
「簡単よ。攻撃を喰らえばいい。まずはその身をもって体験してみなさい」
「は?」
そう言っている間に、目の前の大きな魔物、というか、どう見てもブルが大きく成長したとしか言えない魔物がその図体で信じられないほどの素早い突進をしてきた。
いや、これ避けないと死ぬやん。
え?本当に避けなくていいの?
いや、違うな。
信じるんだ。
こいつは少なくとも簡単には裏切らないと言ってくれた。
なら、その言葉を信じてみるだけだ。
魔物が接近してくるのを無防備な状態で待つ。
後ろから叫び声が聞こえる。
だが、それでも懸命にこらえる。
そしてその時は訪れた。
攻撃が当たりそうになった瞬間、世界の時が止まった。
いや、正確に言えば信じられないくらいの遅い速度で流れていた。
左手に持っている黒い剣の緑色の部分が先ほどの水連を使った時のように光っていた。
この状態のときは、力を使っているということなのだろうか。
分からんが、とりあえず力が切れる前にこの場所から動こう。
ひょいっと大きなブルの攻撃が当たらない範囲まで避難すると、時間はいつものように流れだし、先程まで俺の居た場所を大きなブルは通り過ぎていった。
……こりゃすげぇな。
だからあの試練の最中も、確実に当たったと思った一撃が避けられたのか。
「どう?私の力は面白いでしょう?」
「面白いけど、心臓に悪いよね」
「まぁその気持ちはわからなくはないわ。でも慣れなさい。私たちをこれから使って行こうと思うのならね」
獲物を捕らえることができなかったことに対して、大きなブルは混乱しているみたいだった。
こういうときほど危険だが、隙ができやすい。
「ま、とりあえずやりますか」
「そうね。どのみちやらなきゃ死ぬだけよ」
黒の剣を構える。
今自分にできる全力をこいつに注ぐだけだ。
「んじゃま、サポートよろしく!!」
「さっきも言ったけど、ほどほどにしてあげるわ」
そうして俺は、大きなブルめがけて走り出した。




