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02 幼馴染の同級生は俺宛ての郵便物に興味があるらしい

「わたしは春町雪(はるまちゆき)。ここあのどーきゅーせーだよ」


 どうやら、さっきちらっと顔の見えた幼気(いたいけ)な少女は奴の同級生らしい。


 やや瞼の下がった目が柔らかな印象を与えてくる。幼馴染と同じく痩身だが現在の彼女よりも身長は更に低く、幼馴染が贅肉の無い引き締まった体躯なのに対し、春町さんは思わず守ってあげたくなるような華奢な身体の持ち主だった。


 そういえば幼馴染の紹介をし忘れていたが、彼女の名前は堀井心愛(ほりいここあ)。常々浮かべている勝気な表情とすらりとした流麗な身体の曲線、そしてそれらと不釣り合いな程はっきりした膨らみとくびれが人目を引く美人……だったはずなのだが、額も広くなり胸元の双丘も(なら)されすっかり幼く、可愛らしくなってしまった。


 年齢は俺と同い年で……いや、早生まれだったな。まだ21か。詰まり大学四年生で、今年卒業する予定だった。単位が間に合えばの話だが。


「俺は冴羽柚(さえばゆず)、22歳、無職だ」


 無職、と言う所で少し反応がある。驚きと失望が入り交じった様な反応だ。まあ、こちらとしてはどうでもいいが。


 一応こうして一人暮らしが出来ている以上、金を稼ぐあてはあるのだ。ただ本当に三人を養えるほど稼いでいる訳ではないし、心愛に金があると思われてる理由も分からない。


「ゆずさん! よろしく!」

「うん、よろしくね」


 春町さんが挨拶をしてくれる。それに返事をしながら、俺はどこか腑に落ちないものを感じた。なんとなく、純粋過ぎるなという感覚だ。


 声に混じる幼さや元気さは見た目相応だが、年相応のではない。その澄んだ声に不穏な何かが混じっているような気がしたのである。


 まあ、俺の感覚なんて産まれてこの方当てになった事など無いし、杞憂かもしれんけどな。


「そっちの子は?」


 そう、さっき心愛が三人と言った通り、ここには心愛、春町さんと、さらにもう一人居る。いかにもお嬢様然とした、落ち着いた雰囲気の美少女だ。まあ、どうせ同級生だろう。


「私は堀井さんの同級生の」


 正解


「山田・アタナシル・エスカリー・クアッドシアです」

「なんつった?」

「山田・アタナシル・エスカリー・クアッドシアです」


 ループすんな。RPGのNPC(   ※1)じゃねえんだから。


「えーっと……ハーフ?」

「いえ、純日本人ですよ」

「……失礼かもしれないけど、なんでそんな名前に?」

「両親のおつむが弱かったからです」


 それで済む話じゃないだろ……


 そんな俺の怪訝な様子を察したのか、山田さんは説明を補足した。


「私も良く分からないんですけど、親が語感で名前考えて、市役所に持ってったら受理されたらしいです」


 なんでそれ受理しちゃったんだよ市役所の役人さん。


「ちなみに、正式には『山田 アタナシルエスカリークアッドシア』と、名前部分は続けて登録されているそうです。あと、姓が『山田』で名が『アタナシル・エスカリー・クアッドシア』です」

「じゃあ普通に、山田さんって呼べば良いかな?」

「そんなつれない事言わずに、名前を呼び捨てにしても良いんですよ?」

「ただただ面倒臭えよ!」

「私とあなたの仲じゃないですか……」


 山田さんにとって、初対面とはどういう仲なんだろう?


「自己紹介も良いけど、そろそろ状況とかこれからの方針とか話さないとじゃない?」


 そうこうしていると、心愛が口を挟んできた。そういえば、この状況に至るまでの顛末とか、何故自宅や他の友人宅ではなく、俺ん家に来たのかとか、全然聞いてなかったな。


「じゃあまずこれをどうするかっていう方針から決めましょう」


 そう言いながら山田さんが差し出したのは、一箱のダンボール。


 えいや待ってなんでお前がそれ持ってんの大体さっきまで何も持ってなかったのにいきなりんなでっかいもんどっから出したんだよいやそんなことはどうでもいい問題は中身だあの中身は不味いどうにかして開ける前にあれを奪取しないとでもどうやって女の子相手に力ずくは駄目だろいやそんなこと言ってる場合か…………


 とかなんとか思考が暴走している間に、一枚、また一枚と、まるで女の子の服を脱がすように、勿体ぶりながらゆっくりとガムテープが剥がされていく。


「それなぁに?」と春町さん。


 よりにもよって一番純粋そうな子が興味津々である。やめて。


「さっき心愛が家主と話つけてる間にクロネコヤマトが配達に来たから、機転を利かせて私が代わりに受け取っておいたのです。雑誌だそうですけど♪」


 字面じゃ伝わらないと思うが、彼女は今悪意に満ちたとても楽しそうな顔をしている。中身の予測はついているらしいな、この悪魔め……


「それを開けるn……があああああ!!」

「悪いわね、ここは通さないわよ」


 激烈な肘関節の痛みで思わず絶叫した。見ると横で心愛が腕絡みを決めていた。どこでそんなの覚えてくるんだこいつは。


「それを開けるなっ……その中にはっ……」


 痛みで遠のく意識の中俺が最後に知覚したのは、


 中身を見て満足気に笑みを浮かべる山田さんと、すっと笑顔の消えた春町さんの顔。そして「ゴキッ」という俺の関節が外れる鈍い音だった。

※1 NPC――――ノンプレイヤーキャラクター(英:non player character)の略。ゲームなどで、プレイヤーの操作しない「村人」などのキャラクターのこと。

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