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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第二章 学校編
31/223

小話 その十六 単純脳筋(のうきん)馬鹿VS単細胞馬鹿【後編】

ドッジボール篇も佳境に入りました。河志野浩司はどう決断するのかが見ものです。教師の意地を見よ!

「よっしゃー!!!!行くぜ、犬太!!!」

「!どうしたの!?桜ちゃん?」

 恵美は突然叫んだ一十三に驚き、腰を抜かしそうになるが、ギリギリのところで踏みとどまった。一十三のテンションの差に驚いた生徒たちは、明らかに一十三との距離を置くように離れた。つまり敵チームにとって、格好の的になったということだ。だが、一十三はチームの応対にむしろ「望む所だ!」くらいの勢いで準備運動を行った。犬太もそれに便乗するように拳を鳴らし、肩を(ほぐ)して(けん)制する。二人の目と目は、(たぎ)る戦いの闘争本能に身を置き、周りが一切介入できない所まで来ていた。浩司は(なんか面倒なことになりそう・・・)と、競技が始まる前から嫌な予感がしたが、予想通り的中することとなった。


「うおりゃああーーー!!!」

「そりゃああああーーー!!!!」


―バンッ!ドガッ!ボーン!


 始まって間もなく犬太と一十三、二人だけの対決となっていた。

他の生徒達は二人の猛攻に耐えきれず、逃げるようにテープの端の方に避難していた。テープはドッジボールを遊ぶために適した黄色いテープであったが、犬太と一十三にとっては全くもって狭かった。散らばった生徒達は、最早黄色いテープですら生命の危機を感じ、ステージ付近に逃げることになった。既にドッジボールという枠から外れた二人は、周りの生徒が居なくなったことすら気づいていないようだった。爆風と衝撃の嵐の中で繰り広げられる戦いに、体育館の至る所がギシギシと悲鳴を上げていた。浩司は、自分一人ではどうにもならないと(あきら)め、他の生徒達の安全を優先することにした。そして安全な場所に避難した恵美は、浩司に質問した。

「先生」

「何だ?」

「私たち、これからどうすればいいんですか?」

 非難した生徒達は、これから残り三十分以上の時間をどうすればいいか分からなかった。ステージから入口までの道のりは、犬太と一十三のバトルで断たれていた。生徒達も剛が休みで団結力が足りなくなっている。大体の事を剛が決めていたので、生徒達も剛に頼っていた。まあそれは良い事もあるのだが、今回は浩司が久しぶりに担任の力量を試される時が来たのだった。

「うーん・・・どうしたもんか・・・」

 しかし、二人の戦いも見守らなくてはならない浩司は忙しく考える暇がない。そんな中で一人の女子生徒が声を上げた。

「先生!」

「お?どうした愛戯」

 その名は【藤堂愛戯(とうどうあいぎ)】。絶賛アイドル活動中の愛戯であった。ニコニコした顔で先生を呼びつけ、先生の耳元で何かを伝える。すると・・・

「おお・・・お前そんなの見てたのか・・・」

「ふふーん、いいでしょ?今この状況なら」

「・・・まあ、しゃあない。あいつらだって体力がいつか切れるし、その間くらいならお前の案に乗ってみるか」

「やったー!ありがと先生!」

 愛戯は浩司の賛同を得たことで更に喜び、生徒たちに自慢げに説明をするのだった。

「みんなー訊いてー?」

「「「「?」」」」

 生徒達は一斉に愛戯に目を向ける。

「今あっちが使えないから、この狭いステージでできることしよ?」

「出来ることって?」

 恵美の意見に、愛戯は「待ってました」と答えを出した。

「アイドルのファンがやっている踊りを少しだけレクチャーしようと思いまーす!」

「「「「踊り?」」」」

(ああ・・・あれか)

 恵美はそれを知っている。愛戯のアイドル教育スクールという学校に、よくお忍びで遊びに来ていることもあってか、愛戯や関係者に色々裏話を聞かせてもらっていた。そして時々愛戯のライブを見に来て、実際のファンの踊りを見ていたりもした。恵美と愛戯は興味本位でそのファンたちと交流し、踊りを徹頭徹尾教えてもらい、今では智博と交って片手間にやっていた。そんな経緯で、愛戯、恵美、智博は手慣れた手つきで生徒達に教えることが出来た。

「ほら裕ちゃん、ちゃんと踊る!」

「・・・え」

 東祐(あずまゆう)(すけ)(また愛戯に連れ去られた)に対しては、もう慣れた応対でテキパキと教えていた。智博は嫌々手伝っていたが、実際女子にもカワイイ系男子として人気で、女子数十人が(こぞ)って智博の指導を受けることとなった。

「何よ・・・あっちばっか盛り上がっちゃって・・」

それを尻目に愛戯と智博に嫉妬しつつ、残り少ない女子たちに教えていた。そんな三人の各々(おのおの)の指導ぶりを見て、浩司は少しだけ感心した。

「何か俺・・・負けそう」

 感心しすぎて、今の自分の統率力に若干幻滅してしまう教師であった。




《杏・・・やり過ぎだよ》

(ええ・・・楽しいから良いんだよ。それ!)


