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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
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第4話 一十三の家

一十三の父はとても有名な国会議員であり、金は腐るほどあります。なので基本豪邸ですが、広さはそこまでありません。でもメイドや執事が結構な人数いるのでやっぱり広いかな?

 初日最後の授業が終わった。

授業が終わると、生徒達は筆記(ひっき)用具(ようぐ)や教科書・ノートをランドセルに入れ始めた。そんな中、一十三の前の席の生徒はノートを片付ける途中(とちゅう)、ふと一十三の(つくえ)の方を見て首を(かし)げた。

「ソレナンデスカ?」

挿絵(By みてみん)

彼女の名は【畄乃(るの)R(あーる)=ピエーディア】十歳。(ひとみ)はオレンジ色。金髪(きんぱつ)のカールヘアに、前髪をパンダ(がら)のヘアピンで()めている。裁縫(さいほう)が得意なピエーディアは、いつも自分で作った服を着ている。今日の服は水玉(みずたま)模様(もよう)のワンピースに、(こし)から下は(いろど)(ゆた)かな(にじ)(いろ)リボンの装飾(そうしょく)を付けている。四才の頃、ピエーディアは祖国(そこく)から()げるように神螺儀町(かみらぎちょう)にやって来た。逃げる時に両親は祖国の住民に皆殺(みなごろ)しにされ、ピエーディアは両親が殺される現場を目の前で見て以来(いらい)、完全に記憶(きおく)をシャットダウンした。今のピエーディアは神螺儀に来てからの記憶しかない。一年の放浪(ほうろう)の果て、神螺儀町に(まよ)()んだピエーディアを発見した校長は、一人で作りあげたマンションにピエーディアを住まわせることにした。それ以来、彼女にとって校長は命の恩人(おんじん)であり、親代わりもあるのだ。

挿絵(By みてみん)

一十三は目の前の視線を感じ取り、一気に体が硬直(こうちょく)した。だがずっと固まっているわけにもいかないので、一十三は机の上の筆箱(ふでばこ)を片付けようとした。

「あ!・・」


―ガシャン


だが一十三は(あやま)って筆箱を地面にぶち()けてしまった。筆箱が地面にぶつかる(さい)に、大きな音が教室中の生徒に聞こえた。生徒達は一斉(いっせい)に一十三の筆箱の方を()り向き、視線が筆箱に向けられたことで、一十三の体は(さら)に硬直し、完全に動けなくなってしまった。先に動いたのはピエーディアだった。

「ダイジョウブデスカ?」

 ピエーディアは我先(われさき)にと散らばった筆記用具を(ひろ)い始めた。他の生徒達もピエーディアのように、一十三のシャーペンや消しゴムを拾っていく。一十三は(みんな)よりも最後に動いたが、(すで)に筆箱から飛び出した筆記用具は筆箱に戻されていた。

「あ・・り・・」

 一十三はここまでしてくれた生徒達に感謝の言葉を言おうと、必死に(のど)(おく)を押し上げた。だがいまだ声は深淵(しんえん)の中にあり、一十三の顔が赤くなるばかりであった。ピエーディアはそんな一十三の心中(しんちゅう)(さっ)したのか、ニコリと笑って言った。

「イイデスヨ。オチツイテ・・シンコキュウシテ・・・」

 ピエーディアはそう言いながら、一十三の(ふる)える手を(やさ)しく自分の手で包み込んだ。一十三はピエーディアの冷たく、ほんのり温かい手を感じながら、自然と体の硬直が()けていくのが分かった。そして喉の奥から、自然と言いたい言葉が(くちびる)へと()き上ってきた。

「あり・・がとう・・」

―・・・言えた

一十三はそう思うと、(うれ)しさのあまり(ほお)が自然と(ゆる)んだ。ピエーディアや他の生徒にも一十三の声は届いたようで、照れながら答えた。

―いいって

―そうそう。そんじゃあ帰るよー

―困ったら言ってね?

