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13 私の同級生はこの状況を打破出来ないらしい

「雪、ピッキングをお願いします」

「はーい」


 針金二本を鍵穴に差し込みカチャカチャと動かす。数分して、カチャッと言う小気味良い音が聞こえた。


「ありがとうございます」

「……けっこーつかれるんだよ? これ」

「後で私がジュース奢ってあげるから」

「あとさんかいはいける」


 ちょっろ。


「で、第二倉庫なんかに入り込んで何をするつもり?」


 三回目のピッキングで開けたのは第二倉庫だった。倉庫とは言っているが、その実大学で不要になった物を一時的に保管しておく物置であり、掃き溜めと言っても差し支えない。


「確かここに昔棄てられた……」


 中に入ったシアは何かを探しているようだ。暫しその姿を眺めていると、不意に彼女が「あっ!」と声を漏らした。


「ありました!」


 彼女が手に持っていたのはミシンだった。それを見て私も彼女の意図に気付く。


「そっか、服が無いもんね」


 薬で小さくなったのは当然身体のみなので、私達はだぼだぼな服を着ていた。シアに至ってはスカートのウエストが余り落ちてしまうので、着るのを諦めたようだ。上の裾が余った分でいくらかは隠しているが、さっきからめっちゃパンチラ(    ※1)しそう。


 みえ……みえ……(    ※2)みえた!


「ええ、とりあえずここから出るには服が必要ですから。でも、私裁縫苦手なんですけど、二人は出来ますか?」

「無理」


 私は即答した。無理だもん。なんか私が使うとミシンが壊れるんだけどあれなんなの? 私が悪いの?


「じゃあまたわたしか……」


 おお、流石雪だ。彼女はああ見えて結構なんでも出来る。


「お願いします」

「……ここあ、じゅーすもういっぽんね」

「おかのした(   ※3)っ!」


 お安い御用である。


 早速ミシンを第二臨時実験室へと持って帰り、彼女に今着ている服を体格に合わせたものにリメイクして貰った。


 ものの二時間強で三人分の服を作り上げる彼女の手際には驚嘆を禁じ得ないが、何はともあれこれで外に出られる。


 大学を出て、一人暮らしをしている心愛の家に三人は向かう。雪には両親が居ないし、シアも一人暮らしなので三人とも家に帰ろうと思えば帰れるのだが、今後の方針をまとめるために相談した方が良いという結論を出したためだ。


 家に着いた時、空は既に茜色に染まっていた。


 中へ入り、お茶を淹れて、三人がテーブルを囲んだのを見てから私は切り出した。


「シア、これって治るの?」

「すみません、分からないです」


 やはり開発中ということもあって、未確認な部分も多いようだ。


 それを聞いていた雪が口を挟む。


「おくすりなんだし、いつかこうかきれるんじゃない?」

「……」


 シアはその言葉を聴くと青ざめ、身を縮めて黙り込んだ。


「どうしたの?」

「…………実は、おじさんが酔ってたので深くは聞けなかったんですが、前に言った使い勝手が悪いっていうのが、その……どうも、任意で元に戻れないってことらしくて……」


 その後、狼狽してしどろもどろになる彼女から聞き出した事をまとめると、


 ・動物実験では一個体も元に戻らなかったらしい

 ・元に戻る方法も確立されていないらしい


 ということが分かった。又聞きな上、情報ソースが酩酊状態だったので超不確定だったが、無いよりマシだ。


「畢竟、勝手に元に戻るのをあてにするのは甘過ぎるってわけね……」

「ごめんなさい……」

「シアのせいじゃないわ、そこのバカスノーが戯れに服用するからよ」

「はんせいはしているがこうかいはしていない」

「それを口にする人は大抵反省すらしていないから」


 薬物濫用ダメ、ゼッタイ。


「大学に通うのは無理よね……」

「バイトも行けないですよね。私の学費が無くなった分生活費は仕送りだけで賄えるでしょうけど」

「わたし、しおくりとかないよ?」


 雪はちょっと涙目だ。ざまぁwww


 と言っても、実際は私も仕送りなんて無いのだ。柚の部屋に(かよ)っていた時に出席時数や成績が悪くなり、怒った親から資金を切られてしまった。バイトで稼いだ分から家賃と学費を除けば、雀の涙程の額しか残らない。


 それでもこれまで霞を食って生活してきたのに、おまんまの食上げ&大学卒業が絶望的とかもうだめぽ(   ※4)ぉ……


「……」


 部屋を静寂が包む。きっと皆このどうしようもない状況に銷魂(しょうこん)しているのだろう。


 これは、生きていくにはあいつを頼るしかないかな、ないよね、うん。合理的な判断だよね。


「私の友達に一人、何とかしてくれそうな人が居るんだけど、訪ねてみよ?」


 私は憔悴した二人にそう声をかけた。

※1 パンチラ――――主に女性用の下着が一瞬ちらりと見える現象。

※2 みえ……みえ……――――小説「バカとテストと召喚獣」中の登場人物、土屋康太が女性の下着を覗く際に発する台詞。

※3 おかのした――――「分かりました」の意。株式会社コートコーポレーション制作のアダルトビデオ「Babylon STAGE27『誘惑のラビリンス』第三章『空手部・性の裏技』」において、登場人物の鈴木の「分かりました」という発言が「おかのした」と聴こえた事が由来。

※4 だめぽ――――「だめっぽい」の略。

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