―ボンッ


 その頃一十三は心の中であたふたと二人の心配をしていた。体育館では、二人の勢いでミシミシと(きし)む音が、一十三の心配をさらに加速させる。だが杏はそんなことは気にしない。犬太も上に同じだ。二人は本当に楽しんでいた。ボールとボールのぶつけ合い。ボールを落とすとゲームオーバーのスリリングな戦いに没頭していた。


―キーンコーンカーンコーン


「よし、動くか」

 鐘が体育館中に鳴り響く時だ。浩司は頃合を見計らって簡易黒板ボードを、ステージの右端にある倉庫の中から取り出してきた。生徒達が問い(ただ)してみると、先生は不敵な笑みを浮かべてこう言った。

「まあ見てな。俺がこのまま引き下がるほど、教師失格じゃないってことを今証明してやる。とりあえずはい、これ」

耳栓(せん)・・・?」

 浩司が生徒達に渡したものは、『五十均・神螺儀店』にある五十円で買える耳栓だった。生徒達は浩司に言われるがまま耳栓を付けると、先生が数人の生徒を呼んだ。

靉寿(おとぶき)朝倉(あさくら)楢木(ならき)!ちょっと来い」

 ここで簡潔に自己紹介。【朝倉暢士(ようじ)】、爪が長いチャラ男。【楢木萌(はじめ)】、妄想(もうそう)女子。三人は言われた通りに黒板の前に立った。そして楢木に頼んだ。

「・・・頼めるか?」

「・・はい・・・別にいいですけど・・・大体先生の目を見れば想像が付きますね」

「ありがとう」

「その代わり、燦子(あきこ)先生とデートしてくれますね?」

「え・・・俺既婚(きこん)者なんだけど」

「それじゃあやりません!」

「分かった!やるって!」

「忘れないでくださいね?」

「・・・ああ」

 自分が既婚者だと解って言っているのだろうか。燦子先生とは保健の先生であり、犬太や一十三がよくお世話になっていると聞く。だが浩司には、【河志野正(せい)】という妻がいる以上、それ以上の関係にはならない。絶対に。なのだが・・・この楢木萌は妄想の中で、既に浩司と燦子が結婚していて子供が百人いる設定になっているらしいのだ。妄想と現実をごっちゃになっていないかとヒヤヒヤしていたが、まさかここでくるとは・・・半分覚悟していたが・・・

早速犬太の方を向き、大きく深呼吸をする萌。

 一体浩司は萌に何を頼んだのか。

 それは・・・

「犬太―!!!(中村剛声)」

 萌は声真似が得意なのだ。

 そして

「!!!(剛!?休みなんじゃ・・・)」

 犬太は剛の声に体が過敏に反応してしまうのだ。犬太は声のした方を瞬時に見る。

「?どうした」

 ボールを掴んだ一十三は突如止まった犬太に驚き、犬太が向いた方を向いた。

 その時だ。

「朝倉―!」

「はーい」

 やる気のない声で大きく(かざ)した手を黒板に振り落した。


―キキイィイイイイイ!!!


 黒板に爪を引っかいたらどうなるか・・・それは被害者しか解らないだろう。学校で一度やってみればいい。その音を聞いた途端、体育館中に響き渡るその甲高い音は、犬太と一十三の耳に直撃した。

犬太「いっ!!!」

一十三「なっ!!!」

 犬太と一十三(杏)にとっては初めての体験だろう。これ程までに長い時間この音を聞く羽目になるとは・・・そしてその音はもちろん一十三の中にいる本人にも聞こえるのだ。

《!!!な・・・に・・・こ・・・・れ・・・・・・》

 そして朝倉は一分ほどで鳴らし終わると、犬太と一十三は耳を塞いだまま地べたで(うずくま)っていた。その二人の前に立った浩司はにっこりと笑ってこう言った。

「もう、終わりだぞ・・・」

「「・・・はあい」」

 二人は反論する気力も失せていた。この授業の後、浩司の指示の下、一十三と犬太は生徒達の授業を妨害した罰を受けるのであった。

 バケツを両手で持ち、廊下の前に立つ二人は。顔を見合わせ笑っていた。もちろん一十三は杏のままだ。

「またやろうな」

「今度は邪魔されないとこでな」

そして二人の新密度がさらに上がった。何時までも元に戻そうとしない杏。

《・・・杏・・・もしかして・・・・》

一十三の(みぞ)も少しだけ深くなった一日となったのだった。

またまた生徒が増えてしまいましたが、今のところ顔がまだ思い浮かばないので適当に決めようかと思っています。とりあえず河志野先生と燦子先生回はいつか書きたいです。

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