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01 幼馴染の幼女が俺と同棲したいらしい

挿絵(By みてみん)


 ふと、三日前の今頃の時間に流れていたアニメを思い出した。


 薬で小学生にされてしまった男の子が「真実はいつも一つ!」と断言しながら事件を解決する、誰もが一度は観た事のあるあの有名番組である。


 当然の事ながらあのアニメはフィクションであり、子供になる薬は空想上の物であり、現実には有り得ないことであると視聴者は思ってているだろうし、実際俺もそう思っていた。


 そう思っていたのだが……


「詰まり、行く宛がないから当分家に泊めろと?」

「美少女がこんな願っても無いこと言ってるんだから、断る理由なんてないでしょ?」


 ならば、今年で22歳である俺ん()の玄関前に「幼馴染の幼女」が仁王立ちしていらっしゃるこの状況はどう解釈すれば良いのだろうか。


―――――――――――――――――――――――


 少し時間を巻き戻す。


 リビングにある少し背の高いウォールナット材のテーブルで食事をとっていると突然インターホンが鳴って、さてはこの前頼んだ「雑誌」が届いたかなと考えつつドアを開けたが、眼前に現れたのはいつも見慣れた俺の家の前の風景だけだった。


「確かにインターホンが鳴った気がするんだけど、幻聴かな? 疲れてんのか俺?」と、僅かに懐疑感情を抱きつつドアノブに再度手を伸ばした時、


「ねえっ!」


 どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。


 なんか……下の方から……


「?」

「こっち!」

「は?」


 俺の足元を見ると、小学校時代から付き合いのある友人の姿が見えた気がした。


 いや、そいつで間違いないのだ。艶のある黒髪を後ろで一纏めにしたナチュラルポニーテール、愛嬌のある八重歯とパッチリした大きな目、シャープな輪郭の上にうっすらと肉が乗り思わずつねってみたくなるほっぺ。それらは全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。


「……やっぱり疲れてんだな。でも俺、ロリコンだったのか。ちょっとショックだ」


 ぶつぶつ言いながら(なお)もドアを閉めようとすると、彼女は力ずくでそれを引き戻した。


 ドアノブを握っていたせいで前傾になった俺をフルパワーの掌底が吹っ飛ばす。弧を描いて逆回転した後頭部を玄関のフローリングににぶつけ、一瞬目の前にチカチカとした光が見えた。


「っ!!」

「現実よ」

「だ……だいじょうぶっ!?」


 彼女の友達だろうか。横から見知らぬ少女がその明るい茶色のショートボブの髪を揺らし目を白黒させながら顔を出した。


「大丈夫よ!」


 なんでお前が自信満々にそう応えるんだ……


「……説明しろ」

「薬飲んだらちっちゃくなったの!」

「嘘つけぇ!」


 多分その説明で納得する奴は居ないぞ!?


「嘘だったらこの姿はどう説明すんのよっ!」

「……」


 反論することは出来なかった。言っていることは相当にぶっ飛んでいるが、確かに目の前にこれが居る以上、嘘だと断言することは難しい。


 ただまあ、それが本当だとして……


「俺には何も出来ないぞ?」

「えっ……」

「薬剤のことならお前らの方が詳しいだろ? 俺にそんなこと相談されたって何も……」

「誰もあんたみたいな無能にそんなこと頼まないわよ」


 酷い言われようだった。昔から食い意地の張ったやつだったし、オブラートも歯の衣も子供の頃に食い尽くしたのかもしれない。


 ……いやまあ無能なんだけどね。高卒ニートにどうにか出来る問題とは到底思えない。


「あんたちょっとは甲斐性あるでしょ?」

「ねえよ」

「私達のこと当分養ってよ」


 人の話聴かないのは昔からである。ついでに、人にものを頼む態度を知らないのも昔からだ。


「詰まり、行く宛がないから当分家に泊めろと?」

「美少女がこんな願ってもない事言ってるんだから、断る理由なんて無いでしょ?」

「断る理由しかねえのが吃驚(びっくり)だな」

「一応理由とやらを聴いてあげましょうか」

「態度」

「か弱い女の子に(おもね)った態度をとられたいだなんて、流石変態ね!」

「お前にそれを言わせるだなんて、よっぽどの変態なんだな」


 お前ら、騙されるなよ。こいつの変態さは次元が違う。痴女だ、痴女。


「そもそも人を二人養うほどの甲斐性はねえよ」

「安心なさい! 二人じゃないわ!」


 どうやら先程の少女はは単なる付き添いだったらしい。


「三人よ!」


 安心 意味   検索↖


「ねえ、だめ?」

「……」


 デニムスカートの裾を弄りながら少し俯き、上目遣いで俺を見てくる。ワインレッドの瞳は少し潤んでいて、それを見ればどんな男でも言下に断る事など出来やしない。


 それでも、平素ならここで少し考え、やはり「だめだ」という答えを導出していただろう。そうならなかったのは、俺を頼る彼女の顔に悲壮感や緊迫感といった(たぐ)いの感情が張り付いていたからだ。


 思えば、俺が「嘘つけ」と言った時から、いや、ドアを開けた時から、隠してはいるがそれでも尚明らかなほど緊張していた。


 一縷の希望を懸けるような、一本の藁をも縋るような。


 だから俺は……


「……上がれば?」


 この落ち着いた生活を手放したのかもしれない。

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