表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
3/220

第3話 邂逅

出会ってしまったが最後、この男から逃れられるものは誰もいなかった・・・桜一十三の今後は絶望か、それとも・・・

 校舎の屋上に立つ少女と寝転ぶ少年。二人は見つめ合ったまま、膠着(こうちゃく)状態(じょうたい)が始まった。

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

「・・・」

「・・・」

だがそれも長くは続かなかった。ずっと押し黙っている一十三に対し、犬太はついに我慢(がまん)の限界を(むか)えた。むくりと上半身を起こした犬太は、()き捨てるように口を開いた。

「気に食わねえ・・・」

「・・・え」

「ウジウジしてんじゃねえよ、俺はお前みたいなやつが大嫌(だいきら)いだ」

 じっと(にら)みつけて一十三を全否定する犬太に、ずっと()まっていた何かが一十三の全身を()(めぐ)った。

「・・・・・・・・・・・・う・・」

「まだなんかあんのか」

 いきり立つ犬太。そして一十三の涙腺(るいせん)が一気に決壊(けっかい)した。

「うわああああああああん!」

「!???」

 一十三は泣き(さけ)んだ。犬太は全身の(はだ)逆立(さかだ)驚天動地(きょうてんどうち)した。一十三の叫びに呼応(こおう)するかの(ごと)突風(とっぷう)が屋上を、二人を(またた)く間に包み込んだ。

「まっ・・・・待て・・・・」

 犬太は耳を必死に(おさ)えながら、少しずつ一十三に近づいていく。

「うわああああああああ!!!」

 一十三の(なみだ)は止まらぬどころかどんどん大きくなっていく。だが何とか一十三の目の前に辿(たど)り着いた犬太は、一十三の(かた)をがっしりと(つか)んだ。そして犬太は一十三の泣き声よりも、より大きな声で叫んだ。

「うるせぇええ!!!」

「ひっ!」

 (そら)を切るような犬太の叫び声に反応した一十三は、大きく顔を引きつって、(のど)の奥が完全に遮断(しゃだん)された。じーっと犬太はさっきよりも力強く一十三を見つめた。一十三はその目に(おそ)れをなして、目を()らそうとする。が、そうはさせまいと犬太は一十三の(ほお)を押さえ、身動き取れないように固定した。一十三は何が起こったのか(わけ)が分からず、必死に目を(つむ)った。だが犬太の親指がちょうど目じりの(くぼ)み部分を押さえているために、完全に目を瞑ることが出来なかった。一十三はもはや半開きの目と口のまま、どうすることも出来ないでいた。

「は・・・はい?(な・・・なに?)」

「名前は!!」

「ひぃ!」

 犬太は相手が泣き出してしまうほどの(こわ)がりように、少しだけ声のトーンを落として復唱した。

「名前は?」

 何故(なぜ)自分がこんな状況(じょうきょう)に立たされているか。一十三は何度も自問自答(じもんじとう)しながら考えたが、(みちび)き出される答えは見つからなかった。ただ目の前の男の質問に答えるほかなかった。

「・・・さっ、さくら・・・ひ・・とみ・・・です」

「年は?」

「じゅういっしゃい(十一才)」

「好きな食べもんは?」

「やきいもとおすし(焼き(いも)とお寿司(すし))」

「好きな生き物は?」

「きりんさん(首の(すご)く長い黄色い動物)」

「好きな天気は?」

「はれ(晴れ)」

「・・・ワンワン!」

「・・・・・・・わんわん」

 最後の言葉の意図(いと)はよく解らなかったが、一十三はただ解る範囲(はんい)で答えた。犬太は大方(おおかた)の質問を言い終えて満足したらしく、少し笑うと最後にこう言った。