―もう落とさないようにな

生徒達は拾った鉛筆(えんぴつ)を見て、自分の使っている鉛筆と(ちが)うことに気づいた。木で作られた鉛筆と違う、プラスティックやゴムの感触を感じながら、一十三に()いてみた。

―これどうやって使うの?

(しん)とかどうすんだ?

 一十三は首を右に左に(かし)げる生徒を見て、無言でシャーペンのノックボタン(芯を出すための上部にある消しゴムのカバー部分)を二、三度押した。先端(せんたん)から芯が一定の長さで出てきた。一十三にとっては別段(べつだん)驚くことではないが、生徒達は「おお(すご)い」と感心した。生徒達に囲まれる一十三を見て、ピエーディアは嬉しそうに言った。

「ヨカッタデスネ。ワタシモサイショハキンチョーシマシタ」

 オレンジ色の夕日が学校の校舎を照らす中、ピエーディアの髪とオレンジ色が綺麗(きれい)(まじ)わりながら、ピエーディアは話し始めた。

「デモイイヒトガタクサンイテ・・ワタシハホントウニシアワセモノデス」

「・・そう・・・なんだ」

 初めて同性と会話した一十三は、これが会話なのだと感心した。ピエーディアは「ア」と何か思い出したように、目を(かがや)かせて一十三を見た。

「イッショニカエリマセンカ?」

「え・・・えっと・・・」

 一十三はハッと(われ)に返ると、自分がまだそこまでいってはいないことに気づいた。もっとこのクラスに()れてから、自分から(さそ)ってみようと一十三は考えていた。すぐに机や引き出しにある物をランドセルの中に()めると、「ごめん、まだ」とピエーディアに告げて教室を走り去った。ピエーディアは走り去る一十三に「マタアイマショウ」と言ったが、残念ながら一十三の耳には届かなかった。ピエーディアは一十三が出て行った方を見ながら、クスリと笑って思った。

―友達になりたいな・・・

 いつの間にか教室はピエーディア一人になっていた。まだ午後四時前。四時になったら担任が教室の(かぎ)()めに戻ってくる。ピエーディアは急いでランドセルを整理すると、一十三の出て行った引き()を通って、夕日(ゆうひ)(いろ)の教室を後にした。




初日の学校は初めてのことの連続だった。だがクラスの皆がいろいろ教えてくれて、一十三にとってとても有意義(ゆういぎ)な一日となった。

 一十三は廊下(ろうか)まで行くと、少し(つか)れて歩き始めた。まだ胸が高鳴っている。まさかこんなに積極的(せっきょくてき)に話が出来るなんて・・・一十三の興奮(こうふん)は収まることなく、いまだに(むね)鼓動(こどう)が聞こえてくる。そんな時、一十三の姿を発見した生徒一人が、横から声をかけてきた。

「桜ちゃん」

「!」

挿絵(By みてみん)

一十三は驚いて()り向くと、【牧野(まきの)恵美(えみ)】十一歳が早速(さっそく)話し始めた。

「家はどこにあるの?」

「・・・あっち・・・」

 一十三は後ろの方向に指差(ゆびさ)して答えた。恵美は「ふーん」と言うと少し考えて、二人の前を歩く【中村(なかむら)(つよし)】を呼んだ。

挿絵(By みてみん)

「つよぽん、確か家あっちだったよね」

 剛は不機嫌(ふきげん)な顔で振り返った。

「私はつよぽんではない。・・・が、確かに君の言うあっち側だ」

「そんじゃあ桜ちゃんと一緒に帰ってあげてよ。まだこっちに来たばかりだから、迷っちゃうかも知れないし・・・」

「え・・・いや・・・」

 一十三は必死に何かを伝えようとしているが、恵美は今剛と話していて、一十三のか細い声など眼中(がんちゅう)になかった。そして一十三の抵抗(ていこう)(むな)しく、一十三は剛と一緒に帰ることになった。

