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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
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第1話 神螺儀小学校五年二組

神螺儀町(かみらぎちょう)は一年後に消滅する。ある男の手によって――


桜一十三(さくらひとみ)は、とある田舎の学校にやってきた。

森に囲まれ、交流が飛行船に限られた小さな町、神螺儀町(かみらぎちょう)。そして唯一の小学校、神螺儀小学校で起こる不思議に、一十三は巻き込まれていく。

ここは『神螺儀町(かみらぎちょう)』といわれる、三つの山脈に囲まれた小さな町。全て建造物が木造で造られており、他の町との交流は物理的に不可能な位置にある。唯一つあるとすれば、一日一往復する飛行船くらいである。よっぽどの物好きでなければ、神螺儀町に来ることはないだろう。生徒数十名が在籍(ざいせき)している神螺儀小学校では、現校長の先祖がたった一人で造ったと()われ、町人の誰もが校長を大変尊敬している。


「おい、お前ら!」


四階の廊下に鳴り(ひび)く怒号。

挿絵(By みてみん)

神螺儀小五年二組、生徒数二十人。職員会議を終えた、五年二組担当教師【(かわ)志野(しの)浩司(こうじ)】三十七歳は生徒の勢いに負けないため、第一声は大きな声を出すようにしている。さもなくば子供という名の軍勢に押しつぶされるだろうと、先輩教師の忠言を浩司は堅実に守っている。

浩司はいつものように金色の長髪を(たてがみ)の如く束ね上げ、コンパクトに整えた(ひげ)を意識しながら教室へ向かう生徒達を注意していく。生徒らは休み時間の終わりを告げる浩司の声に気がつくと、次々と教室に散っていく。

五年一組、五年三組の間にある五年二組の生徒は、どのクラスよりも個性的な生徒のオンパレードとして学校中で(うわさ)が絶えることはない。浩司はそのクラスの最初の担任として、他の教師達から(遠回しに押し付けられる形で)選ばれたのであった。

挿絵(By みてみん)

特に問題児の【大原(おおばる)(けん)()】十一歳は『ティーチャー・キラー』で有名であり、事あるごとに場を()らし教師が来る前に窓から逃げていくという、教師にとって迷惑(めいわく)(きわ)まりない生徒である。更には極度の女嫌いで、よく女性に対し悪戯(いたずら)をするケースが多く、泣きながら学校を去っていく女性教師が後を絶たなかった。

だがそれは過去の話。教師達の試行(しこう)錯誤(さくご)の末、自分達にとって迷惑(めいわく)(やつ)らを五年二組に閉じ込めることに成功したのだ。だがしかし、それだけでなく『毒を(もっ)て毒を制す』の(ことわざ)の通り、悪さばかりする生徒に対し正義感の強すぎるせいで教師達から迷惑な奴らに選ばれた、ある一人の生徒を五年二組に送り込んだのだった。


「河志野先生が来たぞ! みんな静かに着席しろ!」

 

挿絵(By みてみん)

中村(なかむら)(つよし)】十一歳。見た目は金色の髪と(ひとみ)の少女である。だが男口調で、父親の唯一の形見である学生服を着ている。性格は正義感の(かたまり)で曲がったことが大嫌い。更には犬太と力も互角(ごかく)であり、頭脳は圧倒的に剛の方が強い。剛が五年二組のリーダーになるのにそう時間はかからなかった。


「ちっ」

 

剛の言葉にクラスのほぼ全員が異論なく従う中、たった一人だけ両手をポケットに突っ込んで、両足を机の上に乗っけたハゲ坊主(ぼうず)こと犬太の舌打ちが聴こえた。剛は犬太の舌打ちにすかさず反応する。


「大原犬太。言いたいことがあるなら、はっきりと言え」

「・・・何でもねえよ」


 だが犬太は表情を(くず)すこともなく、グラウンド場がよく見える窓ガラスをじっと(なが)めていた。犬太の席はグラウンド側に一番近く、列は一番後ろである。剛はこれ以上の議論は意味がないと確信し、担任の浩司が教壇(きょうだん)に立つと同時に着席した。浩司はいつも通りの犬太を横目に、無事ホームルームを始めるのだった。



