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12 大学生の同級生と私が幼女になったらしい

「なにつくってるの?」と雪。

「それがよく分からないんですよね」

「わかんない?」

「なんか若返りの薬らしいんですけど、詳しく聞いても韜晦(とうかい)されて……」


 ここは大学の第二臨時実験室である。最近実験室が足りなくなってきた為、泥縄で会議室を作り変えた部屋だ。通常は使われていないので忍び込むには打って付けである。


 当然鍵はかかっていたが、「このてーどのしりんだーじょーなどぞーさもないわ、ふふ……」と言いながら雪が二分程度でピッキングを完了させてくれた。どこで覚えてくるんだろう。


「大体何で開発中の薬品教えてくれたのよ」


 普通、未発表の発明を人に教える訳が無い。先に他の企業や組織に発表される事を危惧するならば、関係者どころか一部の中軸くらいにしか明かせないような最重要機密だろう。


「あの人、注ぐ酒注ぐ酒みんな飲み干すんですよ」

「泥酔させたのね……」

「しあちゃんびじんだからことわれなかったのかも……」


 そう言いながら、シアは操作を進める。酔った勢いで情報漏洩した人、後でこってり油を絞られるだろうな……


 しかし、それ以外にも気になる点は山程ある。


「開発中ってことは、未完成なんじゃない?」

「いえ、主な効果はこれで出るそうです。ただ、ちょっとまだ使い勝手が悪くて、それを解消する研究を進めているそうですよ」

「まあ、こまかいことはいいんだよ」


 雪は本当に無鉄砲だなぁ……


「出来たわ」


 シアが不安そうに言った。手には液体の入った試験管が3本握られている。それを机の上の試験管立てに置くと、指示を仰ぐように私達を見てきた。


 少しの間の後、雪が口を開いた。


「のんでみよっか」

「「え!?」」

「のんでみなきゃわかんないじゃん」


 いや


 いやいやいや……


「それ絶対やばいって。さっき劇薬とかも入れてたじゃん」


 てかさっき危険物管理庫もピッキングしたじゃんあんた。


「私もちゃんと計量はしましたけど、完全に反応してる自信は無いですし、そもそも何の薬かも分かったもんじゃないですし……」

「わかがえりなんでしょ? いいじゃんっ!」


 何が!?


 しかし彼女は言うや否やそれを一本手に取り、ごくごくごく……と口をつけて一気に飲んでしまった。良い子は真似しないでね。


「……まずい」


 でしょうね。むしろ美味しかったら怖い。


「さあ、どうぞ」


 そう言いながら、彼女は二人に残りの試験管を差し出す。


「しぬときはいっしょだよ?」


 死にたくないよぉ……


「私、行きます!」

「シア!?」

「雪だって勇気を出したんです! 私達が躊躇ってどうするんですか!」

「蛮勇は勇気じゃないわ! 落ち着いて素数を数えなさい!」

「1!」

「落ち着いて!」


 しかし、彼女も私の静止も聞かずにそれを飲んでしまった。


「シア……早まったわね……御冥福をお祈りするわ」

「そもそも死んでないですよ?」


 目尻に涙を浮かべる私をシアが冷静に(さと)した。


「ここあ、いこ?」


 そう言って、雪は私に薬を差し出す。なんだこの死神。


「あんた達の効果見てからじゃダメ?」

「ここあ、しぬときはいっしょ」


 ヤンデレ(    ※1)かな?


「さあ心愛、私達の元へどうぞ」

「のるしかない、このびっくうぇーぶに(   ※2)


 迫る二人にはただならぬ迫力があった。ええい、ままよ!


 ごくごくごく……


「おおー」

「流石心愛ですね」


 何故か感嘆された。


「ていうか、なにもおきないよ?」

「シア、効き始めるまでの時間とか聞いてないの?」

「いえ、何も……」


 まあ、雪が飲んでから十分くらいだ。普通はそんなすぐには効果は出ないだろう。


「待ちましょっか」


 私がそう言うと、二人は静かに首肯した。


 それから私達は雑談をしたり、携帯を弄ったりしていた。私はLINEで柚にちょっかいを出したり、動画を観ていたりした。(ちな)みに、LINEに既読はつかなかった。ワンチャン(     ※3)未読無視説ある。しょぼーん(     ※4)


 変化が起こったのは、というか変化に気付いたのはそれから一時間程後の事だった。


 私は、何か変わった事が無いならそろそろ帰ろう、と言おうとした。しかし……


「あれ? なんか机高くない?」


 対面に座っていた雪を見ようとすると目の前に現れたのは机の角だった。慌てて立ち上がり雪を見ると、だぼだぼの服を着た幼女がそこに居た。


「ん? ここあ、どうかした?」


 雪は狼狽する私を見て不思議そうな声を上げる。


 しかし彼女も私を見て、すぐに自分達の身体に起こっていることを理解したようだった。


「若返るって、そういう事ですか……」


 シアが得心したような呟きを漏らす。


「いや、なんでそんなに冷静なのよ」

「周りが浮き足立ってると、自分は冷静になれるものですよ」


 そう答えると、続けて彼女は言った。


「とりあえずここには居られませんね。見つかったら面倒ですから。それと、これが治るのか、治るまではどう過ごすのか、考えなければいけません。」


 今後の方針は固まったようだった。

※1 ヤンデレ――――キャラクターの形容語の一つ。「病んでる」と「デレ」の合成語であり、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子を指す。

※2 のるしかない、このびっくうぇーぶに(=乗るしかない、このビックウェーブに)――――2008年7月11日、Apple社iPhoneの日本発売の折にソフトバンク表参道店に徹夜の行列ができた際のマスコミの取材で、ブロガーの「BUTCH」という人物が言い放った言葉。「ビックウェーブ」とは、巷を席巻している流行やその兆しの事を指していると思われる。

※3 ワンチャン――――「ワンチャンス」の略。可能性が高くはないが無い訳ではないという意味。

※4 しょぼーん――――「がっかり」や「気落ち」といった、残念な精神状態を表す言葉。一般的には「(´・ω・`)」とい一行アスキーアート(文字で描いた絵のこと)を指す。

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