小話 その六 犬太の疑惑Ⅳ 【大原犬太】の答え
最後に犬太が言った答えとは・・・クラスは新たなる道に進むのであった・・・
犬太はあんぐりと口を開けたまま固まった。一十三は慌てて犬太と剛の下に駆け寄った。
「犬太君!もう採ってきたの?」
「ん?ああ、ほれ」
犬太はそう言ってズボンの後ろに突っ込んでいた『神螺儀版砂糖黍』を嬉しそうに一十三の手に乗っけてた。手の上に土だらけの根っこを置かれた一十三は困惑した。だが根っこの更に上に、丸く瑞々しい実が甘い香りを漂わせていることに気づくと、犬太は続けて言った。
「これ、結構近くにあってな。まさかこんなに早く帰れるとは思わなかったぜ・・・で、授業じゃなくて何やってんだ?」
「!・・・それは・・・」
できれば犬太のいない間に終わらせてたかった一十三にとって、これは思っても見ない事態になった。一体どう説明していいのか分からずたじろぐ一十三に、犬太は眉を顰めて「何考えてんだ?」と思わんばかりにジロジロ見つめてくる。剛は一十三の話が終わったと思ったのか、犬太に更に深い九十度ばりに頭を下げて謝罪した。
「君を誤解していた。君のあの意味不明な言動にはそんな深い訳があったとは知らずに・・・」
「深い訳?・・・何のことだよ」
「それはあり過ぎてどこから説明したらいいのか分からない・・・だがもう過ちを二度と犯す訳にはいかない!私は君の味方となろう!」
「???・・・こいつ何言ってんだ?」
犬太は意味不明なことを言う剛を思いっきり疑いの目を見て言った。一十三もどこをどうすればいいのか分からなかったが、教卓にいる河志野先生がようやく代弁してくれた。
「今お前がいるせいで、クラスの皆がどう困っているのかを話し合っていたところだ」
「・・・なんだそんなことか」
犬太は溜息を溢しそっぽを向いた。本人にとってはどうでもいいのだろう。だが一十三は違った。
「そんなことじゃないよ」
「?・・・どうした。そんな真剣な目で」
「犬太君は良くても私は良くないよ!」
「・・・え?ちょっ!落ちるー!!」
一十三は必死過ぎてつい犬太の胸倉を掴みあげ、感極まって振り回した。だが今犬太は四階の窓、このまま揺らされ続ければいずれ真っ逆さまに落ちて死ぬ。そしてついに足が竦み落ちようとする最中、河志野先生と剛はすぐさま犬太の足を片方ずつ掴んで事なきを得た。
事の事態に気づいた一十三は「ごめんなさい!」と謝る中、犬太は「いいよ。まさかお前にこんな力があるなんてな」と言って自分の席に着いた。そして犬太は良くわからない状況にようやく落ち着きを取り戻した頃、河志野先生は言った。
「教卓の前来い」
「え?」
「いいから、ちょっとだけでいいから来い」
先生の頼みを犬太は無碍にするわけにもいかず仕方なく従った。犬太はもし嫌なことになったら、とっとと逃げればいいと思った。犬太が教卓の前に着いた時、象路はすぐさま質問を投げかける。
「お前、俺たちが酷い目に遭わせないために一人でいたのか?」
「あ?・・・ったくそう言うことかよ・・・」
犬太は自分がなぜここに立たされているかを大体察すると、大きく溜息をついた。
「・・・別にお前らの事なんか考えちゃいねえよ」
「え」
「でもな、昂ってやつは俺だけを狙えばいいのに、お前らまで巻き込もうとするのが嫌なだけだ!・・・そんだけだよ」
「・・・お前・・・やっぱり考えてたんじゃねえか」
象路は思わず涙が漏れた。感動の涙なのだろう。だが犬太は自分の言ったことが恥ずかしかったのか思わず逃げようとすると、一十三がギュッと犬太の腕を絡ませて逃がさないようにした。
「犬太君、今だけは聞いてあげて?皆、犬太君のことまだ嫌いになってないんだよ?」
「・・・嫌いか好きかなんてどうでもいいじゃねえか・・・今はお前の卑屈な性格を・・・ってこれ(・・)お前が開いたのか?」
「・・・うん」
恥ずかしさを隠しながら頷く一十三に、犬太は素直に驚いた。あの桜が自分からこんなクラスの前で喋ってたのか・・・クラスにいる時に聞いた一十三の初日の自己紹介。あそこまで恥ずかしがっていたと思ったあの桜がここまで変わった。
「・・・まさか・・・俺の努力のお蔭?」
「・・・どう・・・かな?」
照れながら犬太を見て言った一十三の顔はとても嬉しそうな顔をしていた。犬太は自分の今までしてきた成果が、こうも早く出たのをとても喜び「ヨッシャー!」と体で表現して見せた。