 一方その頃、神螺儀小学校に向かう一台の(きら)びやかな高級リムジン車が走っていた。


「統一郎様、後十分で到着致します」


 運転席に座っているのは、国会議員・(さくら)(とう)一郎(いちろう)直属の部下【魁堂(かいどう)(まま)麻呂(まろ)】五十六歳。統一郎から『君こそが私を乗せる、ただ一人の筋斗(きんと)(うん)だ』と言わせたほどの凄腕運転手である。そして後部座席にふてぶてしく座っているのは、頭の骨格が全体的に丸みを帯びており、二重(にじゅう)(あご)で顔全体がぶつぶつだらけの男。彼こそ神螺儀町に大いなる野望を()せる【(さくら)(とう)一郎(いちろう)】四十七歳である。


「一十三。お前も(ようや)くこの学校に通わせることができて、私はとても(うれ)しいよ」


挿絵(By みてみん)

 父・統一郎の腕にしがみついて、一向に離れようとしない少女が一人。統一郎の実娘【(さくら)一十三(ひとみ)】十一歳。十歳までずっと牢獄(ろうごく)という名の実家で英才教育を受けていたが、統一郎が一年だけでも学校に通わせてみようと、急遽(きゅうきょ)学校(がっこう)を探すこととなった。自然に囲まれ、いじめが少ないこの神螺儀小学校は統一郎たっての希望であった。

一十三の性格は臆病(おくびょう)で泣き虫、怖がり、そして内気で自分から行動することはまずない。一十三の服は毎回メイドによって決められていて、今日は赤色セーターとカボチャのズボンを()いている。十歳まで老婆(ろうば)の家庭教師と、もう一人の双子の女の子の三人きりで朝から晩まで勉強し、父親とは朝食でしか会わなかった。今まで(ほとん)ど自分から声を発することはなかった。

(せま)りくる学校に(おび)える一十三に対し、統一郎は優しく頭を()でながら(さと)した。


「大丈夫だ。今向かっている場所は、いじめが殆どないと調べがある。更に自然に囲まれ教師もいい人ばかりだ。分からないことがあれば、ちゃんと言えば話してくれるさ」


 笑顔を見せる統一郎に、一十三の不安は一向に払拭(ふっしょく)する気配はない。一十三は困った顔で父の顔を(のぞ)き込んで言った。


「…パパも一緒じゃダメ?」

「うーん、残念だが、私はこれからすぐに仕事だ。国民の投票で決められた『国会議員』という仕事は、家族を見守る時間も(あた)えてはくれないものだ。すまないね、一十三」


 統一郎は申し訳なく謝った。一十三は父の国会議員という仕事の全容は知らない。だが『国民の声を代弁し、国のルールを新調したり、不要なルールをなくしたりする』ということだけは知っていた。父は大切な国民の代弁者であり、自分だけの父ではないのだと強引に納得させた一十三は、父を心配させまいと声を()(しぼ)って出した。


「…わかった…頑張る…」


 一十三は漸く統一郎から離れると、自分の胸に願うように手をギュッと強く握り()めた。


(ああ…やはり一十三はお前の娘だよ、()()…)


 【(さくら)()()】。桜一十三の実母であり、統一郎の妻にあたる。だが一十三が生まれて以降、誰一人として花世の消息を知らない。一十三ですら母親の顔を知らない。統一郎は花世をとても優しい母親とだけ一十三に教えていた。


「いい子だ。私の自慢の…いやなんでもない…」


 統一郎は最後の言葉を(つぐ)んだ。いつも最後はあの言葉で締める統一郎が、この一瞬(いっしゅん)だけ何故(なぜ)躊躇(ちゅうちょ)したのだ。


「?」


 一十三はいつもと違う父の言葉に疑問を持ったが、もうすぐ学校に着いてしまうという不安の方が何よりも(まさ)っていた。一十三は自分の胸に手を握り締めながら願った。


(早く終わりますように…)


 運転手(うんてんしゅ)魁堂(かいどう)(まま)麻呂(まろ)の言葉通り、車は十分きっかりに神螺儀小学校の正門前に到着した。

途中から新しい教室で新しい人に囲まれる。一十三にとってそれが如何に恐怖で、未来が絶望的なのか。だが転校はそれだけではない。恐怖と絶望以外にもまだ見えない言葉が広がっていることを、一十三はまだ知らない。

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