31 幼馴染の同級生は俺から離れたくないらしい
俺は困っていた。
「雪、離れろ……」
「やーだー!」
暦は八月末、場所は近所の大型ショッピングセンター。
俺は心愛と雪と共に山田さんの誕生日プレゼントを買いに来ていたのだが……
「頼むから腕を離してくれ。さっきから周囲の目が痛い」
「むうー……」
家を出た時からずっと、俺の腕に雪が組み付いて離れないのである。
いつもなら雪にべったりされたところで別段拒否する理由なんて(心愛の視線を除けば)無いんだけど、パブリックな場となると話は違う。これは死の危険を伴う行為だ。俺が、社会的に。
「雪、私じゃだめ?」
どうしたものかと考えていると、見かねた心愛が助け舟を出してくれた。
雪は心愛の方を向き、俺をもう一度確認するように見た後、おずおずと心愛の元へ行きその腕を掴む。どうやら心愛でも良いらしい。
「じゃあ、ちょっと回ってくるわね」
心愛はそのまま雪と共に歩き出そうとしたが、俺にはまだ一つ訊きたい事がある。
「いや、ちょっと待ってくれ」
呼び止めると、彼女は頭の上に小さく疑問符を浮かべた。
「お前、どんなのを買うつもりなんだ?」
「そういうのは自分で考えないとだめよ」
「違え。逆だ逆。買った後被ると悪いから」
「ああ、そういう事ね」
すると彼女は、顎に手を当てて何やら思案し始めた。
「まだ決めてないのか?」
「んー、どうなんだろ……決めてないっちゃないわね……」
「曖昧だな……」
「条件があるんだけど、なかなか合うものがね……」
「条件?」
「小物ではないわね。それなりに大きくて、布製品だとベストかな?」
「はあ……」
どうやったらそんな条件になるんだ……?
「ここあ、ここあ。それならしょるだーばっぐがいいかも」
「ショルダーバッグ?」
「うん。しあこのまえ、からだちいさくなってりゅっくとばっぐのさいずあわなくなったからなおしてってわたしにもってきた」
「でもそれ、あんた直せるんじゃ……」
「りゅっくはできたけど、ばっぐはかわせいだった」
「皮だと直せないんだ?」
「なおせないことはないけど、ぶらんどものだからきずつけたくないし、どうぐもない」
ていうか逆に、道具があって傷つくのを厭わない物なら皮でも直せるのか……なんだかんだ言って、雪ってかなりハイスペックだよな……
「そっか、良いかもね、ショルダーバッグ」
「あ、でもはんどばっぐのほうがおっきくなってもつかえるかも」
「え? うーん……布製のハンドバッグあるかなぁ……?」
あくまでも布製である事がマストらしい。
そんな事を話しながら、心愛と雪は俺に軽く手を上げて、目的の物を探しに向こうへと歩いて行く。
……しかし心愛、雪に縋り付かれてめっちゃ歩きにくそうだな。傍から見ると百合感が凄い。ラッブラブである。YOU達付き合っちゃいなよ。
「さて、俺も渡すもん考えないとな……」
とりあえず、適当な雑貨屋にでも入って考えてみるか。
…………あ、雪に何買うのか訊いとくの忘れてた。
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「………………決まらん」
棚に綺麗に陳列された小物の一つを持ち上げ、矯めつ眇めつ眺めながら唸る。
適当にショッピングモール内を回りながら考えていれば自然と決まるだろうと楽観視していたが、それはパウダーシュガーを大量にぶっかけたチョコケーキよりも甘い考えだったと反省せざるを得ない。
現状、俺はプレゼント選びに迷っていた。どれくらい迷っているかというと、候補にランドセルが上がるくらい迷っていた。もう良いんじゃね? ランドセルで。
(良い訳ねえだろ)
脳内でセルフツッコミ。ていうか、益体も無いことやってないで、ちゃんと考えなきゃ。心愛達との集合時間まであと30分も無い。
思考を巡らせた時に、一番最初に思い付く、シアが(というか彼女達が)足りなくて困っていそうな物は服だ。彼女達は体型が変わったのだから、その影響を顕著に受ける物として考えるとやはりそれに思い至る。
だが、どうも彼女達はこちらに来てから、買いに行ったりネットで買ったりして自分達で調達しているようである。十分な量確保出来ているかは分からないが、今更贈るような物でもなさそうだ。男が贈るような物でもないしな。
……それに、俺が女性用の服買ったら、なんかこう、捕まる気がする。それは言い過ぎでも、絶対店員から凄い目で見られる。
そんな訳で、服は無しだ。
「うーむ……うん?」
顎に手をやりながら再度棚を見て回ると、ある物が目に入った。
白と淡いピンクの柄の入ったマグカップだ。
どうやら真空断熱の効果もあるらしく、値段は2000円強とマグカップにしては少し高いが、プレゼントとしては寧ろ丁度良いくらいだ。心愛の買う物とも被る事はなさそうである。
「これにすっか」
少なくとも、ランドセルよりはましだろう。
更新遅れてすみません。
出来るだけ次が気になる形で終わらせたいのですが難しいですね。今回も切り良く終わってしまいました。
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