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蛍火鳥と東雲  作者: 朝憑 真
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お人好し


「精霊は人の強い気持ちに惹かれるわ。

愛情、恐怖、欲望とかね」



次の日のHR後、また保健室に呼び出された俺達。行くしか道はない、って思った。マジで。

その呼び出し方っていうのが、HR中に普通の音量で言うもんだから、何事かとクラスメイトのみんなに質問された。もう手を出したのかとか、委員長には肩に手を置かれて「どちらか振られた奴の味方になろう」とまで言われた。告白みたいな甘いイベントじゃねえんだよ!

大智は女子に話しかけられて嬉しそうだったし、篠原は話しかけられてもオール無視してて怖かった。



「ーー篠原くんがその時思った事が、大地の精に気に入られたのだと思う」

「まず精霊に気に入られるなんて滅多に無い事なのに、あんなタイミングで…流石に驚いたわ」


こいつは延々と精霊について喋っている。

「わかった。お前、精霊オタクだろ!」


「…私はこのことしか知らないだけよ。物心ついた時からずっとね」


「えっと…ごめんなさい」


どんなご家庭だ!冗談では無さそうだから余計困る。

何とも言えない返しに、俺は謝ることしかできなかった。


「でもまさか蔵野先輩がそんなことしてたなんて、全く気づかなかった」


「…」


ガラガラっ

「遅れてすみません!篠原様!ただ今参上しました!」


蔵野が考え込むと同時に、大智が保健室に入ってきた。その格好は土で汚れていて、手には土を入れたビニール袋を持っていた。


「遅かったな!てか、なんで敬語?」


「私と篠原くんには既に、教える者と教わる者という上下関係が出来ているのよ」


「そういう事だ!俺は今まで篠原様の命令で野球部グラウンドの土を持ってきたのだ。あの時の野球部の俺を見る目と言ったら…もう…」


「くっそ!なんだこの疎外感!!」







「それじゃあ、2人とも。行くわよ」


どこに?と聞く前に、蔵野は巨大なリングを出した。


「…この中に入るのよ」


「質問です。俺たちはどうなりますか?」

「早く」


大智が無理やり押し込まれ、リングの中の黒い物体の中に消えた!

「うわあああああああああ大智いいい」


「あなたもよ」


ぐいっと襟を掴まれ、俺も放り込まれた!

これはマジで死を覚悟したが、ぱっと目がさめるとそこは見たことのない部屋の中だった。家具は必要最低限なものしかなく、目の前には着地に失敗してこけたと思われる大智がいた。


なるほど…通り○けフープか。


「ここどこだ!?」


「私の家よ。驚かなくていいわ光の屈折を利用して次元を曲げただけ。誰もいないから見られなくて安心出来る場所よ」


何を言っているんだこいつは。


「さあ篠原くん、起きて。これを片付けてみて」


と言うと、蔵野はいきなり大智の持ってきたグラウンドの土を撒き散らした!


「ええ!?大丈夫か!?」


俺が叫ぶと、ゆっくりと土は浮かび上がり1箇所に集まった。


「はーはっはっは!!」


そしてむくりと起き上がった大智は、見たこともないようなドヤ顔で高笑いした。


「どおだ二人ともぉ!すげえだろ!特に創!お前には一生できない芸当だぜ!」


「なんだコラァ!」


「やっぱ俺って天才かも!」


嬉しそうに笑う大智は、汗をかいていた。


ズザッ


何か後ろから音が聞こえたと思うと、蔵野が集めた土を蹴り飛ばしていた。

そして何食わぬ顔で言った。


「早く、もう1度」


「蔵野…さん?」


「疲れたでしょう?その疲れに慣れなきゃ戦えないわ」


「戦うって何いいいいいい!?」


大地の悲鳴は、部屋に響き渡った。







3度目で大地は倒れた。もう俺は寝ると言って、それから死んだかと思うくらい静かに寝ている。


蔵野は上出来だと言い、休憩を認めたっぽい。



き、気まずすぎる。

何喋ろう。てか喋ったら怒られそう!


「私が屋上で質問したこと、覚えてる?」


大智の寝息が聞こえる中、篠原が喋りだした。


「そりゃあ、芸術家が自分の作品を見せるみたいなノリで聞いてきたから、絶対篠原が犯人だと思った」


「ひどいこと言うのね」


「いやいやいや!でも、なんか話し聞くとそんな風には全然思わなくなった!

正直、蔵野先輩のこと大好きだろ」


蔵野はきょとんとし、少し柔らかい表情で話を続けた。


「本当は…私がこの学校に来たのは、その『大好きな姉』の死の真相を知りたいから」

「姉は…あの死体は、見る限り魔法によって殺された」

「私は真実を知らなければいけない」

「だから勇気を出して東雲高校(ここ)に来たのよ」


蔵野は笑った。はあと息をついて。

その顔はあまりにも複雑多岐だった。


その時、俺のこいつへの疑問は無くなった。

蔵野は自分を知らないだけなんじゃないかと思って。屋上の人間味のない問いも、淡々とした態度も。


勘違いしてただけだった。


一瞬、こいつは魔法が使える特別な人間なんかじゃない、ただの悩んでる女の子に見えた。


ーー俺はいま、自分のやるべき事を見つけた。


良心が無理やり俺を動かした。俺も力になりたいって。



「喋り過ぎたかしら。ごめんなさ…」


「俺も!!!」


大きな声で言ったせいか、蔵野は一瞬ビクッとした。


「俺にも、手伝わせてくれ!

足手まといになるつもりはねえ!!

絶対あんたの力になって、真実に連れていく!」



初めて蔵野のぽかんとした顔を見た。



そして蔵野はようやく口をひらく。

「………いらないわ。とろそうだもの」


「いーや、なに言ってもお前と一緒に行くからな!個人的に蔵野先輩への恩もあるし!」


蔵野はきょとんとして、ショートしたように、固まってしまった。

沈黙の中、ドキドキが止まらない。




「……ぷっ、はははははは!!」


すると、急に寝ていると思った大地が起き上がった。


「おまえ、やっぱ人のことほっとけない質だろ!」


「断られちまったけどな」



蔵野はこっちの目を見た。

俺にはさっきまで蔵野とは違うように感じた。その眼には、やさしい光が灯っていた。


「…ほんとね。ただのお人好しよ」


「蔵野さん、…いや未鈴ちゃん?俺も手伝うぜ」

「未鈴ちゃんはやめて気持ち悪いわ」


大智はふつうにショックをうけてもう一度地面に寝転んだ。


「蔵野、俺なんて言われても…」

「まったく、今日はもう返すから。篠原くんはゆっくり寝て」


「…また明日ね?二人とも」







強い風が吹きはじめた。

舞う桜の中心に、私は1人。

華麗にブレザーを羽織った。


「ん〜久しぶりの日本!」


「まったく、わたしを招待するなんていい度胸ね!」



ご閲覧ありがとうございます!


最近、コンビニに冷やし中華を見つけてから毎日食べています。

まだ3月なのに感動しました!

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