16 敵のAR使いは俺TUEEEしたいらしい
「暇つぶしにやるならTPSの方がいいかな」
そう言って、佳晃はゲームソフトを漁った。
「さっきも言ってたけど、何なの? そのてぃーぴーえすって」
「サードパーソン・シューティングゲームの略。シューティングゲームっていうのは銃でドンパチするゲームのことなんだけど、現実みたいに操作キャラの目線でプレイするのがFPS、キャラを後ろから見て操作するやつをTPSって言うんだ」
違いが分からないんだけど……全部シューティングゲームじゃダメなの?
「あいつ全然コンシューマーゲーム持ってないな……四本しかないんだけど……やるゲーム俺が決めちゃっていい?」
「いいよ」
私全然分かんないし。またコンなんちゃらとかいう新単語が出てきたが、もうどうでもいっか。
それから彼はケーブルを三本ほど繋ぎ、ソフトを入れて準備をした。
「手際いいね……」
「柚ほどじゃないけど、俺も結構ゲーマーだったからなぁ……」
「柚ってそんなにやばいの?」
「正直あの子は病気です」
昔から、私が遊びに来た時はちゃんと私の相手をしてくれていたのに、彼にここまで言わしめるほどプレイしているとは、その時間以外ずっとやっていたのか。
あー、でも私達が来てからの様子を見る限り、確かにずっとやってるかも。
「準備出来たよ」
「私やるっ!」
そう言って置いてあったコントローラーを手にする。画面に「press to start」とあるので、Aボタンを押すとメニュー画面に移った。
「……で、どうするの?」
「ふふ……」
「なっ……笑うなぁー!」
「いや、心愛が色んなリアクションするから小学生みたいで可愛くてさ……」
「馬鹿にすんなぁーーー!!」
「してないよ」
したもん! 絶対した!
「ほら、やり方教えるから」
「むぅー……」
膨れっ面になりながら、私はチュートリアルをこなしていく。新しいデータを佳晃が作ってくれたようだ。
「成程、照準合わせて撃つのね」
「基本的にそれだけで何とかなるよ。後は壁の裏の敵には手榴弾を使ったりも出来るけど、最初はあんまり気にしなくていいかな」
「かしこまっ!」
武器は、最初は反動が少なくて使い易いSMGが良いと言われたのでそれにする。何とかライフル? とかの方が見た感じ強そうだったのだが、バランス調整なるものがあるので格差はあまりないらしい。
とりあえず何戦かやってみた。十二人を六人ずつに分けて先に二十キル取ったチームが勝ち。死んでも初期位置で復活出来るという仕様だった。
幸い同じ腕の人達とマッチングされるようで、相手から一方的にボッコボコにされるようなことはなかったが、当たらん……
「当たらないんだけど……」
「しっかり照準合わせてから撃つのを意識して」
「後ろ向いたー!」
「キャラコントロールはそのうち慣れるから大丈夫」
「死んだあぁぁぁ……」
「ドンマイ」
五戦やって戦果は一キル。うわっ……私の技術、低すぎ……?
と思ったが、佳晃が「最初は俺もずっと地面撃ってたからなー」と言ってくれる。優しい。
「どうする? やっぱりやめる?」
「もうちょっとやるー……」
しかし、やっているうちに徐々に勝てるようになってきて、敵を倒す楽しさを覚えた。
「これ楽しいね!」
「だろ?」
というわけで続行。わーい! たーのしー!
佳晃が何かに訝っていることに気付いたのはそれから三十分ほど後のことだった。
「んー……」
「どうしたの?」
「いや、あのAR使い、妙に垢抜けてるなって……」
「……詰まり?」
「初心者狩りかも……。このままなら別に問題無いけど……」
どういう事だろうと不思議に思っていたが、次の試合で彼の危惧の内容は判明した。
「……何今の」
「やっぱりか……」
さっき言ってたAR使いの技術が跳ね上がった。出会った瞬間恐ろしい精度でこちらを撃ち抜いて、訳の分からないうちに倒されてしまう。
「ど、どういうこと?」
「……こういう、実力に応じてマッチングするゲームだと、たまに居るんだよ。故意に負けて初心者の部屋に入ってきて、無双したがる奴が」
その試合は圧倒的な差をつけられて負けた。
「連続して試合を続けなければ部屋変わるぞ?」
「なんっかムカつく……もうちょっと続ける」
その後二回やったが、そのプレイヤーがいるチームが大差で勝利する展開が続いた。気が付けば他のプレイヤーは部屋を変えているようで、前まであったHNは全て消え失せていた。
「俺がやろうか? TPS下手だし、多分入っても五分五分くらいだろうけど……」
「いや、もうちょ……」
「たっだいまー!」
その時、ドアの音と共に雪の声が聞こえた。
「ん? 心愛ゲームしてんのか? 珍しいな……」
「おお、柚。おかえり」
「佳晃のせいか……」
「せいってなんだよせいって……」
柚がゲーム画面を眺める。もうとっくにマッチングは終わっていて、そこではまたもやワンサイドゲームが展開されていた。
そして僅か二分強で試合は終わる。結果は当然敗北。
「ぐぬぬぬ……」
「貸せ」
「は?」
「貸せって」
そう言うと、私の手からスルッとコントローラーを抜き取る。
「ちょっと! あんた達がやったらそれこそ初心者狩りじゃん!」
「大丈夫だ、あいつしか殺らねえから」
そう宣言すると彼はカスタマイズ画面でSRを装備した。
「新規データだからアタッチメント無いぞ?」
「このゲームなら大したハンデじゃない」
そして試合が始まる。
「あいつは敵か。僥倖だな」
味方だったらやること無くなるもんね……
初動は味方について行く。そして適当に死なないように動く。
やがてAR使いが見えると、他のプレイヤー達の間隙を縫うようにその頭を一発で撃ち抜いた。
次も、その次も。AR使いが後ろへ回り込んできても、柚から逃げようと場所を変えても、その全てを見透すように振り向き、移動し、返り討ちにする。
やがてAR使いは、柚が倒すまでも無く味方がキルするようになっていた。
「ほんっとにガチ勢って何考えてんのか分かんねえな」
全く同感だった。
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「今日は楽しかったー!」
あの試合の後、例のプレイヤーは姿を消していた。
柚はちゃんとコントローラーを返してくれたが、人のやってるとこから奪い取るの良くないと思いまーす。ムカ着火ファイヤー寄りの激おこプンプン丸。
柚の作った夕ご飯を、佳晃を交え4人で堪能した後、更に一時間ほど雪も交えて(柚と佳晃は傍観していた)ゲームをして、その日はお開きとなった。
「そっか、ならまた今度やろうな」
「うんっ!」
友達と一緒に遊ぶ約束。それは凄くワクワクして、胸が高鳴った。
「ところで、俺の枕どこだ?」
「わ、私は知らない……」
やっべー……いつ押し入れに戻せばいいんだろ……
それは凄くハラハラして、胸が高鳴った。
※1 コンシューマーゲーム――――市販されている家庭用ゲーム機でのプレイを前提として作られるコンピューターゲームを指す和製英語。
※2 ガチ勢――――「本気で取り組んでいる人」や「コアな知識や経験を有する人」を意味する言葉。対義語はエンジョイ勢。
※3 激おこプンプン丸――――激怒している状態を表す俗語。怒りの感情を表す「おこ」という言葉から派生したもので、六段階ある怒りのレベルの内の三段階目に当たる。また、前述の「ムカ着火ファイヤー」はその四段階目である。2013年ユーキャン新語・流行語大賞No.20ノミネート。