女優・アイドル・モデル魂
俺達がいる保健室は、旧校舎のもう使われていない古い方だ。
旧校舎は三階建てでだ、二階までが部室連、三階は元教室で、今は全部使われていない。
だから保健室のある三階はマジで人がいない。
だから俺たちが魔法を使ったり、集まるのには最適な場所なのだ。
だから、最も人がいるのは新校舎の玄関。
そんなところに有栖川が行けば…
そこには既に、報道者やカメラマンが入り浸っていた。
「おいおい、アリスちゃん。帰れねえんじゃない?」
「ほんとよ。しまった、あの番組のクソカメラマンもいるわね。風の魔法で空飛んで帰りましょ」
「やめなさい。人前ではその力を使っちゃダメよ。世界が混乱するわ」
「有栖川、そんな凄いことも出来るのか」
「もういっそ創に女装させて囮作戦でもするか?」
「ぜってえやらねえ!お前の方がお似合いだろ!身長同じくらいだし」
「馬鹿野郎俺の方が高いわ!」
俺たちは玄関より少し離れたしげみに隠れて作戦をねっている。いやいや、あの人数は凄くね?ちょっと舐めてたわ。『Alice』。
本物がいるってことと俺たちと秘密を共有ふるってことに麻痺して、俺らの感覚は鈍っていたらしい。いま、改めて有栖川美綛の凄さを実感した。
「それにしても、どうすんだこれ!何やってんだ先生達は」
バチ!!
「痛っっっ!!!(小声)」
「ーーあれ?おい、故障か?」
「なんだ!?電源が切れたぞ!」
「ボイスレコーダーも動かないわ!?」
急に静電気が耳元を走ったかと思うと、向こうの集団もザワザワし始めた。
「…なにが起こったの?まあ、ラッキー!今のうちよ!」
「いいえ、そこよ!」
すると、蔵野が鋭い目付きで隣の茂みに小石を投げた!
「きゃあ!ご、ごめんなさいい!!」
そしてその茂みからは、小さな影が飛び出し、俺達が引き止める間もなくピューっと逃げ去った。
「未鈴ちゃん、何だったんだ?今のは?」
「…さあ」
「…おい!こっちの方から何か動いたぞ!Aliceかもしれない!」
さっきの女の子?の物陰を見たのか、その男の一声で数人がこっちへ流れ込んできた。
「申し訳なく思ってるわ」
「おい有栖川だけでも逃げろ!ここは俺たちだけで引き受ける!」
「よく言った創、さあ未鈴ちゃんが魔法で用意してくれたウイッグとスカートだ。思う存分走れ」
「いえ?普通に考えて、身長面から女装するのは篠原くんだと思うのだけど」
「……」
この時、男二人は思った。蔵野さんも大智(俺)と身長そんな変わりません、と。
だが大智は逆らえなかった。そういう宿命なのだ。上下関係という言葉が俺たち(特に大智)の胸に響いたーー
「泣きたい」
「もおおお!女々しい!女々しいわよ!男達!」
すると、急に茂みから有栖川が立ち上がった!
周りはざわめく。もちろん俺たちも。だがカメラを向けようにも、まだ故障?しているらしく、メモ帳を持ったレトロな記者達が有栖川に駆け寄った。
それも全て気にせず、有栖川は言い放った。
「聞きなさい!本日限りで、私…Aliceは!引退しまああああす!!」
・
・
・
「「「えええええええ!?」」」
「私はっ!これから普通の青春をして!普通の高校生らしく暮らすのよ!!だから…みんな!ごめんなさいっ!」
有栖川は泣いていた。その横顔は美しく、雫は夕日に光って輝いていた。
その言葉を聞いた周りの人間も、自然と涙した。大智は気絶していた。かく言う俺も。
「今まで、ありがとう!」
◇
「はあ、疲れたぜ…」
「俺たち何にもしてないだろ」
俺たちは例の公園に集まって、ひと休憩していた。
「アリスちゃん、引退、辛かっただろ」
大智が慰めるように声をかけた。
「いいえ?あれ、嘘泣きだもの」
…
「いい女だ」
「誰だお前は」
そうして、一息ついて「また明日ね!」と、有栖川は帰っていった。それにしても、スカートは短い。
「ふふ、まったく。嵐のような人だったわね」
「!?」
な、に…蔵野が笑った…こんなに簡単に?
俺は2日かかったものを、有栖川は半日で…!?
く、くっそーーー!アイドルめーー!!
ご観覧ありがとうございます。
前回、後書きで書こうとしていたことを本文にメモしていたら、そのまま投稿してしまいました!そのまま一週間気付かず…恥ずかしいです!
※ちゃんと消しました
それはともかく、この後夜のニュースはとんでもないことになったそうです。さすがに有栖川さんも反省してますね。