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11 幼馴染の大学生は意外と真面目でコミュ障らしい

 午前四時半頃、閑静な街を東雲(しののめ)が照らす時間に、突然インターホンが鳴り響いた。


「何よ……こんな時間に……」

「いいぞ心愛、俺が出る」


 まあ、誰かは大体予想がつくんだけどな。もしその誰かじゃなかった時、女子が対応するのは危ないし、彼女の寝巻は裸ワイシャツなので他人に見せるわけにはいかない。


 そう、彼女の寝巻は裸ワイシャツだ。しかも決して事後とかではなく、素でこれだ。意味が分からないと思うが大丈夫だ、俺にも分からない。


 果たしてドアを開けると、そこに居たのは山田さんだった。


「こんな時間まで何してんだ」

「……」


 彼女は口を噤んだ。


「…………最近物騒だから気をつけろよ」

「……はい」


 そう言って彼女は家に入った。見た目小学生だから子供にするように叱ってしまったが、よく考えれば俺と同い年なんだよな、この人。


 とはいえ、心配なのは本当だ。山田さんは最近家に居ないことが多く、こうして早朝や深夜に帰ってくる事もしばしばである。事情は人それぞれかもしれないが、あまり遅くまで外出するのは控えて欲しいものだ。


 彼女はとりあえず風呂に入るようなので、俺はソファーでもう一眠りする。ベッドは依然として女性陣の占領下にあるので、そろそろ新しく敷布団を買った方が良いかもしれない。


 合皮の上に身体を横たえブランケットを掛けると、その仄かな熱に吸い込まれるように俺は深い眠りに落ちた。


―――――――――――――――――――――――


 午前十時。


 俺の部屋は、時が止まっていた。


 いや、テーブルに置かれた電波時計は刻々と時を刻み続けているし、耳を澄まさなくともアパート裏の国道を走る車の往来が喧騒として聴こえてくる。


 しかし、俺の部屋はその時確実に時が止まっていた。


 俺の視界にはベッドの上で(もつ)れ合う二人の美少女。


 片方は全裸で押し倒され、もう片方はボタンを全部外したワイシャツ一枚でもう一人に覆い被さっている。


 窓から差す一条の光と薄い布が彼女達の裸体を上手い具合に隠していた。円盤(  ※1)だと消えてるやつだこれ。


 などと益体も無いことを考えている場合では無い。山田さんが悲鳴を上げたりする前にこっちが何かアクションを起こすべきだろう。


「…………よそでやれ」

「ご、誤解よ!」


 この状況で何が誤解なのだろうか。


「これはあれよ! ゆる百合(    ※2)よ!」


 少なくともガチ百合だと思う。ガチガタタタタガチゆり大事件(   ※3)


「愛し合うのは勝手だけど、雪に悪影響を与えないでくれよ……」

「そうね、仲間外れは良くないわよね」

「籠絡しようとしてんじゃねえ! 純粋な子を(おと)すなっつってんだ!」


 発想のベクトルが毎回斜め上すぎるだろこいつ!


「心愛、もういいでしょう?」


 そんなやり取りをしていると、山田さんが起き上がって服を着ようとするので、俺は慌てて目を背けた。この人も俺に裸を見られるのを厭わないらしい。これが類友(  ※4)ってやつですか。


「はあ……どうしよっか……」


 後ろからそんな心愛の呟きが聞こえてきたが、俺には彼女が何に悩んでいるのか分からなかった。


―――――――――――――――――――――――


「ていうか、どういう実験をしたら身体が縮む薬なんてできんだよ」


 朝食を摂りながら俺は彼女達に質問する。


 身体を任意的に縮められるなんてノーベル賞ものの発見だ。一介の大学生が戯れに製剤出来る物とは到底思えなかった。


「んー、ていうか私達が来た日の事は、もう全部話しちゃった方が良いかも」


 ね、と心愛が隣の山田さんに同意を求めると、彼女もちっちゃく、しかし確かに首肯した。(ちな)みに雪は朝に超弱いらしく、こっくりこっくりと船を漕いでいて意識はほぼ無いようだ。うん、でも可愛い。


「事の始まりは、シアが持ってきたある資料だったの」


 心愛はパンをオレンジジュースで流し込むと、そう切り出した。


―――――――――――――――――――――――


「そういえば、四年になったら卒論書かなきゃよね」


 私、雪、シアの三人が大学の食堂で昼食を摂っていると心愛は唐突にそう切り出した。


「かんがえるのはやくない? さいあくにしゅーかんくらいでだいじょぶでしょ」


 言ったのは雪だ。流石に舐め過ぎである。


「でもいざやろうとしたらテーマ決まらなくて……みたいになったら嫌じゃない? だから、テーマくらいはもう考え始めてもいいかなって」

「ここあ、いがいとまじめだよね。じゃーせんせーにいってみれば?」

「先生と喋れない……」

「ここあ、いがいとこみゅしょう(    ※5)だよね……」


 仕方無い。小中高と地元だったのは柚だけではなくその幼馴染もなのだ。もし最初の頃に雪が話しかけてくれなかったら、私の大学生活もワンオペレーション(   ※6)だったかもしれない。


「そんな心愛に朗報ですよ」


 話を聞いていたシアが得意気にウインクした。


「先日製薬会社の人とお話する機会がありまして、その時私が薬学部だと申したら、面白い薬を開発していると……」


 そう言いながら取り出したのは、一封の古封筒だった。

※1 円盤――――CD・DVD・ブルーレイディスクを指すネットスラング。一般的にはアニメ等作品のパッケージ版を指すことが多い。

※2 ゆる百合――――男性同士の同性愛を「薔薇」と呼称する事から派生して、女性同士の同性愛を表す「百合」という言葉が生まれた。一般的に、百合行為の内戯れに行うものを「ゆる百合」と称し、性愛に基づいた行動を「ガチ百合」と言う。

※3 ガチガタタタタガチゆり大事件(=ゆりゆららららゆるゆり大事件)――――テレビアニメ「ゆるゆり」のオープニングテーマソング。

※4 類友――――「類は友を呼ぶ」の略。

※5 こみゅしょう(=コミュ障)――――「コミュニケーション障害」の略。他人と会話することに強い苦痛を覚える人の事を指して言われる。

※6 ワンオペレーション――――一人で全ての作業をする事を指す和製英語。略して「ワンオペ」とも。

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