「お前は明日から俺に会いに来い!」

「・・・な・・・なんで?」

「今のお前を見てると、何かもう・・こう・・ムカつくんだよ!だから明日からそのうじうじした性根(しょうね)(たた)き直してやる!」

 一十三は犬太が冗談(じょうだん)で言っていると思った。だがそんな幻想(げんそう)はすぐに(くだ)かれた。相手の目を見れば()かる。多分他の人間でも分かるだろう。(うそ)を付く人の目じゃない。この人の(ひとみ)はひたすら黒くて、(にご)っている部分が何もない。()()ぐな瞳が一十三の目を、瞳を、心を見て言っているんだ。

「・・・返事は!」

 一十三に断るという行為(こうい)は、まず脳内(のうない)になくてはいけないはずだ。だが一十三は(いきお)いなのか、(おど)しに(くっ)したからなのか、それともどちらとも(ちが)う何かなのか。

―私は最後だと思った。

「・・うん」

 犬太は一十三の小さき返答に喜びながらも、その小ささに(いきどお)りを(あら)わにした。

「うんじゃない!はいいいだ!」

「はっ・・・はいっんんっ!!?」

 一十三は緊張(きんちょう)しすぎて、変てこな回答をしてしまった。だが犬太は、その回答に「待ってました」と言わんばかりの笑みを見せつけて言った。

「・・・・よし!帰ってよし!」

 犬太は一十三の言葉を聞き入れると、ようやく一十三の(ほお)から自分の手を(はな)した。一十三は久しぶりの(はだ)の空気、そして初めて異性に強く、長い時間触れられたことで、心臓(しんぞう)の音がさっきから「ドクンッドクンッ」と一十三の耳を支配して()まない。

「・・・」

 犬太は一十三から離れると、元いた所に戻ってそのまま寝転(ねころ)んだ。寝息(ねいき)が聞こえないので寝てはないのだろうか。一十三は(しばら)く犬太から目が離せなかった。一十三が今できる事は息をする事と、目の前の男の子を見ることだけだった。

 

時間が()つのも忘れた(ころ)、一十三の背後(はいご)からこちらに近づいていく足音が聞こえた。段々(だんだん)と足音が大きくなり、それが限界まで大きくなったその時、屋上の扉が勢いよく開け放たれた。


―バンッ


大原(おおばる)(けん)()貴様(きさま)転入生に何をしている!」

挿絵(By みてみん)

 一十三は扉から放つ風を感じて、ようやく体の緊張(くさり)から解放され、(こし)()め具が取れたように地面にへたり込んだ。両開(りょうびら)きになった扉の前に立っていたのは五年二組出席番号十一番中村(なかむら)(つよし)。一十三の泣き声が聞こえるほど近い位置にいた(ため)辿(たど)り着くことが出来た。だが着いて早々(そうそう)(つよし)は、犬太が一十三を(いじ)めて泣かしたのだと思い込んだのか、ズカズカと地面に怒りを流すように歩きながら、仰向(あおむ)け寝そべる犬太に近づいていった。

―ドッドッドッドッド

 そして犬太の目の前まで()ると、怒号(どごう)の波が雨のように犬太に降り(そそ)ぐのだった。

「貴様という男はまた女の子を泣かして、男として()ずかしくないのか!いつまで女にそうまで敵対するんだ!私の意見も聞き入れず、いつまで屋上で自分の世界に(ひた)っている!どうして暴力でしか(うった)えられないんだ!・・何故(なぜ)集団(しゅうだん)行動(こうどう)ができないんだ!・・・」

 まさに台風(たいふう)だった。台風が犬太に向かって猛威(もうい)()るっている。その頃になると、一十三の意識(いしき)がはっきりと覚醒(かくせい)して、誰かが何か勘違(かんちが)いして犬太という男の子を(しか)っているんだ、という状況(じょうきょう)まで頭が回っていった。

「・・・あ・・・あの・・・ち・・・ちがう・・・」

 そして一十三は「犬太は何も悪くないんだ」ということを、(しか)っている人にちゃんと伝えようと、必死に言葉にして伝えるが、全く言葉になっていない。一十三は今までメイドや家政婦、そして父親としか話さなかったので、どうしたら相手に伝わるのか、口の中で葛藤(かっとう)しながら言葉を途切(とぎ)れ途切れ伝えた。

