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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第二章 学校編
32/223

小話 その十七 青空の下、叢の上の三人

祐介と愛戯と健一のお話。健一=犬は愛戯と出会い、どうなっていくのか・・・『那奈子さん』に登場したキャラも・・・!?


 ここは六年二組の教室。

「・・・」

挿絵(By みてみん)

 (おれ)はつまらなそうな顔で、(ほお)(づえ)を付いてグラウンド側を(のぞ)いていた。席は前に席替えしたことで、グラウンド側で先頭の位置になった。

―おい、(あずま)

 そのせいで暑い日差しが、必要にこっちに差し込んでくるのが何よりも痛い。だがそれを意見する気もない。今は十二時前、三時間目の授業中。

―おいって、聞こえないのか!

 俺は暑い日の光が(きら)いだ。少しでも健一(けんいち)と中庭で(すず)みたい気分だ。だがまだ授業中。しかも苦手な国語だ。国語の苦手な所は、本の作り手の気持ちにならなくてはいけない所。そうでなくても、その作り手のキャラクターの気持ちになって考えなくてはならない。それが何より理解不能で、結果おおよそ見当がつかない答えになっている。俺の頭はそんなことよりも、健一と遊ぶことで頭がいっぱいなのに・・・

―おい!

「!」

 耳からどでかい声が入ってきたかと思うと、顔面に(つば)が飛んできた。教師の名は【尾原(おばら)大典(だいてん)】四十六歳、未婚(みこん)のおっさん。(うす)い頭の替わりに(あご)(ひげ)が異様に多いのが特徴(とくちょう)で、美人の女性に弱く、少しでも気があると思ったら(もう)アタックすることで有名・・らしい。キーンっと耳が麻痺(まひ)し、さらには顔面にそいつの唾が飛んできて、(あき)らかに不機嫌(ふきげん)な顔になる俺に、尾原は眉間(みけん)をしわくちゃにして言った。

「やっと気が付いたか・・・・おい、早く黒板の問いに答えろ」

「・・はい」

 だが俺は顔面に付いた唾を()き取ることなく、教科書を開いたまま指で固定して、そそくさと席を立ち、黒板の前に立った。唾は後で洗面所(せんめんじょ)に行って(あら)おうと思った。

「早くしろよ(まった)く・・」

 (いま)だにキーンとなる耳鳴りを我慢(がまん)して、教科書の文と黒板の問いを照らし合わせて(しば)し考えた結果、ぼんやり浮かんできた答えを白いチョークで書いていく。そして書き終わったら、そのまま自分の席に戻っていく。この時は自分の席が黒板に近い位置にいて、本当に良かったと思った。

「むっ・・・正解だ」

 尾原は苦虫(にがむし)()(つぶ)したような顔をして(つぶや)いた。俺はふぅっと()め息を(こぼ)して一安心(ひとあんしん)した。苦手な国語だったが、今回の問いはそれほど(むずか)しくなくて良かった。


 それから時は流れ、昼休みになった。

 俺は(だれ)かに気づかれないように給食を残すと、それを(ふくろ)()めてから一目散(いちもくさん)に教室を後にした。周りの生徒は俺のことなんか気にしちゃいない。それが俺にとっては好都合(こうつごう)であった。廊下(ろうか)を静かに()けていく途中(とちゅう)、おばさん教師の【()明恭子(めいきょうこ)】六十三歳が立ちはだかった。

「あら・・あなたは・・・」

「えっと・・」

 俺は会話能力が(いちじる)しく低い。特にどんどん話を進めていく系の相手とは、相性(あいしょう)がとても悪い。そして相手は・・・

「いいところに来たわねえ。あ、そうだ。聞いてくれる?さっき今日の(ばん)御飯(ごはん)のことを考えていたのだけれど、ハンバーグがいいかしら?それとも焼き魚がいいかしら?」

 (すご)いスピードで言葉を(つむ)いでいく芽明おばさんに、俺は必死に()()いを取っていく。

「・・・焼き魚」

「あらそう?でも焼き魚にいい魚が思いつかなくて・・・サンマと(さば)(たい)にヒラメに・・・」

「・・・」

 やきざかなのなを言う前に、芽明おばさんの追撃(ついげき)の言葉がやってくる。俺はそれをただただ聞くことしかできなかった。彼女の言葉には相手を制止させる能力があるのだろうか。まさに鉄壁(てっぺき)の芽明であった。



「あ~あ・・やっと授業が終わった・・・」

挿絵(By みてみん)

 六年生の教室から見て(ひだり)(おく)にある視聴覚室(しちょうかくしつ)を、(つか)れた体で出ていく女子が一人。名を【藤堂愛戯(とうどうあいぎ)】十一歳。世界一のアイドルを目指すため、日々(ひび)邁進中(まいしんちゅう)の愛戯は、今日も(まわ)りの生徒に対し、ファンサービスを率先(そっせん)して行っていた。例えばサイン会や握手会、歌やダンスは体育館で、いち早くファンした教師に根回しをして週に二、三回を目途(めど)にやっている。誰よりも明るい、誰よりも優しいアイドルを目指す彼女を応援(おうえん)するファンは、(すで)にこの町、神螺(かみら)()町内(ちょうない)に数多く広まっていた。

