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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第三章 教師妖怪大決戦
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第CLii話 突破口 -亀裂-

花園千代とその娘・千代子。親と子の絆はどこまで続くのだろう。

親も、子も、それぞれが同じものを見続けることなどできるのだろうか。

どれだけ子供に同じ人生を与えようとも、親と子は――、

 とある親子のお話。母は一番目に産まれた子供を連れ、夫と子供たちから逃げた。それから小さな部屋を借りるとそこで娘の教育を始めた。母と同じ運命を辿(たど)らせるという残酷(ざんこく)無慈悲(むじひ)な教育を……。

けど、私はそこまで悲しくはなかった。十人の子供の中で唯一私を選んでくれたこと、それが何より(うれ)しかったのだから……。それに母の人生を体験できるなんて夢のようだ……。 

と思ったけど、それは地獄だった。奴隷(どれい)に人権はない、ただ使われ捨てられる。そんな日々を送らなければならなかったのだから。

 でもそんな運命を辿ることを知らなかった当時三歳の私は、母にこう(たず)ねた。


「お母さんは何で私を選んだの?」


 母はボーっと目の前のテレビを見ながら、胡坐(あぐら)()いていた。そんな母の足の上に座った私の問いに、母は呆然(ぼうぜん)とした態度で応えた。


「んー、あ。……そうだな。言ってなかったか」

「うん」

「そうだな……、うーんと――」

「んーと?」

「忘れた」

「え」

「つーか、答えなんかねえよ。ただお前が一番最初に産まれたからお前に決めた。そんだけだ」


 母は終始気だるい態度で私に話してくれた。理由はない、か。その時のことは覚えてないけど、多分少しだけ落胆(らくたん)したんだろう。母の特別になりたかった私の抱いた初めての感情。それ以降、そんな気持ちは起きる(ひま)もなく、母の地獄のような運命をなぞっていったのだった。


 忘れていたその感情。それが……、


 今、再び目を覚ました。


 母の一番だった私を奪った、本当の一番を見た瞬間。


 私と母の初めての亀裂(きれつ)が生まれた。






 『失我志者(うなれもの)』の主導権が移った。今ここに存在するのは、千代の子供として生まれるはずだった幼き魂にして、


「千代の子供になり損ねた魂。それが俺だ。俺は今から『杏寿(あんじゅ)』だ。(あんず)は一旦休ませる。だから杏は死なない!」

「お、おう……」


 新生・杏寿は腕を組んで勇ましく()えた。それを聞いた河童(かっぱ)サラスティアは杏寿の威勢(いせい)に押されて気合半分で応えた。名前は杏寿自身で考えたのだろう。杏と自分は別個体として生きることに決めたのだ。その目は今から(すご)いことをしそうな目であり、杏寿はサラスティアの他に戦ってくれる海獺(ラッコ)の指人形とツキノワグマに聞こえるように、天井を指差して(さけ)んだ


「俺は今から千代の子供の方を(ねら)う! 一番上にあるから、ドーンと進んで、着いたらドッかーんって殻をぶっ壊す! そこまで手伝ってくれ!」


 杏寿の言葉の一つ一つに謎が出てきた海獺とサラスティアを他所に、ツキノワグマこと草彅剣斬(くさなぎけんざん)は補足するようにこう言った。


「千代が自分の娘と九尾の娘を取り込んだのは、大方巨人化した時のためだと思うかしわ。九尾の娘は今巨大な千代の外壁となってくれているの、つまりは千代を守る最大の肉の(かべ)かしわね。そして千代の娘は外壁が壊れた時のための保険の壁、つまりは千代を守る第二の壁。今私たちがいるのは第一の壁と第二の壁の間……つまり――」


「「「「!?」」」」


剣斬が熱弁する間に他の三人の顔色が突然変わった。それもそのはず、千代の体内で攻撃していた血管達がじっとこちらを見つめたまま止まっていたのだ。杏寿に先端を合わせた血管達は、静寂(せいじゃく)に固まってきっちり五秒後、突如天井からくぐもった声が(ひび)いた。


