36 幼馴染の幼女は同級生に夜這いしたいらしい
布団の中で目を閉じて、今までの事を考えた。
山田さんが俺の父親、航と面識があったこと。心愛達を幼女にした薬を渡したのが航だった事。雪の父親が航だった事。雪が相貌失認だった事。
航が、雪を誘拐した犯人だという事。
(そこだけが分かんねえな……)
雪が誘拐されて何をされたのかも分からないし、何故雪が誘拐されたのかも分からない。
そもそも何故雪が生きて帰ってきたのだろうか。普通情報を持つ被害者をそう易々と逃がしたりはしない筈だが……
(雪が相貌失認だから……?)
もし航がそれを知っていたなら、そして雪が帰っても危惧する程情報が流失しないという何らかの確信があったなら、それがそのまま雪が狙われ、そして助かった事由となりうる。
そのような考えに至った時、隣の布団からごそごそという物音が耳に入り、俺は閉じていた瞼を持ち上げた。
「…………山田さん?」
「…………っ!!」
声を掛けると、その小さな影はビクッと肩を震わせ弾かれたようにこちらを振り向いた。
「なんだ柚か、びっくりさせないでよ」
「心愛かよ。何してんだ? そこは山田さんの布団だぞ」
「夜這いよ!」
「胸張って言う事じゃないぞ。ハウス」
「早計ね、柚。落ち着いて考えてみなさい」
彼女は俺を指差し、得意気に指摘する。
「このままじゃシアがまた欲望に身を任せるのは確定的に明らかよ」
「そうだな」
それは分かるが、しかし解決し難い問題でもある。
「そこで、私には妙案があるの」
「それが妙案である気がしないが一応聞いてやる」
「私がシアを誘惑して百合に目覚めさせれば良いのよ!」
「何故それが妙案だと思ったのかが知りたい」
ていうか、前にこいつらがイチャついてたのもそういう事か。相変わらず発想が斜め上だ。そろそろ真上に行きそうなレベル。
「まず人の性癖変えるとか無理だろ」
「ならあんたが誘惑しなさいよっ!」
反対意見を述べると彼女は憤慨して、その小さな手で俺の左手を掴み布団に引きずり込んできた。
「やめろやめろ引っ張んな。大体俺じゃ百合にならんだろ」
「じゃあ既成事実でも作れば良いでしょ!!」
「良いわけねえだろ! 寧ろ一番駄目なやつだろそれ!」
しかし、抵抗むなしく俺の身体は幼女二人が温めあっている布団の中へ。幼女に腕力で負けるヒキニートって……
掛け布団は既にしっちゃかめっちゃかになっていて、俺はそれを押しのけるように身体を横たえた。敷布団には直前までそこに居た心愛の温もりが残っていて、妙な生々しさを感じてしまう。
そこからの心愛の動きは迅速だった。俺を引きずり込んだのを確認するや否や速やかに立ち上がり戦線を離脱。その合間に軽く小突く事で山田さんを覚醒させ、瞼を持ち上げきる前に自身の布団に潜り込んだ。
「う………柚さん……?」
「あ……いや……これはその……違くて……」
山田さんの瞳に俺の姿が映った。彼女が勘違いをする前に急いで繕わなければと思うが、焦れば焦るほどに言葉は空回りして、危険度に拍車をかけている気がする。
しかし、彼女は暴れることなく受け入れ、剰え俺の身体に腕を回してきた。
「柚さん…………」
「なななななっ!?」
俺を抱く腕は少し力を入れれば折れてしまいそうなほど細かった。しかし苦しいくらいにきつく抱き締めてきてとても外せそうにない。
「んー……温かいです……」
「ね、寝惚けてんのか!?」
やばい、ちょっといい匂いがしてきた。
いつもより匂い方が可愛いんですよねー。例えるなら赤ちゃんの匂いっていうか。
と、関係無い事を考えつつ理性を飛ばす危険な香りを感覚から追い出す。……いやこれめっちゃ関係あるな。
「別に寝惚けてないですよー、ただちょっとイチャイチャしたいだけです♡」
「チャンスよ柚! 挿せっ! 挿せっ!」
「何で競馬!? てか漢字が違う気がする!!」
口を挟んでくる心愛にツッコミを入れつつ山田さんを引き剥がそうともがくと、彼女は力を緩め不思議そうな目でこちらを見詰めてきた。
「何で嫌がるんですか……自分から入ってきたくせに……」
「心愛に引っ張りこまれたんだよ。無理矢理」
「じゃあ、柚さんは私の事嫌いで、触りたくもないくらいなんですか?」
「そういう訳じゃ……ていうか山田さんの事は結構好きだし……」
「八方美人な事言うのよした方が良いですよ。いつか女に刺されます」
「刺す女が居ないのが目下の問題なんだよ」
そう答えると、山田さんは「分かってない」と言いたげな態度で外連味たっぷりに肩を竦めた。
「…………まあ、良いです。もしかして私の援交を止めに来たんですか?」
「そうだが、なんで分かった?」
「心愛に引っ張りこまれたと言いましたね。彼女の目的を考えたら、それくらいしか思い付きませんから」
そう解説した後、更に彼女は主張を続けた。
「私はやめませんよ」
「何故?」
「そう簡単にやめられないから依存症なのです。それに、金の入りもそれなりに良いですから」
「…………そうか。でも、気を付けろよ」
俺は正直な所心配なのだが、彼女の自由意志を奪う権利などどこにも無い。だから、出来ることは注意喚起くらいしか無かった。
「そんなに心配ですか?」
「ああ、そりゃ心配だろ」
「ふふ……それは嬉しいです。柚さんに心配されちゃうなんて、心愛と雪に自慢出来ちゃいますね」
そう言ったあと、彼女は悪戯っぽくこう言って笑った。
「じゃあ、危なくなったらちゃんと助けに来て下さいね」
更新めっちゃ遅れてすみませんでした。
いつも多くのブクマ、評価ありがとうございます。
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