04 幼馴染の幼女はBMIが30程度あるらしい
「冗談で良かった……」
結論から言うと、その闖入者は本当に警察に通報していた訳ではなかった。一応友人の良心を信じて、警察に突き出すのは事情を聞いてからにしようと思ったらしい。
というわけで現在、絶賛朝食兼事情聴取中である。
「……という訳なのよ」
まあ、今までの話を心愛がまとめて説明しただけなので割愛する。
「そりゃまた面白いことになってんなー。でもなんでまた柚の家に?」
「いやほら、この格好で実家帰って親への説明とか嫌じゃない? かと言ってこんな身体じゃ金も稼げないし、色々厄介だからね……」
あー……確かに……
ずっと「なんで実家帰んねえんだろうなこいつ」と思っていたが、確かにこの状況を親に説明するのはちょっと……というかかなり嫌かもしれない。
「……どちら様?」
と、どうやら山田さん達が起きたみたいだ。後ろで春町さんが不安そうに山田さんの服の裾を掴み、俺と闖入者を交互に見ている。山田さんはそれに気が付くと、彼女に一言「右が柚さんですよ」と言った。
「腐れ縁だよ」
俺は簡潔に説明する。それを聞いて心愛は苦笑しながら補足する。
「私と柚と彼……佐道佳晃は小学校時代からの同級生なのよ」
「柚さん、友達居たんですね……」
山田さんに失礼極まりない事を言われた。
「それでこれからお前どうすんだよ?」
「どうするも何も……どうすんだよ?」
「私達に振らないでよ……」
振らないでよと言われても、縮んだのはお前らなんだからそっちの問題だと思う。
「……てかそれ治るのか?」
「白乾児飲んでみる?」
「APTX4869は架空の毒物だろ」
APTX4869とは某少年探偵漫画で登場する薬物で、服用すると死亡するか幼児化する、という設定だ。
そして、白乾児と呼ばれる中国産蒸留酒を飲むことで一時的に大人の身体に戻ることが出来る。
「せやかて工藤、この身体のこいつにんなもん飲ませてみぃ。急性アルコール中毒で救急搬送ルート直行やで」
そんで女児誘拐と未成年飲酒の二重苦で俺が現行犯逮捕ですね、分かります。あと、「せやかて工藤」って言いたいだけの似非関西弁やめろ。
「ただでさえ酒一気飲みして運ばれそうな性格だからなあ……」
幼児化でアルコールの分解能減ってんのに、度数50越えの白乾児一気飲みとか普通にやりそうで怖い。
それから暫し懊悩していると、不意に佳晃が立ち上がった。
「一つ気になるんだけどさ、ちょっといい?」
「ん? どうしたの? ……ってきゃあああ!」
佳晃は声をかけると、返事を待つより先に心愛の脇腹の辺りを両手で掴み徐に持ち上げた。子供を高い高いするような感じだ。
心愛は少女の様な悲鳴を上げながら空中でもがいている。彼女が女の子っぽい声を出すのは珍しい。
「離しなさい! スク水姿の私に発情したからって、触るのは犯罪よ! 料金発生するわよ!」
「やっぱりこれは……」
佳晃は心愛の非難を聞き流しながら、真面目な顔で得心したような声を漏らした。
「どうかしたのか?」
「持ってみ?」
「子供扱いすんなー! 無視すんなー!!」
心愛を手渡される。子供扱いっていうか、物扱いだなこれ。
二人の手で心愛を支えた時、声がかけられた。
「いいか、ちゃんと力入れて、脚も踏ん張っとけよ」
「? ……お、おう」
ニートやってもう3年になるが、流石に子供を持てない程筋力落ちちゃいないぞ?
だが、彼がそう言った理由はすぐに分かった。
ドンッ!!
「足痛ったぁ……」
「ああっ! すまん!」
渡された瞬間、鉛直下向きに凄い力がかかって彼女を落としてしまった。ちゃんと着地したが、踵から勢い良くいったせいで足がじんじんしているようだ。
てか、なんだ今の?
「だから力入れとけって言ったのに……」
もう一回、今度はちゃんと力を入れて持ち上げてみる。
これは……
「たんぱく質の重さじゃねえな……」
「そんなに脂肪ついてないわよっ!!」
「あ、いやそうじゃなくて……」
「な? 理解したか?」
「これ……元の身体の質量が保存されてんのか?」
そう、彼女は体格こそ小学三年生程度だが、それに比べ体重が異常に重かった。これ50kgはあるよな……
「え? じゃあ私デブじゃん!」
御愁傷様です。
ただまあ重いだけで、体格は以前同様痩身なままなので、別にそこまで心配する必要はないと思う。
そんな事を考えていると、佳晃が別角度からフォローしてきた。
「まあ落ち着け。身体が一時的に圧縮されてるだけならまだ治りそうな感じするだろ?」
「おお、確かに……」
なんとなくだが、体重も相応になってるよりは遥かに治りそうな気がする。根拠無いけどね。
「あの……そろそろ下ろして……」
「あ、悪い」
心愛が何故か顔を紅潮させ目を逸らしながらそう言った。それを聴いて初めて、ずっと自分が彼女を抱き上げたままだった事に気が付く。
慌てて下ろそうとしたが、赤くなった少女の顔があまりにも可愛らしくて思わずまじまじと見つめてしまった。
「な……なに?」
「いや、結構可愛いなと思って……」
「……っ! う、うっさいばか! さっさと離せロリコン!」
心愛は憤慨してじたばたする。やめろやめろ、落としそうだから、危ないから。
彼女は地面を踏むや否や背を向けて逃げ出す。そんなに怯えなくても……
4m程距離をとると、足を止めて振り返りこちらを眇めた。
「ま、あんたがロリコンならこんな姿になった甲斐もあったのかもね……」
ぼそっとそう言うと再び前を向き、キッチンに駆け出して行った。
※1 せやかて工藤――――マンガ「名探偵コナン」に登場する服部平次が、江戸川コナンに対して口にする反論のセリフ。ただし、実際の所原作マンガでは一度も使われていない。