「あ・・・ええっと・・・・だから・・・」

「おお、そんなところにいたのか」

「!」

挿絵(By みてみん)

 一十三はいきなり背後(はいご)から低い声がしたことで、背筋(せすじ)(はし)から端まで電流のような何かが一気に流れ込んだ。そして一十三は(おそ)る恐る後ろを()り返ると、そこに現れたのは【(かわ)志野(しの)浩司(こうじ)】、五年二組という教室の先生だった。

「お、こんなところにいたのか桜。あとお前らも」

「河志野先生、来るのが遅いですよ・・」

剛は浩司の気配に気づき、ホッと一安心(ひとあんしん)して浩司の(もと)へ集まった。そして剛は事の真相を説明した。

「えっ・・・てことは、誰かに(から)まれて泣かされた声を聞きつけた中村が、急いで屋上に()け付けたら大原(おおばる)と桜がいた。泣かされたのは大原のせい・・・と」

「はい!」

「ち・・・」

 剛の出鱈目(でたらめ)な説明に、一十三はあの時犬太の前で言った大きな返事を思い出した。

―そう、あの声だ。あの声さえ出れば・・・

「ちがう・・・わたしが・・・」

 だが出ない。出そうとしている声が、(のど)の方で止まっている。門に(かんぬき)でもされているかのように、(のど)(おく)(かた)く閉ざされている。

「ん?・・・どうした桜」

「!」

 浩司はもじもじする一十三を心配(しんぱい)して、(ひざ)を付いて一十三の顔を(のぞ)いた。一十三は突然(とつぜん)目を合わせてきた浩司にドキッとして、すぐ下を向いて(うつむ)いた。

「あ、・・・んじゃあ、ほれ」

「・・・?」

 ()(さお)な一十三の顔を見た浩司は、(むね)ポケットからヒヨコ(がら)の、ペン付きメモ帳を(わた)して言った。

「言いたい事を紙に書くってことでいいか?」

「え・・・・うん」

 一十三は考えた(すえ)、浩司の案に賛同してメモ帳を受け取った。そしてそのメモ帳に、震えながらもメモ帳に何かを書いて浩司に渡した。

「どれどれ・・・」

 メモ帳には小さな字でこう書かれていた。


〝私のせいで男の子を怒らせてしまいました。悪いのは私だから男の子を責めないで〟


 (つたな)い文字であったが、浩司は一十三の文を理解し、そのメモを剛にも見せた。

「え・・・でも」

 剛は自分の意見が見当違(けんとうちが)いだったことに激しく動揺(どうよう)した。

「ってことで、桜も大原も悪くないで決着だ。先に教室に戻ってくれ、中村」

浩司は剛を叱ることなく、優しく(さと)した。剛は意気消沈(いきしょうちん)し、(さみ)しそうな背中を見せながら屋上を()っていった。浩司は犬太に聞こえるように言った。

「ごめんな。勘違(かんちが)いして」

「・・・」

「お前は帰らないのか」

 犬太は無言のまま、「さっさと出でいけ」と言わんばかりに手を振った。浩司は一十三の聞こえるくらいの声で、「そうか」と(つぶや)いた。そして一十三に向いて言った。

「お前はどうする?先生と一緒(いっしょ)に行くか?」

「・・・」

 一十三はもう一度犬太に目をやると、犬太は変わらぬ姿勢で寝転んでいた。

「・・・うん、行く」

 一十三は(いま)だに()め付けられる胸を(おさ)えて、(せい)いっぱい喉を()()き回すように答えた。浩司は一十三の答えを()み取ると、一十三を五年二組の教室まで先導(せんどう)していった。




 剛と浩司が教室を退(しりぞ)いて、大凡(おおよそ)三十分経った。五年二組の教室は、生徒達の話し合いが(いま)だに継続(けいぞく)していた。議題はもちろん一十三の謝罪である。前と後ろの教室から()こえる教師の声は、五年二組にはまだない。

