表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
10/222

第10話 覚醒

覚醒。タイトルになる人物は一体・・・?見逃せないぜ!(客観的)

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

 【(ころも)()(こう)】が集めた(おおよ)そ二十人の集団は、まさに他者を痛めつけることを幸福とした、ある種の宗教(しゅうきょう)団体(だんたい)といっていい。人は同じ想いを持つ者と合わされば、どんなものにも()ることができる。それが正義でも悪の集団でも・・・彼らは十代から三十代に当たり、自分達を見分けるために独特(どくとく)服装(ふくそう)(とう)(いつ)している。黒いニット(ぼう)(かぶ)り、背中にチーターの顔を付けたジャンパーを着用し、(ひざ)部分(ぶぶん)がビリビリに破けたジーパンを()く。そんな二十人ほどの集団が()()わり、立ち代わりとなって(はりつけ)にされた【大原(おおばる)(けん)()】を一心不乱(いっしんふらん)に痛めつける。昂にとってこれ(ほど)(うれ)しいことはないだろう。だがここまで来るのには、自分の力だけでは限界があった。昂は甚振(いたぶ)られる犬太を見ながら、ふと右ズボンのポケットから携帯(けいたい)電話(でんわ)を取り出した。そしてある電話番号を押して、耳元に持っていく。プルルル・・と携帯が(ふる)える中、すぐに携帯を通して別の女性の声が()こえてきた。

「もう始めているの?無駄(むだ)なこと」

挿絵(By みてみん)

 それはよく一十三と片言(かたこと)で会話をする【畄乃(るの)R(あーる)=ピエーディア】。だがここでは何故(なぜ)流暢(りゅうちょう)な日本語を使っている。そして落ち着いた口調(くちょう)で、昂を見下(みくだ)すように言った。昂は鼻を鳴らしてピエーディアの言葉を一蹴(いっしゅう)すると、犬太から目線を夜空にずらして言った。

「お前、俺に逆らっていいの?未来の総理(そうり)大臣(だいじん)候補(こうほ)だぞ?」

 ピエーディアは(わら)いを(こら)えた。ピエーディアは今神螺(いまかみら)()小学校(しょうがっこう)の中、五年二組の真っ暗な教室にいる。不気味(ぶきみ)に光る携帯の(あか)りに照らされたピエーディアは、グラウンド側・最後の列にある犬太の机の上に座って、昂の行為(こうい)一部(いちぶ)始終(しじゅう)を静かに観察していた。(かた)(ひざ)(むね)まで上げ、その上から手を組む体勢で、昂を見下(みお)ろして続けて言った。

「私はただ【(さくら)(とう)一郎(いちろう)】様の命に(したが)っただけ・・あなたが総理大臣?馬鹿言わないで。統一郎様の足元にも(およ)ばないあなたの戯言(ざれごと)に付き合うつもりはないわ」

 昂は不気味に光る校舎を見たが、そこにいるピエーディアの気配(けはい)を感じ取ることはなかった。昂とピエーディアは一十三が転入してきた日に知り合い、利害の一致(いっち)から今まで協力関係を組んできた。ピエーディア自身、昂に利用価値があるのか不安であったが、統一郎はこの神螺儀小の中で最高の権威(けんい)()るっている衣野昂を、すぐさまこちら側に引き入れるようにピエーディアに名を(くだ)した。昂も(すき)あらば統一郎グループを乗っ取ろうと画策(かくさく)し、喜んで協力関係を結んだ。

「まあいい。お前達が教師に(まった)く手出しをさせず、上手い事犬太を閉じ込めておいたこと。どんな手を使った?」

「そんな事あなたに説明するのと思う?後、言い忘れたことがあったわ」

 ピエーディアは一呼吸置く。昂は一瞬(いっしゅん)(いや)な予感が頭を(さえぎ)った。

「何だ一体。まさか関係を切る・・なんて言うんじゃ」

「その通りよ。・・もう金輪際(こんりんざい)畄乃(るの)R(あーる)=ピエーディア(もとい)、桜統一郎様に関わらないで」

 「は?」と怒りが一気に()き出した昂に、ピエーディアはすぐに携帯の通話を切った。昂は(いか)りに身を任せたまま、携帯をもう一度鳴らす。が、それ以降、ピエーディアの声を聴くことは叶わなかった。昂は突然の関係(かんけい)断絶(だんぜつ)に強い(いきどお)りと(にく)しみを(いだ)きながら、その場をただただ立ち()くした。そして五年二組に光っていた携帯の灯りは消え、廊下(ろうか)をコツコツと歩く音が(ひび)いたのだった。