「本当にいいのか?」

「え・・・あ・・・・うん」

 一十三は小さく(うなず)くことしかできなかった。知らない人と一緒に歩くことも初めてな一十三にとっては、途轍(とてつ)もない重圧であった。剛は今朝(けさ)勘違(かんちが)いから自信(じしん)喪失(そうしつ)してしまっているようで、自分なんかが転入生を任せられるのかと、今の今まで自問自答(じもんじとう)していた。二人はお(たが)いに話すこともなく、静かに下駄箱(げたばこ)まで歩いて行った。


 下駄箱まで着くと、二人は(くつ)()き替え、校舎を出ると、グラウンド(じょう)横断(おうだん)した。その間も会話は(まった)くなかった。そして校門(こうもん)の近くまでいくと、目の前に大きな黒リムジンが不気味(ぶきみ)に止まっていた。校門の周りの生徒達も、その見たことのない車に口々と(うわさ)を始めている。剛はようやく口を開いた。

「あれは見たことのない車だな」

「あ・・・私の・・・」

「え?」

 一十三の必死の返答に、剛は小さく驚いた。その時、運転席から黒スーツの使用人らしき人が(すみ)やかに車から降りると、一十三の前に姿勢を正して立つと、こう言った。

「桜一十三様、お(むか)えに(まい)りました」

「・・・」

 二メートルくらいある黒スーツの男は、一十三に向かって深々(ふかぶか)と礼をする。この状況(じょうきょう)に剛はただただ呆然(ぼうぜん)とした。

「・・・君は・・・一体・・・」

「・・・」

 剛を余所(よそ)に、使用人らしき黒服の男は、そのまま一十三を車へ案内した。一十三は抵抗(ていこう)もせず、使用人に(したが)い乗車した。一十三は剛の反対の方をじっと見つめていた。まるで剛から視線を()らすように・・・


―ガチャ


 一十三が座ると同時に、使用人と一十三のドアが閉まった。少ししてエンジンが()かると、車は校門を()けて走り去っていった。

「・・・ちょっとまっ」

 剛はようやく声を発することが出来たが、もうそこに一十三の姿はなかった。剛はこれから一緒(いっしょ)に周りの町並(まちな)みを案内する目的を考えていたが、一十三がいなければ意味がない。剛は()め息を付くと、一十三という少女は一体どこから来たのだろうかと考えながら、自分の家へ帰るのだった。




 その頃、黒リムジンの中では、使用人の質問が始まっていた。

「桜様、失礼を承知(しょうち)でお聞きしますが、あの金髪の生徒とはどのようなお関係で?」

挿絵(By みてみん)

 一十三にとって【(さくら)(とう)一郎(いちろう)直属(ちょくぞく)の使用人は、自分が生まれてからずっと見ていたため、もう()ずかしいという感情はとうに()ぎていた。

「私と同じクラスの人・・・」

「お友達(ともだち)では?」

 一十三の心は電光(でんこう)(ごと)(しび)れた。本でしか知らない『友達』という言葉に、一十三は激しく否定した。

「ない、あるわけないよ・・・私なんか・・・」

「・・・申し(わけ)ありません。深くお()び申し上げます」

 使用人は一十三の地雷(じらい)()んでしまったことを激しく後悔(こうかい)した。それから家に着くまで、重苦しい空気が車の中を支配(しはい)した。一十三は(わだかま)りを(かか)えながら、窓越(まどご)しに映る風景の()()るさまを、ただじっと見つめていた。


 それから十分も経たずに車は止まった。学校と一十三の家はそこまで(はな)れてはいない。そして一十三は視線の先にある、これから一年間お世話(せわ)になる父が手配した家を見渡した。

菓子(かし)の家。一言でいえばまさにその言葉が一番似合(にあ)う。特に(つぶ)チョコクッキーが大好きだ。一十三の(たの)みを父・統一郎が(こころよ)く聞き入れてくれたお(かげ)であり、見た感じよく出来ていると一十三は思った。だが一十三は、学校で自分が周りの皆に迷惑(めいわく)をかけたこと、少年に叱責(しっせき)され、明日も来るように言われたことを思い出した。お菓子は好物だが、一十三の気持ちはいまだ晴れることはなかった。

