表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/36

14 私と同級生は幼馴染の大学生のひもになりたいらしい

「そのおともだちってどんなひと?」と雪。

「んー、優しい……かな?」

「それほめるとこないひとをせつめいすることばだよ?」

「いやそういう訳じゃないんだけど……」


 長所は色々あるのだが、彼を説明する時に一番最初に思い付くのがその単語だった。優しいというより、甘い。ツンツンしてる割に人に甘いというか、斜に構えた態度の割に押しに弱いというか……


 ていうか「優しい」ってそんな言葉じゃないだろ。「好きなタイプは優しい男性です」って言ってる世の女性が全員、相手は誰でもいいビッチ(   ※1)になってしまう。


「男性ですか?」

「うん、冴羽柚っていう人」

「えっ……!?」


 柚の名前を出した瞬間、雪がビクッと身体を震わせた。


「どうしたの?」

「…………」

「雪?」

「へ? あ、いや、なんでもないよ」


 眉間に皺を寄せ、酷く悩んでいるようだった。何かあったのだろうか。


 しかし、懊悩の理由を知る前にシアが新しい問いを投げてくる。


「男性の家になんて、危なくないですかね……」

「大丈夫大丈夫。それに、一人暮らししてるし多分甲斐性あるからお金の問題も解決するよ?」


 ロリコン疑惑があるけどね。


「っと、着いたわ。ここよ」


 話をしているうちに彼の家に着いた。外壁が灰色に塗られた新しめな二階建てアパートの、一階の一室に彼は住んでいた。


「話つけてくるからちょっとその辺で待ってて」


 三人も居ると思われるとちょっと交渉が難しいかもしれない。まずは私だけだと思わせて、後で残り二人も受け入れさせる。フット・イン・ザ・ドア・テクニックと言うやつだ。


 インターホンを鳴らすと、すぐに彼の声と足音が聴こえ、程無くしてドアが開いた。玄関には柚が居たが、目線が虚空、私の頭の上を彷徨(さまよ)っている。


「ねえっ!」

「?」

「こっち!」

「は?」


 彼が目を擦る。幻覚だと思っているのかな。


 さて……


 交渉の時間だ。私と友達のこれからを決める運命の時間だ。


 話をしよう。


―――――――――――――――――――――――


戦犯(  ※2)こいつじゃねえか」


 話を聞き終わった俺は雪を見た。


「素人が戯れに作った薬品を躊躇い無く飲むとかどういう神経だよ……」

「そうそう、大戦犯なのよ!」


 心愛が同調する。


「止めなかったお前もお前だ」

「……ごめん」

「はあ……」


 俺は嘆息した。以外どうリアクションすればいいのか分からなかったし。


「まあ、無事で良かったよ」

「無事……ではないかもですけど……」

「そうだけど、命があるだけで重畳(ちょうじょう)だ」


 最悪死んでるからな……


「にしても、雪って大人しそうな顔して意外と好奇心旺盛だな」

「親譲りの無鉄砲で小供の頃から損ばかりしている」

坊ちゃん(    ※3)じゃなくて嬢ちゃんになるな」


 頼むから二階から飛び降りたりはしないで欲しいものだ。


「まあ、彼女は強運の持ち主なので、大概の事では大事に至らないでしょう」


 そんな根拠で大丈夫か?


「っと、朝食片付けてくるわ」

「私も手伝います。昨日、一昨日と心愛に任せっぱなしでしたから」

「ありがと。ほら雪、片付けしなきゃだから早く起きて食べなさい!」


 そう声をかけると、彼女は「にゃんぱすー(   ※4)」と、何とも不明瞭な返事を返した。訳分からん。どういう意味なのそれ。


―――――――――――――――――――――――


 ここあにおきろっておこられた。


 しかたないからてきとーにへんじして、むっくらとまぶたをもちあげる。おにーちゃんとしあは、もうきっちんみたい。


「起きた? 早く食べなさい」

「さっきのはなし、だいじなとこいわなかったよね?」


 ここあのうごきがかたまる。


「おにーちゃんのいえにいくとちゅうで、ここあ、『私実は柚の事昔からちょっと気になってて? 誘惑してもぜーんぜん動じないし? でもこの身体なら上手く行く気がするっていうか? いやだからあいつんち行くって訳じゃないけど?』とかって、ちょーじょーきげんにのたまってたよね?」

「……」

「いつからすきなの?」

「小学生か、中学生の時から……」

「いってないんだ?」


 ここあはこくってうなずいた。きながなもんだね。


「なんでいわないの?」

「いや……言おうとしたけど……その……高校の卒業式の帰り道とかも……頑張ったけど……喉の奥に引っかかって……声出なくて…………」

「ふーん」


 このまえのはなしででてきた、あのときか。


 ここあをみたら、みみまでまっかになってた。おとめだね。ってわたしがはずかしめてるからか。


 わたしだってこいくらいしたことはあるけど、ここまでわずらったりはしなかった。こいってせんさばんべつだなって、あらためてかんじる。


 ま、べつにここあのれんあいもようには、あんまりきょうみないけどさ……

※1 ビッチ――――性に奔放な女性を指す俗語。

※2 戦犯――――勝負事における敗北や不祥事などの原因になった個人を揶揄して呼ぶ言い方。太平洋戦争の敗戦責任を問われるべき立場であった政府や軍の要人が、戦犯として裁かれたことによる。

※3 坊ちゃん――――夏目漱石による日本の中編小説。冒頭に「親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある」という文がある。

※4 にゃんぱすー――――漫画「のんのんびより」において使用された挨拶。2013年アニメ流行語大賞金賞。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう勝手にランキング
「小説家になろう勝手にランキング」への投票はこちら をクリック!
よろしければ投票お願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