 今から八時間前の学校は全ての授業が終わりを(むか)え、生徒達が次々とランドセルにノートや教科書を入れる作業に入っていた。

挿絵(By みてみん)

桜一十三(さくらひとみ)(まわ)りの生徒達の挨拶(あいさつ)を無視して、早々(そうそう)に教室を後にした。

 そして下駄箱(げたばこ)に着いた一十三は、今まで通り学校用の靴と自分の(くつ)を履き替えるのだが・・・

(あれ?なんだろ・・・)

 自分の靴箱を開けると、紙のような(うす)くて白い物がひらりと足元に落ちてきた。拾ってよく見ると手紙のようだ。開けてみるとこう書いてあった。


深夜(しんや)零時(れいじ)に学校に来い』


 深夜零時。その時間、一十三は(すで)にベッドで熟睡(じゅくすい)している(ころ)だ。どこの(だれ)か何のためにこんな手紙を送ったのだろうか。よく手紙を見ると右端(みぎはし)に小さく何かを書いていた。



『大原犬太が待っている』



(犬太くん!?)

 最初の一文を見た時は、単なる悪戯(いたずら)だろうと思って捨てるはずだった。だが犬太の文字を見た瞬間、ただ事ではないと確信した。更に最初の文の文字と、最後の小さな文の文字の字体が明らかに違う。最後の文はどこか上品で、字の上手な先生に教わったのではないかと直感した。一十三自身も字の上手な教師に教わったことがあり、今では字がとても上手くなっている。一十三は自分に近い誰かが、この最後の文に伝わってきた。前文は稚拙(ちせつ)(ろく)な教育を受けていない(まさ)しく不良(ふりょう)の字。そして最後はその不良よりも一線を(かく)したリーダー的ポジションを()ね備えた字であることが分かる。だからと言ってこの手紙が、ただの悪戯ではないという証拠(しょうこ)にはならないだろう。

 だがそうこうしていると、他の生徒が下駄箱付近に到着(とうちゃく)してしまう。そう感じた一十三は思考(しこう)を一時中断し、急いで手紙を(かばん)に入れて校門前の車に向かった。

「急ぎのようですか?」

 使用人は一十三の(あせ)りに気づいて(たず)ねる。

「!・・・なんでもないから早く行って!」

 一十三は見るからに焦った顔で命令した。

使用人は一十三の挙動(きょどう)から、これ以上の追及(ついきゅう)を止めて車を走らせた。


そして家に着くと、一十三はメイド達の挨拶(あいさつ)を無視して、自分の部屋までダッシュした。一十三の切羽詰(せっぱつ)まった顔を見て、メイド達は顔を見合わせて動揺(どうよう)していた。使用人も心配してメイド達に「桜様の行動には十分注意してほしい」と頼み込むほどであった。前にも度々(たびたび)教師(きょうし)が変わる(さい)に、尋常(じんじょう)ではない緊張(きんちょう)の色を見せていた。初対面の時はよくあることなので、メイド達はずっと前から一十三の世話をしていたメイドにしか出来なかった。だが最近は一十三もメイド達に慣れ、変わってもいいと許可をもらったことから一人ずつだが変わっていった。今は三人の新人が、みっちりと指導を受けた上で一十三に仕えている。


―バンッ


 一十三の私室からドアが閉まる音が響いた。ただ閉まるだけではない。勢いをつけたことで、この(さくら)(てい)にいるもの全てに聞こえたのだ。それを聴いた新人メイド達が、一十三の部屋の方を(なが)めて口々に話し始めた。


