24 幼馴染の同級生は知り合い(?)について行ったらしい
家事をするという事は、当然掃除洗濯、更には食事を準備するという事だ。そして食事を作るには食材が必要……
という訳で久々に俺と雪で夕飯の買い物に赴くことになった。
「おにーちゃん! おさしみ! おさしみがあるよ!」
「高い」
「はんばーぐ! はんばーぐたべたい!」
「昨日食ったねっか」
雪が色々な食品をねだってくるが、どれも苦言を呈さずにはいられないものばかりだ。思い返せば前回一緒に家事を行った時も粗方俺がやることになったし、そういった事は苦手なのかもな、と思う。
しかし、こんな懐が寂しい状況で要求を呑む訳にはいかないので適当にあしらった。適当過ぎて方言出た。
雪が消えたが、また何か食べたい物を持って帰ってくるのだろう。買える物なら買ってやりたいが、多分無理だ。
あと、まだ調達してないのは主菜か。前述の通り昨日はハンバーグだったし、今日は魚が良いかもしれない。
「ん?」
そんな事を考えながら品定めしていると、誰かと話をしている雪が視界に入った。
不思議に思いそちらを確認すると、50歳は超えているであろう初老の男性と歓談しているのが見えた。
俺と似ている男だ。顔がではなく、服装が。殆ど同じと言ってもいい。
しかし、長い年月によってもたらされたであろう顔の皺や風格は俺とは似ても似つかないので、俺と間違える事はないだろう。
「あの男、どっかで見た事があるような……」
頭の隅にどこか引っかかるものを覚えながら観察していると、不意に彼女がこちらを振り返った。
しかし、男に何かを言われたようですぐに目をそちらに向ける。そして一言二言言葉を交わし、どこかへと手を引かれて行った。
「……まあ、ただの知り合いか」
そう結論付けた。仲が良さそうだったし、不審者とかではないだろう。そう考えて、俺は再び魚の目利きを再開した。
二十分程待ったが彼女は俺の元へ戻って来なかったので、先に帰ることにした。方向音痴ではないので、迷って帰って来れないという事はないだろう。
行きは二人で通った道を一人で歩く。途中から小雨が降り始め、俺と同じく傘を持ってきていない雪が心配になった。
家に着きドアを開けると、心愛と、雪の代わりにもう一人別の人物が俺を出迎えた。
「何で俺が居ない時ばっか来んだよ……」
「逆に、何で俺が行く時ばっか不在なんだ?」
佳晃だ。こんなに嬉しくない出迎えは希少である。
「雪は?」
部屋の奥から姿を現した心愛が疑問を呈してきた。珍しく普通の私服である。いや、珍しい私服って何だよ。
「何か知らない男について行った」
「ええっ!?」
「それ事案だろ!」
「いや、俺が知らない男っていう意味。雪は知ってる感じだったぞ?」
そう応えるが、それでもやはり心愛は不安そうである。ていうか「知らない男について行く」って、口に出したら思った以上に犯罪の匂いがするな。
数秒間の沈黙の後、口を開いたのは佳晃だった。
「雪がその男を知ってるのはまだしも、その男が雪を知ってるのは変じゃないか?」
「どういう事だ?」
「あの子は今子供の身体だろ? 妹が居るなら話は別だけど、仮にその男が雪と知り合いでも、その男には雪の事が分からないだろ」
「あっ……確かに……」
言われて始めて気が付く。すぐに心愛が返事をした。
「雪に妹は居ないわ」
「じゃあ、雪からあの男に声を掛けた?」
「いや、それもないわね」
「は? いやだって、男から声を掛けたんじゃなけりゃ消去法的にそういう事だろ。あいつも自分が小学生体型なの忘れて知り合いに声を掛けちゃうくらいやりそうだし」
「そういう事じゃなくて……いや、何でもないわ」
彼女は何かを言おうとしたが、結局途中で口を閉ざした。何か秘密にしている事があるようだ。
一瞬それを問い詰めようか迷う。そして、出てきた言葉は……
「まあ、知り合いっぽかったし、大丈夫だろ。夕飯にしようぜ。佳晃も飯食ってくか?」
だった。
心愛が言葉を切るのは訊かれるのを期待してではなく、本当に言えないのだと長年の経験から分かっていた。ならば無理に尋ねるのは逆効果だろう。
そして、久しぶりに三人で食事をした。気が付くと、食卓を囲んでいる間に先程まで部屋を満たしていた憂色は雲散霧消していた。
そんな雰囲気になったのを見計らってか、佳晃がこんな事を言い始めた。
「最下位がアイス奢りで麻雀しね?」
これが、この状況に至るまでの顛末である。
※1 事案――――不審者出没等の情報に対し主に行政機関が「〜する事案が発生し……」といった表現をした事から、事件や事故とまではいかないがそれなり、或いは事件事故に発展しそうな問題にすべき物事を「事案」と俗称するようになった。