 使用人は車を降り、後部(こうぶ)座席(ざせき)まで移動する。そして一十三側のドアを開けて言った。

「桜様、これから住む家はこちらでございます」

 使用人は一十三を玄関前(げんかんまえ)まで案内すると、「明日の登校時に迎えに行きます」と言って、一人車を走らせ帰って行った。家の前では六人のメイドが()(なか)を開けるように、(たて)二列に並ぶと、一斉にお辞儀(じぎ)をした。何度も練習したのだろう。一人もミスなく綺麗なお辞儀であった。

―お帰りなさいませ、桜様。

「・・・ただいま」

―やっと家に着いた

と、一十三は今まで()め込んでいた緊張(きんちょう)を解き放つように、大きな息を()いた。そして玄関前のメイドに先導(せんどう)されながら、【(さくら)(てい)】の中へ入っていった。桜邸のメイドは全六人+セバスチャン+護衛(ごえい)一人の全八人体制(たいせい)である。桜邸は一軒家(いっけんや)の中でも、頭一つ抜けた大凡(おおよそ)十五(じゅうご)(つぼ)豪邸(ごうてい)である。


―ガチャ




 丁度その頃、剛は無事(ぶじ)帰宅(きたく)していた。剛の家は借家(しゃくや)で、町の清掃(せいそう)やイベント行事を手伝うことで、無賃(むちん)で住まわせてもらっている。借家はそこまで古びてはないが、いわくつきの家で有名らしい。が剛は住めればどこでもいいので(くわ)しくは知らない。剛の気配を察知(さっち)したのか、玄関のドアを(いきお)いよく開け放ち、弟の【中村(なかむら)(けん)()】六歳は元気よく剛の(むね)に飛びついてきた。

挿絵(By みてみん)

「お姉ちゃんお(なか)すいたー!」

「分かった、分った。今買い物に行ってくるから、冷蔵庫(れいぞうこ)にない物をメモしてきてくれないか?」

「うん、わかった!」

 犬時は元気な返事をして、早速冷蔵庫を調べに行った。剛は買い物袋(手作りエコバック)をランドセルから取り出すと、玄関前で犬時を待っていた。

数分後。犬時が急いで紙切れに書いた買い物リストを受け取ると、ランドセルを置いて家を後にした。自宅から近いお店【神螺(かみら)()マート】は、ここから五分くらいで行ける場所にあった。神螺儀町ただ一つのショッピングセンターである。

剛と犬時は両親を(さが)すために、五年前から神螺儀町に住み始めた。五年前のこと、母は幼児化(ようじか)する難病(なんびょう)(おか)され、父はそれを治すためにドクターの(すす)めで神螺儀町に行ったきりである。その(さい)(つよし)と犬時を母方(ははかた)祖父母(そふぼ)(たく)したが、一向(いっこう)に帰ってこない両親に(しび)れを切らした剛と犬時は、祖父母から(ぬす)み聞きした情報を元に、神螺儀町へ向かったのだった。それ以来(いらい)、弟は町の住民に両親の写真を見せて、剛は学校で聞き込みをして回っているが、手掛(てが)かりは一向に(つか)めないままである。


「あれ?桜ちゃんと一緒じゃなかったっけ?」

「!・・・牧野(まきの)か」

 剛は店に向かう途中、道路を歩く恵美(えみ)(そう)(ぐう)した。まだ(じゅう)宅地(たくち)の中にいたので、恵美に会うのはそれほど不思議(ふしぎ)ではなかった。剛はいつも遊びたがりの恵美に対して、あまりいい感情を()いていない。恵美にはいつも厳しい目で指摘(してき)しているが、恵美は改善(かいぜん)する気は全くなく、いつも気ままに生きている。

「お前はここで何をしている。家とは反対方向だろう?」

「何って(ひろ)んとこにいくんだもん」

挿絵(By みてみん)