新人メイドX「桜様は一体何があったのでしょうか」

新人メイドY「転入初日に学校の不良に(から)まれたって(うわさ)よ」

新人メイドZ「そうなの?大変ねえ・・・」

玄人(くろうと)メイドG「あなたたち桜様の近くで何を話しているの!」


―バンッ


 新人メイドの声を聞いてか、何かが一十三のドアにぶつけたような大きな音が桜庭に(ふたた)び響いた。一十三が犬太の悪口を言っているメイドに対して、怒りの(まくら)アタックがドアに向かって放たれたからであった。新人メイドが「ひぃっ」と小声で悲鳴が聞こえたが、その後はシンと静まり返る。玄人(くろうと)メイド達もただならぬ一十三の様子を心配したが、まだ仕事が残っていたため、メイドリーダーJは聞こえるように、手を二度叩いてメイド達に言った。

「もういいでしょ。あなた達!早く持ち場に戻りなさい!」

 声は普通の大きさだったが、そこにはリーダーであるからこその威厳(いげん)があり、他のメイド達はリーダーの叱責(しっせき)を聞いた途端(とたん)(ちい)さく返事をして、その場から(しの)び足で持ち場に戻った。


「犬太くんのこと、何も知らないくせに・・・」

 一十三はぶつけたドアの前で転がる枕を、(かばん)と交換する形で拾うと、勢いよくベッドにダイブした。一十三は熊柄(くまがら)の枕を()きしめると、あの下駄箱の手紙の事を再考した。

(もしあの手紙の書いてることが本当だったら・・・ううん、もしかしたらやっぱりいたずらかもしれない・・・いやでももしかしたら・・・・・・・どうしよう・・・もうわかんないよ・・・)

 一十三は自問自答(じもんじとう)()り返しながら、頭の中で考えを()(めぐ)らせていった。


 そしていつのまにか

「・・・・すぅ・・・・・すう・・・・・」

 眠っていた。



 それから約七時間後。現在深夜十二時半を()えた頃、一十三は目を覚ました。

(・・・あれ?・・・・私・・・・いつのまに()て・・・・)

 ふと熊さん目覚まし時計を見ると、もう(すで)にあの手紙に書かれていた時間の三十分も過ぎてしていた。

(・・・・!!!え?もうこんなに寝てたの!?どうしよう!)

 一十三の頭の中はパニックになった。もしあの手紙が本当だったとしたら、犬太くんがもし本当に学校のどこかにいたとしたら・・・

(どうしようどういたら・・・・・・・ハッ)

 一十三はあることを思い出した。

「早く行かなきゃ!」

 一十三の部屋には緊急時、ここからでも直接移動できるようにしてある『緊急(きんきゅう)()連絡用(れんらくよう)電話(でんわ)』が隠されている。勉強机の本棚(ほんだな)にある、一冊(いっさつ)の赤い本を手に取って開くと、そのままそれが発信器になって通話できるのだ。一十三はすぐさまその方法を使って使用人と連絡した。

「はい何でしょうか、桜様」

 使用人も一十三の顔を見て、大体の事を予想していたようで至極(しごく)冷静(れいせい)(おう)(たい)した。

「ここから直接学校に行きたいの・・・ヘリを出して」

「わかりました。すぐにヘリを出しますので、(とびら)を開けてもらえますでしょうか?」

「うん」

「では(のち)ほど」

 本を閉じた(電話を切った)一十三は、一気に両開きの扉を全開にすると、目の前が真っ白な光に包まれ、そこから突風が入り込んできた。もう(すで)にヘリが着いていたのだ。

「桜様、早く!」

「うん」

一十三は制服のまま使用人の手を取ると、屋根(やね)(づた)いから直接ヘリに乗った。そして一十三がヘリに乗ってドアが閉まったと同時に、そのまま二時の方向である学校に旋回(せんかい)、一瞬にして桜邸から飛び去っていった。一十三の部屋はプロペラの風圧で滅茶苦茶(めちゃくちゃ)()らされ、(あらし)()ぎ去ったかのようであった。メイド達が異変に気づいて一十三の部屋に入った時には、荒らされた部屋だけがそこに残っていた。