剛はそんな二人を見て、今まで自分がやってきたことが馬鹿げていたことを思い出した。そしてこれから自分がどうしたらいいかを考えることに決めた。そして・・・
「・・・スヤ・・・」
「恵美ちゃん起きてよ・・・」
村田智博が揺する中、いつの間にか爆睡していた恵美の花提灯がパンッと割れた。
「んじゃ、犬太についてだが・・・」
河志野先生はもうすぐ三時間目が終わるのを見て、早速皆に訊いてみた。クラスの皆は一同考えた結果こう結論付けることになった。【中村剛】は代表してこう述べた。
「犬太君は悪者じゃありません!・・・確かに悪ふざけや、悪戯が過ぎることも多々ありました。でもそれ以上に私たちのクラスに迷惑がかからないようにできるだけ一人を装っていたことも事実。でもその結果犬太君だけが悪者扱いされ、嫌われ者になってしまいました。そんなの絶対おかしいです!昂君の汚名まで着せられてこのまま学校を卒業してほしくありません!私たちは話し合ってこう決めました。本日をもって私たちクラスの皆で『大原犬太君、通称O.K.君の真実を伝える会』を設立したいと思います!」
「・・・は?」
犬太は真っ先に漏れた。だがクラスのメンバーは全員「うんうん」と頷いて聞いた。一十三も黙ってそれを聞く。そして剛は続ける。
「そしてこの会のリーダー、会長は!【桜一十三】さんに決定してよろしいでしょうか!」
「・・・え・・私?」
剛がやるのだと思っていた一十三は、まさかの事態に一瞬思考停止状態に陥った。だが剛は熱弁を揮った。マイクなしでも大音量で響き渡った。
「犬太君を一番考えてくれるのはあなたしかいません!初めてかもしれませんが、副リーダーこと【中村剛】、広告塔【藤堂愛戯】、書記【牧野恵美】、副書記【村田智博】が全面的にサポートをしますので安心してください!」
「・・・ふぇ?」
突然自分の名前が呼ばれた恵美は、ようやく起きて周りを見渡す。智博も自分の名前が呼ばれたことに驚いていた。
「僕が・・・ですか?」
「・・・わあいがなんかよぉ?(私が何か用?)」
「あれ?・・・私も?」
「協力してくれ、頼む!」
剛は深々とお辞儀をして頼み込むと、愛戯は軽快な回答を出した。
「ん~しょうがないなあ・・・じゃあ【東祐介】君も誘ってくれるなら・・・」
「そうか!では後日【東祐介】君に頼んでみよう」
東祐介は六年生だ。だが河志野先生は躊躇なく了承した。
「んじゃ乗ってあげる。桜ちゃんのチーム」
「有難う!」
「・・・え・ええっと」
「お前が始めたんだからな・・・勝手にしろ・・・」
慌てる一十三の手を振りほどき、溜息交じりに教室を後にする犬太。だがクラスの皆はそんな犬太に気付かず、ワイワイガヤガヤと終始騒いでいた。河志野先生も溜息を付いて思った。
(こりゃ後で怒られるな・・・)
その頃一十三はどんどん進んでいく会の設立に、終始慌てることしかできず終いには、
「桜さん、これが私たちクラスの答えです。後はあなたに託します」
と一十三と犬太以外の直筆済みの署名を手渡された。署名と言ってもノートの最後のページを破って名前を書いて回っただけなのだが、これほど犬太の力になってくれる人がまだいたことに一十三は感激し、そのまま自分の名前を書いて河志野先生に手渡した。
―キーンコーンカーンコーン
それと同時に三時間目の終わりのチャイムが鳴り響く。
「よし・・・これでこの時間は終了する。これから犬太の噂が本当かどうか、衣野昂の仕業がどうかをお前らが、・・・俺もだな・・・俺たちが調べて行こうと思う!・・・何かあるか?」
「「「「ありません!」」」」
「じゃあ終わり!」
三時間目はこうして幕を閉じた。一十三は自分が起こした行動が、今後どう影響するのかという不安でいっぱいになった。でも今行動しなければ、犬太君が今後繋がることのできる絆を自ら切らなければいけなくなる。そんなの嫌だ。私を導いてくれた友達。もしかしたら犬太君と友達になりたい人がいるかもしれない。その人の助けになりたい。犬太君を悪者のままにはさせない。衣野昂の最期の禍根を断ち切る覚悟を、一十三は強く誓ったのだった。
さあ、犬太の疑惑も五年二組の間で終わったわけですし、新たな小話でも行きましょう!まだ犬太の疑惑の後の展開は考えていませんが、思いついたら書いていこうと思います。気長に待っていただければ嬉しいです。