そんな中で剛が戻ってきた。生徒達は一十三の事を聞こうとしたが、剛はどこか(つか)れ切った様子で、話しかけられる状態ではなかった。生徒達はとりあえず先生か、転入生が来るのを静かに待っていた。


(さら)に五分後、(ようや)く浩司と一十三が一緒に教室に戻ってきた。

―ホッ・・・

 生徒達は一斉(いっせい)安堵(あんど)した。もしそのまま一十三が家に帰ってしまったらどうしよう。そしてもう二度と学校に来なくなったら・・・・それが生徒達にとって最悪の可能性だった。だが、そうはならなかった。そうならなくて本当に良かったと思った。そして一十三がまだ教壇前(きょうだんまえ)に立っているこの時を見計(みはか)って、生徒達は一斉(いっせい)に立ち上がった。

「!・・(何?)」

 驚く一十三に、生徒達は頭を直角に下ろして言った。

「「「ごめんなさい!」」」

「・・え?」

「桜さんを困らせるようなことをして・・・本当にごめん」

挿絵(By みてみん)

 生徒を代表して【牧野(まきの)恵美(えみ)】が改まって謝った。一十三はあわあわと(あわ)てながら、一体全体どうしたらいいか考えた。少しして一十三は気持ちを落ち着かせると、答えもようやく決まったようで、生徒達を見ようとした。だが自分を見つめてくる大勢の目を見るにはまだ早すぎた。一十三はすぐに目を(そむ)け、それから今振り(しぼ)れる声を集め、答えを言った。

「私の方こそごめんなさい!・・勝手に出て行って」

「だから桜さん・・仲直りしたい!」

 恵美は一十三の元に近づいて手を差し出した。一十三は恵美の手を見ると、自分の手を差しだした。手と手を(つな)いだ二人の手を見た途端(とたん)、ワァッと沸々(ふつふつ)と喜びの声が()き起こった。喜び合う生徒に浩司は、一十三に続いて言った。

「ということで、この話は終わり。んじゃあ桜の席だが・・」

そして一十三の席が決定した。というよりかは浩司が昨日(きのう)()けで決めていたことであった。席は犬太の右隣(みぎどなり)。生徒達は一十三を同情の目で見つめた。

「・・・」

 一十三は視線(しせん)()けるように指定された席に向かった。席の前に立つと、一十三は周りの生徒達に頭を下げて、そのまま席に着いた。

「・・・」

 一十三は理解した。すぐ左にいる席はあの男の子の席だということを。一番の理由は(にお)いだ。この教室の中の人達にはない、独特(どくとく)の臭い。まるで太陽に()げた地面のような・・・

(あ・・・そういえばまだ名前を聞いてなかった)

 一十三は席に着いてから、隣の席を見て犬太を思った。席には名前を書いている所がない。というかボロボロのランドセルが、椅子に()けてあるだけだった。

(また・・会いたいな)

 会った時から、あの男の子に叱られた時も、別に嫌いになったわけじゃなかった。自分をこれほどまでに否定してくれた人がいただろうか。一十三の心は初めての気持ちが生まれようとしていた。もしまた会えたら分かるのだろうか、この胸に(つの)る何かが・・・




 一時間目の授業が三十五分遅れで始まった頃、犬太は屋上で大の字の格好(かっこう)で寝転んでいた。雲一つない晴天の空。それなのに何故か心が晴れない。

―そうだ。あのうじうじ野郎のせいだ。

「・・・・俺が変えてやる・・・」

 犬太は何かの決意をした。あのうじうじしている一十三のを思い出す度に、イライラが大きくなっていく。

「・・・そうだ。『(あんず)(もり)』に行けば何か解るかもしれねえ!」

 『杏の森』が頭を(よぎ)った犬太は勢いよく起き上がると、避けるほどの笑みを浮かべた。

「あいつを変えてやる!」

 空に思い切り手を伸ばした犬太は、何かを掴むように(こぶし)を握り締めた。

おおばるけんたにした理由は、なんかおおはらって普通かなと思っただけです。犬太にしたのは似てるからです。桜一十三は、金田一二三ちゃんという可愛い子がいたので・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