33 幼馴染の同級生は男と援交したいらしい
「嘘……何で……? だってあの人は……」
心愛が左手で口を覆い隠す。しかし酷く動揺していることは、その大きく見開かれた目と、握っていた雪の手を再度強く握り返した右手から明らかだった。
雪は手を強く握られ、少し痛そうに眉を顰める。しかし心愛の尋常ではない様子を感じ取ったのか、それを振り払うこと無くその揺れ動く瞳を心配そうに見詰めた。
「……クアッドシアの友人かい?」
思考を巡らせていると、男性が声を掛けてきた。純粋に疑問を持って尋ねたというよりは、沈黙に耐えきれなくなって何か言いたくなっただけだろう。
どちらにせよこいつの質問に正直に答えてやる義理は無い。なにせ……
「お前、この前雪の事拉致ったよな」
「この人が……っ!!」
「拉致とは人聞きの悪い……任意同行だよ」
「あの後雪をどこへ連れて行った。何をしたんだ」
「彼女には何もしていないよ。というか、そんな事彼女自身に訊けばいいんじゃないかな?」
尤もだ。尤もだが、聞き出せれば苦労はしていない。
…………駄目だな。こっちはこれ以上訊いても意味はなさそうだ。なら……
「……分かった、質問を変えよう。お前、水澤航だよな?」
「「えっ!?」」
すると、今度は心愛と山田さんが同時に驚きの声を上げる。
しかし男は俺の質問にも二人の声にもさして動揺する事無く、少し考えた後に淡々と告げた。
「……そうだね。そんな名前だったこともあった」
「今は違うのか」
「和井耕三と名乗っているよ」
……偽名か。どっちがかは知らないが……いや、両方だと思っておいた方が良いな。
とにかく、これで俺の記憶の中の航と目の前の男が同一人物だということがはっきりした。
これで俺から訊ける事は全て訊いた。後は他の三人がどうするかだが……
「和井さん……」
「今日はもう解散しようか。じゃあクアッドシアの友人さん達、失礼しますよ」
山田さんが控え目がちに声を掛けると、航は形ばかりの礼を言い、道の向こうへと消えて行った。
「あの、柚さん……」
「…………話は後にしよう。とりあえず、帰るか」
困惑する三人にそれだけ告げ、俺は再度家の方向へと歩を
進めた。
つられるように歩き出す彼女達の足取りは酷く重かった。
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「援助交際?」
家に帰り山田さんから話を聞くと、少女の口から告げられたのは、そんな外見とは酷くミスマッチな単語だった。
「はい、それで彼とはそういう関係で……」
「いやいやいや待て待て待て……」
その外見で!?
「えーっと、いつからそういう事始めたんだ?」
「大学一年の冬が最初です」
「じゃあ、元の身体の時に知り合った奴と今も関係が続いててって事か?」
「和井さんはそうです。というか……実は若返りの薬をくれたのが和井さんなんです」
「そうだったの!?」
心愛が驚きの声を上げる。大きな声で眠っている雪が起きないか心配だったが、とりあえず大丈夫そうだ。
「じゃああいつに訊けば戻り方分かんじゃね?」
「まだ分からないらしいですよ」
「そうなのか……」
本気で期待していた訳では無いが、少し落胆。
しかし気に掛かった言葉は他にもあった。
「ところでさっき山田さん、和井さんはつってたよな」
「はい」
「てことは、その身体になってから知り合った男も居るのか?」
「…………」
山田さんは口を噤んだ。答えてこそいないが、その態度は俺の言葉が正解だということを何よりも雄弁に語っている。
「……あんまり他人が口出す事じゃないが、最近事件とかも結構多いし、やめといた方がいいぞ」
つい最近この辺りで変死体が発見されたというニュースがあった事は俺なんかよりも彼女の方が詳しいだろう。
この地域では昔から断続的に何度も誘拐殺人は(今回の事件との関係は明らかになっていないが)起きていて、そのほぼ全てが女性を狙ったものである。山田さんも巻き込まれる可能性は十分あるのだ。
「はい……ごめんなさい……」
「いや、謝るような事じゃねえけどさ……」
少しキツめの口調になってしまったせいか落ち込んでしまったようだ。別に非難している訳では無いのだけど……
「そんな事より、水澤航ってどんな人なのよ?」
どうフォローしたものか悩んでいると、心愛が質問を投げてきた。山田さんちょっと目がうるうるしてて心配なのだが、まあ、大丈夫か。
「ああ、あいつか……あいつはな……」
少し間を置く。落ち込んでいた山田さんがこちらを伺ったのを確認し、俺は慎重に航の事を伝えた。
「……あいつは俺の父親だ」
サブタイひっでえ。
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