 愛戯の背後からもう二人の生徒が、愛戯の(となり)に入ってきた。

「今日も『チョップリン』の映画だったね・・(さかい)先生(せんせい)趣味(しゅみ)かな?」

挿絵(By みてみん)

 左隣(ひだりどなり)にいる(かれ)の名は【村田(むらた)(とも)(ひろ)】。片方目を長い(かみ)(かく)す、温厚(おんこう)な性格の少年。そして視聴覚室でチョップリンの映画を生徒に見せた教師は、【(さかい)()()】三十四歳。片方に眼鏡(めがね)をかけたナルシスト系。趣味の映画を見て、絶賛(ぜっさん)した映画を翌日(よくじつ)生徒(せいと)に見せて共感を得ようとする。が、中々支持が得られないことを、夜の酒場(さかば)で保健担当【橘燦子(たちばなさんこ)】に愚痴(ぐち)として()らしている。

挿絵(By みてみん)

燦子とは酒友達だ。堺の好きな酒は(もっぱ)らバーボン水割りである。

「声なしで一時間ずっと(かじ)り付いて()ないと内容が(わか)らないなんて、苦痛以外の何物でもないじゃない!私はじっとするのが一番嫌なの!」

挿絵(By みてみん)

 そして右隣の女子の名は、【牧野(まきの)恵美(えみ)】。綺麗(きれい)な桃色の髪が特徴で、遊ぶこと第一に考えている。智博と幼馴染(おさななじみ)で智博のことが内心好きだと、愛戯は考えている。恵美と知り合ったのは小学校低学年からであり、恵美と智博と三人でよく遊んでいる。何を遊ぶかは智博に一任している。

「私は面白(おもしろ)かったよ?チョップリンが歩けば町中が大騒(おおさわ)ぎして、町の人がチョップリンに怒って、チョップリンが逃げ出すシーンは笑ったな・・・」

「えー、うっそー!」

「僕も関心したよ。あんな表現方法があったなんて。声や音がなくても人を楽しませることが出来るなんて、いい勉強になったよ」

「そうそう」

「・・・二人とも、何かいい感じ・・・」

 愛戯と智博はちょくちょく意気投合(いきとうごう)して話し込むことがある。感性が似ているのかもしれないが、恵美はそんな二人を(うら)めしそうにじっと見ていた。智博が他の女子、特に恵美の友達である愛戯と仲良くしている所は、恵美自身もどこか嫉妬(しっと)しているようだ。

 そんな時のことだ。

―ワン!

「!・・わん?」

 愛戯の耳から鳴き声のような音を聞き取った。愛戯は周りをキョロキョロと見渡(みわた)していると、智博と恵美が不思議(ふしぎ)そうに愛戯の顔を見た。

「どうしたの?」

「え?犬みたいな声聞こえなかった?」

 愛戯の言葉に二人はお(たが)いの顔を見合わせて、首を横に()って答えた。

「ううん、全然」

「僕も聞こえなかったよ」

「え・・・(聞き間違いかな・・・)」

 愛戯は首を(かし)げたが、恵美は()かすように愛戯の(うで)を組んでこう言った。

「もう!そんなことよりお昼ご飯だよ!急ごう!」

「え・・あ」

「今日はデザートに『果物(くだもの)()り合わせクレープ』なんだよ!一生食べられないかもしれないんだもん・・・」

 口から(よだれ)(こぼ)す恵美に、そういえばそうだったと興奮(こうふん)を思い出した愛戯であった。だがあの声が頭の(すみ)(はな)れないまま、恵美・智博・愛戯を(ふく)めた五年二組は、教室に(もう)ダッシュで走っていったのだった。



「いいな・・果物盛り合わせクレープ・・・」


挿絵(By みてみん) その(ころ)。四年一組の教室では、【伊達(だて)飯子(めしこ)】がお腹を鳴らして天井(てんじょう)(うらや)ましげに見つめていた。四年生の昼食は鯛とチーズの()し焼きに、白ご飯、ワカメスープと牛乳(ぎゅうにゅう)。五年生のお(この)み焼き、果物入りクレープと牛乳に、他の学年の生徒の(ほとん)どが「羨ましい・けしからん!」と(くや)しさを(にじ)ませていた。特に()()()の高い伊達飯子は上の階を見つめながら、(びん)(ぼう)()すりをしていた。飯子の親友【京真那奈子(きょうまななこ)】は、そんな飯子の(かた)(さす)りながらこう言った。

「私達もきっと一年後には食べられるよ。・・・でもそっか、上の階は一十三さんがいるところだね」

挿絵(By みてみん)

 那奈子はそう言うと、昔のことをふと思い出したように目を細めた。飯子は那奈子を見て「そうだね・・」と言いながら、口からでた涎をスッと飲み込んだのだった。



 そして十五分(じゅうごふん)()った頃。後者を(はさ)んだ中庭に一匹の犬が現れた。

―はぁ・・はぁ・・・

 その犬はもう来ていいころだと、顔を出して待ち()びていた。だが五分十分経っても来ない誰かに、思い切って(くさむら)から花壇(かだん)を囲んだ砂場に現れたのだ。が、偶然にも現在中庭は(ひと)()一人(ひとり)いないようだ。

ーはぁ・・・

 犬はそいつが来るまで何分、何時間も待っているつもりでいた。すると・・

「むっ」

 校舎からひょっこりと顔を出してきた、ある生徒が現れた。

「あ」

―わん!