「桜様・・・一体どうして・・・・」

 メイドリーダーJはこの惨状(さんじょう)を見て、一十三が生まれて初めてヘリを出したことに驚いていた。




 その頃神螺儀小のグラウンドでは、昂による集団暴行が苛烈(かれつ)さを(きわ)めていた。

「おいおい犬太くぅん、もう値を上げちゃったのぉ~?」

 集団暴行が始まって既に三十分が経過した。犬太を取り押さえてバールで(なぐ)(つづ)ける昂の手下ら二十数名。

「・・・」

 犬太は殴られてから十分以降、声を出していない。(ほとん)どが暴力による(うめ)き声である。

「おい起きろよ」

「グハッ」

 犬太を何回も殴りつける昂の顔は生き生きとしていた。周りの連中もそれに共鳴するような形で顔が変わっていった。

「もうやっちゃっていいんじゃない?」

 手下の一人が犬太をバールで犬太の(ほお)(つつ)きながらヘラヘラと笑って言った。

 だが昂は手下のバールを(うば)うと、思い切り犬太の前で振り(かざ)した。

「いや・・・・まだだ」


―ガンッ


 そしてそのまま犬太の頭部めがけて(たた)きつけると、骨が割れるような(にぶ)い音が響く。ぶつけた頭部から、(おびただ)しいほどの血がグラウンド上に流れていく。

「もう死ぬんじゃない?」

 手下の一人が昂に言った。だが昂は首を横に振って言った。

「まだまだこれから・・・・俺の受けた数々の屈辱(くつじょく)はこんなもんじゃねえよ。・・・後何千回、何万回もやらないとな」

 昂の口が(いや)しく(ほころ)ぶ。不気味な笑みは、周りの連中をも恐怖(きょうふ)(おとしい)れるほどだった。

 そしてもう一度バールを振り上げたその瞬間、どこからか声が聞こえた。

「・・・・・め・・・・・や・・・・・・て・・・・」

「?・・・リーダー、何かどっからか声が聞こえるっすね」

「は?・・・何にも聞こえ」


「もうやめて!犬太君から離れて!」


 昂達が空を見上げると、黒の中に一点だけ光る白が、どんどんこちらに近づいて来るのが分かる。そこから声が聴こえたのだろう。

「なんなんでしょうあれ?」

「俺が知るか」

 昂は犬太にぶつける時間が()がれる怒りでどうでもよかった。


「犬太くんに(ひど)いことしないで!」


 そして数分後、(つい)に昂のところまで辿(たど)り着いた一十三は、使用人に言って梯子(はしご)を下ろしてもらった。

「・・・お前・・・・【(さくら)一十三(ひとみ)】か・・・」

 昂はよく見ると、そこに乗っているのが桜一十三だということに(ようや)く気づいた。

「・・・それがどうしたの?」

 一十三は梯子から降りながらリーダーを探した。ピンク色の番長服のようなものを着ているのを見て、そいつがリーダー的存在なのだろうと確信した。

「そうかよ・・・・じゃあなあ!」

 昂は更に気持ち悪いほど笑いながら、その地面近くまで()れさがった梯子を(つか)むと、旗を振り回すように(あば)れた。

「!・・・何を・・きゃあ!」

「桜様!」

 一十三は体勢を(くず)すと、そのまま十メートル程の高さから落下した。


―ドサッ


 落ちた衝撃で一十三の右手右足、肋骨(ろっこつ)の五、六箇所(ろくかしょ)が折れた。そのショックで一十三は気絶した。

「あらら・・やっと来たかと思えば、何勝手に気絶してんの?」

 昂は不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、(ふさ)ぎ込む一十三の顔を()みつける。そしてジリジリと一十三の顔を地面の砂にすり(つぶ)すように転がした。