「お前が一番か……お母さんの…………一番っ!!!」


 声は千代の声とどこか違う。この声の正体は一体……。と、サラスティア達が気を取られた瞬間、血管たちが杏寿に向かって一斉(いっせい)に襲い掛かった。






 その頃、巨大化した千代はふと意識を取り戻した。そもそも巨人化したまま意識を失っていたようだ。


 あ、俺は今何をしていた? 意識が止まったような感覚がする……。くそ、巨人化してから意識が途切れやすくなったか? まさか俺自身が奪った力を制御できていないのか? 巨人化の代償は馬鹿でかい体力消費。だから最後の最後まで体力MAXの状態で使ったってのに……。いや、待て。まさか――、


千代子(ちよこ)との融合(ゆうごう)が……、解け始めている?」


 千代は娘との融合率を確かめるため、意識を脳に向けようとした。

 その時――、


「はあーーー!!!!」


 どこからともなくやってきた怒号と長槍(ながやり)が千代の頭部と思しき部分に突撃する。直後、次から次へと個性豊かな攻撃が千代の頭部へと()り出してきた。

人食い妖怪・()和子(わこ)の『(れん)()覇道(はどう)!(無数の花弁で何本もの道を作り、それぞれの道の出発地点が点火するや一瞬にして道の最後まで到達し大爆発を起こす)』。

九尾・鬼奈月の『妖氦結拵(ようがいけっそん)(まが)(つき)のモス孔雀(くじゃく)!(ドでかいマンモスの牙を敵に突き刺し、尻の上部分から生えた孔雀の上尾(じょうび)(とう)扇状(おうぎじょう)に開くと眼のような模様が(あら)わになって、その眼から繰り出される赤黒い光線に当たれば最後、生物は死に絶え、地面は大きく(えぐ)り除かれる)』。

退治屋(たいじや)新月(しんげつ)の『回転斬り(空気を巨大な(かま)に変えて味方ごと斬る。しかし味方と思っている相手は傷つかず、敵と思っている奴だけダメージを与える便利な技)』

……が退治屋・満月(みつき)の先制攻撃に次いで総攻撃を仕掛けた。(たぬき)妖怪(ようかい)(どんぶり)()(もり)は……ただ見ているだけ。そもそも一度も戦闘したことがなく、戦闘技がなかったようだ。母・新月の技を初めて見た満月は興奮気味に一言。


「これがお母さんの武器……、見えない武器ってこと?」

「そ。私、握力強くて色々武器を試してみてもすぐに壊れちゃってさ。(あきら)めて格闘技を極めようと思ったら……何か空気掴めて、(きた)えたら武器になった」

「説明になってない」

「そう? あたしって説明するの苦手なんだ~」


 母の秘密を少しでも知りたい満月は、感覚派の新月にむず(がゆ)いものを感じた。父・(ゆき)(あつ)は母について「(すご)い」や「真っ直ぐな性格」くらいしか説明してくれなかったので、やっぱり母本人から話を聞きたかった。兄・(こう)(づき)麻呂(まろ)は満月と同様産まれてすぐに母を亡くしたので、兄が生きていたらきっと自分のように母といっぱい話しただろう。


 と、もっと話したい気持ちを抑えた満月は、槍から伝わる敵の状態を()て顔をゆがめた。


「全然通ってない……!」


 精一杯の力で与えたはずの敵の感触は未だに無傷。同時、刺した状態の槍がガタガタと小刻みに振動した。嫌な予感がした満月は咄嗟(とっさ)に声を上げた。


「皆にげ……」

「おっせーよ」


 今の声は……、そう感じた満月の声も(むな)しく。千代巨人の鎖骨(さこつ)付近(ふきん)から現れた多種多様の骸骨(がいこつ)(おびただ)しい数の軍団となって満月たちを強襲したのだった。

 千代と夫の出会いと別れが一カ月になっていて、尚且つ別れた段階でもう子供が十人も産まれるって可能でしょうか。というわけで、ここは一旦出会いから別れまでの期間を一カ月+妊娠から出産の期間としましょう。……でお願いします。私の勉強不足が招いた結果です。もし最初に言ったことが可能でしたら、そのまま一カ月で行きましょう。

 というわけで、花園親子は一体どうなってしまうのか。内なる戦いと外の戦いはどうなっていくのか。では次回。モンハンに夢中になりすぎないように気を付けていこう!

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