 藤堂愛戯であった。目と目が合った二人は(またた)く間に体が固まった。じっと見つめ合う中、時計の針は刻一刻(こくいっこく)()ぎていった。中庭は二人だけの世界になっていた。

 だが、その膠着(こうちゃく)した時間を変えたのは犬であった。

―わんわん!

「!」

 犬はどこか(うれ)しそうに愛戯の近くまで走ってくると、ペロペロと足を()め始めたのだ。愛戯の足はスカートを()いていて、太ももから靴下(くつした)まで全くの無防備(むぼうび)であったため、犬の格好(かっこう)の的になってしまったのだった。愛戯は自分の足を舐める犬を見て、(しばら)くその犬を見ていた。(した)の動きが最初気持ち悪いと思ったが、犬の無邪気(むじゃき)仕草(しぐさ)を見ると、すぐに可愛(かわい)いという気持ちに変わった。

「よしよーし」

 愛戯はしゃがみ込むと、犬をギュッと優しく()()めて、犬の頭を()でた。犬は愛戯の行為(こうい)()げる素振(そぶ)りも見せず、すぐに受け入れた。

―くぅん

 犬はすぐさま愛戯に身を(ゆだ)ね、体を愛戯に(あず)けた。愛戯は犬を抱きかかえると、近くの(くさむら)に移動した。そして叢まで移動すると、犬を叢に(うつ)してから自分も叢の上に寝転(ねころ)がった。

「おお・・・中々良い感触(かんしょく)

 久々(ひさびさ)の叢に、愛戯は布団(ふとん)の上ほどではないが、『(すず)みポイント』にはちょうどいいと思った。お(しり)から背中にごろりと仰向(あおむ)けで(たお)()むと、空を見た。犬も愛戯に(なら)うように、仰向けに寝ると空を見た。

空は青く()んで、白い雲が青い海に点々と流れていく。昼の星座を見ている気分だ。愛戯はふと横を見た。空を(なが)める犬の(ひとみ)は、綺麗な青色になっていた。

「お(いぬ)さん」

「健一だ」

「!」

 愛戯は背中の気配(けはい)にびっくりして振り返って見てみれば、そこには【東祐(あずまゆう)(すけ)】が不機嫌(ふきげん)そうにこちらを見ていた。祐介は眉間(みけん)(しわ)()せ、片足を広げて、もう片方の足を曲げて座っていた。愛戯は動揺(どうよう)する心を落ち着かせて言った。

「どうしてここに・・」

「健一と会うためだ。・・どうしてお前がここにいる?」

 明らかに不機嫌な顔で質問してくる祐介に、愛戯は少しだけムッと怒って反論した。

「別に私がここにいたっていいじゃない。ねえ、お犬さん♪」

―わん!

 すっかり犬と仲良(なかよ)くなった愛戯に、祐介の顔はさらに不機嫌さを増して言った。

「俺の健一に話しかけるな」

「何?健一っていうの?」

「ああ」

 愛戯はその健一という言葉が気になって、祐介に質問した。祐介はすぐに答えた。

「元気な奴になってほしいから、健康(けんこう)の健を取って、一番元気になれって意味」

「ふーん」

―・・・!

 愛戯はいつの間にか、祐介の手を(にぎ)っていた。祐介は驚いてその手を振り(ほど)こうとするが、愛戯はニコニコしながら強く握って一向(いっこう)に離そうとしない。

「いいじゃん、いいじゃん。ねえ、健一♪」

―わん!

 愛戯は健一とも手と前足を握り合って、いつの間にか三人の手が(つな)がった。祐介はその時、(むね)のどこからか小さな何かが生まれた。それは嫌な感じではなかったが、どこか不思議で、どこか安心する何かの感情だった。

(あ・・笑ってる・・・)

 愛戯はいつの間にか、愛戯に笑いかける祐介に気づいて、ドキッと胸の奥から桃色の感情が体中に一気に流れ込んできた。それはとても()ずかしいような、とても幸せのような、どこか安心する何かの感情のように見えた。犬は見つめ合う二人を見て、首を横に傾げるような仕草を見せて、少しだけ「くぅん」と(さみ)しそうに小さく(うな)ったのだった。

挿絵(By みてみん)

何か祐介と愛戯の話をもっと書きたいなあ。。っと思ってたら出来ました。茶碗蒸しを忘れて書いたら、これはこれでいい感じになったと思います。健一の最後の寂しそうな流れは、二人がいい感じになっていて、自分が入るスキがないので、寂しいなあ・・と思ったみたいな気持ちです。

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