19 幼馴染の幼女の願い事にはさほど手間取らなかったらしい
当然俺に発信機の制作経験などなく、最初は安請け合いした事を後悔したが、幸いGPSを作るのにさほど時間はかからなかった。
今の時代日本だけ一億人強生活している訳で、それ故自分と似たようなことをしようとしている人も、大概探せば数人は見つかるのである。
今回もそれは例外ではなく、「GPS 発信機 作り方」でググってみた結果やはり数人は見つけることが出来た。
必要な技術も多岐に渡ったが、プログラミングもサーバーサイド環境の用意もiOSのアプリ開発も昔取った杵柄で何とかなった。多芸は無芸なんかじゃねえ!
しかし、最も肝心な電子工作の経験が俺には無かった。難しくはないらしいのでちょっとくらい自分でやってみようかと思ったが、はんだとか買わないといけないらしいのでやめたのが五日前のことだ。
断念した俺はすぐにスマホを手に取りLINEを起動した。五人しか表示されていないトークの一番上のセルをタップし、更に名前横の受話器型アイコンをタップ。表示されたプルダウンから無料通話を選択すると僅か一コールで向こうから声が聞こえた。
『もしもし』
「よし、暇だな? 電子回路を作ってくれ」
『やだよ、暇じゃないし』
「お前電子工作やった事あるだろ? そんなに難しくねえから頼むよ」
『……それが人にものを頼む態度か?』
ご尤もだ。心愛の傲岸が感染ったか?
「お願いします佳晃様。電子回路の作成をお願いします。後生です」
『だが断る』
「てめえコラどつき回すぞワレ」
『大体何が必要なんだ?』
「小型のGPS」
『犯罪の手伝いはしたくないな……』
それについては全く同感。
『なんでそんな物必要なんだよ』
「知らねえよ。心愛が作れっつーからさ」
『心愛が?』
声が途絶える。受話器からは彼の呼吸音だけが聴こえた。『ふむ…………』と小さな声が聴こえて、再び彼が話し始める。
『なら、やるか……』
「おっ! まじか! いやー助かるわー! やっぱ持つべきものは友ってやつかな!?」
『お前の為じゃねえ! 調子に乗りやがって……っ!』
なんか受話器の向こうが御立腹だったが、こちらとしては割とどうしようもなくて途方に暮れていたので、依頼受理は調子に乗っても仕方ないくらい嬉しかったのだ。
その後数分程相談して、作る発信機の概要を伝えると、四日後には黒色で直径35mmの半球型GPSセンサーが送られてきた。仕事はえー。
そして今日、予め組んであったプログラムを導入し、心愛に納品した。
「え? もうできたの?」
「ふっ……俺を誰だと思ってんだ」
「コミュ障のヒキニート」
「家から出てけやてめえ」
「冗談よ。っていうか、意外とおっきいのね」
渡した半球をまじまじ見詰め、彼女は再度言った。
「意外と……おっきい……///」
「言い直すな」
「黒くて……硬くて……なんか熱いよ///」
「熱くはない」
発信機の話だよな?
「ていうか、これで大きいってどのくらいのを想像してたんだ?」
「一辺5mmくらいのチップ」
「無理に決まってんだろ」
まず電池が入らん。
「これじゃ駄目だったか?」
「ううん、全っ然問題無し! ありがとね」
「スマホから位置確認出来るようにアプリをインストールさせるから、後で寄越せ。あと、佳晃も手伝ってくれたからお礼言っとけよ」
「了解!」
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべ、発信機を胸に抱えて自分のバッグへと仕舞いに行った。
余談だが、これ既製品買った方が早くないか? と気付き検索した結果、結構手頃な価格の発信機が幾つか見つかって「これで良いじゃん……」と消沈したのはそれから数日経ってからの事だった。
※1 ググって――――検索サイト「Google」で検索する事を表すラ行五段活用動詞「ググる」の連用形促音便に、補助動詞との接続を表す接続助詞「て」が連続した形。
※2 iOS――――アップルが開発・提供するオペレーティングシステム。