 博。それは【村田(むらた)(とも)(ひろ)】十一歳のことだ。恵美とは幼稚園(ようちえん)の頃から、ずっと遊んでいる(なか)である。智博の家は剛の(となり)にあり、剛が学校に行っている間、いつも弟を(あず)けてくれる智博の母・ミツバには本当に感謝(かんしゃ)しかない。

「ああ、そういえばそうだったな」

「そんなことより、桜ちゃんのことだよ!」

「あ・・・それは・・・」

 剛は先ほどの出来事を恵美に伝えた。恵美は首を傾げて言う。

「車に乗って連れて行かれた?」

「ああ」

「・・・それって誘拐(ゆうかい)!?」

 恵美の突拍子(とっぴょうし)もない言葉に剛は驚いた。だが、誘拐犯(ゆうかいはん)が「桜様」と敬語(けいご)で言うのだろうか。

多分(たぶん)(ちが)うと思う・・・」

「じゃあ(だれ)よ」

「・・・執事(しつじ)・・・とか?」

(ひつじ)?」

 恵美はあまり頭が良くない。その()わり智博は博学(はくがく)多才(たさい)で、遊びはいつも智博が提案(ていあん)している。恵美は(もっぱ)ら遊び専門(せんもん)である。桃色(ももいろ)の長い髪に、いつも綺麗(きれい)な服で着飾(きかざ)る恵美を、剛は(うらや)ましいと思う時がある。自分にはそんな服を買うお金はなく、服はお下がり、ご飯は御裾(おすそ)()けさせてもらっている立場である。剛の仕事は帰宅後の畑仕事を二時間して、休む(ひま)はない。二人で生きていくためには仕事は大切な収入源(しゅうにゅうげん)なのだ。

「いやし・つ・じだ。メイドや召使(めしつか)いのようなものだ」

「えええ!桜ちゃんってそんなに大金持ちなのー!」

「いやあ・・・詳しくは全く知らなくて・・・」

 まだ転入初日、【(さくら)一十三(ひとみ)】という名前だけが、剛を含めた生徒達が知る唯一の情報だった。

 いつの間にか恵美も剛の買い物に同行していた。智博との約束は何だったのだろうか。智博はいつも恵美に振り回されていて、時折(ときおり)不憫(ふびん)でならないと思う剛であった。弟が書いた買い物リストを見て、それがお店のどこにあるかを確認した後、さっそく買い物カートにカゴを入れて、野菜コーナーから探し始めた。恵美は剛の後ろをトコトコついていく。

「まだ桜ちゃんも初めてだから、慣れるといいね」

 ふと(つぶや)いた恵美の言葉に、剛は恵美の気持ちが分かったような気がした。

「ああ、仲良(なかよ)くなりたいな」

「・・・うん・・・それに」

 恵美は(あや)しい()みを浮かべた。

「桜ちゃんの事もっと知りたくなったよ。車の事とか」

「おい牧野、桜さんの(こま)るようなことを聞くんじゃない」

「・・・はあい」

 剛の警告(けいこく)に恵美は大人(おとな)しく答えた。恵美は知らないことはとことん知ろうとしてする性分(しょうぶん)で、それが(まわ)りの人々を大変な目に()わせてしまう事も(しばしば)あった。そして恵美は「あ!」と思い出したかのように(さけ)んだ。剛はびっくりして振り返ると、恵美は悲しい顔で言った。

「そういえば博んとこ行くんだった」

「え・・・今更(いまさら)?」

「それじゃあ(おく)れるといけないから、もう行くね!」

「ああ・・・このまま行けば十五分の遅刻だな」

「うう・・博に怒られる・・・・じゃあね・・」

「ああ、また学校で」

 恵美は剛に別れを言うと、(あらし)のように店を後にした。剛は恵美の背中(せなか)を見送りながら、ああいうのもいいのかな―と思うのだった。

 それから剛は無事、買い物リストの(こう)(もく)通りに買い終わると、急いで弟の待つ家に帰って行ったのだった。

一十三は基本、使用人やメイドとは一言会話で済ませます。後目を絶対に合わせないようにしてあるので、執事や使用人は一十三を真正面から見たものはごく少数です。

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