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15 幼馴染の大学生は買い物に行って居ないらしい

「それじゃ、いってきまーす」

「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 外出時の挨拶を口にして、柚と雪は夕飯の買い物に行った。


 いつもは彼らが食い扶持稼ぎ、私とシアが家事と役割を分担しているのだが、金銭的な余裕ができたとかで今日は仕事を休んでもいいらしい。


 せっかくの休日なのだから私としては思い切り羽を伸ばしてほしいものなのだが、「いつも家事を任せっきりだから今日は俺達が引き受けるよ」などと柚が言い出し、私の固辞には聞く耳持たずに家事をし始めたという訳である。


「取り残された私は何をしてればいいのよ……」


 そう独りごちる。今日もシアは外出しているので、部屋には私一人しか居ないのだ。


 シアは何も話をしてくれないが、彼女が連日連夜外出している理由は大体推測出来る。おそらくは、大学時代に患っていたセックス依存症が治り切っていないのだろう。


 それ自体も心配だし、最近はこの辺りでも援助交際を行っている女性を狙った殺人事件なども起こっていたりと物騒であるから、小学生の姿でそんな事をしていると思うと正直気が気でない。


 ただまあ、それは向後(きょうこう)何とかするとしよう。今気を揉んでも仕方が無い。


「なんか面白い事起こんないかな……」


 そう呟きつつ、柚のベッドに横たわる。このベッドも最初の頃は柚の匂いがしたのに、この一ヶ月半ほどですっかり私達三人によって上書きされてしまった。


 十分ほどベッドでごろごろしたり、柚の枕を取り出してもふもふしたりしていると、突然玄関のドアが開いた。やばい。枕もふもふ見られるやばい。メーデー(    ※1)メーデーメーデー。


 サッとベッド脇に枕を隠しドアの方を見ると、コンビニの袋を持った佳晃が立っていた。


「居たわ、面白い事」

「なんか馬鹿にされてる?」


 いや、そういう訳じゃないけど。さっきまで面白い事無いかなって考えてたから自然とこに言葉が漏れてしまった。


「柚は居ないの?」

「雪と一緒に夕飯買いに行っちゃった」

「もう一人居なかったっけ?」

「シアも別件で外出中よ」

「柚が夕飯作るなんて珍しいな」

「ああ、それは……」


 私は佳晃に、最近臨時収入があって当分仕事の必要が無くなったので、今日は柚が家事を担当することを話した。すると佳晃は納得した顔で応える。


「ああ、そういえばこの前アルミ・ディ・オンラインがまたアプデ入ってインフレしてたからな」

「ごめん、ちょっと経済の事はよく分かんない」


 何とかオンライン? ネット証券ってやつかな。インフレもデフレも、何が起こっているのかちょっと理解出来ないです。アプデって何?


「ああ、ごめん。ゲームの話だよ」

「ゲーム感覚で株をやる時代なの?」

「え?」

「え?」


 ちょっと話が(こじ)れてきた。


「えっと、アルミ・ディ・オンラインっていうのは、MMORPGで……」

「えむ、えむ、おー? えい、えい、おー!」

「掛け声じゃないぞ? MMOっていうのは、大規模多人数参加型オンラインの略称。RPGはドラクエ(    ※2)とかFF(  ※3)とかあーいうやつ。詰まり『ドラクエっぽいのをネットで皆で一緒に出来るゲーム』って事」


 ドラクエならちょっとやった事がある。あーいうやつか。敵と戦って、レベル上げて、みたいな。


「インフレって?」

「えーっと……まず、ネットゲームっていうのは基本的に更新(アップデート)されるんだよ。バグを直したり、新しい要素を追加したりね。で、その新しい要素を追加するのって、既存のプレイヤーに飽きさせないためなんだけど、そういう人達って大体最前線の方まで攻略してて、超強いわけ」

「ゲーマーの人達って一日中ゲームしてるからね……」


 ある意味ストイックではある。私好きな事でもあんなに連続して出来ないもん。


「で、そういう人達が振り向くような追加要素っていうのは、『既存のアイテムより強いアイテムの追加』とか『更に強い敵の追加』とかなんだよ」

「そんな事したらプレイヤーも敵も天井知らずに強くならない?」

「お察しの通り。その現象を『インフレ』って言うんだ」


 成程。理解はしたけど……


「なんでそれが柚の収入と関係あるの?」

「その追加要素を速攻で手に入れてそのデータを他人に売れば、ただの強いデータよりも高く売れる。あいつはその狙い目のために色んなゲームでそれなりに強いアカウントを複数持ってるんだ」


 ああ、そういう事か。そういえばそんな事言ってた気がする。


 佳晃は一通り説明し終えると、ベッドの向かいのソファーに腰掛け、「そういえば……」と話を続けた。


「あいつ、昔はMMORPGなんて全然やってなかったんだぜ?」

「え!? 昔からめっちゃゲームしてたじゃん!」


 保育園児の頃から、テレビの前でコントローラーを握る彼を私は何度か見た事がある。彼とは家が近かったので、よく突撃しに行ったのだ。(ちな)みに、彼がネットゲームに手を出し始めたのは小学生の頃からだ。


「ジャンルが違ったんだよ。あいつがやってたのはオンラインTPS。代わりってわけじゃないが、俺は今も昔もRPGだったな」


「てぃーぴーえす?」とまたもや私が質問したが、「ただのゲームのジャンルだよ」という以上の説明はされなかった。


「中学ん時いきなりMMORPGに手を染めたから何かと思えば、金稼ぎとはなぁ……」


 そう言って、彼はどこか呆れたような雰囲気を醸し出した。


 しかしゲームか。殆どやった事無いけど、暇つぶしには持ってこいかもしれない……


「ねえっ、佳晃」

「ん?」

「ゲームしたい!」

「えっ!?」


 その言葉を聞いた彼は、「お前がそんな事を言うなんて……」とでも言いたげに目を丸くした。

※1 メーデー――――無線電話で遭難信号を発信する時に国際的に使われる緊急用符号語。

※2 ドラクエ――――スクウェア・エニックスから発売されているコンピューターゲーム「ドラゴンクエスト」の略称。一般的にはこれを第一作とするシリーズ作品全体を指す事が多い。

※3 FF――――スクウェア・エニックスから発売されているコンピューターゲーム「ファイナルファンタジー」の略称。こちらも、一般的にはこれを第一作とするシリーズ作品全体を指す事が多い。

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