貴様(きさま)ぁ!桜様に手を出すな!」

「うるせえな・・・黙れよ」

 昂の手にはまだ梯子が握られていた。昂は使用人を(にら)みつけると、梯子を再度振り回した。ヘリはそれによって、四方(しほう)八方(はっぽう)(はげ)しく()れた。

「何を!」

(れい)使用人!操縦できません!」

 磊とは使用人の本名、【不死頭(ふしがしら)(れい)】六十九歳である。操縦士の言う通り、昂の腕の力のみでヘリのコントロールが完全に入れ替わった。

「くっ、どうすれば・・・・」

 昂は(たこ)上げをするかの(ごと)くヘリを回し始めた。ヘリは重心を失い、徐々(じょじょ)に落下し始める。そして昂は背負投(せおいなげ)をするように、梯子を背中に向け地面にぶつけた。

「あぶな」


―ドンガッシャン


 ヘリはそのままグラウンドに落下し爆発(ばくはつ)炎上(えんじょう)した。

「「「うわああああ」」」

 昂の手下どもは、その恐ろしさに一目散(いちもくさん)に10分の7人ほどが学校から逃亡(とうぼう)し、残りはヘリの墜落(ついらく)()()まれて爆死(ばくし)した。犬太は磔にされたまま適当に放り出され、グラウンド場には犬太と一十三と昂と炎上したヘリが残された。

「ああ、しらけちゃった・・・・どうしてくれんの?桜ちゃん」

 ヘリを尻目(しりめ)に一十三の(かみ)を掴み上げ、自分の目線まで持っていく。

 一十三はヘリの爆音の音で意識が戻った。最初に映った昂を見て、必死に肋骨に()さった(はい)から声を出した。

「犬太くん・・を・・・・かえ・・・して・・・」

「犬太は元から俺の替え玉なんだよ。そしてお前も、俺の野望のために生贄(いけにえ)になってもらいたかったのになあ・・・・もう死にそうじゃん」

「・・・わたし・・のこと・・・・はいい・・・から」

「良くないよ。折角生贄が見つかったと思ったのにさ」

「・・・」

 一十三の呼吸が少しずつ、だが着実に途切(とぎ)れていく。肋骨(ろっこつ)が肺に穴を開けたことで空気が()れるからだ。昂は溜息(ためいき)を付くと、一十三を地面に叩きつけた。そしてもう一本のバールを拾うと、両手にバールを持ってジリジリと一十三に近づいていく。

「もういいや。・・・また探すから死んでよ・・・後で犬太も一緒に()かせてあげるからさ」

「・・・・え?」

 一十三は絶望した。

自分が必死の思いで考えて来たのに、何もできずに終わってしまうのか。

相手が強いのか、自分が弱いのか。圧倒的(あっとうてき)に後者であろう。

初めて同世代の人と対等に話せた、一十三にとっての最初の友達すら救うことができないこと。

自分がどうして弱い姿で生まれたのか。

泣き虫だから。

病気だから。

自分だから。

一人だから。

一十三は自分を責め続けた。

心臓(しんぞう)鼓動(こどう)が弱くなる。意識が遠のくにつれある言葉が思い浮かんだ。


(私じゃなければ、助けられたのかな)



《試してみるか?》



(犬太くんを・・・助けてくれるなら)



《それって、良いってことだよな?》

「そんじゃ、ばいばあい」

 遂に一十三の下に辿り着いた昂は、両手のバールを振り(かざ)した。


―ブンッ


二本のバールは一十三目がけて襲いかかった。

そして一十三に直撃した。

かに見えた。

「・・・?あれ、何か変だな」

 だがニヤリと不敵な笑みを浮かべて、二本のバールを掴んだ一十三が現れた。

「ふーん、これが人間の体か・・・思ったより小さいな」

 体の骨が折れて、肺に穴が開いているはずの一十三は、苦痛に顔を(ゆが)むことなく意気揚々(いきようよう)と言ってのけた。

挿絵(By みてみん)

「お前・・・・桜か?」

「ん?・・・・お前誰だ?」

 首を(かし)げる一十三がそこに立っていた。

一気に行動的になった一十三にメイドや、使用人は驚きを隠せない。だがその真相を知る者はその中にはいない。・・・ていうか衣野昂、人殺しすぎじゃん・・・絶対ヘリの爆音で起きた人いるよね、これ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